軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:ドラゴンタン(2)

アンテリーゼ都市長を案内役としてドラゴンタンの視察を行っていた拓斗。

かつては荒れ果てた街だったはずのこの場所は、今や目を見張るほどの反映を見せている。

人肉の木や酒池肉林、異形動物園といったマイノグーラ固有の建物が邪悪な国家としての威を示し、追加で建てられた住居や各種商店などが街の発展と繁栄を支えている。

道行く人々の表情も明るく、活気にあふれている。

重要施設である龍脈穴も掘り起こされ、淡い緑の光とともに大地のマナをつきることなく生み出している。

マイノグーラの第二都市として満足する結果を見せているドラゴンタンに、拓斗は大きな可能性と将来を感じる。

そのような最中だった。

街の中心、確かかつて大きめの屋敷があったはずの場所に巨大な建物を見つけたのは。

まず目を見張るのはねじれ入り組んだ尖塔。そしてあえて不揃いにしたと言わんばかりに乱雑に配置された窓の数々。

どこからとも無くゴーンゴーンと心の臓に響く不気味な鐘の音を鳴らしながら、天高く主張するそれは明らかにマイノグーラの邪悪な文化を反映しており、同時にどこか宗教的な風味も感じさせる。

拓斗は自分に覚えのないその施設をじっくりと上から下まで眺め、やがて全てを諦めたような静かでゆったりとした声色でアンテリーゼへと尋ねる。

「アンテリーゼ都市長。あれは何かな?」

「イラ教大聖堂。ドゥメリ・トゥーラでございます」

静かで、悲しみに満ちた声音だった。

アンテリーゼの中にある不本意と不名誉をこれでもかと練り込んだかのような、そんな声音だ。

まぁ十中八九そうだろうなと感じたし、十中八九やつだろうなと思っていた。

だがその事実はあまり知りたくなかった。間違いなく拓斗の仕事が増えるからである。

「都市計画的にはどうなの?」

「完全に計画外でありますし、そもそも都市長として許認可を出した覚えもありません」

「違法建築物じゃん。撤去しようよ……」

おそらくこれは『Eternal Nations』における大聖堂だ。

宗教を創設すると宗都に建築することができるのだが、それなりにコストがかかったはず。

ヴィットーリオの能力で強引に建築指示を出したであろう事は間違いないが、足りぬコストをどこから捻出したのかは少し気になる。

ただ拓斗が知るイラ教信徒の熱狂具合や、最近手に入れたセルドーチにあったであろう不正な財産などを考えると、自ずと答えは見えてきそうではあったが……。

ため息を一つ。

ドラゴンタンに視察に来たことは無意味ではなかった。建築や行政がうまく進んでいるとの事でもしかしたらこのまま放置でもいいかもとは思っていたが、とんだ爆弾が潜んでいた。

