軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十四話:戦力強化(2)

練兵場の建築場所は、街の中心部から離れた場所となっていた。

邪悪なる者たちが住まう大呪界にしては珍しく木々が切り開かれたその場所は、兵士達が軍事行動を学ぶ為の基本的な設備が用意されている。

案山子や模擬剣と言ったものから、野営訓練用の幌や監督用の高台。

原始的と言ってしまえばそれだけであったが、今まで組織だった訓練を行えなかったダークエルフたちにしてみれば十分過ぎるほどの施設である。

だが本来なら新兵が基本訓練を行うはずのその施設では、現在その用途とは全く違った光景が広がっていた。

「やっているね」

ドン、ドンと木々を揺らす大きな音が何度も響き渡り、その度に練兵場の端にかすかに見えるカカシとその付近の地面が爆ぜる。

練兵場の入り口にいるのはギアが指揮するダークエルフ戦士団であり、その手に持たれているのは、この世界において決してあり得ない武器だった。

火薬の力で弾丸を飛ばし相手を殺傷する兵器。

ドラグノフ狙撃銃と呼ばれるそれを持って、戦士達は訓練を行っていた。

「これは王よ! ようこそおいでくださいました。――整列!」

「うん、楽にしていい。皆も訓練に戻って」

練兵場にやってきた気配を察したのか、兵たちの訓練を確認していたギアがチラリと拓斗の方へと視線を向け、次いで慌てたように命令の声を上げる。

と同時にまるで一つの生き物の様に寸分違わぬ動作で武器を置き整列する戦士団。

行き届いた規律に満足し頷いた拓斗は、そのまま訓練を続けるよう促す。

「中々様になっておるが……実際はどうじゃ?」

「音と衝撃がまだ少し……命中率に関しても向上しておりますが、何分弓とは勝手が違います故、まだ実践で役立てるとは」

発砲音を避け、近くの樹上に作られた管理棟まで昇りながら拓斗たちはギアより説明を受ける。

だが先ほどの規律ある整列に比べ、その練度は些か不満が残るようであった。

言葉を濁しているのはプライド故か、苦渋に満ちた表情から拓斗の要求に満足に応えることが出来なかった後悔が感じられる。

だが拓斗としては上出来とも言える結果だった。

そもそもとして彼らにとって銃器の使用は初めてなのだ。触ったことは愚か見たことも無いだろう。

遠距離武器というカテゴリの類似性があるだけで本来弓とは全く別物なのだ。

加えてダークエルフは通常のエルフと違って弓の特性はそこまで高くはない。

彼らの早期習熟はどだい無理な話であると拓斗自身も理解していた。

「ふむ、ではギアよ、試しにあの的を撃ってみてはくれぬか?」

ギアの背後に見える銃を見ながらモルタール老がにやりと笑う。

彼が背負う銃は戦士団がもつものと比べて一回りも大きな対物ライフルだ。

破壊力と有効射程は比べものにならないが、その分取り回しは難しい。

一撃ちすれば銃身が跳ね上がり、衝撃で転びそうになる。

その暴れ馬の如き扱いの難しさにギアがひどく苦労している事をかの老人はよく知っていた。

「ぐっ、……ではご覧ください王よ」

ニヤニヤと笑うモルタール老の表情から大体の事情を察する拓斗。

だが彼が何か言う前にギアは銃を膝立ちの格好で構える。

現在居る場所は管理棟のベランダの様になっている開けた場所だ。

そこから眼下に見える練兵場の的へと当てるつもりであった。

「――くっ!」

やがて数秒の沈黙のあと、ドゥンと大きな音が響き木製の床が小さく揺れる。

同時に遙か遠くで的となったカカシの肩口が爆ぜるのが見えた。

中々の腕前である。

下級の聖騎士程度ならあれでも行動不能なダメージを与える事ができるだろうが、ど真ん中に命中させられなかったのは少々残念かも知れない。

とは言え対物ライフルを膝立ちで当ててみせたその腕前に拓斗も感心する。

(いや、普通に凄いなこれ)

