軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十二話:終焉

「じゃあセッション参加者、伊良拓斗の名前において繰腹慶次くんの懲罰動議を提議するね」

=SystemMessage==========

ゲームマスター繰腹慶次に対する懲罰動議の提議を受理しました。

以後審議が終了するまで全ての進行を停止します。

―――――――――――――――――

「……え?」

誰しもが、その出来事についていけなかった。

聖騎士も、魔女も、聖女も……そしてゲームマスターも。

再度、時が止まった。

不可思議な力が場を支配し、それ以上のあらゆる権力行使を否定したのだ。

もはや風前の灯火であったはずの拓斗の命。

だがその全てはまやかしであったことが破滅の王から語られ始める。

「いや、びっくりしたよ。なんかいきなり自分語りするからさ。そういうのって最近流行ってるのかなぁ……どう思うアトゥ? って、そっか。アトゥはまだそっち側だからあんまり話しかけたら不味いよね。いや、本当動揺してるな。落ち着かないと」

饒舌に語るのはやはり言葉の通り動揺があったからであろう。

彼には珍しく、口数が多い。

ただそれは誰かに向けてというよりも独り言の意味合いの方が強い。

そもそもとしてコミュニケーション能力が不足している彼に他人と会話をするという行為はひどく難易度が高かった。

無論、相手が敵対者であればそれは別である。

コミュニケーションとは、相手を思いやる心が必要であるからだ。

そも相手を気遣う必要がないのであれば、いくらでも言葉を語ることが彼はできた。

「それにしても、慶次くんかな? 名前を言ってくれて本当に助かったよ。いくらいろんな人の姿を借りて説得しても一向にそのあたりの情報出さなかったからね。ほら、懲罰動議ってセッション内じゃなくてその外側、つまりプレイヤーとしての次元で宣言しないと駄目だからさ。区別するために相手が持つ本来の名前が必須だったんだよ」

プレイヤーとしての次元と、盤上の次元は違う。

例えばアトゥやエラキノは強力無比なる能力と力を有しているが、あくまでゲームの設定を借りた盤上の駒だ。

だがプレイヤーはこれに加えて上の次元の性質を有する。

繰腹はTRPGのシステムと駒を操るGMとしての性質を持つし、拓斗はSLGのシステムと駒を操るプレイヤーとしての性質と同時に、指導者というゲームの駒としての性質を持つ。

