軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十五話:作戦会議

マイノグーラでは会議による国家の運営方針決定が重んじられる。

それは何も民主的な考えによるものではなく、ダークエルフたちが自ら考え意志決定するという土台を作り出す為の訓練的な意味合いが強い。

ブレイブクエスタス魔王軍との戦争の後にイラ=タクトはその方針を大きく変えた。

それは世界を征服するという今までの平和主義的活動方針から百八十度変化するもので、以前ほどダークエルフたちの考えや決定が尊重されないことを示している。

とは言え、ダークエルフたちの自主性を育てる意味合いでも、未だ会議は行われていた。

だが以前までスムーズに進んでいたはずの会議は、ここに来て初めて暗礁に乗り上げていた。

「これは……一体どう判断すればいいのでしょうか?」

「むぅ、裏があると考えて間違いないかとは思いますが。いやはや……うむぅ」

マイノグーラ宮殿にある会議室にて集まる面々はなんとも言えぬ表情を見せていた。

集まった者達は少ない。

拓斗とアトゥは当然として、ダークエルフに関してはモルタール老とエムルという珍しい人選である。

今回の問題を判断する為になるべく洞察力の高い者たちのみが集められたからだ。

他の者を呼ばなかったのは、内容の吟味にすら時間がかかりそうな議題の為にあまり多くの人員を拘束したくないという理由だった。

そして判断に苦慮しているのは拓斗も同様で、今回の議題がそれほど彼らの困惑を引き出すものである事を示している。

その内容とは……。

「まさか……ドラゴンタンの譲渡を申し出てくるとは」

多種族国家フォーンカヴンによる、ドラゴンタンの街の割譲提案だった。

具体的な事は書いていない。至る事情もむろん書かれてはいない。

ただフォーンカヴンの代表指導者であるペペと、同じく指導者である杖持ちたちの連盟でこの件に関して早急に会談を行いたいとの依頼がなされているのみだ。

その他は特に無し。

後は先の戦争において戦力を出したことへの感謝が仰々しい定型文で長々書かれている位だ。

どれだけ読み直しても一向に意図が読み取れないその親書に、アトゥは何度も首を傾げながら唸る。

「内容をそのまま受け取るのであれば我々にとって喜ぶべき申し出、ですがあまりにも怪しすぎますよね……」

「しかり。いくら親書とは言え、このような重大事をおいそれ伝えるとは外交においては邪道も邪道。罠を疑うのが道理ではありますが、だとしたらこれまた稚拙の一言。何が何やら分かりませぬわい」

知恵者であるはずのモルタール老ですら唸りをあげ、推測すらできぬ始末。

取り上げる議題は一つながら、難解なパズルにも似たその問題の対策会議は開始早々暗礁に乗り上げ、一向に前へと進んでいなかった。

「王よ……いかが判断いたしましょう」

いてもたってもいられずモルタール老が拓斗へと助け船を求める。

拓斗とてゲームにおける交渉ごとは何度も繰り返したものの、今回のようなパターンは初めてだ。

おそらく……というレベルであれば判断はつくが決め手に欠ける。

とは言え最終的には彼が判断せねばならぬ。

そしてマイノグーラがやるべき事は山積しており、この問題も今日中には判断して方向を決定づけておきたい。

そのため拓斗はエムルへと向き直り情報の整理を行うよう伝え、事態の打開をはかる。

「エムル。分かっている範囲で、フォーンカヴンの状況はどうかな?」

その言葉にかき集めていた資料を素早くめくり始めるエムル。

やがてその場にいる全員が殆ど把握しているであろう情報が再度確認のため報告され、その後いくつか判明した最新の情報がもたらされる。

「――最後ですが、現在ドラゴンタンの街ではかなりの民が流出しています。先方の都市長と連絡をとっておりますが、こちら側からの問い合わせの返答が遅れるほど混乱しているようです」