完全に当てられなかった為か、何とも言えぬ悔しそうな表情を見せるギアとは裏腹に拓斗はその結果に満足していた。

実のところ、狙撃銃の訓練を行わせている戦士団に期待しているのはダークエルフ特有の暗闇適性の有効活用だ。

昼間の様に夜でも動けると言われるダークエルフの視界を持ってすれば、夜の闇に紛れた暗殺や襲撃がずいぶんやりやすくなるだろう。

そして隊長格たるギアの練度を見るに、拓斗が要求するレベルに十分達する事ができると判断できた。

暗闇に紛れて相手を一方的に襲撃できる遊撃部隊。

それがダークエルフ達に求められる役割だった。

「膝立ち撃ちでそれだけできれば十分だよ」

「――っ! もったいなき御言葉、引き続き精進します」

拓斗としては現状を鑑みて言葉を贈ったはずだが、ギアの態度はどこか悔しさが滲み出るものだった。

どうやら失敗を慰められたと感じ取ったらしい。

拓斗としてはそんなつもりは無いのだが、だがそれで彼が奮起してくれるのならばと欲を出してそのままにしておく。

……実際、彼らが出してる成果はすでに生前の世界の人間を超えている。

そもそも対物ライフルは膝立ちで撃つものではないのだ。

重量だけでも十数キロあるものをこうまで容易く扱えることのすさまじさを理解できていないのは彼らが銃に関して未だ理解に乏しいが故か。

とはいえギアがここまで仕上がっているとなると、彼が率いる戦士団もじきに実戦で役立ってくれるだろう。

数百メートルから数キロの射程を持つ狙撃銃の弾丸を避けられる存在は少ない。

ヒルジャイアントなどの強靱な身体を持つ蛮族や上級聖騎士などの強力な兵ならば、その殺傷能力に耐えられるものも存在するかも知れないが、その時は数で押せばいいだけの話だ。

