軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十七話 東條綾香の恋②

『それで、大槻君とは上手く行ってる?』

スマホ越しから聞こえてくる咲の声に、私は少し弾んだ声で答える。

「うん、多分上手くいってると思うよ? 今日はお互いに膝枕をやったし」

『おぉ! 作戦通りガンガン攻めてますね綾香さん』

「うん、今のところ『恋人の練習作戦』は順調です!」

嘘をついてしまったという晴翔君の罪悪感を払拭して、純粋に私の事を好きになってもらう作戦。

題して『恋人の練習作戦』

この作戦で、私は晴翔君に猛アピールして告白して貰う。

私は自室のベッドに腰掛けながら、咲に相談を続ける。

「取り敢えずお互いに名前で呼び合うようになったし、晴翔君の口調も敬語じゃなくなったよ。それに最初の『恋人の練習』は好きってお互いに言い合った」

『それで? 大槻君の反応はどうだった?』

「それがね、晴翔君が私に『好き』って言ってくれた時ね、凄く真剣な目で言ってくれてね、その時の表情が凄く格好良すぎて、私ちょっと記憶飛んじゃった」

『……さいですか。ごめん綾香、私ちょっとコーヒー飲んでくる』

「この時間に飲んだら寝れなくなっちゃわない?」

窓の外に目を向ければ外はすっかり真っ暗だ。

そんな時間にコーヒーなんて飲んじゃったら、夜寝れなくて昼夜逆転しちゃう。

いくら今が夏休みだからって、あまり生活のリズムを崩すのは良くないと思う。

「寝不足はお肌に良くないよ?」

『心配ありがと、でも今は一刻も早く口の中を苦くしたい気分なのよ』

「ふ〜ん? そうなの?」

『ん、だからちょっとだけ待ってて』

咲がそう言うと、スマホ越しにガタガタと動く音が聞こえてきた。

咲がコーヒーを淹れている間、私は今日、晴翔君と過ごした時間を思い返す。

私にとって人生初の膝枕。

晴翔君の膝枕は、少し硬くて、でも暖かくて。

凄くドキドキして恥ずかしかったけど、でもなんだか落ち着くような、心が満たされるような。

凄く、幸せな時間だった。

頭を撫でられた時は、あまりの恥ずかしさに心臓が止まるかと思ったけど……でも、あれはあれで、すごく気持ち良かった。

あれはヤバいかも。

もし晴翔君の本当の彼女になれたら、毎日膝枕をおねだりしちゃうかもしれない。それくらいに心地よかった。

あと、晴翔君を膝枕した時もヤバかったなぁ。

彼を膝枕すると、なんだか可愛く思えてしまって、太腿の上で頭を撫でていると、まるで晴翔君が自分のものになっちゃったみたいに錯覚しちゃった。

それに、晴翔君の耳たぶが凄く触り心地良かったのは新発見。

彼の耳たぶは凄くフニフニしてて、それに少しひんやりもしてて。

ずっと触ってるともちもちフワフワのパン生地みたいに思えてしまって、ついつい齧りたくなってしまった。

まぁ、晴翔君には「かじらないでよ?」って言われちゃったんだけどね。

でも、いつか……それこそ本物の彼女になったら、その時は少しくらい、齧っても良いよね? 甘噛みとかなら怒られないよね?

そんな野望を密かに抱いていると、コーヒーを淹れてきた咲が部屋に戻ってきた音がスマホから聞こえてくる。

『お待たせ〜、それでさっきの話の続きだけど『恋人の練習』は次何をする予定? 好きだよって言い合って、膝枕もして、次は何か考えてる?』

「あ、うん。それなんだけどね。実は今日、晴翔君からデートに誘われたの」

私がそう言うと、少しむせたように咳き込む咲の声が聞こえてくる。

大丈夫かな? コーヒーが気管に入っちゃった?

『ごほっごほっ……え? なになに? 大槻君からデートの誘い?』

「うん」

『ほーん? それで、誘われたデートの内容は?』

スマホ越しに咲のウキウキと楽しそうな声が聞こえてくる。

私は晴翔君からデートに誘われた時の場面を思い出して、少しニヤけながら咲に報告した。

「今度ね、晴翔君と一緒にアイス探しデートするの」

『……うん? なんか、随分斬新なデートだね?』

疑問に満ちた咲の声に、私は晴翔君とアイス探しデートをする事になった経緯を説明する。

前に晴翔君とスーパーに買い物に行った時、涼太に限定味のアイスを食べられてしまった事を嘆いていたら、今度一緒に探そうと言ってくれた。

その事を晴翔君は覚えてくれていて、来週2人で限定味アイスを探す事になった。

『あぁ〜あのアイスねぇ。確かにあれは凄く美味しかったわ』

「え? 咲も食べた事あるの?」

『うん。近くのスーパー3軒くらいはしごしてやっと買えた。ちょうどラス1で運が良かったわ』

「やっぱり中々売ってないよね。来週見つかるかなぁ」

『でも簡単に見つからない方がデートが長引いて良いんじゃない?』

「それはそうなんだけど……やっぱりあのアイスも食べたいし……」

『欲張り綾香だね』

「うぅ……」

揶揄うように行ってくる咲に私は唇を尖らせる。

だってあのアイスを食べた皆が美味しかったって言うんだもん! 食べたくなるのは当然だよ!

