軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十話 締結

大戦争の開始まで残り一ヶ月。

この言葉が持つ重みをその会議にいる全員が共有していた。

フォーンカヴン首都、クレセントムーン。大会議場。

楕円形の巨大な机を囲むように、各陣営のトップが鎮座している。

フォーンカヴン――杖持ち・ペペ

サザーランド――総船団長・ドバン

RPG陣営――勇者・神宮司優

TRPG陣営――ゲームマスター・繰腹慶次。

SLG陣営――マイノグーラの王・伊良拓斗。

誰もが暗黒大陸では名の知れた国家の指導者か、強力な力を持ったプレイヤーである。

彼らはいよいいよ迫った大戦争の幕開けに関し、方向性と具体的行動の最終決定を決めるために会談の場を設けていた。

もっとも決めると言ってもすでに大まかな方針は策定されているため、実際には決起集会的な意味合いが多分に含まれているのだが……。

居心地悪そうに繰腹が身じろぎしながら背後に座る仲間に視線を向ける。

この場に居るのは何も各陣営の指導者だけではない。彼らに伴う配下や仲間達も勢揃いしていたのだ。

彼らは自陣営のトップ、その背後に備え付けられた椅子に座り自らが頂く者の決定を静かに見守っている。

なお本来なら円卓に座っているはずの二つの都市国家の指導者は自ら言い出し、この背後席に座っている。

わざわざ円卓に座っても発言権はないだろうと判断したことと、謙虚さをアピールする為だ。

円卓に座るほどの度胸がないという理由もかなり大部分を占められていたが、その点を指摘したりあざ笑ったりするような愚か者はもちろんいない。

「しっかし、雁首そろえてやることが名前を決めるだなんてな~」

だがそんな各国の重鎮。そしてこの世界の戦力では到底太刀打ちできぬ不可思議な力を振るうプレイヤーが現在頭を悩ませていたのは、比較的どうでも良い話だった。

すなわち、このマイノグーラを盟主として集まったこの連合の名前をどうするか? である。

「暗黒大陸連合で良いんじゃないですか?」

ペペが適当に発言する。本当に適当に発言した。

この議題にさほど興味が浮かばなかった事に加え、本当に何でも良かったからだ。

今まで通例として連合という呼称が用いられていた事実もあることから、これで良いだろうという妥協と気軽さがあった。

「それだと向こう側の真似したみたいで癪だなぁ。もっとデカい題目はねぇのか?」

だがそこに待ったが入る。サザーランドの総船団長ドバンだ。

彼としては折角暗黒大陸が一つに纏まったのだ――その理由が正統大陸連合にあるとは言え、二番煎じじみた名称は避けたかった。

また自分達はどうでもよくても、部下たちはそうではないという事を彼はよく知っていた。

ある意味で夢を見せるのは指導者の責務だ。付き従う者達が誇りと勇気を持って胸を張れる旗印を用意することを怠ることはできない。

拓斗もそれはよく理解していた。折角の大戦争だ。気分良く行きたいと思うのは彼も同じ。

だが絶望的にアイデアが出てこない。すでに頭を悩ませること数十分。値千金の時間を無駄に浪費した。しっくりとくる名称がないのだ。

……少し考えたあと、拓斗はさっさと奥の手を切ることとする。

「繰腹くん、何かある?」

すなわちTRPG勢力のプレイヤー、繰腹慶次だ。

「は? なんで俺に聞くんだ……まぁいいや《アイデア》」

彼は拓斗の言葉に少し顔を顰めると、ただまぁとばかりに指をスナップさせる。

カラコロと、彼にしか聞こえない判定の音が鳴り、何らかの結果がもたらされる。

「あー、目がリアル?上薬?昨日とかなんとか?」

「レガリア条約機構ね……確かに僕らを結びつける物の一つだ」

よく理解していない繰腹の反面。拓斗はすぐさまダイスの導きによって示された名前に思い至った。

(《アイデア》なのに自力で考えている訳じゃない……か。やっぱ怖いなあの能力。とは言え名前に関しては興味深いね)