だから、拓斗はこの状況にとても満足していた。

のだったが……。

ドォゥン! と、先ほどの発砲音よりも更に大きな音が拓斗たちのすぐ側から聞こえてくる。

顔を上げ、視線を音の原因の方へと向ける。

するとそこにはギアが持つそれよりももう一回りほど巨大な対物ライフルを持ったメアリアが立ち撃ちで狙撃練習をしていた。

「わぁ! 流石なのですお姉ちゃんさん!」

「心の目で撃つの」

どやぁと満足気に頷く姉のメアリアは、妹のキャリアにせがまれるままポイッと玩具でも投げるかのようにライフルを放り渡す。

同じく軽々と受け取った妹は、ウキウキと言った様子で枯れ木でも扱うかのように姉と同じく立ち撃ちの構えを取る。

拓斗の記憶が確かなら重量にして20Kgは下らない一品だ。無論本来の用途はこのようなものでは断じてない。

重量も威力も規格外な為、観測や運搬なども含めてチームで運用するものだ。

もちろん射撃の際も地面に接する形でしっかりと固定し、伏せる形で狙撃する。

そうしなければ発射の反動でたちまち吹っ飛ばされてしまう。

無論、的に当てるなど論外だ。

「こうですか……? えいっ! 当たったのです!」

鼓膜を揺らす音と共に、眼下のはるか向こうにある的のカカシが粉々にはじけ飛ぶ。

無機物でありながら粉々に散り飛ぶ姿はいっそ哀れだ。

完全に心臓を捉えた見事なショットだった。アレを喰らっては生半可な生命体では死の認識すら許さぬだろう。

その後もキャイキャイと少女らしい姦しさでカカシを破壊していく双子の姉妹。

どのように表現すべきか。ただ規格外という言葉だけが頭に浮かぶ。

もちろん手放しでは喜べないのがこの哀れなダークエルフだ。

どこか非現実的な能力をまざまざと見せつけられたギアは、プライドが粉々に崩れていく音を感じながらガックリと肩を落とす。

ダークエルフ氏族に名高き戦士でありその名を恐れられたギアは、この日二人の女の子に敗北してしまったのだ。

「しょ、精進します……」

注意してようやく聞こえるほどのか細い声。

彼は完全に意気消沈してしまっていた。

「あ、あの二人は特別だから……」

先程の言葉から方針転換し、思わず慰めの言葉など投げかけてしまう拓斗。

確かに拓斗も同じ状況に陥ったら落ち込むだろうなと同情してしまう。

とはいえ、双子の姉妹がここまで異常な才能を見せるのは理由があった。

二人がイスラの力を継承した魔女であり勇者であるからだ。

月の魔力に狂っておらずともその潜在能力と才能は莫大の一言で、むしろギアは彼女たちに対して健闘しているとも言えた。

すでに拓斗から姉妹の状態を聞いているモルタール老はむろんそのことを知っていたが、ギアを慰めるようなことはせずにカカカと笑うばかりだ。

余計な言葉はダークエルフ戦士としての誇りを傷つける行為であったし、何よりコイツなら放っておいても大丈夫だろうという嫌な信頼があったからだ。

拓斗も一応声はかけたし、まぁ本人がなんとかするだろうとそれ以上何かを言うつもりはない。

男が男に対して雑な扱いをするのは、どこの世界でも一緒だった。

………

……

「しかし王よ、一つ気になる点が……」

「ん?」

「これら弾薬……ですかな? 訓練のため潤沢に使わせて頂いておりますが、かなり費用としてかさむのでは?」

というわけで、ギアという哀れな男は放置され話は進む。

モルタール老の懸念は銃器の習熟訓練に必要とされる弾薬に関してだった。

それら全ては拓斗の緊急生産によって生み出されている。

いくらブレイブクエスタスの金貨を用いたチートじみた魔力供給があるとは言え、終わりはもちろんある。

この場で無駄に弾薬を消費することで、将来あるであろう有事の際に補給が途絶えてしまうことを危惧しているのだ。

だがその問題も拓斗はすでに解決済みだった。

「ああ、大丈夫。薬莢と銃弾はできる限り見つけて回収してくれているよね?」

「無論、訓練が終わった後に戦士団全員で回収しております。のぉギア?」

「はっ! 王が手ずから生み出された弾薬。一発とも無駄にはしておりません!」

「じゃあ大丈夫だよ」

ガックリ肩を落としていたギアがここぞとばかりに立ち上がり報告を行う。

少しでも失点を取り戻そうとしているのか、勢いがすさまじい。

その態度に苦笑いしながら、拓斗は満足気に頷いた。

「弾丸や薬莢も金属として良いレートで交換できるから。実際ほぼ無料なんだよね」

鉛、真鍮、軟鋼。

いくつかの種類に分けられる弾丸と薬莢の素材はそれだけで金属としての価値がある。

そして金属としての価値があるのなら、もちろん《市場》で"魔力"に換金できる。

少々特殊な素材故にまとめて"鉱物"という扱いだったが、そこは大して問題無い。

トントンとまでは行かないまでもほぼコストゼロレベルまで弾薬の費用を回収できるという事実は、実際確認した拓斗をしてもあまりにもチート過ぎて引く程であった。

銃が金食い虫なのはその本体もさることながらその銃弾にこそある。

訓練を行って戦闘に耐えうるレベルまで技能を上げるには当然何度も実射での訓練が必要となり、その為にはそれだけ弾薬が必要となってくる。

本来であればここで膨大な費用がかさみ、軍の維持がままならなくなる。

だがこの世界における凶悪なコンボは、それを可能にするだけの力をマイノグーラに与えていた。

「爆薬やグレネードだけは少しコストがかかるからおいそれと使えないけどね」

「しかし現在訓練中の狙撃銃や突撃銃だけでも戦場は大きく姿を変えることは確実。これこそまさしく神の軍勢とも言えましょうぞ。王の采配によって我々はより強大な力を手に入れる事が出来ましたな」

