軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十八話:潜むモノ

森では数々の魔物がひしめき合い、マイノグーラの首都を破壊すべくその歩みを進めていた。

だがしかしその速度はお世辞にも早いと言えるものではなかった。

元々が組織だった行動に不得手な魔物で構成されているからだろうか、大呪界の複雑に隆起した地表も相まってその動きは緩慢で、おおよそ行軍とは言えない有様だ。

その中でもフレマイン配下の知恵ある魔族だけは己がなすべきことを正しく理解し、慣れないながらも必死に魔物たちの統率をとろうと奮戦していた。

「しかし、森を焼くなとはボスも難しい話をしやがる……」

燃えるような赤いローブに同じく燃えるような赤い髪をなびかせ、大剣を背負った火炎騎士と呼ばれる魔族がため息交じりに愚痴をこぼした。

その言葉を聞くのは同じ風貌の男だ。こちらは宝玉のはめ込まれた杖を持っており、火炎魔導士と呼ばれる魔法タイプの魔族だった。

二人の魔族は鬱蒼と生い茂る森に辟易としながら、遅々として進まぬ状況に愚痴を吐きつつ気を抜けばバラバラに動き回る魔物達へと指示を送っている。

「焼いてしまえばもっと簡単だったろうに、今までそうやって来たのに、どうしてこうして今回だけはこんな面倒な指示を出すんだ?」

「あんまり目立ちたくないんだとさ。まぁボスは裏でコソコソするのがお好きだからな。今回もそういう類の作戦なんだろうよ」

「お前それ、本人の前で言ったらぶっ殺されるぞ?」

「だから本人のいないところで言ってるんだろうが」

彼のボス――四天王の一人、炎魔人フレマインは狡猾で残忍な人物だ。

加えて気難しく癇癪持ちと来た。

有能であるが故に簡単に処罰されないとはいえむろん反感を買わぬよう気を使う必要があり、日々の心労はなかなかに辛いものがある。

故にこうやって息抜きがてらに愚痴を言い合うのが二人なりのストレス解消法だった。

もっともそのストレスの原因については、今回ばかりは主だけが原因というわけでもなかったようだが……。

「しかし燃やすなとは言われたが……不気味な森だな。オレたちの故郷でもここまで瘴気を放つ森はそうそうないぞ」

彼らは知らなかったが、すでに彼らの部隊はマイノグーラの影響下にある場所まで侵攻していた。

つまりあたりの景色は大呪界のそれから、マイノグーラの影響によってより凶悪に変貌した呪われた大地へと変わっているのである。

ねじれ切った木々に腐敗し異臭を放つ大地。原色の汁をこぼす草花にあたりに漂う濃密な瘴気。

魔族故に瘴気で体調を崩すことはなかったが、それでもこの光景だけは彼ら魔族の精神性を持ってしても異質なものとして受け取られたようだった。

「ああ、たしかにこの光景は異常だ。ボスの命令ではこの先に魔王様の障害となる敵がいるとのことだが……一体何者なんだろうな?」

「まぁ勇者ではないことは確かだろうな」

「ははっ、違いない!」

乾いた笑いが大呪界に響き、近くで警戒していた下級の魔物が何事かといった様子で二人の様子を窺う。

笑いの後に何故か奇妙な程の沈黙が訪れ、無言で二人の視線が交わる。

ブレイブクエスタスの魔王軍において、勇者の名を出すことはご法度である。

理由なく口に出すことでも厳罰は免れないのに、冗談でそれを言うとなると余程の無謀者か、はたまた何らかの意図があるかの二つしかない。

火炎騎士は、後者の意味で勇者の名前を出した。

自らの相棒がこれから行う危険な話をするに値する人物かどうかを、その冗談一言で見定めたのだ。

そしてどうやら、その試験に火炎魔導士は合格したらしい。

「ボスが魔王様を裏切ろうとしていることは知っているか?」

「おいおい、いきなりどうした? 冗談で言うにはちょっと刺激が強いぞ? それこそボスに知られたら冗談抜きでぶっ殺される」

「この作戦も、どうやら魔王様の許可を得ていない可能性がある」

「オイ、それって……」

火炎魔導士が抱いた驚愕は想像していた以上のものだった。

試すような物言いをしたからにはなにか重大な秘密を打ち明けられるのだろうとは予想していたが、魔王への裏切りとは予想以上だった。

彼が知る限り魔王軍の結束は盤石で、狡猾で残忍なフレマインといえどその忠誠に疑いはないはずだった。

まずいことを聞いた、というよりも、なぜそんなことに? という驚きが大きかった。

「いや、やめよう。俺もボスの雰囲気がいつもと違うからと勘ぐっているだけかもしれん」

「焦らすなよ! ここまで言ったら一蓮托生だ。それに二人だとなにか気付けることがあるかもしれない。俺たちが今後どうなるかも含め、相談できる人物はいたほうが良いだろう?」