ありがとう。と返答し、しばし黙考する拓斗。

フォーンカヴンとは同盟関係ゆえに、ドラゴンタンの情報は以前よりも多く入手することが可能だ。

マイノグーラ自身も戦後のゴタゴタで把握がおくれている面があったが、やはり戦争というものはゲームと違って勝利したからそれで終わりとはいかないものらしい。

「民が流出? エムル、なぜそんなことになったのですか?」

「先の戦争が原因でしょうなアトゥ殿。エムル、詳しく説明してくれるかの?」

「はい。そもそもかの街はフォーンカヴン本国から遠く、街に入り込んだごろつきにより治安に維持にも苦慮していた事が判明しています。今回の戦争において本国から援助が殆ど受けられなかったとするならば、何らかの混乱が発生するのも不思議ではないかと。であれば住民が本国の影響圏内への逃避のため街から脱出しているものと推測されます」

拓斗が考えをまとめている間に、アトゥとダークエルフたちが情報を元に状況を組み立てていく。

拓斗は静かにそれらの意見を聞きながら、より正確にすべての状況を把握していく。

「うーん。つまり、ドラゴンタンは崩壊しつつある、と?」

「すでに崩壊している……やもしれませんなアトゥ殿。どちらにしろ都市機能が停止するのは時間の問題でしょう」

察しの良い者ばかり集まると少しのヒントで会議は劇的な進行を見せる。

拓斗同様におおよその推察が可能になってきた面々は、確証は得ないものの精度の高い答えを導き始めていた。

否――少しドラゴンタン住民の身になってみれば容易に分かることだ。

本国から遠く離れた土地で暮らしていた中で、突如発生した蛮族の大群。

しかも本国からの増援は見込めないどころか、他国の軍隊に防衛を任せる始末。

安全を求めて本国へと逃れる者が出るのも当然で、場合によっては暴動など起こっても不思議ではない。

もしかしたらマイノグーラへの帰化を求める人々が出ている可能性すらある。

拓斗自身はドラゴンタンの都市長に直接の面識はないが、この状況を収めなければいけない彼女には同情すら覚えてしまう。

「都市機能が崩壊するとなれば実際に被害を受けるのは力を持たぬ弱い人々。彼らを守る為にもいっそ都市を譲渡してしまった方が良いと考えたのかもしれません」

「加えて、今回の戦争では実際に戦力を出したのは我々マイノグーラでございますじゃ。かの者達の戦力では防衛が精一杯で満足な軍事行動ができておりませぬ。おそらく、治安を維持するための人員にすら苦慮しているのでしょうな」

