軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話:遭遇

フォーンカヴンは独特の風習を持つ人間種を主とした他種族国家である。

その成立は定かではないが、イドラギィア南部大陸に散在する国家の中では二番目に広い国土を持つ。

文明レベルとしては北部大陸より一段階ほど劣り、ようやく鉄器などの生産が始まり初歩的な国家運営の仕組みが出来上がってきた程度だ。

主な特徴として古くから伝わる精霊を信仰しているが、エルフが信仰する元素霊とは違ってもっと土着のものだ。

動物や昆虫、木や植物、果ては岩や土地といったものの霊を信仰し、骨や皮で占いを行う。

文明レベルとしてはさほど高くは無いが、国全体に広まるどこか牧歌的な雰囲気が功を奏しているのか、多種族国家にも関わらず 軋轢(あつれき) などはなく緩やかな繁栄を 享受(きょうじゅ) していた。

その時までは。

「山男だっ! 山男が現れたぞ!」

フォーンカヴンの首都、クレセントムーンでは連日における亜人種の襲撃に多大なる損害を被っていた。

もともとが戦争とは無縁の暮らしをしてきた彼らだ。ある程度の戦力は保有しているものの精強とはほど遠い 練度(れんど) 。

武器も急ごしらえの粗末なものだ。

外壁も敵の侵攻をさほど考慮されていない土壁に、内部の都市は脆く脆弱な建築物群。

対する相手は文明に敵対的な亜人種、通称蛮族。

ゴブリンを筆頭にオークやコボルト、時に滅多に見ない危険な存在までが襲撃をかけ彼らの生存権を脅かそうとしている。

本日の襲撃は、その中でも一番に危険な存在――ヒルジャイアントだった。

「だれか! 杖持ちの司祭さまに伝えろ! 山男が現れた!」

「弓兵を出せ! 街に侵入させるな!」

身長にしていかほどか、住民の家を優に見下ろせるほどの巨人は彼らに山男と呼ばれる巨大な人形の怪物であった。

のっぺりとした気味の悪い肌。筋骨隆々の体躯。ぎょろりと充血した 双眸(そうぼう) に、口よりこぼれる鋭く尖った牙。

知能は限りなく低いが、補って余りあるほどの怪力。

手に持つ棍棒から繰り出される一撃は生半可な兵士では一瞬で肉塊と化してしまうだろう。

巨人種の上位種族であるサイクロプスほどではないが、それでも強力な亜人である。

通常ならば人里から離れた深い山岳地帯にのみ生息し、自分たちの縄張りから出てくるはずのない彼らがどうして都市に襲撃を行うのか?

疑問に答えるものは当然おらず、されど否応なしに対応は迫られる。

「くっ! 前回の襲撃で破壊された土壁の補修が間に合っていない! このままじゃ都市に入り込まれる!!」

鼻がきくことから早期警戒役として配備されていた獣人の男が苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。

