軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十四話 偽装

全陣営会談への参加。

それはすでに拓斗の中で決定していたことだ。

情報面で後れを取るわけにはいかないし、 神宮寺優(かみみやでらゆう) との約定もある。

サキュバス陣営の魔女ヴァギアの罠である可能性は非常に高いが、だとしてもこの千載一遇のチャンスを逃す手はどこにもない。

故に、拓斗はこの決定だけは強引にでも押し進めるつもりでいた。

だが同時に、配下の者たち納得するだけの、否――納得せざるを得ない手段を持ち合わせていることも事実だった。

「さて、こういう経緯で同盟を結ぶことなって、こういう経緯で会議に参加することとなった。いろいろ事後報告の部分が多いけど、この問題は僕自身にとっても重要な意味を持つから通常とは違った意思決定になってしまたことを許して欲しい」

「ははっ!!」

ダークエルフたちが頭をたれる。

この場は会議室ではなく玉座の間。すなわち王からの命令であるということをより印象づける為の采配だ。

そのことをダークエルフたちもよく理解しているのか、いつもよりも格式張った態度で拓斗の話を聞いてる。

「事情は把握いたしました。王にとって重要であり、かつてより懸念としていたエル=ナ精霊契約連合の元へと会議に向かうとの事、実に国家の大事であると理解しております」

「しかしながら王よ! 己の立場をわきまえず具申お許しください! 此度の遠征、あまりにも危険に過ぎると愚考いたします。無論、勇者ユウ殿との関係、我ら矮小なる身では計り知れぬご事情あろうかと存じます。ですが日も浅い中で素性も知れぬ相手の本拠地に同行など、あらゆる面で危険があり、臣下として到底承服しかねます」

ギアの言うとおり危険性は高いだろう。

優が途中で裏切る危険性もさることながら、よしんば彼が問題ないとして開催地に指定されているのはエル=ナー精霊契約連合首都。

すなわち敵地のど真ん中だ。

普通に考えればここで会談への参加を良しとする臣下はいないだろう。

だがその前提を覆す策を拓斗は有している。

「うん、みんなの懸念はもちろん理解している。だから僕は今回行くつもりはない」

ダークエルフたちより困惑の声が漏れる。

一体どういうことか? という単純な疑問だ。先ほど全陣営会談に参加すると王は言った。だが次いでの言葉でそれを覆すのか? と言った意図を理解できない混乱の呻きだ。

拓斗はその反応にいたずらが成功した子供の様に楽しげな笑みを浮かべると、今すぐその疑問を解消してやるとばかりに本日の会議に無理矢理連れてきた道化師の男へと視線を向ける。

「そういうことだからヴィットーリオ。よろしく」

「え?」

予想外とでも言いたげな驚きの表情でこちらを見つめ返すヴィットーリオ。

だが拓斗はその態度にどうせ言わずともその予想はしていたんだろうとばかりに胡乱な視線を向けると、ダークエルフたちにも説明する意味を込めてあえて自らが考えている作戦を説明してやる。

「いや、君の能力はこういう時の為にあるんでしょ? 《偽装》の能力、忘れたとは言わせないよ?」

ヴィットーリオの《偽装》は《出来損ない》の《擬態》と性質を同じくする能力である。すなわち任意の人物になりきることができ、さらにそれは通常の手段では見破ることはできない。

加えてヴィットーリオは戦闘行動が行えない代わりに死亡しても本拠地で復活できる能力を有している。

危険性の高い今回の会談の為に用意されたと言っても過言ではないものだ。

「んおまちくださぁい我が神よ、吾輩たまっていた有給休暇の消化を申請しておりまして。当日は家族サービスで旅行にいく予定でスケジュールが詰まっているのです!」

「他の陣営の人たちと遊べるよ?」

「あらやだ! 吾輩ちょっと心が揺れちゃう!」

《出来損ない》の擬態とヴィットーリオの偽装。これで少なくとも自分とアトゥの影武者を送り込める。ヴィットーリオは死んでも復活するし、最悪《出来損ない》が撃破されても許容範囲内だ。

リスクを抱えずに最大限のメリットだけを享受する。実に効率的な作戦だと拓斗は考えていた。

その事をこの場にいる全員が納得できるよう説明する。

「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちください拓斗さま! え? え? その、私の影武者っておっしゃいました? この目にするのも吐き気を催すゴミくずが、拓斗さまか私のどちらかに変身すると!?」

