軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話:未知なる力

本物の力。

アンテリーゼはマイノグーラの王であるイラ=タクトが放ったその言葉を反芻しながら、今から起こるであろうその演目に微かな期待と大いなる不安を抱えていた。

無論、アンテリーゼとてそこらの村娘ではない。

子供じみた夢想だけではなく、現実的にマイノグーラがどのようなものを用意するかはおおよそ推測がついている。

一般の兵が利用可能な新種の武器。

それがマイノグーラが自分たちの要求をあの書簡から察し、用意してみせたものなのだろう。荷車からかすかに聞こえる硬いものがぶつかり合う音からもそれはわかった。

当初は自分たちにも利用可能な戦闘魔術、もしくは制御可能な魔物の提供を目論んでいたフォーンカヴンだった。だがたしかに武器だとしても要求には適合している。

むしろ才能やセンスを要求され習得時間も必要な魔術や、暴走の可能性があり制御の技術も習得せねばならない魔物よりも、即効性がありより戦略の幅が広がるともいえた。

唯一の懸念はその武器の流出や模倣などだが……これらに関しては実物を見るまではその判断は難しいだろう。

何しろどのような代物が出てくるのか、その見当すらつかないのだから。

「さて、準備はこれでよろしかろうと。フォーンカヴンの皆様には、突然の申し出にも関わらず迅速なる対応感謝いたしますぞ」

「い、いいえお気になさらずにモルタールさん。けどよろしいのでしょうか? ここは場合によってはひと目がつく可能性があるかと思うのですが……。どのようなものをお見せして下さるか分かりませんが、あまりおおっぴらにしても良いものではないのでしょう?」

「ほっほ。お気遣いまことかたじけない。しかしながら我らが王が生み出しし力は、少々過激で目立ちますがゆえに」

「は、はぁ……」

アンテリーゼは辺りを見回し、その準備とやらをそれとなく窺う。

場所はドラゴンタンの街はずれ、過去に質の悪いゴロツキが住み着き一種の無法地帯となっていたスラム地区だ。

ゴミゴミとした住居とも言えぬ建物が立ち並び、ボロボロに崩れたその外見もあいまって廃墟といって差し支えないだろう。

そんなある種奇妙な場所に用意されたのは、複数のかかしであった。

元々は兵の訓練用に用意されていたものだが、現在はクオリアから流れてきた鉄製の重厚な鎧を着せられて的として一列に並べられている。

少し離れた場所にあるそれらを眺めながら、アンテリーゼは更に思考を深める。

(遠距離武器? もしかして弩の一種なのかしら? 構造が複雑で量産に向かない学者のおもちゃというのが一般的な評価だけど、実戦に耐えうるものを完成させていたの?)

だとしたら少々落胆せねばならぬだろう。

複雑な構造を用いて弓の貫通力と命中率を上昇させた弩と呼ばれるそれに関して、アンテリーゼが知っていたのは偶然だ。

エル=ナーにいた頃に氏族の権力者がどこからともなく手に入れ見せびらかしていたものを触らせてもらったことがあったのだ。

その時は構造が複雑ゆえ破損の可能性が高く戦場ではおおよそ役立たないおもちゃだと弓術に一家言あるエルフの戦士たちにこき下ろされていたのだが、マイノグーラはそれら問題点を改善した弩の開発に成功したのかもしれない。