すでに 物見櫓(ものみやぐら) などからは弓兵による必死の攻撃が行われているが、それでもこの巨人を止めるには足りない。

都市との距離は驚く程近い。

どこからともなく現れるそれは獣人族の探知能力を持ってしてもその襲撃を予測することが困難であり、故にこれ程まで苦戦を強いられている。

前回の襲撃からすでに一週間。

総勢三体のヒルジャイアントによって破壊された土壁は散発的に行われるゴブリンの襲撃への対処によって未だ修復が完了していない。

なんとか撃退しようと槍兵が果敢に突撃しているが、その体格差は如実に戦力差へと直結している。

戦闘能力に長けた種族であっても攻撃をいなすのがせいぜいで、到底その進撃を止めるには至らない。

ヒルジャイアントが目指すは修復が終わっていない土壁の隙間。そして向こうに見えるクレセントムーン市街地。

まるでその隙を狙っていたかのような攻撃に誰しもがヒルジャイアントの市街地侵入、そして発生する被害に絶望的な未来を脳裏に描いたその時だった。

「草腕の魔術です! これで、……どうだ!」

幼い少年の声が一際はっきりと辺りに聞こえ、次いでヒルジャイアントの足元に異変が生じた。

「グォォォ!」

「これは! 杖持ちの魔術! 援軍か!?」

ヒルジャイアントが何やらもがき始め、そしてその動きが止まる。

やがて何かに躓いたように地面に伏し、その体躯に無数の草が伸び集まるを見て獣人の男はその顔に喜びの色を浮かべた。

巨人の足下から伸びる草が、意思があるかのように絡みその動きをがっちりと止めていたからだ。

「もう安心したまえ勇敢なるフォーンカヴンの兵士諸君! 杖持ちたる僕が来たからにはもうなんか凄いぞ!!」

「おお! ペペ様!!」

崩れた土壁の隙間から姿を表し兵士たちの下へとやってきた少年は、スキップ混じりに駆けると魔術の草によって身動きできないヒルジャイアントへとよじ登った。

「ふっふっふ! 流石僕です! 僕は凄いのです! うおー!!」

幼い少年の声が高らかに戦場に満ちる。

着こなせていないのか裾が地面まで垂れるローブを羽織り、半ズボンからだらしなくシャツの裾を出すその少年こそ、彼らが待ち望んだ司祭だ。

フォーンカヴンにおいて祭祀を司り奇跡を行使する司祭。

その中でも最高位に達する杖持ち。

すなわちフォーンカヴンにおける絶対権力者であり、指導者である。

十二人存在している彼らは大地と獣の霊に愛され、その御業を使うことができる。

繰り出される強力な魔術、そして彼らだけに許された宗教的意味を持つ長杖の所持。

尊敬と信奉の念を込め、彼らは"杖持ち"と呼ばれているのだ。

ペペはその最年少。最も若く、最も将来が期待される少年だ。

此度の異変にもいの一番に駆けつけ、苦戦を強いられる兵士達を助け、見事ヒルジャイアントを撃破せしめた。

その頼もしい 鼓舞(こぶ) と勝ちどきに兵士達も否応なしに興奮を高められる。

気づけばヒルジャイアントの上で高らかに叫ぶペペを取り囲むように、熱狂的な声援を送っていた。

「「「司祭! 司祭!」」」

「わーーーっ! もっと大きな声で!」

だが残念な事に一つだけ問題があった。

この場にいた全員の兵士が忘れていたのだ。

他の杖持ちによってつけられた彼の二つ名が"お馬鹿"であることに……。

「グォォォォォ!!!」

「ぎゃああああす!!」

「「「司祭ぃぃぃぃぃ!!」」」

草腕の魔術によって動きを封じ込められていたヒルジャイアントが、その全力をもってして拘束を引きちぎった。

当然上に乗るペペは放り出される。

調子にのってトドメを刺さなかったツケが来た。

ギロリと巨大な双眸が地面で転がるペペをにらみ付け、その小さな身体を踏みつけようとした時。

本当の援軍がようやく到着した。

「――土沼の魔術」

「グ? グォォォ……」

タイミングは完璧。

術の発動は隼の如く。

ヒルジャイアントが足を振り上げた瞬間、軸足の下に突如出来た泥沼によって再度巨人は地面の冷たさを味わう事になる。

「――草腕の魔術」

加えて絡みつく草の拘束。

その隙を逃す程、後からやってきた杖持ちは愚かではなかった。

「何をぼさっとしてるんだい! 今のうちにやりな! 目を狙うんだよ!!」

「「「は、はいっ!!」」」

「ギィィィィアアアア!!!!」

断末魔一つ。

狙うように眼球にうち放たれた矢と槍は確かに巨大な怪物の脳を穿ち、その生命を停止に追いやる。

兵士達の視線が新たなる杖持ちへと向く。

シャキシャキと歩きながら、何処か不機嫌そうな表情。

日頃から厳しく苛烈であると評判のその人物。

現れたるは、牛の頭を持つ獣人の老婆であった。

牛頭の老婆は遠目からヒルジャイアントの様子を確認する。

やがて足の速い若い兵士に絶命を確認させると、ようやく此度の襲撃が終わったことを兵士達へ告げねぎらいの言葉をかけた。

もっとも、彼らとてこれで終わりというわけにはいかない。

負傷した兵士の治療や、放った矢の回収。ヒルジャイアントの死体処理などやるべきことが山積されている。

そして今回の戦いにおける最大の功労者でもある牛頭の老婆には、彼女にしか出来ない非常に重要な仕事が待っていた。

つまりはお馬鹿で考え無しな、杖持ちへの説教だ。

「ふぎゅっ!」

「なんて様だいペペ! 杖持ちが情けない!」

「んんっ!? あっ! トヌカポリお婆ちゃん!」

年季を感じさせる自然木の杖によって盛大に頭を小突かれたペペは、その 叱責(しっせき) を持ってようやく自分がヒルジャイアントに振り落とされて目を回していたことに気がついた。

