軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十三話:戦力強化(1)

金と魔力に物を言わせる戦略をなんと表現すればよいのだろうか。

富豪プレイとも、チートプレイとも言えるそれは一瞬でマイノグーラの街並みを変化させる。

呪われた土地の効果で歪に歪んだ森の中に突如現れる奇怪なデザインの街並み、そして至る所に邪魔だと言わんばかりに積み上げられる金貨の山々。

それらを眺めながら、珍しい組み合わせの二人が街を歩いていた。

「しかしまぁ……こうも一気に建造物が増えますと、まるで別の街に来たような雰囲気さえありますなぁ」

「施設の選定関係なく、手当たり次第作ったからね」

一人はモルタール老。もう一人はイラ=タクト。

本日は作り上げた施設の稼働状態の確認や、配置する国民への細々とした指示を行っている最中であった。

施設を建築してから視察を行うのか? その疑問も当然皆の心にあったが、それ以上に有り余る魔力をふんだんに使用した建築速度の方が早かった。

なおいつもいるはずのアトゥは別件で街外周部の調査を行っている。

拓斗としてもついて行きたかったが、そもそも時間も人も足りていない状況でわがままは言えなかった。

=Eterpedia============

【練兵所】建築物

新規生産ユニットの経験値 +2

練兵所は国家の戦力を作り出すために必要な施設です。

新たなユニットを生産した際に経験値を得る効果があるので、より素早いアップグレードが可能になります。

―――――――――――――――――

【学習施設】建築物

国家の魔力生産 +5%

国家の犯罪率 -5%

学習施設は国民に学問を教える施設です。

国民の規範を伝えることによって、犯罪率を低下させる効果もあります。

―――――――――――――――――

【生きている葦】建築物

防衛力+10%

追加ダメージ+1

生きている葦はマイノグーラ特有の施設で、石壁の代替えです。

通常の能力に加え、都市防衛時、敵ユニットに+1のダメージを与える効果を持ちます。

―――――――――――――――――

《練兵所》《学習施設》《生きている葦》。これらが《市場》の他に新たに作られた施設だ。

現状作ることができる全ての建築物はすでに緊急生産によって建築が完了し、稼働が始まっている。

金貨がまだ潤沢にある現状でなぜここまでしか建築が進まないのか? それは一つの理由があった。

「これ以上は流石に新しい技術の研究が必要だからね。ここで一旦打ち止めだ」

有り余る金貨と交換で手に入る"魔力"を用いたチートプレイにも限界は存在している。

それが研究と技術であり、現状でマイノグーラが国家として有している技術を用いて建設できる建物ではこれが限界だった。

無論研究を一瞬で終わらせることができるような手段は現状では存在していない。

次の施設は何らかの技術を手に入れるまで厳しいと言えた。

「左様でございますか。住居などの建築が一段落しましたが故、そちらに割り振っていた人員を研究の方に回しております。食糧生産などの労働も王が生み出したニンゲンモドキに準じ任せておりますので今まで以上に研究の速度は上がるかと」

「うん、知識層は重要だからね。簡単な仕事はどんどんニンゲンモドキに任せちゃって」

他の建築物同様、建築途中だった住居や農地などもすでに完成済みだ。

これらの建築が進んだ事から、マイノグーラ固有の種族であるニンゲンモドキの生産も始まっている。

現在のところ農地を任せて食糧を生産させる程度の仕事しかないが、それでも知識層であるダークエルフ達の手が取られない事を考えると十分に働いてくれていると言えるだろう。