だが……解せないこともある。先程モルタール老は「過激で目立つ」と言った。

よしんばこれから披露されるものが弩及びそれに類いする射撃武器だとしても、そこまで目立つとは考えられにくい。

狭く最低限の設備しかないとはいえ、ドラゴンタンにもある練兵場で事足りたはずだ。

にも関わらず彼らはその提案を丁寧に断ってきた。

その代わりにと指定されたこの地区は現在完全な無人地帯となっているとは言え、間者やそれに類いする招かざる客が紛れ込まないとも限らない。

無論人払いのための人員は配置しているが、それでも予想外が起こるのが世の常というものだ。

マイノグーラがそのリスクを理解していない訳ではないだろう。

だとすれば答えは一つしか考えられなかった。

ソレは弩などでは決してなく、隠すことが不可能なほど派手で激しいものなのだ。

「モルタール老。こちらも荷解き及び各部チェック完了しています。射撃の準備はできていますがいかがしましょう?」

アンテリーゼが難しい顔で思考の深みに陥っていると、隣で指示を行っていたモルタールへと質問をしてくる人物がいた。

確か会談の時にテーブルに座っていたダークエルフの女性だ。

そんな彼女は何やら専門用語を用いてモルタールへと問いかけをしている。

運用が確立されている証拠だ。どうやら考える以上に大規模で既存の技術から離れたものらしい。

「ふむふむ。ではワシは王と杖持ちの方々にお声がけしてくるとしよう。アンテリーゼ殿、一旦失礼いたします」

突如自分に向けられた言葉に慌てて他所向きの顔を作ると、笑顔を浮かべて頭を軽く下げる。

どうやらそろそろ始まるらしい。アンテリーゼも覚悟を決めて深呼吸する。

「あっ、すいません。その前に……」

「むっ? どうかしたのかの?」

だがこの場から離れようとするモルタールへと声がかかった。

先程の女性だ。何やら質問が残っているらしい。

この場で聞き耳を立ててもいいものか迷ったが、ふたりとも特に気にする様子を見せないことからアンテリーゼも変わらずその場で待機する。

「いえ、最初の射撃者は誰にするのでしょうか? 一応ギア隊長と選抜の人たちは準備しているのですが……」

「ふむ…………」

あごひげをゆっくり眺めながらモルタール老があたりを見回す。

そうして何やら思いついたような、少しばかり意地悪気な笑みを浮かべ……。

「エムル。お主がやりなさい」

そんなことを言い出した。

「あっ、はい。ではそのように……わ、私ですかぁ!?」

どうやら寝耳に水だったらしい女性は素っ頓狂な声を上げている。

ここでようやくアンテリーゼは、目の前で慌てながらモルタール老に抗議している彼女が何度か書面でやり取りしたことがあるマイノグーラの重要人物であることを理解する。

とは言えこの人もいろいろ苦労していそうだなぁ……。

アンテリーゼは妙な親近感を抱きながら、優しい瞳でワタワタと準備をするエムルを眺めるのであった。

………

……

「では皆様方、大変長らくお待たせいたしました。これからマイノグーラが誇りし力を、お集まりいただいたフォーンカヴンの皆様に存分にご覧頂きたく存じ上げます」

時間にして半刻ほどたった頃だろうか、進行役はモルタール老であった。

マイノグーラの王であるイラ=タクトは彼を見守るように簡易の観覧席にてその様子を眺めている。

フォーンカヴンの杖持ちたちや、文官。そして兵長などの役職持ちが様々な思いを抱いた表情で眺める中、その未知なる演目は始まった。

「このたび我々マイノグーラが対価として提供するのは、個人が利用できる新たな武器でございます」

やはりそうきたか。

アンテリーゼは己の推測があたったことに小さな喜びの気持ちを抱く。

と同時に、やはり弩だろうかと小さな落胆を抱いた。

「戦における武器とは、あらゆる要求を満たさなくてはなりません。誰でも扱え、習得が容易で、運用が容易く、敵に奪われにくい。何より殺すことに長けている。そのようなものが大量に、そして安価に必要となります」

「巨大な個の戦力や複雑かつ強力な魔術が戦場の華となることも当然ございましょう、しかしながらその屋台骨となり支える者たちが必要なこともまた事実。何をもってしても一般的な兵の戦闘能力というものは、無視すること叶わぬ事柄にございます」

「……フォーンカヴンの皆さま方に置かれましては先の戦において忸怩たる思いをお抱きになっているかと愚考いたします。平和に暮らしている皆様の生活がなぜあのような野蛮で分別をしらぬ劣等種共に脅かされねばならぬのか?と。なにか奴らの鼻っ面を全力で殴りつけることができるような力がないかと。自国に手を出すことがどれほど愚かであるかその足りぬ頭に教育する手段はないかと」