「なるほど。言い方は悪いですがここでマイノグーラのご機嫌をとってこびを売っておこうと、そういう魂胆ですか?」

アトゥがまとめる。

実にあけすけな言い方であったが、的を射ている。

単純に、フォーンカヴンは進退窮まる状況なのだ。

だからこそ大胆とも言えるカードを切り、交渉のテーブルにおいてマイノグーラから先手を取った。

これを最初に考えたのは誰か分からぬが、相当に頭が回る人物であろうと拓斗は考える。

もしくは……特級の考え無しか。

ふとつい最近友人になったフォーンカヴンの指導者の顔が思い浮かび、思考の波に飲まれ消えていった。

「ドラゴンタンを明け渡すことで今後も友好関係を継続しつつ、代わりに何かを引き出そうとしている……ということですかな」

「間違いなく竜脈穴の魔力源は求めてくるでしょうね。まぁあれはそもそも共同管理という事で話が進んでいたので問題は無いですが……」

国土を明け渡すとは生半可な覚悟でできることではない。

特に飛び地であるドラゴンタンはその管理が難しい半面、今後の国家拡張における橋頭堡ともなり得るのだ。

それだけではない。同盟国とは言え街を一つ他国に譲渡するとなると、たとえそれが平和的なものであっても国民の不信感は相当に募る。

であればそれに匹敵するだけのリターンを、彼らは当然考えているだろう。

「間違いなく、戦力だろうね」

拓斗が断言するかのように呟く。

フォーンカヴンにとって喫緊の問題が不足する戦力の拡充だ。

現状でも満足な対応がとれていないことはすでにマイノグーラへと都市防衛の協力を依頼してきた段階で露呈している。

軍拡が一朝一夕で行えない以上、彼らの戦力が未だ乏しいことは明らかだ。

「しかし王よ。フォーンカヴンが戦力を求めて来たとしても我々も脅威に備えている最中。いくら同盟国とは言え、ことさら戦力を抽出する余裕は……」

「うん。その通り」

モルタール老の懸念はもっともだ。

あえて口にはしないが、イスラを失った原因の一つに戦力の分散がある。

また同じ轍を踏んで国家を危険にさらす訳にはいかなかった。

むろん、その事は拓斗もよく理解している。

だから……。

「武器を売ってあげよう」

拓斗の言葉でシンとその場が静まりかえる。

今までならその状況に居心地の悪さでも感じていたのだろうが、ある種の覚悟が決まった今の拓斗ではむしろ皆の驚きが心地よい。

自分でも気づかないうちに、人って成長するんだななどと場違いな感想を抱いていると慌てた様子でエムルが叫びだした。

「お、お待ちください王よ! そ、それは危険でございます! あれほど強力なものが他国に渡ればどの用に悪用されるか分かりません! あれらの武器の矛先が我が国に向く可能性もあるかと愚考いたします!」

エムルの言葉はその場にいる全員の代弁だった。

強力な武装である銃器はその扱いに細心の注意が必要となっている。

イラ=タクトの力によって生み出された現代兵器はマイノグーラが手に入れた新たな剣であり護国の盾なのだ。

せっかくの優位性を同盟国だからという理由で提供することは巡り巡って国家の不利益を生じさせる可能性があり、様々な面で危険に思われた。

ただ……彼らは重大な点を忘れていた。

「悪用って、どうやって?」

「それは当然…………あっ!」

全ての兵器そして弾丸は、イラ=タクトにしか生み出せない。

つまりいくら銃器の提供を受けて戦力を増強させたところで、常にマイノグーラと取り引きを続けて弾薬の補給を受けなくてはその力はあっという間に消費し尽くしてしまうのだ。

そして銃器及び弾薬に使われている技術はこの世界とはまた別の系統樹に属する科学技術の果ての産物。

どう足掻いてもこの世界で模造品を作り出すことは不可能。

つまり、この強力な武器はマイノグーラの胸先三寸でいつでも取り上げることが可能であった。

そしてフォーンカヴンもこの圧倒的な力が持つ魅力に抗えないだろう。

フォーンカヴン側の動員戦力はざっと試算しておよそ1~2万規模。その大半が近接戦闘を主体とした戦士だ。

金がかかる騎兵や弓兵の数も潤沢とは言えず、聖騎士のような単体で高い戦闘力を持つ兵士も数えるほどしかいない。

ドラゴンタンの防衛隊を見るに練度としては最低限、獣人の身体能力でなんとか持っているものの、おおよそ質の面では他国に劣る。

それら脆弱と表現して適当な軍が、マイノグーラから提供される武器を装備するだけで万夫不当の軍となる素質を得ることができるのだ。

少なくとも蛮族にビクビクと怯えながら必死で国家を防衛するような情けない生活とは別れを告げることができるだろう。

イドラギィア大陸の南部――通称暗黒大陸と呼ばれる不毛の土地で暮らし、聖王国と精霊契約連合という目に見えた脅威が存在する中で過ごしてきた彼らにとって、これがどれほど魅力的かは想像に難しくない。