さらに《学習施設》で子供達への教育も行っている為、国家として持続可能な形がこれでようやくできあがったとも言えた。

「しかしながら、これほどまでに様々な建物を生み出してもまだ尽きぬ黄金……ですか。いらぬ考えを起こす者が現れなければ良いのですが」

街の中心部から伸びた道を歩きながら、モルタール老は呆れた様に金貨の山を見上げる。

経済という言葉を無視したかのように溢れるその量に辟易するのも当然ではあるが、万が一にもこの状況が漏れ伝わってしまったときの事を考えていたのだ。

エターナルネイションズの世界はもちろんのこと、この世界においても黄金とは非常に貴重で多くの者が求めてやまない資源だ。

こそ泥程度なら街に到達する前に呪われた土地の瘴気で衰弱死するのがオチだが、聖王国クオリア辺りがいらぬ気を起こしてはたまらない。

全て"魔力"に交換してしまえば良いかと思ったのだが、何らかの制限により現在の国家規模では多くの"魔力"が保持できないらしく、この様な奇異なる有様となっている。

破滅の王が鎮座する国にある、無限にも等しい黄金の山。

まるで安いおとぎ話か童話の様な設定ではあったが、実際に目にするとなれば気が気でない。

特にそれを守る側となれば……。

「だからこそ、戦力の拡充は喫緊の問題だ」

モルタール老は主の言葉にコクリと頷く。

拓斗が"魔力"を用いて用意したものは建築物だけではなかった。

マイノグーラと呼ばれる国家が誇る精鋭たちが、その有り余る"魔力"によって神経質とさえ言えるまでに生み出されていた。

=Eterpedia============

【首狩り蟲】戦闘ユニット

戦闘力:5 移動力2

《斥候》《邪悪》

対人間戦闘 + 20%

―――――――――――――――――

~~足は速く悪路を行き、目は良く遠くを見渡す。

そしてその鎌は首を狩る。

大きく育ったその蟲は、いまや無視できぬ脅威となった~

首狩り蟲はマイノグーラ固有の戦闘ユニットです。

斥候としての能力に加え、人種に対するボーナスを持ちます。

《先進狩猟》の解禁、及び経験を積んだ《足長蟲》からのアップグレードで生産可能です。

―――――――――――――――――

=Eterpedia============

【ブレインイーター】衛生兵ユニット

戦闘力:3 移動力:1

《衛生兵》《邪悪》

対人間戦闘 + 50%

対人間治療 + 50%

人間都市治安 + 50%

―――――――――――――――――

~~ 人間! 人間! 人間! ~~

ブレインイーターはマイノグーラにおける《衛生兵》の代替ユニットです。

基本的な能力として、同じスタックの味方ユニットを毎ターン回復させる能力を有しています。

また人間に対して強い執着を持つ彼らは、人間及び近縁種である亜人に対して強力なボーナスを持っています。

ただし人間種が存在しないマイノグーラで運用するためには特殊な戦略が必要と

なり、その運用難易度は高くなっています。

―――――――――――――――――

=Eterpedia============

【巨大ハエトリ草】戦闘ユニット

戦闘力:5 移動力:0

《人肉嗜食》《邪悪》

防衛ボーナス +25%

※このユニットは攻撃できない

―――――――――――――――――

~~昔、どんなに大きなハエも食べたいと願った欲張りな草がいた。

今はもっぱら人専門である~

巨大ハエトリ草は防衛専門の戦闘ユニットです。

都市から移動は出来ず自ら攻撃はできませんが、

都市の防衛能力に応じて通常よりも高いボーナスを得ることが出来ます。

また維持コストが非常に少ないという特性があります。

―――――――――――――――――

首狩り蟲 ×3ユニット

足長蟲 ×28ユニット

ブレインイーター ×15ユニット

巨大ハエトリ草 ×30ユニット

これらが現在マイノグーラの都市にひしめく防衛戦力である。

一般兵は相変わらず食糧の維持や元となる民が必要なことから生産していないが、その他の戦力は過剰ともいえる数であった。

少なくとも、都市に籠もって防衛に徹すればこの数を落とすのは容易ではないだろう。

「しかし、なんと言いますやら。人間を絶対滅ぼしてやるという強い意志が感じられますな……」

「人種に特効ある方がなにかと便利だから……」

懐にあった確認用の資料を再度取り出し見ながら、モルタール老はその凶悪な能力に青ざめた。

もっとも、これはマイノグーラとしての設定故の偏りなので仕方ない部分はあったが……。

ともあれ、現状判明している仮想敵国は聖王国クオリアとエルフ国家エル=ナー精霊契約連合である。

それらが相手ならば、まさしくうってつけの能力とも言えた。

だがそれだけでは終わらない。

ブレイブクエスタス魔王軍の様な未知の勢力が出現する可能性が十分考えられるからだ。

「けど、まだまだ足りない。君たちにだって重要な仕事がある。戦力に関してならむしろこっちが大切さ」

「これですかな?」

その言葉ににやりと笑みを浮かべたモルタール老は、懐から一冊の本を取り出して拓斗に見せる。

表紙の無い、紙の束を紐でくくった手作り感が溢れる粗雑な本だ。

だが二人はその本の中にある情報がその見た目とは比べものにならないほどの価値を有していることを理解していた。

「神の国とは本当に素晴らしい。戦争とは……人を殺すこととは、ここまで効率化できるものなのですな」

それは拓斗が緊急生産によって生み出した"戦争教本"だった。

古今東西、生前の国にあった様々な書籍から戦いに必要な要素を抽出してまとめた初心者向けの教科書。

どれだけ無学でも本の内容を最後まで学べば立派に戦争を行えるという、世界の罪が詰まった一冊である。

モルタール老に渡したものは、拓斗とアトゥがわざわざ夜なべして数多くの書籍から必要な情報を書き写したものである。

滅多にしないことに知恵熱まで出したのだが、肌身離さず持ち歩くモルタール老の様子からそのかいは間違いなくあったようだった。

「しかし王よ、これらの恐ろしいとも表現出来る先進的な考えの数々、神の国とは一体……」

「まぁ、変な場所だよ。住み心地が良いかどうかは、分からない」

「はぁ……左様でございますか」

モルタール老の言葉に拓斗はあえて濁して返す。

生前の世界についてある程度は教えられるが、そこまでだ。

拓斗としてもその世界を神の国と説明してしまっている以上あまり余計なことを教える訳にはいかなかった。

「それより、どう? 覚えられそう?」

「ある程度は、今は必死にギアやエムルと健闘している段階ですじゃ。ただ、まったく未知の技術故、一朝一夕とは行きませぬが……」

「その辺りは仕方ないよ」

未来の技術や考えは複雑で多岐にわたる。

ポンといきなり渡されてもすぐに使う事はできず、また魔法の概念や種族特性の概念があるこの世界では改めて要素を分解した上で再構築が必要だ。

とは言え、その情報は間違いなくマイノグーラを変えるであろう。

流してきた血と、積み上げてきた死体の数が違うのだ。

死者達の怨嗟の声が、仲間を寄越せと本を通じて語りかけてくる。

アトゥがおらずとも饒舌に言葉を交わす拓斗。モルタール老からの質問にあれこれ機嫌良く答える彼の心にはどのような感情が潜んでいるのか。

ドン、ドンと大地を揺らす音が聞こえる。

その音は二人が向かう練兵所に近づくにつれ、大きくなっていく。

神の国と呼ばれる世界が多くの年月と命を対価に手に入れてきた死の技術。

地獄の蓋は、新たなる犠牲者を求めて静かに開かんとしていた。