軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話:全ての蟲の女王

突発的な他国との遭遇。そして友好的な対話。

つまりフォーンカヴンの使節団との会合が終わった後、タクトらマイノグーラの重鎮は大わらわでその対応と今後の対策について検討を始めていた。

「流石に一気にここまで話が進むとは思いませんでしたね。嬉しい反面、いろいろと検討しなければならない材料が多く大変です。貴方にも骨を折って貰いますよモルタール老」

「もちろんですじゃ。それにしても、ふむ。交易品となる食料の選定や、その対価となる物資の確認。今後の交流も含めどのように互いの連絡手段を確保するか……いやはやその前に相手方へ送る防衛戦力の選定ですかのぅ」

「はい。話の内容を加味するとそこが喫緊の問題です。竜脈穴の確保は我らにとっても非常に重要。大地のマナを生み出すことは我々にとって重要な意味を持ちます。食料の生産から資源産出量の増産。ぶっちゃけあるとないとでは戦略に大きな差が出てくるのも事実です」

マイノグーラの知恵者であるモルタール老を交え、早速対応についての精査が行われている。

他にも戦士長のギアや、いまや秘書官から内政担当大臣となったエムルもこの場に呼び出されて忌憚なき意見を交わしていた。

実際のところ、タクトとアトゥが交渉を行っていた為に余計な口出しは一切しなかったが、彼らも会談の席には控えていた。

故に内容について改めて説明する必要はないのだが、とは言え今回の交渉と取り決めは急な締結である。

内容を相談する時間など取れるはずもなく、事後的にはなるが方針の詳細を決めているところだ。

「ふむ。フォーンカヴンの方がたも大層な失態を犯しましたのぅ。まさかあの様な稚拙な交渉を我々にしてくるとは」

「ええ、ええ。まさにそのとおりです。ペペさんはトヌカポリ殿が言われるとおり、ちょっと、いえ、かなりあれな方でしたね。まぁ憎めない方ではあるのですが」

憎めない。愚かであり、稚拙であり、あらゆる面で落第の印を押されそうな連中ではあったが、唯一自分たちに敵対しなかった点に置いては評価すべきであり、故に及第点であろうとアトゥは思っていた。

その感覚はモルタール老や他のダークエルフ達の見解とも一致し、故に彼らに対してはなんとも言えない微妙な反応となっている。

「しかし我らが王よ。決定に口を挟む訳ではございませんが、今回交渉に来たうちの一人、ペペ殿はかなり迂闊な御仁の様子。その様な者が指導者でなにか間違いが起きませんでしょうか?」

モルタール老は控えめにタクトへと問いを投げかける。

変に黙って懸念を押し止めるより、言いたいことは言えと普段から口うるさく指示している。

その為この場において先の発言を王への無礼と咎めるものは一人もいない。

だがギアやエムル、そしてアトゥまでもがタクトへと視線を向ける辺り、彼らの懸念は一致しているようであった。

「うーん」

(はたしてあれは、全部が全部本心からのものだったのかな?)

タクトは黙考する。

確かにペペはあれだ。彼らが危惧する通りかなりお馬鹿で、考えなしだ。

特に会談の最後に放たれた失言。

あれによってマイノグーラはかなり有利な状況で交渉を締結させる事ができた。

結果として戦力の抽出は必要なものの、当初予定していた竜脈穴も穏便に手に入れる事ができる。

翻ってフォーンカヴンだ。

彼らの状況を考えてみてもまた状況は最良と言ってよいだろう。

元々が蛮族の対応に苦慮していた様子であったし、ドラゴンタンに至っては予想通り手が回っていなかった様子。

ペペの失言によって協力軍の派兵まで決定したが、そうでなければ互いに軍事的な情報を交換する程度に留められていただろう。

つまり、友好的に出会いましたけど、とりあえずお互い時間が必要ですね。といった形で。

そうなった場合、フォーンカヴンにドラゴンタンの街を守る体力が残っているかどうか……。

(考えてみればあのタイミングでわざと大声を出すのは不自然。……うーん、けどなぁ。本当にお馬鹿なんだよなぁ、ペペくん)