アンテリーゼも言い出しにくかっただろう。自分だったら気まずすぎてどう報告すればいいか分からなくなっただろうから失態と叱責することもできない。

英雄のやらかしは、その直属の上司である拓斗の責任なのだから……。

そしてその気まずさはどうやらアンテリーゼや拓斗だけではなかったらしい。

隣からひどく、ひどく苦渋と絶望に満ちた声が漏れた。

それは視察の前行政庁舎に呼び出され、先ほどまでアンテリーゼとともにニコニコと心底幸せそうに拓斗の案内を行っていた山羊獣人の少女だ。

イラ教代理教祖ヨナヨナ。

この珍妙かつ無許可の建造物に関する重要参考人とも言える娘だった。

「うう、すいません! すいません! まさか偉大なる神の御意志に背くものだっただなんて! この責任は全部ウチにあります! どうか、どうかウチの命でお許しを!」

「いやいや、ヨナヨナは悪くないよ。キミはちゃんと頑張っている。そう自分を卑下しないで」

放っておけば土下座せん勢いの少女をなだめ、慌ててフォローする。

全部ヴィットーリオのせいにしておけば楽なのに、それでも自分の責任を感じてしまうのが彼女の良いところであり悪いところだった。

「う、ウチなんかになんともったいないお言葉……。ウチは、ウチは……か、神ぃぃぃ……」

「ほんと慣れないなその呼び方……」

イラ教はヴィットーリオが勝手に作り出した拓斗を神とあがめる宗教だ。

拓斗だけを信奉し、拓斗だけに祈りを捧げる力の集約機構でもある。

ヴィットーリオが持つ人心掌握系のスキルをふんだんに使って生み出されたこの宗教の信徒は誰も彼もが熱狂的な信仰を有している。

拓斗が命じれば本当に喜んで命を差し出そうとするある意味で頭のネジが吹っ飛んだ者ばかりなので、正直なところ拓斗は苦手としている。

そんな宗教の代理教祖が涙ながらに神とされる拓斗にすがりついているのだ。

幸い今の時間は人通りが少なくさほど目立っていないのだが、そろそろ厄介な事になりそうなのでやめて欲しいと願う。

それよりもヨナヨナには泣くのをやめて現状がどうなっているのかを説明して欲しかった。

「まぁこの建物に関しては追認という形にするのが無難かな。さっきはああ言ったけど今更取り壊すのも手間だし、そんな余裕があるなら別の事をした方がいいだろうしね。ただアンテリーゼの方では本当に対処できなかったの?」

ヨナヨナが使い物にならないのでアンテリーゼに水を向ける。

こちらは山羊娘とは違って冷静さが残っていたようだ。

「いえ、実は周辺の住民がイラ教徒かつ金銭により買収されており、行政が介入しようとすると都市庁舎前で昼夜問わずに抗議の行進をするので……」

「扇動者は? どうせヴィットーリオでしょ。これだけのやらかしでお咎めなしもあれだし、アイツに責任を取らせる形が一番丸く収まるんじゃない? とりあえず呼び出して見せしめとして首をはねるのはどうかな?」

「再三呼び出しておりますが一向に出頭しないので……。僭越ながら、王からも呼び出しをかけていただけませんか?」

「こういう時は僕が言っても多分出頭しないと思うから……」

「そ、そうですか……」

ヴィットーリオのやらかしは多岐にわたる。

拓斗としてはその意図するところを理解できるが故にそこまで気に病むという事は無いが、拓斗以外の人々はその限りではない。

国家の要職についている者ほど真面目な者が多い。

ダークエルフ達にしろ、アンテリーゼにしろ、ヨナヨナにしろ。

そんな真面目で国家と拓斗に献身的にあろうとする者達はヴィットーリオの悪行になれてはいない。

ゆえに責任感を覚え、このように心を痛めるのである。

(仕方ない、助け船を出すか)

「まぁヴィットーリオがやらかしたのは仕方ない。アレは僕の管轄だから、この件は僕預かりということにしておこう。あと今度からアイツが少しでも問題行動を起こしそうな気配があったら直接僕に言って。それで君たちに何か責任を取らせるような事はしないからさ」

まずは責任の所在である。

ドラゴンタンの全責任はアンテリーゼに、イラ教の全責任は実質的なトップであるヨナヨナにある。

無論この大教会の責任は一応彼女たちにあるのだが、拓斗はその理屈を曲げた。

というか理屈を曲げなくてはうまくまとまる話もまとまらない。例外的な運用は組織において望ましくないのだが、ことヴィットーリオに関してはそうしなくてはより大きな被害を起こす。

だからこそ拓斗は二人がこれ以上気落ちしないようにと言葉を選んだ。

そして次の言葉もまた、二人の立場を慮ったものだ。

「それよりも、過程はよくなかったけど結果としては上々じゃない? うまく機能していると思うけど、アンテリーゼはどう思う?」

「はい、ご覧の通り豪華絢爛奇妙奇天烈な本建築物、大聖堂と名乗るだけのことはありイラ教の信徒の中では絶大な地位を得ているのです。故に国内外から巡礼者が多く、自然とドラゴンタンの経済に寄与していおります……」

「いわゆる聖地巡礼的なものか……偶像崇拝なんかを禁止している分、明確な信仰のはけ口として機能している訳だ」

「はいぃ、こ、こ、この建物を目指して大陸中からイラ教の信徒がやってきています。なので神がこのドゥメリ・トゥーラを否定なさるとそれはちょっとややこしいことに……あっ、いえ! 神のご決定に文句を言うわけじゃないっす!」