「――我が国はそのための手段をここにご用意いたしました」

話がうまい。そして引き込まれる。

ある種の煽動家じみた言葉繰りにその場にいる人々が魅了され、マイノグーラが持つ異質な雰囲気も相まって強い興味と興奮を沸き起こさせる。

アンテリーゼも気づかぬうちに拳を固く握りしめ、その話に聞きいっていた。

「さて、ここにおりますエムルは我が国の文官にして、さほど戦闘技術を持たぬものでございます。その知識と技術は我が国に大いに貢献すれど、身体能力は一般の兵に大きく劣るどころか、年頃の子供にすら負ける始末でしょう」

「あっ、えへへ……」

モルタールの言葉によって、一人の女声が会場にやって来る。エムルだ。

注目が集まっていることに緊張しているのか、彼女はペコペコとお辞儀をしながら会場の中央へとやってきた。

その姿を見た瞬間、アンテリーゼと幾人かのフォーンカヴン側の列席者は少しばかり表情を変える。

彼女が杖のようなものを持っていたからだ。

いや、形状としては弩に似通っている部分がある。特に持ち手は見たこともある。

だがそれ以外の部分――特に射出箇所が異様であった。弩のような弦を張る箇所がなく、なぜか異様に長い。

果たしてどのように使うものなのだろうか? フォーンカヴンの面々はその不可思議な武器に釘付けとなっていた。

と同時に、この特段戦闘が得意にも見えぬ女性がどのようにあの武器を使うのか……と疑問を抱いていた。

「ですがご心配に及びませぬ。重ねて申し上げます。武器とは――誰でも扱え、習得が容易で、運用が容易く、敵に奪われにくい。何より殺すことに長けている。それが必要な条件でございます」

その考えを見透かしていたかのように、心配など無用とでも言わんばかりにモルタールは再度同じ言葉を紡ぎ、

「エムル、やりなさい」

フォーンカヴンの運命を変えるであろう始まりの宣言をする。

「は、はい!!」

その瞬間、アンテリーゼはすべての時間がゆっくりと流れる様を幻視した。

武器のいくつかの箇所をいじっていたエムルが的に向かってゆっくりと構え、狙いを絞るような姿勢を取る。

一瞬の静止。後に――。

恐ろしい破裂音の連鎖が辺りに響いた。

「きゃっ!?」

思わず可愛らしい叫びを上げたことなど気にもとめず、アンテリーゼは慌てて的であるカカシへと目を向ける。

そこにあったのは、先程まで重厚な防御力を誇っていた鉄の鎧ではなく、哀れなほど穿たれひしゃげたただの鉄くずであった。

何が起こったか全く分からない。全ては大きな破裂音が連続して発生した瞬間に終わっていたのだ。

「こ、これは……」

思わず、唸りに似た声が漏れる。

起こった出来事をなんと表現すればよいだろう。

言葉で表すのはひどく難しい。ただ離れた場所に見える兵士に見立てたかかしが、一瞬のうちに強烈な攻撃を受けたことだけはわかった。

杖のような武器の先からは煙のようなものがうっすらと立ち上り、辺りには嗅いだことのない奇妙な刺激臭が漂っている。

鼻の良い犬族の兵士らが思わず顔をしかめる中、まるで予定通りの結果と言わんばかりにマイノグーラ側の人々は話を進めていく。

「むぅ……標準が甘いのう。エムル、お主教練は何時間受けておる?」

「えっと、確か講習2時間の実技8時間ほどかと……」

「ふむ。補修が必要じゃな。――とは言え、まぁ及第点じゃな。よろしい、下がりなさい」

最後に観覧席に向かって深々とお辞儀をしたエムルは、ようやく出番が終わったとばかり小走りではけていく。

だがアンテリーゼはそんな彼女を気に留める余裕などどこにもなかった。

「じゅ、十時間だって!? あれだけの威力を出して、いや……だからこそか! なんてモノを用意してくれるんだい!!」

トヌカポリが上げた興奮混じりの驚きの声にアンテリーゼも内心で頷く。

あまりにも危険で、あまりにも規格外であったからだ。

エムルという人物については、すでに情報としてある程度把握している。

ダークエルフの戦士団で副官をしていたとのことなのであら事が苦手と言うわけではなさそうだが、見た目の印象を加えて判断するにどちらかというと頭脳面でその地位にいたと考えるほうがふさわしい人物だ。