ともあれ、彼と友人になったことはまぁ悪くはないとタクトは考えていた。

お互いの国の状況を考えればそう敵対する理由もないし、クオリアの聖騎士たちとは違って今回は穏便に話が進んでいる。

邪悪文明と中立文明となれば多少の軋轢はあれど、全く手を取れないという程の差でもない。

むしろ俯瞰的に見てみると望外の結果を手に入れられたと言っても過言ではなかった。

特にタクトはペペと友人になれたことに感動していた。

もともと病院が実家みたいな人物だ。友達などいるはずもなく、またそういった物も絵空事のように考えていた。

その友人が不意に手に入ったのだ。喜ばぬはずがない。

(蛮族は気になるけど、このままフォーンカヴンと仲良く過ごす事ができれば最高だよね)

もっとも、何もかもまだ始まったばかりである。

国家の交流に真の友好はありえないとは誰が言ったか。状況が変わればフォーンカヴンやペペとてマイノグーラと敵対する手段を取るだろう。

交流のある友好国と守るべき臣民。

二者択一となった時にどちらを取るのかなど聞くまでもない愚問だ。もちろんタクトにとっても同じ状況になった際にどちらを取るかなどわかりきっている。

ともあれ、現状は至って平穏なのだ。

そう平穏。

二国間に限定されるが、タクトが最も欲して願っているものが実現しているのだ。

注視はすれど嫌悪する理由などどこにもない。

つまり答えは……。

「タクト様? なにかお考えごとを?」

「うん、ペペくんに関しては保留。おそらく――大丈夫」

「御意に」

タクトが短く下した決断にその場にいた全員が深々と頭を下げる。

破滅の王であり、マイノグーラの指導者たるイラ=タクトが最終的に判断し、決断したのだ。

であれば彼の言葉はなにものにも増す至言であり、そこに否定の感情を挟む余地はおろか意味すら存在しない。

タクトは自らの配下達が持つ鋼の如き忠誠心の発露を目にしながら、満足げに頷いた。

徹底された上意下達こそが健全な組織を運営するために必要なことだ。

頭が考えたことを寸分違わず実行する手足。それこそが国家という巨大な怪物を動かすに最も必要なことである。

ゲームとは違って人の感情がある以上、認識の相違や指示の誤解など様々なヒューマンエラーを危惧していたタクトではあったが、今のマイノグーラは彼の手足として満足に足る成果をその身を持って示していた。

であればこそタクトは様々な戦略を存分に練ることができる。

まずは目の前の仕事を片付けよう。

蛮族の問題だ。

通常とは違う発生の方法。その一点が異質であり、脅威であった。

(敵が突然あらわれるだなんて、まるで――)

頭の中に滑稽な夢想が湧き上がる。

それが形になるまえに、タクトはわずかばかりに苦笑して思考の奥へと押しやった。

◇ ◇ ◇

その日、タクトは久方ぶりにそれと分かるほどの興奮を見せていた。

アトゥは自らの主が興奮している様子に興奮し、その様を眺めるダークエルフたちもさほど見慣れぬ主たちの姿にやや緊張の面持ちを見せている。

「ついに、ついに生まれるのですね! 新たなる英雄が! この日をどれだけ待ちわびたことか! あとどれだけ資源を節約したことか」

「正直かなりの資源だったけど、これで報われるね」

興奮するタクトとアトゥ。

儀式場にうず高く積み上げられた資源――人肉の木から採取された食料や、近隣の木々を間引いて伐採された木材。

奇跡的に見つけられた石材などが積み上げられている。

アトゥや脚長虫などの手伝いもあったためなんとか英雄生産まで漕ぎ着けることができたが、そこに至る労力は生半可なものではなかった。

自らの部族を救った王に報いるために昼夜を問わず自主的に作業に参加していた人々を思い出しながら、双子の少女、キャリアとメアリアは黒に塗りつぶされた王の側へ、とてとてと歩いてゆく。

「すごーい。おなかいっぱいになりそう」

白痴の少女、姉のメアリアが眠たげな目を少しばかり大きく広げながら驚いて見せる。

「王様。これから呼び出す英雄ってどういう者なのです?」

爛れた少女、妹のキャリアが珍しく姉以外に興味を見せソワソワと観察している。

「うん、それは見てのお楽しみかな」

「召喚する時が一番興奮しますよね! わくわく!」

双子の少女がタクトの言葉によって瞳をキラキラと輝かせる。

その横で同じく童女の如き無邪気さで瞳を輝かせていたアトゥに対して、タクトは二人だけが行えるテレパシーで言葉を語りかけた。

(……アトゥ。イスラについて、どうなると思う?)