開けた瞳に映りたるは同じ杖持ちで、小さい時から世話になっている師匠のトヌカポリ。

その態度からこれからキツイ小言を受ける事がありありと分かる。

だが彼はあっけらかんとした表情で――むしろ人好きのする笑みすら浮かべながら元気に返事をした。

「山男を草腕の魔術で絡め取ったまではいいさ。でもなんだいあれは! 暢気(のんき) に勝ちどきなんて上げてからに! 巨人種は《怪力》を持ってるから手早く急所を狙って殺せっていつも言ってるだろう!」

「うーーん……? はっ! そ、そうだった!! 僕としたことが忘れてた!」

「あいたっ!」

「このお馬鹿! 死んだら元も子もないんだよ! なんでそんな大事なことを忘れるんだい!?」

叱責二回目。今度は大きなたんこぶが出来ている。

何度言っても一向に理解しないこの少年に、毎度のことでありながらトヌカポリも苛立ちを募らせる。

孫ほどの年齢で赤子の時からの好だ。無論愛情はあるのだが、それよりも呆れの方がいっそう強い。

ペペは誰しもが認めるお馬鹿なのだ。フォーンカヴンでそれを認めていないのはペペ本人だけなのだが、それだけにこの厄介な少年が毎度引き起こす問題はトヌカポリにとって悩みの種だった。