興奮のあまり思わず大声を出しかけ、慌てて声量を落として相棒を説得する。

その言葉に重大な秘密を告白した火炎騎士も納得したのか、硬い表情で頷きながら自らが確信に至った経緯を話し始める。

「俺達がこの世界に来た時の事を覚えているか? おそらく気がつけば皆と一緒に同じ場所にいたと思うんだが……」

「ああ、間違いないな。俺もそうだ。後から召喚した魔物とは違って、俺達の様なそれなりに地位のある魔族や魔物は最初から皆と一緒にいたと記憶している」

「だが魔王様やボスは違うらしい。どうやらこの世界に来る前に何かがあったらしい」

「四天王とかの幹部級だけが知っているってことか?」

「いや、わからん。ボスは『おそらく選ばれたんじゃねぇか?』とは言っていたが……とにかく、それがボスにとって大きな決心をさせる出来事だったというのは確からしい」

火炎騎士がフレマインから聞き取れた話は断片的であった。

だがいくつかの情報をつなぎ合わせる限り、何らかの出来事があったのは確かだった。

狡猾で決して自らの内心を打ち明けないフレマインが思わず部下に漏らしてしまうほどの衝撃的な出来事。

普段から不評を買わないようにとその顔色を近くで伺っていた火炎騎士だからこそ、その細かな違いに気がつくことができたのだ。

だがそれもあくまで憶測でしかない。

本人から裏切りの言葉を聞いたわけではないのだ。

加えて、フレマインや魔王が遭遇した出来事というのが、どうしても受け入れがたくどこか非現実的なものだった。

「なんだ、やけに歯切れが悪いな! いい加減教えろよ、この状況であんまり気を抜くのもまずいんだぞ。その場所で、何があった?」

焦れたように火炎魔導士が声を荒げる。

その言葉で我にかえった火炎騎士は、自らの意を決するかのように頷く。

結局、自分一人考えているだけでは埒が明かないのだ。

故に全てを洗いざらいさらけ出し、相棒の意見も聞いてみようと考えた。

「ああ、そうだな。実はボスや魔王様たちはこの世界に来る前、ある存在にあったらしいんだ……それで、その存在は自分のことを――」

ゴクリと息を呑む。

打ち明けられた火炎魔導士とて魔王軍の中ではそれなりの地位に位置している。そんな自分が知らないどころか、魔王たちが隠すように沈黙を貫いているところを見ると、その場所で起こった出来事には重大な意味が込められているに違いない。

自分たちのこれからについて感じる不安と、一体自分たちに何が起こっているのか? という好奇心。

二つの感情を持て余し気味にしながら、食いつくように火炎騎士の言葉を待つ。

だが隠された真実のヴェールが取り払われる前に、事態が動くほうが早かった。

「待て、先遣隊が戻ってきた。何かあったらしい」

「くそっ、いいところで……まぁいい。なにか情報を得ることができたか? 敵はどの様な存在なのだ? 都市があるとのことだが、発見はできたか?」

ガサガサと枝が揺れ、先遣隊として遣わせていたオークせんしの見慣れた体躯が明らかになってくる。

ゆったりとした危機感を微塵も感じさせないその動きに、会話ができるとはいえ所詮知能の低い魔物かとため息を吐きそうになった火炎魔導士だったが、視界に入った光景に目を見開いた。

「おい、貴様! 何があった!?」

驚愕に思わず声を荒げる。

目の前にあらわれたのは確かにオークせんしだった。

決して運動能力が高いわけではないがそれなりに意思の疎通ができることと、戦闘能力がある程度あることから偵察に向かわせていたが、帰還したその魔物の有様はひと目見て異常と分かる程に奇怪だった。