(こちら側かどうかってことですよね)

相談する内容は一つ。つまりイスラがイラ=タクトをどの様に認識しているかである。

元人間であるタクトがゲームの設定のまま、この場所で新たな人生を歩んだ。

それが破滅の王たるイラ=タクトである。

アトゥはゲームプレイヤーとしてタクトと一緒に行動していたことを覚えているが、それがそのままイスラに当てはまるとは限らない。

よしんば当てはまったとしてもそれはそれで懸念が発生する。

全ての英雄に自由意志があるというのであれば、イラ=タクトを認めず反旗を翻すことも可能だからだ。

『Eternal Nations』は、それぞれの国家をプレイヤーの分身たる指導者が導くという設定だ。

この指導者は複数の中から選択する事ができ、時として英雄が指導者の役割を担ったり、指導者がユニットとして出現したりすることがある。

そしてイスラは指導者とユニットを兼任するタイプのキャラクター。

マイノグーラの指導者となった時は、研究をほぼ放棄して生産力とユニット作成に極振りして序盤立ち上げ時に敵国家を蹂躙するという「蟲ラッシュ」の戦法を使うことを得意としている、一部に人気のあるピーキーなキャラだ。

つまるところ、場合によってはイスラはマイノグーラを乗っ取る事ができるのだ。

事実『Eternal Nations』のシステムには指導者の変更や乗っ取りと言ったシステムも導入されている。

何らかの理由でイスラがタクトを認めず、マイノグーラに牙を向くことを二人は危険視していた。

(万が一なにか良からぬ動きをした時は私が手を下します。イスラの初期戦闘能力は8。今の私と同等ではありますが、聖剣技を有している分、私に利があります)

(大丈夫だと思うけど、その時は頼むよ)

ここが一つの正念場だ。

この世界にやってきた事がそもそも不可思議な現象なのだ。いくらゲームのシステムが適用されている部分があるとは言え、楽観視はできない。

――否、適応されているからこそ注視しなければならない部分もある。

タクトはあらゆる戦略に万が一を考慮する慎重さと、時としてリスクのある一手を選択する大胆さを併せ持っていた。

もっともそれを可能とさせる者――彼が全服の信頼を置くアトゥという少女がいるからではあるが。

(命に代えてもお守りいたします)

(再召喚コスト高いからそれは勘弁してね)

そして儀式は始まる。

この場にはマイノグーラの主要人物全てが参集している。

イスラが謀反する危険性があるのならば、タクトらで秘密裏に召喚するのが筋とも思われたが、それよりは有事の際にダークエルフたちを囮なり戦力なりにしてイスラを鎮圧させた方が利が高いと考えたための判断だ。

