軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話:魔女

聖王国クオリアが派遣した災厄に関する調査団。

彼らとの交渉が決裂し、 殲滅(せんめつ) をもって事態を終了させたアトゥは死体の処理を手早く済まし、自らの王たる拓斗へと報告を行っていた。

「魔女……それは『Eternal Nations』では一度も聞かなかった話だよね」

「はい拓斗さま。今回の接触で再度確信しましたが、やはりこの世界は『Eternal Nations』のものではありません。ゲームのシステムが適用される部分はあれどその仕組みは全く違うものと考えなければいけません」

この世界にやってきて拓斗達は様々な情報収集を行っている。

その中で導かれた結論として、この世界がゲームである『Eternal Nations』とは違ったものであるというものがあった。

この判断の根拠としての主たるものが文明に関してだ。

聖王国クオリアもエル=ナー精霊契約連合も『Eternal Nations』には出てこなかったものだ。加えてかの二国が力をつけるにいたった聖女という存在。

これについても拓斗たちは初耳であった。

伝承好きのエムルを捕まえて朝から晩まで様々な話を聞き出したが、聖女に関する話含めこの世界における伝承もまた彼らが『Eternal Nations』で知るそれとは違い、二人に大変な驚きを与えたのだ。

そのほか様々な要素がこの世界独自の法則を示している。

異世界転移とはよく言ったものだ……。

拓斗は生前一部で人気があったファンタジージャンルを思い出す。

「アトゥが奪ってくれた聖騎士の記憶を分析してもそうなんだよね?」

「はい、記憶は死の直前強い想いを抱いていた部分しか見ることが出来ませんでしたが、それでもある程度のことは分かりました。彼らは現在の状況に陥るまで比較的平穏な暮らしを続けており、ここ数十年は大規模な軍事衝突を経験したことがなかったようです。強力な指導者の存在も確認されませんし、これをプレイヤーとして判断するのであれば間違いなく初心者レベルでしょう」

「そんな中での北方州の騒乱ってことか」

アトゥが固有に持つ能力である撃破ユニットの能力奪取。

この世界に来て彼らは初めて知ることとなったが、この能力は相手が死ぬときに抱いていた強い想いも読み取ることが出来た。

ゲーム上には一切なかったその仕組みは便利でもあると同時に不安要素でもある。

自分たちの常識やルールが通用しないことの証左でもあり、ゲーム設定を踏襲して国家を運営していては何処かでとんでもない問題が起こることの警鐘でもあるからだ。

言外にこれはゲームではなくて現実なのだぞと言われているような錯覚を拓斗は覚えたが、その考えを無視しながらまた別のことへと興味を向ける。

向けた先とはつまりクオリア北方州騒乱と、その原因であるとされる魔女である。

これらが現状最優先されるべき議題だ。

不確定要素であるこの事象が自分たちの国にどう影響を及ぼしてくるのか、万が一クオリアが墜ちるようなことがあれば次は自分たちの番ではないのか?

それ以前に先の調査隊壊滅にともなってクオリアがこちらに眼を向ける可能性は本当にないのか?

様々な懸念が押し寄せ、拓斗の頭のなかで 奔流(ほんりゅう) となって渦巻く。

「北方州と呼ばれる地域での異変に手間取られてクオリアの軍事余力がないことは幸いでした。こちらに大規模な軍勢を送ってくる危険性が少なくなりましたからね」

「調査につまはじき者の聖騎士二名が送られてきたのも万が一の際にもみ消す為……か」

「おそらくは……」

「内に敵がいるというのは如何ともしがたい問題だよね」

聖騎士ヴェルデルが有していた情報は少ないとはいえなかなかに有用なものであった。

彼らの国が州制度を取っているが故に州ごとの対立が激しく、互いに足の引っ張り合いをしていることがわかったのだ。

更には巨大化した組織にありがちな複雑化した政治システムがもたらす鈍重な意思決定プロセス。

聖女の神託によって大呪界に災厄ありとの兆が出たが、実際に確認されてしまうと対応で国内が大きく混乱するので大事にしたくない。

故にこそこそ隠れるように調査を実施する。愚かを通り越して大罪であるとすら言えよう。

拓斗は彼らの組織システムが持つ不具合に呆れながら、だがあそこまで巨大化した国家を維持するためには避けられない事態だったのだろうと首を振る。

「我々は全ての者がタクト様への忠誠によって結ばれています。かの国の様な憂慮は必要ないかと」

「ありがとう」

さりとて魔女の存在、そしてクオリアが持つ問題がマイノグーラの状況を有利に運んでいることもまた事実であった。

北方州の騒乱対応にその力を注ぎ込んでいるためマイノグーラにとっては気を楽にできる状況が作られているのだ。その点に関しては感謝しなければならないかもしれない。

もう一つの善文明であるエル=ナー精霊契約連合が沈黙を保っているのは不気味であるが、少なくともこちらからアクションをしなければ動く気配がないということは、これに関しても拓斗たちにとって利にしかならない。