「オデ? ナニ?」

普段のオークせんしからは決して想像できないような、喉を無理やり絞り潰して出したようなしわがれた声が吐き出される。

オーク戦士は大柄の成人男性にそのまま人と豚の中間のような顔面を乗せた亜人の魔物だ。

だが今の彼の顔面は、その眼球があったところに巨大な肉の突起物が突出しており、まるで中で芋虫が脈動しているかのように赤、緑、黄色のけばけばしい警告色が蠢いている。

何らかの攻撃によって怪我を負っているわけではない。

未知の病気に罹患したという点も薄い。

明らかになにかに寄生されている。

その事実に気づいた二人の魔族は、慌てて自らの武器を取り出し、辺りへの警戒を強めた。

「ドコ? オデ、目、見エナイ……」

「それ以上近づくな! 全員待機しろ!」

火炎騎士が叫び、周りの魔物が混乱をきたして騒ぎ始める。

知能の低い魔物故に統率が取れない。火炎魔導士がサポートするかのように指示を繰り返すが、より混乱に拍車をかけるだけだ。

二人の魔族とて所詮は戦闘要員である。この場で冷静に判断を下して部隊の混乱を治めるにはいささか経験が足りていなかった。

結果、警戒のあまり様子見に徹し、寄生されたと思わしきオークせんしが近くの魔物へとフラフラ近づくことを許してしまった。

「オデ、オデ、オデ、オデデデデデ」

「グッ!? グァァァァツ!!」

「「なっ!!」」

バリと、皮が張り裂けるような音が鳴り、突起物の中から巨大なアリに似た蟲が飛び出してきた。

巨大なアギトを持つその昆虫は、驚き尻もちをつく魔物へと飛びかかると正確無比にその首元へ噛みつき首ごと噛みちぎってしまう。

断末魔とともに小気味良い金属音を鳴らしてゴールドがその場に散らばった。

聞き慣れた金貨の音色と、木々の間から差し込む光を反射してキラキラ光るその様にようやく我にかえった魔族の二人は、慌てて大声を上げる。

「敵襲! 敵襲だ! 備えろ!」

バラバラと上空から同じ蟲が降り落ちてくる。

森の奥からは先遣隊の残りがゆらゆらと歩いてきている。

飛びかからんとする蟲を切り裂いた火炎騎士は、下級の魔物たちがあっけなく噛み殺される様を視界の端に収めながら苛立ちを込めて叫ぶ。

「くそっ! 場所がまずいぞ! 森を燃やさなかったのが仇になった!」

いくら叫んでも彼我の戦力差はいかんともし難かった。

彼らが連れてきた魔物も決して弱いわけではない。

寧ろ単体の戦闘能力で見れば精強の一言だろう。

だが場所とタイミングが悪かった。最悪に等しかった。

部隊が混乱をきたしている状況で、視界の悪い戦闘場所。

瘴気のせいで一部の魔物は能力が低下している。

加えて相手は小型で捉えるのが難しい。

得意の炎も自らの主によって禁止されている。

全ての状況が、彼らにとって不利に働いていた。

「どうする相棒? 状況は悪い。このままではジリ貧だぞ」

「一旦引く。俺たちでは手に負えん。ボスに報告だ」

「魔物を足止めに使おう。どうせ無限に湧いてくる――ちっ、とはいえボスには小言を言われそうだ」

「しかたないさ。こんなところで死にたくはないからな」

自らの主に似たのか、冷静かつ冷酷な判断を瞬時に下した二人は早速魔物たちに殿を務めるよう指示を出すと飛びかかってくる蟲を切り裂きながら踵を返す。

大呪界は悪路ではあるが逃走に特化するのならそれなりの移動速度を出せる。

魔物たちが殿を務める以上、未知の脅威が迫っているとはいえ特に問題なく逃げおおせることはできるだろう。

加えて自分たちは魔王軍の中でも精鋭に部類される者だ。

そこらの凡百とは比べ物にならない力を有しているし、事実勇者達一行とも何度か刃を交わした記憶がある。敵がどの様な存在であれそうそう遅れは取らないだろう。

そんな自負が二人には存在していた。

そんな奢りがあったからこそ、本当の脅威に気づくことができなかった。

「――あらあら、なんということでしょう」

異質を体現した大呪界に突如響き渡るその声音は、貞淑な深窓の淑女を思わせる品のあるものだった。

「何者だっ!?」

ここに来て初めて知性ある敵性体からの接触。

何より辺りに立ち込める不気味なまでの圧力が二人の魔族の内で最大限の警鐘を鳴らす。

「皆様は栄光ある魔王軍なのですよね? いわゆる世界の平和を脅かす、光に対なす闇の存在」

「何者かと聞いている!?」

火炎魔導士が思わず狙いを定めず火の魔法を放った。

完全な命令違反ではあるが、この場に至ってはそうも言ってられない。

幸いなことに大呪界が放つ瘴気と湿度のせいか木々が燃えることはなかったが、そんなことを気にする余裕などすでに二人の魔族には存在しなかった。

「いけませんわねぇ。そんな体たらくでは」

ズルズルと音が近く、大きくなってくる。

明らかに何かが近づいてくる。

一旦敵と遭遇すると決して逃げることができないという制約が魔族には存在している。

加えて相手がどこから来ているかが分からない。

鬱蒼と生い茂る呪われた木々が、彼らの方向感覚を知らずのうちに歪めていたのだ。

「もっと闇の者らしく、美しく、残酷で、絶対的でなくては……」

そしてついに遭遇の時は訪れる。

ズルリと……木々の合間から巨大な蟲が降り立ってくる。

質量を感じさせるズシンという音とともに二人の間に立ちはだかったそれは、今まで二人が見たどの様な魔物よりも不気味で、異次元の恐怖を湧き起こすものだった。

巨大な昆虫の体躯に、張り出た乳房。

虹色に輝く羽に鋭く尖った鎌の様な腕。

ギチギチ耳障りに鳴らされる警告音と、歌姫が奏でる名曲のように心地よく耳へと流れる声。

それら全てが、巨大な圧と恐怖となり二人の目の前に出現する。

全ての蟲の女王イスラ。

気がつけば、フレマイン配下の魔物たちは女王のテリトリーの奥深くへと入り込んでいたのだ。

=Eterpedia============

【火炎騎士or火炎魔導士】

HP:350

MP:100

こうげきりょく:25

ぼうぎょりょく:20

まりょく:13

すばやさ:18

フレマインはいかのまぞく。

ほのおの武器や魔法をつかって、勇者におそいかかるぞ!

=Message=============

〈!〉エラー番号008(データ値が異常です)

〈!〉データプロファイルがフォーマットから外れています

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