拓斗は繰腹の行い、そしてそこから導き出された名称を吟味する。

別に条約も決めている訳ではないし、特別な機構や機関を設置している訳ではない。

だが正統大陸連合という名前に対抗する名称としては、それなりにインパクトがあるようにも思えた。

「どういう意味だ? 盟主殿が言ってるレガリアってのはぁ」

「宝物って意味さ。俺が王さまに譲った剣と、たしかサザーランドは船・・・・・・だったかな?」

ドバンの不思議そうな呟きに優は答えてやる。

少し恐縮した様子で軽く頭を下げたドバンに、優は軽く手を上げ笑みを浮かべる。

何やら壁のような距離感があるが、潜在的なライバルでもある以上この位の関係性が逆に適切だったりもする。

「は? 俺は何も宝物とか渡してねぇぞ?」

「僕もですね!」

逆にこの二人は気安い。拓斗は少しばかり困ったように苦笑いする。

ペペは長年の付き合いだったのでさほど気にする部分は無かったが、繰腹慶次は別だ。

彼はどうやらイラ=タクトに引き分けたという事実に大層誇りを持っているらしく、いつの間にか拓斗をライバル視している。

その上でやたら距離感が近く気安いのだ。生来のコミュ障である拓斗としては、あまりこうグイグイ来られるのも好きでは無かった。

実のところ、その原因は散々繰腹を煽って言葉を投げかけていた拓斗にもあるのだが……。時として知らぬ方が幸せな事ももちろんあった。

拓斗はそんな二人に説明をしてやる。

「フォーンカヴンは以前からの同盟関係だから別に気にする必要は無いよ。まぁ時が来たら出来る範囲で協力して貰うかもしれないけど……」

「んんん? なんか俺らだけメリット提示してねぇ気がするんだけど」

「繰腹くんは君そのものが目的だったからね。裏切らずにその力で頑張ってくれればそれで十分だよ」

「つまり俺が……宝物だったのか?」

繰腹が後ろに座る聖女達に何やら小声で報告し、同じく小声で叱責を受ける。

とは言え繰腹の指摘は正鵠を射ていた。レガリアは確かに今回の関係を構築するに当たって重要な要素だ。

しかしながらそれは一部の国家と陣営に限ったこと。具体的に言えばサザーランドとRPG陣営のみに対して当てはまる話である。

繰腹の言うとおり、全陣営を纏める旗印としては些か不適にも思えた。

だが、と拓斗は考える。

(よくよく考えたら今回の戦いにおける国家間取り決めを一纏めの条約として良いし、この一年で交流が増えた国家間の関係性を機構と定めてもいいのか……)

「俺は悪くないと思うぜ。箔があっていい。宝物を元に保証された関係なんてカッコイイじゃないか。好きだなそういうの!」

優がそう言い、他の面々も同意するように頷く。

国家の歴史を書物に記すのは後の歴史家の役目だ。インパクト重視で決められた、中身が未定のこの名称が将来どのように描かれるか分からないが、まぁ上手にやってくれる事を期待しよう。

拓斗はそう己に言い聞かせ、この名称について未来を見据えた関係性の旗印として定める事を決める。

(名前は大事だ。特に神だの奇跡だのが存在するこの世界においては……)