アトゥが彼女らしからぬ狼狽で拓斗に詰め寄る。

半分涙目な辺りかなりショックを受けている様子だ。それもそうだろう。アトゥとヴィットーリオの中は犬猿と評するに余るほど悪い。

とかく汚泥のアトゥという英雄はヴィットーリオという存在の全てを嫌っているのだ。

にもかかわらず影武者となるなど言語道断の行い。

ヴィットーリオが自分に変身することを拒否すれば彼はアトゥが敬愛する拓斗に変身するだろう。

逆に拓斗に変身することを拒否すれば、彼は嬉々としてアトゥに変身し、その一挙手一投足を演じてみせることは間違いない。

どちらに転んでも最悪極まりない。

そしてこれは拓斗の王としての決定であるが故に、否定することは許されない。

袋のネズミとはこのこと。アトゥの顔が絶望に染まる。

「ほうほうなるほど、ではではさっそくぅ――」

そんな態度をしているから隙をつかれるのだとははたして誰の感想なのだろうか。

ヴィットーリオが心底うれしそうに、本当に心から幸福を感じているかのように満面の笑みを浮かべると、突如両手を奇妙に動かし奇異なる踊りを始める。

そして彼の輪郭がジジジと歪み、そこに現れたのは……

「ふふふ。こんな感じでどうかなアトゥ。僕だよ、キミの主のイラ=タクトだよ」

本人とうり二つの姿、だが言いようのないうさんくささをその顔に浮かべた伊良拓斗がそこに現れたのであった。

「おぎゃあああああああ!」

「「「うわっ!」」」

突如女性があげるにしては品がなさ過ぎる叫び声とともにうずくまるアトゥ。

普段なら見せぬであろうその反応にダークエルフたちはおろか彼女との付き合いが長い拓斗ですらなんとも言えぬ表情を浮かべる。

だが周りが引いていることなど今のアトゥには関係ないらしい。

彼女はすさまじい勢いで顔を上げると、まるで飛びかからんばかりの勢いで偽イラ=タクト……すなわちヴィットーリオへと詰め寄る。

「ちょ、ちょっと何やってるんですかあなたぁぁぁ!? よ、よりにもよって拓斗さまに! 不敬です! あまりにも不敬! 今すぐその偽装をやめなさい!」

「え~? あんだってぇ? 吾輩最近耳が遠くて~、キンキンとうるさい小娘の戯れ言がどうにもこうにも理解できぬのでありまぁぁっす!」

「ぐぬぬ……拓斗さまの姿ではなかったら今すぐぶん殴ってるのに……」

拓斗の姿で心底うれしそうに笑うヴィットーリオ。

殴りたいが殴れない、そう言わんばかりにいつの間にか出した触手をざわざわと蠢かせるアトゥ。

これだからこの二人を交えて会議するのいやなんだよなぁ……。

予想していた終了時間を後ろにずらしながら、拓斗はまずはアトゥをなだめることを先決とする。

「まぁまぁ落ち着いてアトゥ。どちらにしろこれ以上の作戦は思いつかなかったしさ。僕らの安全がこれで買えると思ったら安いものだよ。またあんなことにはなりたくないでしょ?」

「う、ぐぬぬ……それはそうですが。ううっ、拓斗さまぁぁぁ!」

よほど悔しかったのか、半泣きのまま拓斗にすがりつくアトゥをあやしながら、視線を自分の姿をしたヴィットーリオへと向ける。

偽装の効果は完璧だ。今は彼がわざとふざけた態度を取っているため簡単に見分けがつくが、本気で拓斗の演技をすれば違いなど分からないだろう。

システムによる変装が通常では見破れないことは、TRPG勢力に襲撃を受けたときにすでに理解している。

相手が看破系の能力を有してでもいない限り、この影が見破られることはない。

少なくとも、勇者ユウは今まで応対してた影武者の拓斗を本物だと思っている。

《出来損ない》の擬態もまた、ヴィットーリオと同じくかなり強固なものと言えた。

「吾輩、ちょっと楽しくなってきましたぞ! 今回の全陣営会談。実にエキサイティングかつワンダフルな結果になりそうですなぁっ!」

ヴィットーリオが乗り気になった。

今回の作戦、その唯一の懸念点はヴィットーリオの気まぐれだったのだが、その辺りは全勢力会談という特上の餌によってうまく興味を引くことができたみたいだ。

「しかしながらお一人で行かれるのは流石にいかがなものかと。王が供回りもつけずともなると軽んじる者も出てきましょう」

「もう一人は《出来損ない》だね。あの子も変化を持っているから僕かアトゥのどちらかに変化してもらうよ。そうすれば主と従者という形で体裁はとれる。勇者ユウも従者と主だけだから、別に目立ちもしないさ」