タクトの目的は自らの最も大切な存在――アトゥとともに平和に過ごすことである。

極論彼女さえいればよいのであって、他の存在がどうなろうと憐憫の情を抱くだろうが特に気は止めないであろう。

そんなタクトの内心などつゆ知らず、ダークエルフたちは目の前の光景に畏怖の心を抱いていた。

すでに足長虫を呼び出す際に何度か召喚の儀式は目撃している。

故に現象自体は知っていたが、今回の英雄召喚はその規模が違った。

「儀式が始まりました。皆さん打ち合わせ通り命令があるまでその場から動かぬように……」

アトゥの指示にダークエルフ達は無言で頷き、同時にゴクリと息を呑む。

見上げた空は鈍色に染まり、ぐるぐると雲がうずまき異様な暗さをもたらしていた。

地面からは不可思議な魔力が吹き出し、辺りを嘗め尽くすように広がっている。

積み上げられた資材の中心から、突如空間のねじれの様なものが発生し、どんどんと吸い込まれていく。

同時に中心からなにか赤黒い肉の質感を持つ卵の様な物体が生まれ、資材の吸収とともにその大きさを増している。

「こ、これは……」

重要な儀式ゆえに王の気持ちを散らせる様なことはすまいと口を閉じていたモルタール老であったが、あまりの光景に思わず声を漏らしてしまう。

それは彼のみならず他の物も同様で、戦士長のギアや双子の少女、その他付き従う者たちも沈黙を努めようとしながらも声を上げている。

恐れではない、単純な感動が彼らの胸中にあったのだ。

なんと素晴らしい光景か。

なんと偉大なる現象か。

自らの王が引き起こす奇跡の壮大さと、これから生まれてくるであろう英雄の強力さ、なにより王が行使する無限にも等しい力。

それらを目の当たりにし、自分たちが王の民として加わることの幸福さを噛み締めていたのだ。

またアトゥもその光景を見て感動していた。

タクトと協力してイスラが暴走した場合の対策は立てているが、正直なところその可能性を彼女はかなり低く見積もっている。

それは彼女の中にある主への崇拝心であり、自らがタクトをここまで敬愛するのだから、他の英雄も当然タクトに崇敬の念を抱いているだろうとの考えからくるものだ。

加えて彼女自身、なぜか不思議な確信めいたものを抱いており、心の奥底で「何も問題ない」という不思議な納得があった。

ギチギチギチ――

奇っ怪な音が異形の肉塊の中より響き渡る。異様なる生命の、異質なる鼓動だ。

やがて巨大に膨れ上がった肉塊は、ついに限界まで達したのか一筋の亀裂が入る。

ドロリと中身が溢れ、ドチャリと粘性の液体を伴った巨大な塊が現れる。

まるで繭から生まれ落ちる蛾の様相を見せるそれは、昆虫の羽を広げるとまるで全身の歓喜を表すかの様に奇っ怪な鳴き声を上げた。

顔貌は一見すると蟻。だがあらゆるものを砕くであろう鋭い顎と角を持っている。

体躯はやはり虫であったが、まるで人を混ぜたかのような分厚い構造をしており節足動物の様な華奢さは見られない。

胸部からは人の乳房の様なものを複数ぶら下げており、異質さからくる不快感を増している。

それぞれ伸びる手足も同じで、素早い歩行を主とする構造とは違い、太く、凶悪な爪が伸びており敵を切り裂くために用いることは明らかだ。

羽ばたかれた羽は虹色にきらめいており、濁った深緑の肌と相まって一種の幻想的な光景をもたらしていた。

そこらにある小屋と同じ位の巨体を持つその虫は、キョロキョロと辺りを見回す。

そうして首を傾げ、まるで自分の状況に思考が追いつかない無知者の様な少々滑稽な態度を見せると、タクトに視線が移った瞬間に大きくその頭を下げ臣下の礼をとった。

「アア、アアア。偉大なる我が主よ。此度はこの様な場所でお会いできるとは光栄のいたり。あらゆる蟲を統べたるこのイスラ。また御身にお仕えできること、心より喜ばしく、感動に打ち震えておりますわ」

昆虫の口より淫靡な妙齢の女性を思わせる声音が漏れた。

異形の存在から放たれるあまりにも人間じみた声に、思わずダークエルフたちがぎょっとする。

彼らの動揺にイスラがピクリと反応するが、それだけで特に何か行動を起こすつもりはないらしく相変わらず頭を下げてタクトの言葉を待っている。

ほんの少しの間、その様子を観察したタクトは満足げに何度も頷き一歩前へ出る。

アトゥが慌てて自らの主が行う無謀を止めようとするが、本人は意に介さない。

やがてイスラの目の前までタクトが到達し、その巨体を見上げる。

「久しぶり。僕のこと、覚えている?」

「……? あらあらまぁまぁ! なるほど! そういうことなのでございますね! ええ、ええ、存じておりますよイラ=タクト様。偉大なる破滅の王にして、全てを識る者。加えて『Eternal Nations』のトッププレイヤー――でよろしいのですわね?」

「うん!」

「この状況に少々困惑してしまいましたが、御身にこうしてまた創り出していただけるとは光栄の至り。さて、この私めの力、存分にお使いくださいませ」

大きく頷き、歓喜の嘶きをするイスラ。

昆虫の顔貌ゆえその表情を読み取ることはできなかったが、何故かタクトには彼女の複眼の奥に表現しようのない喜びが含まれているように見えた。

=Message=============

英雄 『全ての蟲の女王イスラ』が文明に参入しました

ワールドに存在する全昆虫ユニットの戦闘力が+2されます。

~参集せよ! 母なるイスラの目覚めぞ!

~讃歌せよ! 母なるイスラの目覚めぞ!

全ての蟲は母なる女王イスラの前に頭をたれ、新たなる時代の礎となるのだ!

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