懲罰動議はあくまでゲーム外でのやりとりであるため、必然的に伊良拓斗の名前と繰腹慶次の名前を持ち出す必要があった。

ゆえに、拓斗は今まで様々な策を弄してきたのだ。

決して誰にもさとられぬように、GMの名前を知りその力を封じるためだけに。

=SystemMessage==========

プレイヤー伊良拓斗、疑義内容を申請してください

―――――――――――――――――

システムが拓斗を急かす。

一時的な中断は本来であれば避けるべき事象だ。

TRPGのルールに忠実なこのシステムも、おそらく早くゲームの再開を行いたいのだろう。

無論拓斗としてもその意見には賛成だ。このくだらない茶番を早く終わらせたかった。

「おっと、ごめんごめん。じゃあ早速。

――慶次くんへの疑義は次の通りだ。

長時間における挨拶の拒否。

ダイス結果の理由なき強引な変更。

それに伴う参加者所有キャラクターの強奪。

ダイスを用いずGM権限によってゲーム内のデータの不当な操作。

ゲーム上の進行を自分にとって有利になるよう恣意的に操作。

メタ次元におけるGMの権限を開示することによるゲーム内世界観と秩序の崩壊。

所有キャラクターによるプレイヤー伊良拓斗への誹謗中傷。

本人によるプレイヤー伊良拓斗への誹謗中傷。

あー、あと、ついでに。場の流れを無視した聞かれてもいない自分語り、も付け加えておこう。

……以上を持って、本TRPG――エレメンタルワードのルールにおける円滑なゲーム進行を担うGMとして不適格であると判断。これらを理由に懲罰動議を発動。

参加者各員に本セッションゲームマスターである慶次くんのGM権限剥奪の可否を問う」

=SystemMessage==========

申請を受理しました。

正当な懲罰動議発動事案と認定し、続けて参加者の決をとります。

―――――――――――――――――

ゲームのシステムはプレイヤーに有利に働くが、かと言って完全なる味方というわけではない。

システムはルールの奴隷なのだ。いくらプレイヤーが望もうともルール外の振る舞いは決して行わないし、いくらプレイヤーが不利になろうとルールを婉曲することはない。

逆に言えば、ルール内であればどのような無法も通るということでもある。

ゆえに、システムを利用するものはルールの把握が何よりも重要であった。

「そ、ソアリーナ! 拓斗さまを止めますよ! 急い――」

「システム。邪魔が入りそうだから止めて」

=SystemMessage==========

汚泥のアトゥと華葬の聖女ソアリーナの行動をキャンセルし、

以後行動不可とします。

―――――――――――――――――

言の葉一つで、アトゥとソアリーナの行動は無に帰された。

奇しくもそれはGMが使う裁定者の権能の如きふるまいであり、であるからこそもはや抗う術はなしとの現実を否応なしに理解させられる。

「じゃあ続けるね。先の多数決だけど……はい、まずは僕。伊良拓斗。GM権限を剥奪した方がいいと思います! こんな振る舞いは見逃せないよ、是正が必要だ」

片手をあげて拓斗が宣言する。

何ら反応はないが、ただ彼の宣言が強い意味を持つことは誰の目にも明らかであった。

このまま審議を続けさせてはいけない。

途端に窮地に陥った繰腹は、自らが到底捌ききれぬ事態に翻弄されながらも必死で対抗を試みる。

「GM権限の剥奪は不当だ! 反対する!」

「懲罰動議を食らった本人は、審議に参加できないよ」

無慈悲なる言葉が、その試みを根本から打ち砕いた。

審議対象である繰腹が参加できないのであれば、残るプレイヤーは拓斗ただ一人。

少なくともここで審議に参加できるのは彼のみだ。

必然的に結果は一つにしか収束せず、このやり取りもまったくもって茶番に等しい。

最初からイラ=タクトの主張が通るように仕組まれていたのだから。

=SystemMessage==========

可決:1名

非決:0名

以上の結果を持って、繰腹慶次のGM権限剥奪を決定します。

―――――――――――――――――

ここに、真の決着はつく。

聖女たちの……いや、TRPG勢力の敗因はなんだったのだろうか?

ゲームシステムに対する理解不足? 仲間同士の連携不足?

それとも相手の作戦を見抜けず名前を出してしまった判断?

そのどれもが正しく……そして同時に間違いでもあった。

何よりも、イラ=タクトという人間を敵に回したことがけして許されぬ過ちだったのだから。

「あ、もちろん巻き戻しもよろしくね。こんなセッション、結果として受け入れられないから。プレイヤーとしてそれは当然の権利だよね。んー、まぁ全てを巻き戻したら大規模になりすぎるから、不正と思われる部分だけでいいか」