拓斗はまた別の視点からレガリア条約機構という名称に期待を寄せる。

この世界には神が存在する。そしてレガリアが存在する以上、名前が持つ引力というものは馬鹿には出来ない。

レガリアという名称を用いることで、運命が結びつけられる事を期待したのだ。

「では正式に決定しよう。この暗黒大陸に集いし全陣営の連合。これらを今後はレガリア条約機構と名付ける」

拍手が沸き起こる。

静かで品のある、だが力強い拍手だ。

誰もがこの一大勢力の誕生に期待を寄せている。

一見してなんの変哲も無い、さして意味があるとは思えない決定。

だが儀式めいたやり取りは今の彼らには最も必要だった。

一つに纏まるということは合理性や損得だけではなしえない。

特にこの様な強力で個性的な面々が揃う時は……。

この日、暗黒大陸は真の意味で一つに纏まった。

ここにレガリア条約機構は成ったのだ。

「と、言うわけで各々腹に一物抱えた勢力同士、しばらくの間、運命を共にしよう」

「おいおい、隠し事ありは前提かよ……」

「急ごしらえの連合だからね、当然だよ」

優が目を丸くし、拓斗がニヤリと笑いながら指摘する。

「へへっ、盟主殿の仰る通りさぁ!」

「ドワーフのアンタ、もう少し格好付けた方がいいんじゃねぇか? 舐められるぞ」

「テメェは背丈をもう少し伸ばしてから同じ台詞を言うんだな」

「お前と変わらねぇだろうが!!」

ドバンが拓斗に追従し、苦言を呈した繰腹と口論になる。

「これ連携取れるのかなぁ……」

「気兼ねなく文句を言い合えるって素晴らしいことだと思いますよ! ねっ、タクトくん!」

「そうだね……」

拓斗が呆れ、ペペが楽観的にフォローを入れる。

あまり堅苦しく互いを牽制し合っても本末転倒だ。もしかしたらこの位が良いのかも知れない。

そう思い直すことによって拓斗はこの状況に納得する。

やるべき事は多かった。

名称を決めるだけなら、これだけ雁首揃えて集まる必要は無い。

「じゃあこの一年で準備できた戦力について、それぞれ報告していこうか」

拓斗はパンパンと手を叩いて、全員の注目を自分に集める。特に口論を始めてしまったドバンと繰腹の仲裁が主目的だったが……。

幸いな事にすぐに会議の場は静かになり、拓斗に視線が集まる。

「特に優は戻ってきたの結構ギリギリだった上にバタバタしていたからあんまり情報共有できなかったから。しっかりと共有しておきたい」

優から肯定の頷きが返ってきたことに拓斗は満足する。

彼が帰還したのはつい最近だ。その後はサザーランドや繰腹との顔合わせや諸々の確認。現状の把握などに時間を取られていたため、正式な形で成果を共有し吟味するタイミングを逃していた。

だが本日は丁度良いことに全陣営の全トップ、そして主要なメンバーが勢揃いしている。

可能な限りここでお互いの手札を披露し、戦略を決定しようと拓斗は考えていた。

「あと、そろそろ皆のとっておきを聞いておきたいな。今日を逃すと次に全員で集まれるのがいつになるか分からないからね」

「お、おい! いいのかイラ=タクト! ここで言っちゃって! こういうのって土壇場でかっこよく披露するもんだろ?」

いの一番に反応したのは繰腹だった。

彼とていまだ拓斗に披露していない奥の手の一つや二つは用意している。

もっともそれは彼が考えたというよりも仲間と共に必死で考え抜いた大切なものだ。それをいくら同盟とは言え、ここで開示することに不安を覚えていた。

「こんなこともあろうかとって奴? 現実だと策があるなら事前共有しとけって怒られる奴だね」

「な、なるほど……」

「ゲームや漫画とは違うからなぁ……演出はほどほどにってことだな!」

優も納得したように頷き、拓斗に同意する。

もっとも、優もこの様な態度を見せつつも、自らの手札全てを開示するつもりはなかったが……。

この中で言えば最も多くの秘密を隠しているのがRPG勢力である。

協力体制を構築することに間違いは無いし、同盟という枠組みの中で裏切ることは絶対無いが、だとしても必要無い事までべらべらと喋るつもりはなかった。

「もちろんこちらも開示する。結構驚いて貰えると思うんだけど」

拓斗の言葉で全員が一応の納得を見せる。

サザーランドやフォーンカヴン、都市国家二国はさておき、プレイヤーである勢力からはどんな衝撃の内容が出てくるか分かったものではない。

「ちょっと楽しみだね」

拓斗の言葉は円卓の外側で会議の行く末を見守る者たち全員が共有する感情であった。

………

……

「馬鹿みてぇな戦力だ……」

ドバンはそれだけ呟き、難しい顔をしながら押し黙った。

「それぐらい必要ってことなんですねぇ……」

ペペはポカンとした表情を見せ、自分たちが出来ることはなにもないとばかりに押し黙った。

一方プレイヤー勢力である三人は互いに開示された奥の手に関して同じ感想を抱いていた。

(((とんでもない隠し球を用意してやがった)))

全員。全員が度肝を抜かれている。

まさかここまでやるとは思ってもいなかった。ここまで無茶苦茶な手段を用意していたとは思ってもいなかった。

確かに相手はサキュバスを主軸とした強力な軍勢。

そこに加えてハックアンドスラッシュの装備、カードゲームの魔法カード、聖騎士や聖女と言った強力な布陣を揃えている。

だとしてもここまでやるか? ここまで準備するか? というのが正直な感想であった。

と同時にやるつもりは無かったが迂闊に互いを裏切れないことが露呈する。

プレイヤー陣営はあまりに法外なその奥の手に三すくみの状態になっていることを即座に理解し、中立国家群は裏切った瞬間そのあり得ない力が自分たちに飛んでくる事を理解する。