つまるところモルタール老が語るように彼女の身体能力は一般人であり、その教育レベルを除けばそこらにいる市民と変わらぬ程の素質と言える。

それが硬い鋼で作られた鎧に穴をあける。その事実がどれほど凄まじい意味を持つかを考えれば、この沈黙も当然のものと言えた。

(弩の発展型かと思っていたけど私の考えがあまかった! なんなのあれ、どういう機構で発射されているのかまったくわからない! そもそも矢の速度が早すぎる!)

一瞬のうちに放たれた矢は瞬く間に的に当たり、その鎧を蜂の巣にしてみせた。

あらゆる攻撃から身を守ることが役目の硬く重い鎧がこの様だ。実戦において同様のことが起こった場合、中にいる装着者がどうなるかは火を見るより明らかだろう。

人が持つには過剰すぎる武器。そして何より恐ろしいのは――マイノグーラはこれをは大量に提供する用意があるということだ。

(戦争の形態が変わるわよ! こんな馬鹿げた威力、接近戦に持ち込む前にあらゆる対策ごと射抜かれるじゃない!)

「さて、エムルだけではいささか情報に不足があろうかと思いますじゃ。ギア、戦士団を」

「うむ、皆のもの、王が恥じることなきよう鍛錬の成果をお見せするのだ」

「「「はっ!!」」」

無論、アンテリーゼの混乱などマイノグーラは知らない。

彼らはその衝撃的な光景を目にして思考が追いつかないフォーンカヴンの列席者を尻目に、予定通り演目をこなしていく。

「目標! 射撃的二番から三番! 連射二秒! 射撃体勢!」

「てーーーーっ!!」

先程の数倍の破裂音が輪舞曲となって眼前の的を破滅へといざなう。

キーンと耳鳴りがする中に現れたものは、およそやりすぎといって差し支えない光景であった。

それは圧倒的だった。

これに対応できる存在を、エムルはほとんど知らない。

上級聖騎士はおそらく、もしかしたら中級聖騎士程度であっても射線が向いたことを察知して回避などが可能かもしれない。

逆に言えば、それほどの上位の戦闘能力を有する兵力を用いなければ、この地獄から呼び出されたごとき死の雨からは逃れることができないのだ。

(は、ははは……なにこれ、何と戦わせるつもりなのよマイノグーラは)

その圧倒的な力の前に、思わず乾いた笑いさえ漏れ出てきそうになる。

同時に、強い興奮が胸の奥から湧き出てくることも感じられる。

あの武器を装備したフォーンカヴンの兵士は、一体どれほどの戦果をあげるだろうか。

間違いなく、マイノグーラを除けば暗黒大陸でも有数の精強な部隊を作り上げることができるだろう。

無論流出等の危険性を考え管理を徹底する必要があるが、少なくとも街のチンピラやごろつきにでかい顔をされる必要もないし、土地を荒らす蛮族たちに苦々しい思いをする必要もなくなる。

これは劇薬だ。

この変化は劇薬にすぎる!

「フォーンカヴンの皆様。これにてマイノグーラが誇る新たなる力――"銃"の披露を終えますじゃ」

沈黙であった。

誰しもがこの過剰と言えるまでの威力と、異質な力に反応を示せずにいる。

フォーンカヴンはこのような理由故に、そしてマイノグーラはまるで状況を理解する時間を与えるかのように、静かに沈黙を保っている。

だがそんな中で唯一キョロキョロとあたりを見回す仕草をしている人物がいた。

マイノグーラの王、イラ=タクトであった。

その様子はともあれば「あれ? どうして驚かないの?」とでも言わんばかりの態度だ。

そうではない。驚きすぎて皆思考が止まっているのだ。

もっとも破滅の王がどのような思考でいるかどうかなど矮小な一エルフに推測できようはずもない。ゆえにアンテリーゼは王の態度はさておいてこの霧がかった思考の中なんとかこの状況を把握しようと努力する。