「うう、だってお婆ちゃん……」

「そのお婆ちゃんってのも止めな! あんたも杖持ちの司祭になったんだ! いつまでもそんなんじゃ情けないったらありゃしない!」

「えー……。でもぉ……」

「それに――あたしゃまだ二百四十歳のピチピチだよっ!!」

それだけ生きてたら大お婆ちゃんだよ。

本日三度目の小突きを受けることになったペペの、直前の言葉である。

◇ ◇ ◇

ヒルジャイアントの襲撃も終わり、トヌカポリとペペはことのあらましを残りの杖持ちへと報告に来ていた。

街の中央にある 藁葺(わらぶ) きの建物。

住居や施設というよりは古い儀式場といった方が良い場所。

ろうそくの明かりだけが静かに灯るその場所で、幾人かの古老たちがトヌカポリとペペの奮戦をねぎらった。

「ご苦労だったぁ。あ~、トヌカポリ、ペペ。すまんのぅ。わしらがもう少し若かったらぁ……」

「いいんですよ! 長老の皆さんはもう長くないんですから無理しないで! 肩もみましょうか?」

作法なし、そして声が煩い。失礼極まりなく加えて肩もみも下手くそ。

お馬鹿なペペの本領が早速発揮された。

国中の民が敬い尊敬する杖持ちである。同じ位とはいえこうもズケズケとやりたい放題な彼に古老たちもほとほとあきれ顔だ。

「相変わらずいろんな意味で酷いのこの子ぉ……。おぉいトヌカポリ。おぉぬしの教育、どうなっておるぅ?」

「はん! あたしだって困ってんだよこのお馬鹿には!」

「しかしだぁ。わしらが見込んだ後継だろぅてぇ。この子以外に、杖持ちになれる素質の者はおらんかったんだよぅ……」

杖持ちはフォーンカヴンにおいて特別な意味を持つ。

彼らが信仰する神々である自然霊の言葉を聞けることが出来る人材というのは、実のところ非常に貴重だ。

古老たちが老齢にもかかわらず杖持ちを引退していないのも長らく後継が現れていなかったことの証明である。

故にその才能から希代の天才と謳われたペペが現れたことは彼らにとって望外の喜びだったのだ。

もっとも、行き過ぎた天才は一周ほど回ってお馬鹿になってしまったようだったが……。

「ふん! とことん運がないねうちの国は!!」

「同感さなぁ……」

「うふふ、皆冗談がお上手ですね!」

「本気で言ってるんだよペペ!」

ご覧の通りである。

才能はあるのだが、致命的に考え無しなところが彼らの悩みの種だった。

もっともフォーンカヴンが立たされている状況はその様な細事にかまけている程楽観的なものではない。

事実今回の襲撃においては一歩間違えれば犠牲者すら出ていたのだ。

だからこそだろう。ペペについての話題もすぐに終わり本題へとはいる。

杖持ちたる古老は、既に白濁し半分も見えていないであろう目をカッと見開きトヌカポリに告げた。

「ドラゴンタンの街に行ってもらうぅ」

「おや? 遂に重い腰を上げるんだね。何度も援軍の 陳情(ちんじょう) が来ていたのを放ったらかしていたから、てっきり見殺しにするかと思ったよ」

「言うなぁトヌカポリ。わしらもぎりぎりのところなんじゃぁ……」

ドラゴンタンの街。

それこそがマイノグーラが存在する大呪界にもっとも近い場所に作られた街だった。

かねてより防衛力不足を危惧していたが、されど杖持ち達は他の街への防衛で手一杯。

蛮族の襲撃が比較的弱いことを幸いにとなんとか持ちこたえるよう伝えていたが、いよいよ持って危機的状況になってきたらしい。

「ふん! 欲を出して竜脈穴なんて囲おうとするからさ!」

トヌカポリが吐き捨てるが、彼女とて竜脈穴の重要さは理解している。

彼らが現在研究している《戦術魔法》。その技術が完成した暁には、国家を肥沃化させる強力な《大地のマナ》を竜脈穴より精製することが可能になると予想されていたのだ。

故に多少の遠方なれど強引に都市を建設した。

だが今はその判断が彼らの仲間を窮地に立たせている。

「ここはどうするのさ? 他の街から援軍を呼ぼうにも、どこもいっぱいいっぱいさね」

「なんとかわしらで踏ん張るさなぁ。こう見えても、杖持ちなんだぞぅ」

「なんだかそのまま戦場で死にそうな台詞ですね! ――あいたぁっ!!」

ポカリと一発。

古老はこうやって何度も小突くからペペが馬鹿になるのではないか? と思いつつも、より重要な問題へと思考を向ける。

次の一手は既に考えてある。だがそれを伝えるのは彼らにとっても苦々しいものだ。

「ついでにだがぁ、頼み事があるんじゃぁ……」

「……なんだい、さっさと言いなよ気持ち悪い」

嫌に言葉を濁す古老にトヌカポリも眉を顰めた。

彼女が快活な性格で、ハッキリとした物言いを好むことを知っているにもかかわらずこの言い草。

何かとんでもない面倒ごとを押しつけられるのを覚悟し、彼女は耳を傾ける。

「占術によって大呪界に災厄ありと出たぁ。ペペと一緒に、調べてきてくれぇ」

その言葉が何を意味するかを理解し、トヌカポリは目をつむって大きく息を吸いこむとゆっくりと吐き出した。

トヌカポリとペペは、今のフォーンカヴンにおいて一位と二位の実力を有する。

つまりフォーンカヴンという国は、ここで大きな賭に出ることにしたのだ。

「場合によっちゃあ蛮族襲撃の元凶を一網打尽って訳か。なんだい、案外こっちも命がけじゃないかい」

「すまんのぅ。損な役回りをさせるぅ」

「まぁ最悪な事になるって決まった訳じゃないさ! せいぜい獣と大地の神々がお守りくださるよう祈ってるさね!」

旅路は良かれど、その終点は過酷なものとなるだろう。

何もペペまで巻き込むことはないじゃあないかとトヌカポリは珍しく弱音を吐きそうになったが、すんでのところで飲み込む。

彼女も、そしてペペも杖持ち。地位と権力には、当然のように責任が伴う。

その責任を行使すべき時が今というだけの話だ。

「壮健でなぁ。トヌカポリ」

「アンタこそ、くたばるんじゃないぞ!」

相変わらず威勢の良い声で減らず口を叩くトヌカポリ。