そしてフォーンカヴンが対案として取れる選択肢は、そう多くはないだろう。

翻ってこの作戦はマイノグーラ側にも魅力的な提案となる。

今後敵対勢力との戦争になったときに、近代兵器によって武装されたフォーンカヴンの軍隊と共同戦線を張ることができるからだ。

マイノグーラの戦力は少数精鋭に偏っているため一定の力を持つ兵士の数がそろえられることはとても魅力的に映る。

前線をフォーンカヴン軍で維持し、マイノグーラ軍で遊撃や斬首作戦を行うという強力な布陣を張ることができるからだ。

銃器及び弾薬をフォーンカヴンに提供する。

これはすなわち同盟国の戦力を増強させ、いずれ来たるであろう敵対国との戦争におけるアドバンテージを得ると同時に、その同盟国の首根っこを掴む二重の作戦であった。

賢しい者たちは瞬時にしてその裏に秘められた意図に気づき、相手がいわゆる詰みの状態にいることを理解しほくそ笑む。

相手にとって何も悪い話ではないのだ。むしろメリットしかないだろう。

決して逃れられないだけで……。

「なるほど。流石我らが王。その深き洞察力と知謀には感服の一言しかございませぬ。……しかし今度は些かこちらが出し過ぎになりましたな。王よ、対価としてかの国に求めるものは何が適当でしょう」

モルタール老がほっほと笑いながら鷹揚に問う。

軍事力の強化はおそらく現状でフォーンカヴンが最も欲するものだ。

ドラゴンタンを割譲することの意図がどうあれ、この一点については揺るぎない。

だとすれば、どちらにせよこの武器輸出作戦に食らいついてくることは間違いない。

「対価……。やっぱり人、かなぁ。生活に困ってる人でも、犯罪者でも、今は全然人が足りないからね」

拓斗が選んだのは国民だった。

現状でマイノグーラが最も欲しており、かつ圧倒的に確保の見通しがとれていないものだ。

「それは素晴らしい案です拓斗さま! 偉大なるマイノグーラの庇護下に入れるとあれば、きっとドラゴンタンの住民も感激にむせび泣くでしょう!」

「邪悪になるけどね」

「い、意外と居心地いいですけどね……その、あんまり変わった感じがしないですし」

「しかり、しかり」

つい最近邪悪な属性になった者たちがウンウンと頷く。

どうやら本人達には好評らしい。

であればドラゴンタンの住民受け入れもなんとかなりそうだと拓斗は安堵する。

無論、強制力を伴った人身売買的な受け入れは考えていない。

敵性国家ならそれもありかもしれないが、フォーンカヴンは未だ同盟国なのだ。

希望者を募る形になるだろうが、実際始めるとしたら中々の大事業になりそうだった。

「しかしこれがうまくいけば人の問題は一気に改善しそうですね、拓斗さま!」

アトゥがあげる無邪気な喜びの声に頷く拓斗。

フォーンカヴンがマイノグーラの要求に対してどのように判断するかは分からない。

だがドラゴンタンの割譲を予定していることから見て、人員の移動ももちろん考えているのだろう。

親書にわざわざ譲渡の件を記したのも、もしかしたらあらかじめ検討しておくよう言外に伝えたかったのかもしれない。

「さぁ、販売する武器を選定しよう。他に意見はあるかな? ドラゴンタンがどんな考えを持っているか、漏れがないよう検討は必要だ」

あれやこれやと意見を交わす配下の者たちを眺めながら、拓斗はペペのことを思い浮かべる。

陽気で親しみやすく、どこか憎めない人物だ。

だが彼の本質がそれだけでないことを、拓斗はなんとなく予感していた。

「会談の日にちが楽しみだね」

世界は大きく動く。

自分たちと同じようにゲームの世界から来ているものたちが他にもいるのなら、必ずそれらとぶつかる時は来るだろう。

それはどこか確信めいたもので、ここにはいない誰かから囁かれているようにも思われる。

「そういえば……」

「はい、何か懸念がございますか拓斗さま?」

アトゥが拓斗の言葉にすぐさま反応する。

だがとうの拓斗はその問いに首を左右に振って答えとした。

「いや……何でもないよ」

拓斗は、あえてその話題を口にせず誤魔化した。

そうして……いずれその時が来るまで、自分が持つ能力をしっかりと確認しておかねばと己に言い聞かせるのであった。