「うんうん、それは分かっているよ。確かにそれは不味いよね」

アンテリーゼが責任を感じたり独断で撤去を命じたりしないようその効果をあえて説明していたが、その中で拓斗も気づかなかった利点を一つ見つける。

すなわちこの大教会が一つの目的地となっていることだ。

信徒たちがこの大教会にやってき、拓斗に対して祈りを捧げることを目的としているため大呪界の平和が保たれていたのだ。

もしもこれが建築されていなかったら今頃拓斗が住まう大呪界の宮殿に信徒が押し寄せてくる羽目になっていただろう。

(て考えると、イラ教の信仰対象としてできる限りこの教会を追認した方がいいのか。権威付けが大げさにならないよう釘刺しが必要かと思ったけど、それをやると逆に僕が詰む)

この状況を理解していたからこそ、ヴィットーリオは大聖堂の建築に着手したのだろう。

報告をしなかったのはまぁ彼の性質と言うほか無いが、こういう一見して分かりにくいが実のところ全て合理的に進めるあたり、舌禍の英雄はこの世界に来ても絶好調のようだった。

「ふむ。まぁこの聖堂の扱いについてはもう少し考えてから判断するか。あっ、別にこれは二人に思うところがあるって訳じゃないから勘違いしないでね」

どの程度追認するかは吟味した方がいいだろう。

マイノグーラの首都である大呪界がその立地上あまり流通に向いていないので、第二都市であるドラゴンタンの発展は望ましいことだ。

この大聖堂がその呼び水となる事は必然であり、大いに貢献してくれるだろう。

だが完全な宗教都市と化してしまうのもあまり好ましくはない。

拓斗の考えでは第二都市は経済や製造の面で秀でて欲しかったからだ。

ドゥメリ・トゥーラの威を利用しつつ、商業活動が萎縮しないようバランスを取らなければならない。

ヴィットーリオは今回も難解な課題を出してきたようだった。

ただそれもまた楽しむべき事柄の一つである。

内政好きの拓斗としてはこういう頭をひねって国家を運営するという方向性が大の好みであった。

最近はある意味で戦闘行動が目白押しで内政の時間が削られすぎている嫌いがある。

少しだけ休憩のつもりでこの状況を楽しんでも良いかと考えた。

そんな考えをしているから良くなかったのだろう。

思考が内政に傾きすぎて、自分が置かれている状況への配慮が不足していた。

「も、ももももしかして、神ですか!」

不意に拓斗に声がかかる。

むしろ今の今まで見つからなかったことの方が奇跡と言えよう。

そう……イラ教の信徒である。

ざわざわと騒ぎがすさまじい勢いで伝播していき、どこからともなくギラギラと薬物中毒者のごとくキマった目をした人々が拓斗ににじり寄ってくる。

「や、やばい……。非常にやばい」

「お逃げください王よ! 祭りが始まりますよ!!」

「なんでみんなそんなに気合い入ってるの!? ってかなんで祭り!?」

アンテリーゼの叫びは冗談を言うときのそれではなく、真剣に拓斗を案じているものだ。

突然の祭り開催に困惑する拓斗ではあったが、そんな時間が彼に残されているわけもない。

「そ、そりゃあもうイラ教の神が聖地であるドゥメリ・トゥーラに降臨なされたからです! これほど偉大で光栄なことは……きっと未来に語り継がれ……はっ! つまりウチはいま神話をその身で体験している!?」

「ヨ、ヨナヨナ! ちょっとなんとかみんなを押さえて……ダメだ! 完全にトリップしている!」

「いけません王よ! 退路を塞がれました! そこかしこから信徒がわらわらと集まってきています!」

「しゅ、宗教怖すぎる……」

結局、信徒から逃げるように路地裏まで逃走した拓斗は、そこで影武者である《出来損ない》の擬態を解く事によって難を逃れる。

後でアンテリーゼに確認したところ、結局イラ=タクト神降臨祭ということで祭りは開かれたらしく、その話を聞いた拓斗はしばらくドラゴンタンに近づくことはなかったという。

=Eterpedia============

【大聖堂】建築物

宗派:イラ教 名称:ドゥメリ・トゥーラ

破滅のマナ +1

国家の信徒増加率 +10%

国家の魔力生産 +20%

大聖堂は宗教の総本山に建築出来る特殊な建築物です。

強力な効果を持ちますが、各宗教に一つしか建築する事ができず、建築には高いコストが必要となります。

またこの建築物は敵の占領などによって破壊されず、都市の所属が変更されても都市に残り続けます。

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