だが彼女とてくたばるつもりは毛頭ない。

むしろ完璧完全に責務を果たし、一生かけても返しきれぬ貸しを古老達に作ってやろうとさえ思っていた。

「じゃあさっそく用意するさね! 久しぶりのことで今から杖が奮い立つよ!」

「気をつけて行ってらっしゃいませ、トヌカポリお婆ちゃん!」

「さては話を聞いてなかったね! お前も一緒に行くんだよこのお馬鹿!!」

「あいたぁっ!」

………

……

そんな何処か愉快なやり取りが一週間ほど前のことであった。

そしてトヌカポリは先日の自分の判断を嫌というほど後悔している。

馬鹿な子ほど可愛いとは言う。

トヌカポリにとってのペペも、例外に漏れずそうだ。

危険な任務になるとは覚悟していたが、些か甘かった。

まさか死地になるとは予想もしていなかったのだ。

自らの力への過信もあったのだろう。

最悪多少の損害が随伴の兵達に出る程度だろうと何処か楽観的な考えを抱いていた。

牧歌的性質を持つフォーンカヴンの国民の、良くない面が今回の遠征において出ていたとも言える。

トヌカポリたちフォーンカヴンは、この日初めてマイノグーラと接触した。

「ダークエルフ? しかしこの気配はちょぉっと不味いねぇ……」

「あら? 貴方たちは……」

龍脈穴を囲うようにに作られた街ドラゴンタン。

その場所で少しの休憩を取り、大呪界へ向けて出発してさほどしない内にその遭遇は発生した。

相手は異様な雰囲気の少女。そして付き従うダークエルフの戦士団。

北部大陸の人々と違い、多種族国家のフォーンカヴンではダークエルフも差別に遭うような事はない。

だがそれは彼らが知るダークエルフの話だ……。

目の前の集団は、一目で分かる程に濃厚な闇の気配を纏っていた。

特に先頭に立つ少女。

それが一際異彩を放っている。

今まで見たヒルジャイアントなどまるで赤子だと言わんばかりに、トヌカポリの本能が警鐘を鳴らす。

チラリと少女たちの背後にそびえる大呪界を視界に入れ、牛頭の司祭は事態がすでに自分の手に余る事を理解した。

上手く隠しているようであったが、彼女ほどの達人であれば大呪界がすでに魔のもの達によって汚染され尽くしていることは火を見るより明らかだ。

語るも悍ましい濃密的な邪悪が、その森から彼らの元へとやってきたのだ。

「アンタ、人じゃないね……」

「……ご名答」

トヌカポリの問いに、少女が静かに答えた。

その言葉だけで底冷えのする恐怖に包まれる。愛らしい少女の声音にもかかわらず、ただただ恐ろしさしか含まれていない。

「トヌカポリ様! こ、この者たちは!?」

「アタシだって聞きたいよ! いいかい、手を出すんじゃないよ!」

トヌカポリが慌てたように兵士に指示を出す。

精鋭とばかりに獣人族ばかりを連れてきたのが不味かった。

初歩的な魔術も使えず自然霊との交信も覚束ない者たちだが、獣の本能で魔を察知し動揺を見せている。

全員が闇の気配に怯えており、警戒心と本能からすぐにでも暴走してしまいそうだ。

闇の者共は人を憎み、全ての生命を滅ぼそうとしていると聞く。

生きとし生けるものもまた、闇の存在に本能的な忌避感を覚えるのだ。

彼らが蛮族を扇動しているのかは不明。

その力量は未知数。だがトヌカポリの感が告げている。

戦うべきではないと。

戦って勝てる相手ではないと。今すぐ逃げるべきだと。

ゆっくりと、そして粘つくように流れる時間の中、トヌカポリは必死で対応を考える。

「ギア、私の命があるまで全員を待機させなさい」

「御意に」

……アトゥもまた、静かな声でギアに指示を出した。

基本的にアトゥはマイノグーラ以外の存在を信用していない。

加えて聖王国の調査隊を思い起こされる遭遇。

予想される展開は明らかだが、されど王である拓斗に命じられた任務は別。

街に行くにあたっていくらかの作戦は練っていた。だが不意な遭遇に関しては想定外であった。

なんとか緊張した雰囲気を解消したいが、相手――特に獣人の兵士たちの警戒が酷く下手な行動に出ると一触即発の雰囲気がある。

それだけは避けねばならぬ。

アトゥたちとて内に抱く緊張は同じであった。

緊張が緊張を呼び、望まぬ未来への恐れから互いの行動を拘束する。

言葉を発することすら、何かとてつもない過ちを誘発してしまうのではないかという不安が、両軍に指先一つ動かすことすら憚らせている。

このまま緊張が限界に達し、戦闘が起きてしまうのではないかと思われたその時だった。

「ちょっといいでしょうか!」

薄氷を全力で踏み抜くかの如き、無遠慮な声があがった。

視線が一つに集中する。

シュタっと挙手しながらアトゥたちの前へと躍り出る影。

この場で一番背が低いであろう彼は、目立つ位置へ移動すると何が嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。

……お馬鹿なペペだ。

お目付役のトヌカポリでさえその突拍子もない行動に口をぽかんと開けるばかり。

やがて事態の急変に全員の脳が追いつき、慌てて両集団が彼への対応を行おうとするより一瞬早く。

「こんにちは! 僕の名前はペペです! お友達になりましょう!!」

ただ一人どこまでも空気の読めていない少年による、元気な挨拶が響き渡った。

=Eterpedia============

【お馬鹿なペペ】指導者

~馬鹿だから差別しないし、馬鹿だから物怖じしない。

そして馬鹿だから誰とでも仲良くなる。

我らはもっと彼に学ぶべきだ~

《友好志向》

全指導者に対する印象+2ポイント

全指導者に与える印象増加率+50%

《平等主義志向》

種族及び属性による印象変動が発生しない

《貿易志向》

貿易によって得られる全利益+20%

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