そんな彼女の本能的回避とも言える努力をあざ笑うかのように、その声は静寂の中やけにハッキリと響いた。

「もう少し、インパクトがほしいな」

マイノグーラの王イラ=タクトは、突如そんなことを言い出した。

「キャリア、メアリア」

「はーいっ」

「はいなのです」

次いで紡がれた言葉は早かった。

マイノグーラの人員からも動揺の声が漏れ出ているようなので、予定外の行動らしい。

唯一かの王の腹心であるアトゥと、名前を呼ばれた二人の少女だけは一切の動揺を見せることはなかった。

「できたよーっ」

「準備できましたのです」

そうしてアンテリーゼはただただ絶句した。

二人の少女が明るくハツラツとした声とともに持ち出したそれは、おおよそこの年頃の少女が持つにふさわしくない巨大な装置であったから。

(まさか……あれも、銃とやらなの!?)

構造は大きく違う。杖のような物が束ねられたそれは何やら複雑な機構を有しており、明らかに携行を意図されているものではない。

それを軽々と持ち上げるこの少女たちは一体なんなのだろうか?

だがその問題よりも最重要な事柄が今は存在している。

一般的に、大きさとはすなわち威力に直結する。

エル=ナーではより高い威力と射撃距離を出すために、一部の精霊闘士が巨大な長弓を用いることがあった。

その単純な計算を考えるのなら、この眼の前にいる二人の少女がそれぞれ持つこのあまりにも巨大な武器は。

一体どれほどの……。

「銃の凄さを見せてあげて」

「「てーーっ!!」」

そして空気が破裂し、大地が爆発する。

巨大な蜂が飛翔するかのような奇妙な音とともに吹き飛んだのは、ひしゃげて原形をとどめていない的の背後にある家だった。

バラバラと小さな筒のような物がその巨大な銃より飛び散り、輝く杖先からは目にも留まらぬほどの速さで数え切れぬほどの矢が破滅の殺意を込めて目標へと殺到していく。

フォーンカヴンの建築物は木材と泥を利用した堅牢なものだ。硬く固まった土壁は容易には破壊されず、火矢などに対する耐性も強い。

それがまるで砂山を蹴散らすかのように木っ端微塵に砕かれていく。

ここに至ってアンテリーゼはようやく腑に落ちる。

そりゃこれだけやれば目立つし過激だろう……と。

――わずか数秒の時間にも関わらず、目の前の景色は一変していた。

アンテリーゼはキーンとなる耳を思い出したかのように緩慢な動作でもって今更抑えながら、ただ何も言えずその光景を眺める。

「いまお見せしたものは残念ながらご提供できるものの品目には入っておりませぬ。あくまで我が国はこれほどの力を有し、その圧倒的武力でもって友好国である皆様にご協力を申し出ていると理解していただければ幸いにございますじゃ」

そう言いながら、少しばかり冷や汗をかいたモルタール老が締めくくる。

「――どうかな?」

満足げな破滅の王の声が破壊の限りを尽くした会場に響き渡る。

流石にぺぺも、この光景にはあんぐりと口を開けるばかりだった。

………

……

「跡形もない……わね」

マイノグーラの面々が市庁舎に撤収し、会談の続きを準備している頃。

アンテリーゼは幾人かの職員を連れ、やけに見通しが良くなった会場にて後片付けの指示を行っていた。

「ちょっといいかい、アンテリーゼ」

「トヌカポリ様……」

声をかけられ振り向くと、いつの間にか牛頭の杖持ちが自分の隣にきている。

その表情に激しい疲労が浮かんでいるのはアンテリーゼの気の所為ではないだろう。

むろんアンテリーゼも同様にひどい顔をしているに違いない。

「前に言ってた長期休暇の件……すまないけど無期限延期で頼むさね」

「はは、ははは……わかりましたー」

都市が譲渡されたらお役御免などと心配した自分が馬鹿だった。

フォーンカヴンには人材が少ない。この調子だとまだまだ自分は馬車馬の如く働かされるだろう。

もしかして就職先間違ったかな? ぼんやりと考えるアンテリーゼだったが、全ては後の祭りと言えた。