であれば……とモルタール老が納得する。

王の権威を低く見られることは許せぬが、理屈としては分かる。

しかしながら多少配下を連れていくべきでは? と思ったが、その言葉はこの老練な賢者の代わりにアトゥが先に質問をしてくれた。

「しかしながら拓斗さま? 別にかの勇者に合わせて少数で向かわなくても良いのでは? ダークエルフはさておき、万が一の弾よけに適当な配下を連れて行っても良いかと思いますが……」

「けどアトゥ。それだとどうしても足が遅くなる。それにこれから行く場所の事を考えるのなら、下手な配下を連れていっても邪魔にしかならないよ」

「拓斗さまの顔と声で喋るんじゃねぇ! ぶち殺すぞ!」

「う~ん! その罵声がここちよい!」

「アトゥ、あんまりそういう言葉遣いは……」

「はっ! も、申し訳ございません拓斗さま!」

「見ていて飽きませんなぁ、このまな板は」

説明をそのままヴィットーリオに取られてしまったのは別に良い。

むしろ説明してくれるだけありがたいのだが、事あるごとにアトゥを煽るのはやめて欲しいのが本音だ。

ただまぁ変に自分がここで仲裁に入ってもまた元の木阿弥になるだろう事は間違いないので、さっさと話を強引に進めることにする。

「ヴィットーリオ。とりあえずまだまだ時間はあるから大丈夫だと思うけど、準備だけはしておいてね。《偽装》の訓練は……まぁスキルによるものだから気にする必要はないか」

全陣営会談の開催日時はまだまだ先だ。

向こうの言い分を信じるのであればそれこそ全勢力に話をつけに行っているのだから時間もかかろうというものだ。

であればその間に諸々の準備もできよう。

フォーンカヴンとの連携を強化したり、今後の方針を検討したりするも良し。

優との情報交換を密にして、まだ自分たちが知らなかった情報や知見を得るも良し。

イベントは山積みではあったが、騒がしくなるまでもう少し猶予があると言えた。

「ふむふむ。では吾輩はヨナヨナくんの様子でも見てきますかなぁ! 偉大なるイラ=タクトさまはいかがなさるので?」

「僕はまぁ、君が手に入れた都市、セルドーチの運営かな。あー、でもヨナヨナにも一度会いに行った方がいいかな? どこかの誰かさんがいろいろ無理難題を押しつけているみたいだし」

やるべき事はいくつかあるが、喫緊の問題は国内の運営だ。

少なくとも大まかな方針は決めておくべきだろう。特に今回新しく支配下に置くこととなったセルドーチの街とその周辺地域だ。

釣った魚に餌をやらぬ男はなんとやらではないが、少なくともかの地かの街をそのまま放置しておく事などできない。

巨大な地域であるが故に管理が大変なのは事実だが、それは同時に見返りが大きい事も意味するのだ。

今後マイノグーラという国家がこの世界で唯一の覇を唱えるためには、その橋頭堡としてセルドーチの支配を盤石にすることは避けて通れない道だった。

「がんばですぞ!」

他人事の様にヴィットーリオが激励してくる。その態度がまた癪に障ったのかすさまじい表情でアトゥが彼をにらみつける。

ダークエルフたちは一様に疲れた表情を見せている。おそらくこの後個別に陳情が上ってくるだろう。

もちろん今後ヴィットーリオとアトゥを同じ会議に出席させないようにとの要望だ。

言われずとも……ではあったが。

「とりあえず、そういう感じで……」

珍しく曖昧な言葉を締めとした拓斗に対しいくつかの同情的な視線が飛んでくる。

気疲れはしたが、方針が決まっただけ良しとしよう。

拓斗はそう己に言い聞かせるのであった。

=Eterpedia============

【偽装・擬態】ユニット能力

これらの能力はプレイヤーが指定したユニットの外見へ一時的にユニットを変化させることができます。

変化後のユニットは見た目通りの振る舞いを行いますが、戦闘能力は元のユニットのままとなります。

味方ユニットに変化させることで敵の戦力調査の攪乱や、敵ユニットに変化させることで敵地の調査などを行うことが出来ます。

これらの能力は《看破》系の能力を持つユニットや建物で見破ることができ、《看破》された瞬間に即座に解除されます。

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