軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28:双子の姉は動き出す

差し込む陽の光と、庭から聞こえる小鳥の 囀(さえず) りに目を覚ますと、ディアナの身体は温かな腕に包まれていた。

状況が理解出来ず、ぱちくりと目を瞬かせる。

身体を包み込む、柔らかなシーツ。

それ以上に、温かな素肌に触れている。

「おはよう、ディアナ」

顔を上げれば、すぐそこに蕩けるようなアランの笑顔があった。

「あ……っ」

ようやく状況を飲み込んだディアナの頬が、赤く染まっていく。

(そうだわ、私、昨夜、アラン様と……っ)

ぐいと逞しい腕に引き寄せられて、広い胸に顔を埋める。

ドクドクと、心臓がうるさく鳴り続けている。

誰かと結婚したことも、初夜でさえも、これが初めてではないはずなのに、まるで生娘のように緊張して、身体が強張ってしまう。

事実この生では初めてだったのだが、それ以上に、今までディアナが知る夫婦生活とは、何もかもが違っていた。

(あ、あんなに激しく、熱く、求められるなんて……)

思い出すだけで、顔が熱くなってくる。

あれが夫婦の営みならば、今までディアナが認識していた行為は、一体何だったのか。

耳元で熱く囁く、アランの声。

何度も自分を求め、浴びるほどの口付けを降らせていた。

一晩中、求められるままに……最後は、もはや記憶さえ定かではない。

そうして、朝目が覚めると、一糸纏わぬ姿でアランの腕に抱かれていた。

「……っ」

アランの指が、ディアナの頬を撫でる。

優しく、慈しむような動き。

ディアナを見つめるアランの瞳も、また柔らかな光を湛えていた。

「ディアナ、身体は大丈夫か?」

「はい……」

アランの腕の中で、ディアナが小さく頷く。

あまりに華奢で、あまりに儚い妻の姿が、アランの脳裏に焼き付いていた。

夫婦の寝室、燭台の灯りと月明かりだけが差し込む部屋で、浮かび上がった妻の白い肌。

その美しさに理性が飛んでしまったものの、あまりの細さに、自分が抱いては壊れてしまうのではないか……そんな不安が常に纏わり付いていた。

妻の細い身体を優しく、それで居て力強く、抱きしめる。

既に、日は高いところまで上がっていた。

しかし、新婚夫婦の寝室に──幕が下りる気配はない。

二人が食事の為にようやく部屋を出たのは、初夜翌日の夜のことだった。

ベッドから立ち上がろうとしたディアナは足腰が立たず、アランが抱き上げて運ぶ羽目になった。

(別邸に来ていて、良かったわ……)

こんな姿、本邸の使用人達にはとても見せられない。

昔馴染みの使用人達に見られるのも恥ずかしいし、新たに入ってきた使用人達にあることないこと噂されるのも億劫だ。

広い食堂、大きなテーブル。

そこに並んだ料理達を前にしても、ディアナの食欲はあまり掻き立てられない。

というのも、アランの膝上に座った状態では、緊張して食事どころではないからだ。

「食欲がないなら、食べさせてあげようか?」

「だ、大丈夫です!」

耳元で響くアランの声は、蕩けるように甘い。

アランや壁際で見守る使用人達に心配をかけてはならないと、なんとか果物にだけ手を伸ばすが、果実の甘みがまったく分からないほどだ。

口の中で弾けるベリーの香りは、確かにあるというのに。

(……こんなに幸せで、いいのかしら)

一度目の人生、そして二度目の人生を合わせ、ここまで満ち足りた時間は経験したことがない。

それも全て、アランがいてくれるからこそ……そう思えば、ディアナの胸が熱くなる。

気を抜けば、今すぐにでも目元が潤んできそうになる。

前世であれほど恋焦がれ、訃報に涙した人が、夫として確かにここに居るのだ。

「どうした、ディアナ」

そんなディアナの機微を読み取ったのか、アランが覗き込んでくる。

ブルーグレーの瞳に真っ直ぐ見つめられて、ディアナがおずおずと唇を開いた。

「幸せ過ぎて、怖いくらいだな……って」

ぽつりと零した言葉に、一瞬目を瞬かせた後、アランが表情を綻ばせる。

「そうだな……俺も、同感だ」

膝上に座らせた年若い妻を優しく抱きしめ、その背を撫でる。

「でも、これは夢じゃない……そうだろう?」

「……っ、はい!!」

アランの言葉に、ディアナが力強く頷く。

(アラン様は、間違いなく生きている……生きて、今ここに居るもの……)

この幸せを手に入れる為に、二度目の人生、自分は頑張ってきたんだ。

そう、自らに言い聞かせる。

大きな掌が優しくディアナの頬を撫で、こつんと、額がぶつかり合う。

「この現実が永遠に続くように、俺も努力しよう」

「アラン様……」

彼が居るなら、きっとどんな困難でも乗り越えられる。

いや、乗り越えてみせる。

そう改めて決意を固めたディアナの耳に、

「──コホン」

わざとらしい咳払いが響いた。

顔を上げれば、護衛騎士のイアンがどこか困ったような表情で、視線を逸らしている。

「どうしたの、イアン」

「いや、目のやり場に困るというか、見てられないというか……」

そこでようやく、自らがアランの膝の上で甘えていることに気が付いて、ディアナが頬を染める。

慌てて取り繕おうとしたところで、今更公爵家の跡取りとしての威厳なんて、放ちようがない。

(やっぱり、別邸に来ていて正解だったわ……)

そんなディアナにやれやれと首を振りながら、イアンが手にした封筒を差し出した。

「調査の結果、出ているぜ」

「ありがとう、目を通しておくわ」

書類を受け取るディアナの瞳が、強く輝く。

その様子に目を細めながら、アランがディアナの手元を覗き込んだ。

「調査とは?」

「何をするにも、まずは先立つ物が必要ですから」

「商会運営の話か?」

「そうですね、それにも関わってくる案件です」

アランの言葉に頷くディアナの顔は、誰もが噂を一笑に付すほどに、眩しい笑顔を浮かべていた。

「アラン様、一緒に海を見に行きませんか?」

今は廃絶した五大貴族の一つ、旧モンクリーフ公爵領にある小さな港町。

そこを手に入れることが出来れば、きっとこれからの勢力図が大きく変わっていくことだろう。

ディアナの瞳は、未来を見据える決意に満ち溢れていた。