全員がなんとも言えない、苦笑いに似た笑みを浮かべる。

絶対余計な事をするなよ。当初の予定通り正統大陸連盟を叩くんだぞ、という言外の圧と同意である。

ピリリとした、どうしようもない空気が流れる中、ぽつりと呟いたのはドバンだった。

「しかし、そうか……あの船をそう使うのか」

拓斗が披露した作戦の一つに、メルーリアン号を利用したものがあった。確かに譲った船だ、マイノグーラがどう使おうと関係無い。

そして使い方に注文をつけているほど余裕があるわけでもない。

誰しもがそれを理解しているが、拓斗はドバンの言葉を切り捨てるような事はしなかった。

「気分を害したかな。総船団長ドバン」

静かに問われた言葉に、全ての船の責任を負う者が首を振るう。

「いいや、もうあの船は盟主殿の物だ。ガタガタ余計なことは言わねぇ……。だが一つ、聞いて欲しいことがある」

「……聞ける範囲でなら。何かな?」

「全力でやってくれ、後先考えず――あの船のやりたいように、だ」

「もちろん。そのつもりさ」

覚悟を決めた男の顔だ。少し郷愁が見えるのは気のせいだと、拓斗は自分の感覚を間違いだと断じる。

憂いは無くなった。拓斗は作戦を微修正することを決断する。

「と、なると魔力がもう少し必要だけど……この中で金銭的価値のある物を出せる人っている?」

拓斗は全員に尋ねる。

主にプレイヤー陣営に向けた質問だ。中立国家に金銭を供出しろとは流石に無体がすぎるし、負担が大きすぎる。

何より拓斗が必要としている量はその程度ではまかないきれない。

「むしろ俺が欲しいぜ。なんで金なんてほしがるんだイラ=タクト」

「こっちの《市場》で魔力に変えて緊急生産でメルーリアン号を強化するんだよ繰腹くん。余裕があればマイノグーラの配下補充にも回したいね」

へぇ、そんなことできんのかと繰腹が納得した顔を見せる。

TRPGの能力で何か出来るかと期待していたが、どうやらその方法はないらしい。GM権限があれば話が早かったが、残念ながらその手段は使えない。

「んじゃ俺がゴールドを出すよ。もともとそのつもりだろ? いくら欲しい?」

助け船は優からやってきた。

拓斗は感謝の意を込めて頷く。期待していた部分はあるが、どの程度持っているかが不明だし強要するのも憚られたためこの申し出は嬉しい。

あくまで同盟関係という体なのだ。特にプレイヤー間のそれは……。

だが今は優から申し出た形だ。少し位ふっかけてもバチは当たらないだろうと拓斗は無茶ぶりをしてみる。

「出せるだけ全部。そういう相手なのは君も知ってるでしょ?」

だが相手の顔は困惑だった。

気分を害したというよりも、何やら困っているとか迷っているとかそういう印象が強い。

「え? もしかして何かダメな理由ある?」

予想外の反応に拓斗も思わず素直に質問してしまう。

「…………いや、100億とかあるんだけど」

「カンスト勢かよ! わかったわかった……後ほど個別で詰めよう」

逆であった。拓斗が叫ぶのも無理からぬものだ。

100億と言っても百億円などではない。百億ゴールドなのだ。この世界や『Eternal Nations』で一ゴールドがどれほどの価値を持つかを正しく量ることは難しい。

だが少なくとも純金で出来た貨幣一枚が一ゴールドと考えれば彼がどれほどの資産を持っているかがよく分かる。

拓斗としてもここまで膨大な数が出てくるとは思ってもいなかった為、少し呆れてしまう。だが同時に出来ることが増えた。予定から外していた兵士達への装備拡充などもスムーズに進むだろう。

こんなに持っているのならもっと早く言ってくれと思う拓斗だったが、《市場》でゴールドを変換する魔力生成チートを今まで秘匿していたのは他ならぬ彼だ。

あまり全面的に批難できないのが辛い所だった。

「うーん、よく分からないけど、頼もしいという事は分かりました!」

「俺らぁ後詰めだから前線にゃああんまり行かねぇが。話に聞く限りちょっとついて行けるもんじゃねぇしな」

よく分かっていない二国の代表が、まぁいいんじゃないかと追従する。

この辺り特に説明を求めるでなくそういうものかと納得してくれるのはプレイヤー陣営の者たちにとってはありがたかった。

流石に彼らには共有できない情報も沢山あるからだ。

その点で言えば、余計な事に興味を抱いたり質問をしたりしないこのペペとドバンの二人は、確かに一国の指導者足る人物だった。

「まっ、各々がやるべき事をしっかりとしよう。これだけの戦力さ、勝機は十分あるよ」

最後に拓斗は締めくくる。

もっとも、議題は他にも山のようにある。まだまだ暗黒大陸の命運を決める会議は終わりそうにもなかった……。

=Message=============

同盟が締結されました。

レガリア条約機構

盟主:破滅の王イラ=タクト

参加陣営:

・マイノグーラ

・RPG陣営

・TRPG陣営

・フォーンカヴン

・サザーランド

・都市国家グラムフィル

・都市国家アイアンヘンジ

同盟関係が解消されるまで、同盟国家間での戦闘行為は禁止となります。

また他国への宣戦布告は同盟国全体となり、その決定は盟主のみが行えます。

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