いろいろ懸念事項があるが、下手に平和裏に終わって調査隊に帰還されるよりも殺しておいて結果としては良かったと拓斗は考えた。

秘匿が長引けばそれだけ彼らに有利になる。できればもう一体、英雄を作成するまで彼らの存在が 露呈(ろてい) するのは避けたいと思ったのだ。

……そこに死した者への憐憫の情は一切無い。

「あの、拓斗様――」

「魔女について、何か情報を得ることができた?」

アトゥが何かを尋ねかけたが、拓斗はその問いを遮った。

思考に没頭していてアトゥの言葉を聞き漏らしたのだ。

もちろん彼女にとって優先順位は第一に拓斗である。王が質問しているのであればそれに答えない理由は何処にもない。

もっとも意を決して口を開いた彼女が先と同じ質問をおこなおうと考える機会はもう暫く来ないであろうが……。

「魔女の情報については残念ながら殆どはありませんでした……。ただ、クオリアの軍や都市に関して軍勢規模の被害を及ぼしていることと、判明する二名の内一人の呼び名は分かりました」

「なぁに?」

聖騎士の記憶によると現在聖王国クオリアでは二名の魔女が確認されているらしい。

それらが既に大規模の被害を与えていることには驚きを禁じ得ないが、それよりもその正体が気になった。

アトゥと同一視される魔女とはどのような存在なのか?

聖騎士ヴェルデルの記憶を垣間見たアトゥは、自らの王を悩ませるその呼び名を苦々しく読み上げる。

「―― 啜(すす) りの魔女エラキノ。

それが記憶にあった呼び名です」

はたしてその名は何を意味するのか?

恐らくかの魔女に関する能力を表したものであろうことは確かだが、どちらにしろ碌でもないことは確かだった。

もちろん分かっていたが、邪悪に属す者だろうことも……。

「もしかしたら僕らみたいなのがいるのかもね……」

北方州の騒乱はここ最近発生したものだと思われる。

事実ダークエルフたちが国より放逐される以前にはその様な情報は入ってきていなかったらしい。

となると時間的に重なる部分がある。

つまりは拓斗とアトゥ。マイノグーラがこの世界にやってきた時期と奇妙な一致を見せているということだ。

自分たち以外にこの世界にやってきた勢力が存在する……。

アトゥの表情に不安がよぎる。万が一彼女の危惧が現実となるようであれば、由々しき事態になることは明らかだったからだ。

「如何致しますか? 同じ邪悪属性だった場合、ある程度こちらに友好的な部分はあるかと思いますが……」

「んー……なんとなくだけど、分かり合えないでしょ」

「で、ですよねぇ……」

顎に手をやりながら拓斗は冷静にそう判断した。

アトゥも彼に同意しかないようで少し困った様子で頷いている。

それもそのはず、彼らが知る邪悪な存在とは他者と理解し合うという概念からほど遠い理念を持つ者ばかりであったから……。

「邪悪属性は基本的に頭のネジが外れている奴らばっかりだからなぁ……。しかもアイツら世界滅ぼしたがるでしょ? 滅ぼしてどうするのよ! 止めろよそういう後先考えない行動!」