機嫌良く眼下を眺めるモルタール老。

彼ほどの知恵者であれば現代兵器が持つ凶悪な殺傷能力が戦場でどのように猛威を振るうのか容易に理解出来るのだろう。

拓斗としてもその意見は同じだ。

だがイスラがいてなお後塵を拝した苦々しい記憶が、拓斗に気を抜くなと警告してくる。 この世界には様々な超常の存在がいる。

いくら重火器が強力であるとはいえ、ブレイブクエスタスの四天王や魔王のような存在が現れては一方的に殲滅できるとは到底言えないだろう。

まだまだ気は抜けない。これで安心しては決していけない。

それにいくら現代兵器が強力であったとしても根本的な問題があった。

「銃器がもたらす戦力はこの世界で猛威を振るう。これなら他国も迂闊に手を出すような愚は犯さないだろうね。けど……」

「圧倒的な人員不足……ですな」

明らかに人数が足りなかった。

ギア隷下の戦士団がおよそ数十名。

病気や栄養失調から回復し、戦士団への入団を希望した者を合わせても100に届くかどうかという数だ。

四桁どころか、三桁すら怪しい現状の人数では明らかに軍として必要な最低限の数を満たしていなかった。

「ニンゲンモドキに銃器持たせたら暴発させちゃったからね」

「あれでは流石に同士討ちが発生しますからなぁ」

この解決策として、マイノグーラ固有の国民であるニンゲンモドキに銃器を装備させる案も当初は浮上した。

これが可能であれば繁殖力に優れるニンゲンモドキの利点を生かして素早く軍を整える事が出来るからだ。

『Eternal Nations』では武器などは装備アイテムとして扱われる。

弓などの原始的な遠距離武器ならニンゲンモドキで構成された軍でも問題無く運用できていため欲が出たのだが、流石にそこまで甘くはなかったらしい。

ニンゲンモドキは知的作業が不得意という性質と設定を持っている。

その為『Eternal Nations』では剣や弓などの原始的な構造の武器は装備できたものの、弩弓や攻城兵器のような複雑な兵器は扱えなかった。

このような背景があるため、ニンゲンモドキ銃器を扱えないのは無理からぬことではあった。

となると足りない人員は他から持ってこなければいけない。

最低限人種として基本的な知的レベルを有しており、なおかつマイノグーラに忠誠を誓う者たちを、だ。

そしてそのあても拓斗には存在していた。

「まぁ解決策はあるんだけどね。そろそろ君たちとの約束も果たさないといけないし」

「おおっ! もしや!」

期待していただろう言葉をようやく告げられたモルタール老は明らかに喜色の表情を浮かべる。

背後で話を聞いてたギアも同じだ。

迫害され、未だ流浪の境遇にあるダークエルフたちの同胞を迎え入れる。

ゴタゴタがあって延期となっていたが、元々はその予定だった。

フォーンカヴンとの交流の中で彼らの本国にいくらかダークエルフの難民たちが居ることはすでに把握している。

その者たちを呼び寄せればいいのだ。

数としてはそこまでだが、猫の手でも借りたい状況では必ずやマイノグーラの力となってくれるだろう。

その後の案もいくつか考えている。

ドラゴンタンの街周辺で調査を行っている足長蟲からの情報で、少々難しいが一挙に人手不足を解消出来る方法を拓斗は思いついていた。

後はフォーンカヴンとの交渉だ。

相手側の出方が不明だが、互いに脅威を認識した現状ではそう面倒な事にはならないと考えている。

将来どうなるとはいえ、今はまだ同盟国なのだから。

「――王よ! ご報告があります!」

拓斗が脳内で作戦を展開し未来の流れに思いを馳せていると、管理棟へ一人のダークエルフが急いだ様子で昇ってくる。

何やら報告があるらしく、少しばかり呼吸を乱しながら片膝をつく彼に拓斗は静かに言葉を促す。

「なにかな?」

「ドラゴンタンより使者が参りました。フォーンカヴンの杖持ちペペ様から王への親書を携えてきたとのことです!」

「うん、ちょうどいいタイミングだね」

その言葉に拓斗はパンと手を叩き頷く。

と同時にまた一つ戦略が頭に浮かび、思わず笑みをこぼす。

誰も思いつかない、だが効果的で致命的な作戦だ。

「アトゥを呼び戻すよ。主要なメンバーを集めて、すぐに会議をしよう」

相談することは様々ある。マイノグーラの方針が変わったとはいえ、ダークエルフ達の意見を尊重する事は相変わらず重要だ。

さてフォーンカヴンはどのような話を持ってきたのだろうか?

どこか機嫌良く管理棟を降りていく拓斗に、モルタール老とギアはここ数日めまぐるしく変わる状況と王が見せる采配に深い感激を抱きながら後に付き従うのであった。