「ま、まて!」

=SystemMessage==========

繰腹慶次のGM権限を剥奪。

並びに本セッションにおいて不正に実行された結果を巻き戻し処理します

―――――――――――――――――

消え去ったマイノグーラの軍勢がどんどんと現れていく。

一様に不思議そうな表情をしているが、ただ決着がついたことは理解しているらしく静かに様子を窺い事態の推移を見守っている。

なぜなら……全て終わってしまった後にすることなど、一つもないのだから。

伊良拓斗によって敗北させられた聖なる軍勢に、もはや何かをする権利など存在していないのだから……。

「なぜだ!? なぜそんなことができる! なぜそんなことが出来るって知ってたんだ!?」

エラキノの口を借り、繰腹から怒りの籠もった悲痛な問いが投げつけられる。

繰腹にとって、この結末は想定外にも程があった。

ダイスの神によって運悪く選ばれ、ダイスの神によって運良く選ばれたシステムを与えられた時、繰腹は同時にルールブックも入手していた。

ここではないより上位の空間で、分厚いその書籍を何度も何度も読み返した。

自分の配下であり、その意志を外界に下ろすための駒であるエラキノについても無数の試行錯誤を繰り返し完成に至った。

クオリアの北方州を壊滅させ、聖女の反撃を食らい、TRPG能力の厄介さを知り……。

何度も何度も同じ戦いを繰り返し、仲間と手足となる配下、そして国家を手に入れることの重要さを理解して必死にここまで来たはずだ。

そうしてようやく敵対する一つの勢力をまんまと出し抜き、その強力なキャラクターまで手に入れ……。

仲間も悪くないと思っていた頃だった。

全てが、水泡に帰した。

想定外にもほどがある、こんな強引とも言える手法にて終わるとは思ってもいなかった。

「ああ、慶次くんって確かダイスで選ばれたんだよね。なら知らないのも当然か」

伊良拓斗は納得したかのように頷いた。

だが彼の納得とは裏腹に、繰腹には到底納得しかねぬ事実が明らかにされる。

「エレメンタルワードは礼儀を重んじるというのは有名だ。そして賛否両論があるというのもまた事実。その原因がこの懲罰動議とマナーの押しつけにある。一度誰かとセッションしたことがある人なら、嫌というほど知っているはずさ」

それは暗黙の了解。もしくは明文化されない独特な文化とも言えた。

TRPGはその言葉とダイスでもって物語を紡ぐ。ゆえに参加者の振る舞いにおいては高い協調性と倫理観が求められる。

そのどちらかが欠けた場合は素晴らしいはずの共同創造が途端に唾棄すべき汚物へと変貌するだろう。不快感しか存在しない忘れたいゲーム体験などあって良いのだろうか?

エレメンタルワードの製作チームはそれを酷く嫌った。

ゆえにあらゆる局面を想定し互いが良識とマナーを遵守するようゲームシステムを設計。

常に素晴らしいゲーム体験を得られるようにと最大の配慮と労力を費やしたのだ。

彼らは……欲張りすぎたのだ。

その結果が偏執的なまでのマナーやルールの記載と、それにともなうセッション参加者の非難合戦になると知らずに……。

彼らは……忘れてしまったのだ。

いくらルールや仕組みに配慮を効かせたところで、結局のところ最終的に物語は人の言葉とダイスによって紡がれるということを……。

「エレメンタルワードは何度かネットを使って遊んだ経験があるからね。いろんな人のセッションに参加させてもらったよ」

どのような素晴らしいシステムを構築したところで、たった一人空気を読めずにルールで可能だからと好き放題振る舞う参加者がいるだけで、TRPGという至高のゲームは駄作に成り下がるということを……。

例えばそう……。

「――僕はその全てで、反省会を開かれている」

このような人間だ。

両手を広げ、まるで誇らしい思い出とでも言うかのように……。

拓斗は過去のセッションの参加者が思わず激怒してしまいそうになるセリフを悪びれもなく言い放った。

おそらく、挨拶の不足による妨害が通った時点で、この作戦が成功することを確信していたのだろう。

もし懲罰動議を含めた上位次元における申請が不可能だったとしても、他に何らかの手段を考えていたに違いない。

それが伊良拓斗という人間だ。

彼に絡め手は通じず、彼こそが全ての事象を支配する。

『Eternal Nations』ランキング1位の頭脳は、決して他の追随を許さなかった。

「まっ、これをやると相手との信頼が一発で壊れて次からセッション呼んでもらえなくなるんだけど……。まぁ安心してよ。僕、そこらへんは経験豊富で慣れてるから」

他人の感情や気持ちなど一切考えていないと言わんばかりの態度で、破滅の王はそう告げる。

そしてシステムの処理が終わり、全てが巻き戻る。

終着点はGMたる繰腹慶次が今のエラキノを制作した段階。

すなわち――。

「さて……ということで。僕のアトゥを返してもらうよ、繰腹慶次くん?」

汚泥のアトゥが奪われる、はるか以前の状態であった。