「き、基本的に世界を滅ぼして自分も滅ぶのが彼らの目的、みたいなところがありますから」

「そういう典型的な悪役ムーブはお腹いっぱいです」

「分かります……」

邪悪な存在は基本的に仲がよろしくない。

彼らは一様にして協調性や仲間意識というものが希薄なのだ。

部下や国民などは基本的に自分の目的を果たすためのコマでしかないし、他の国家などその属性がなんであれ敵でしかない。

もちろん例外はあるかもしれないが、余り期待しないほうがよいだろう。

結局現状どの様な勢力であろうが平和的な活動を望むマイノグーラとは水と油の関係になることはわかりきっていた。

「問題は北方州で魔女を動かす存在がいたとして、それが『Eternal Nations』の世界における文明かどうかってことだよ」

「『Eternal Nations』の文明における英雄は強力な存在ばかりです。彼らが来るとなると、世界に混乱が巻き起こされるのは避けられませんね」

「そうでなくても既に魔女とやらは英雄ユニットクラスの戦闘力を持っていることがほぼ確実なんだ……こりゃあ面倒だ」

「様々な要因があるとは言え、大国の軍を押さえるだけの力を持っている存在ですか。考えるだけで嫌になってきます。やはり我が国にもう少し英雄が欲しいですね」

いずれ相まみえる時が来るのだろう。

拓斗は漠然とそう思う。自分たちの目的はマイノグーラをひたすらに繁栄させることである。

こちらから打って出るつもりはないが、状況がそれを許してくれない場合も往々にして存在する。

拓斗たちの方針とそぐわぬ勢力が自分たちにその牙を向けることも当然として考えられるのだ。

猶予はさほどないのかもしれない。拓斗はどうにも面白くない世界情勢に大きな溜め息を吐いた。

「イスラ以外の英雄も検討に入れた方がいいかな。戦闘能力が高いユニットにした方が良いかも知れない」

「ええ、もう暫くすれば英雄生産に必要な魔力が集まります。……ですが英雄は生産する度に必要魔力と必要技術レベルが上がります。再検討は必要かと」

英雄を生産するには様々な資源、魔力、技術力が必要になってくる。

現状で追加の英雄を作成する分にはなんとか必要コストを用意できる算段はついているのだが、更に加えてとなると途方もない時間がかかる。

つまり次に作る英雄の選択は慎重を期さなければならない。

便利ではあるが戦闘能力に不安がある英雄イスラを召喚してしまってはあっという間に詰みの状態にされてしまう可能性があるのだ。

生前のゲームプレインでイスラによって生産した大量の子蟲が、敵英雄が使用する魔法によってわずか一ターンで全滅させられた記憶を思い出す拓斗。

魔女、そして聖女。戦力の選択に慎重にならざるをえない。

故に彼は諸々に対処するための予備策を用いることを決め、そのポリシーを大々的に変更することにした。

「作戦は柔軟に。時々の状況に合わせて――その上で、少しだけ当初の方針を変えたいと思う」

「はい。どの用に変更されるのでしょうか?」

「同盟国かな。万が一の為に友好的な国を作っておきたいと思うんだ」

「えっ! 同盟国ですか? ……可能でしょうか?」

アトゥの驚きも当然であった。

国家の運営においては当然のように取られる作戦ではあったが、コミュ障な拓斗にとって少々難易度が高い。

加えて邪悪属性であるマイノグーラにとってはかなり難易度が高い作戦でもあった。

成功する道筋が正直見えなかったのだ。

「相手に利があれば……ってところだね。もちろん、中立属性の国に限定されるだろうけど……」

「ふむ、森の近くにある国家ですか。確かに世界に異変が起きているのであれば、いずれ相手も態度を軟化せざるを得ないでしょう」

「蓋を開けてみないとダメだけどね」

大呪界に一番近い箇所にある人間の都市。引き続き調査は必要になってくるが、状況によっては手を取れる可能性もある。

初遭遇での印象は最悪だろうが、それであっても相手が覇権を狙う国家でもない限り交渉の余地がある。

更には交流を通じて様々な資源や物資、物品を入手出来るだろう。

こちらもいくらか相手に渡せるものがある

有事の際には協力して敵にあたることも可能だ。

拓斗は脳内に浮かび上がるマッピングを注意深く観察しながら今後の方針を決める。

交渉相手が敵になる危険性があるといういささか賭けに近い方策でもあったが、成功すればある程度彼らの地盤も固まるだろう。

ここは少々攻めの姿勢に出た方が良いかも知れない。

拓斗が行った最終判断はそれであった。

「ではダークエルフたちを呼び、早急に方針の詳細を詰めます」

アトゥはその命に応じて行動に移す。

善は急げとばかりに拓斗へと退出の挨拶をし、集落へと向かう。

彼女に激励の言葉をかけた拓斗は、ひとりきりになった王宮で玉座に座りながら虚空を眺める。

静かに佇む彼の表情には、何の感情も浮かんでいないように見て取れた。

=Eterpedia============

【魔女】ユニット種別

魔女は特殊なユニットです。

同時に世界に七体しか存在せず、そのどれもが初期から強力な能力と戦闘能力を有しています。

また魔女ユニットは敵ユニットに対するデバフ効果の能力を有していることが多く、その撃破には大量の軍もしくは同じ魔女や聖女の存在が必須になってきます。

一度撃破されれば再生産が不可能ですので、慎重な運用が必要になると共にゲームプレイのキーとなるユニットでもあります。

現在判明している魔女は以下の通りです。

「イドラギィア大陸 厄災認定魔女七悪(やくさいにんていまじょななあく) 」

汚泥(おでい) の魔女アトゥ

啜(すす) りの魔女エラキノ

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