『まぁ、取り敢えずデートはできるんだから良いじゃない』

「まぁね。あ、それでさ、ちょっと咲の意見を聞きたいんだけど……」

『ん? なになに?』

「晴翔君からデートに誘ってきてくれたって事は、結構私のアピールが効いてるって事かな?」

ちょっとドキドキしながら咲に聞いてみる。

晴翔君の方から行動を起こしてくれるって事は、私の事を意識し始めているって事だよね?

でも、咲は私よりも慎重な意見を口にする。

『う〜ん、どうだろうね。その可能性もあるし、もしかしたら綾香の部屋で2人きりでいる事に、ちょっと耐えられなくなってきているのかもしれない』

「えっ!? なんで!? 私、晴翔君に嫌われるような事してないよ!?」

ちょっと積極的に迫っちゃったけど、でも嫌がってる感じはなかったし。

ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くはしてたけど……。

急に不安に押しつぶされそうになる私に、咲は「嫌いにはなってないと思うけど」と言う。

『ほら、大槻君も思春期の男子なわけじゃん? そこに綾香みたいな女子が密室で迫ってくる事に、色々耐えられなくなったとか』

「色々耐えられなく? どういう事?」

私は咲が言っている事がいまいちピンとこなくて、首を傾げる。

そんな私に咲も少し困ったような感じで話す。

『う〜ん、なんていうか……まぁ、綾香はこのまま大槻君にアピールし続ければ良いと思うよ』

「そう? それで大丈夫?」

咲の言い方に少し不安が残るんだけど?

『それよりも、そのアイス探しデート? はいろんなお店を回るんでしょ?』

「うん、そのつもり。食品売り場があるショッピングモールとか行けたら良いなって思ってるよ」

『良いじゃん良いじゃん! さりげなくウィンドウショッピングデートもできるって事だね』

「そう! そうなの!」

限定味のアイスを探すのは、あくまでデートの口実。

本当の目的は晴翔君と一緒にショッピングを楽しむ事!

『服とか見てどっちが似合う? とかやっちゃうわけ?』

「うーん、でもあまり面倒臭いって晴翔君に思われたくないし……でも、晴翔君に服を選んで欲しいって気持ちもあるし……」

『そこは“恋人の練習”を使えば良いんじゃない? 彼女にはどんな服を着て欲しい? って可愛く聞いちゃえば良いのよ』

「それあり! 咲天才!!」

私は思わず拍手しちゃう。

スマホからは咲の「ふふーん、どやぁ」と得意げな声が聞こえてくる。

その後も、私は咲と一緒に“アイス探しデート”について話し合った。

ふと視線を上げて、部屋の壁に掛けている時計に目を向けると、結構いい時間になっている事に気がつく。

咲との会話に夢中になり過ぎて、時間を忘れちゃってた。

「そろそろ寝る?」

『ん? あぁ、もうこんな時間か。そだね』

「あ、そうだ。そういえば明後日て何か予定ある?」

私は咲に伝えないといけない事があるのを思い出す。

『明後日? 土曜日か、ちょっと待って……いや、特に何も予定ないけど何かあるん?』

「えっとね、その日家の中庭でバーベキューをやるんだけど、咲も来ない?」

『え? いいの? 行きたい行きたい!』

「うん、実はママがね、最近咲に会ってないから誘ったらって」

咲が今の家に引っ越す前は、私の家のすぐ近くに住んでいた。

だからよく家に遊びに来ていて、ママやパパ、涼太とも面識がある。

特にママは咲の事をとても気に入っていて、前はよく3人で買い物とかにも行っていた。

『本当に!? 私も郁恵ママに久しぶりに会いたい〜!』

「じゃあ、明後日は咲が来るって伝えておくよ」

『うん! よろしく〜』

「そうだ、あとね。その日は晴翔君も来るんだけど、大丈夫?」

私がそう言うと、咲が少し驚いたような声を出す。

ちなみに晴翔君には、咲が来るかも知れないという事は既に伝えてある。

『そうなの? 私は招かれる側だし全然問題ないけど、逆に綾香はいいの? 私、邪魔じゃない?』

少し心配そうに言う咲に、私は咲から見えないのに、思わず首を振りながら言葉を返す。

「邪魔な事なんてないよ! 逆に咲が居てくれたら心強いよ」

『そう? なら明後日、楽しみにしておく』

「うん!」

『綾香と大槻君がイチャイチャしてる所をとくと拝見させていただきますので』

揶揄うように言う咲の言葉に、少しだけ私の顔が熱くなる。

「そ、そんな事しないよ! さすがにパパやママがいる前で晴翔君には迫れないよ!」

『と言うことは、郁恵ママや修一さんの目がなければ、大槻君とイチャ付きたいと?』

「そ、それは……晴翔君がそうしたいなら、私は……」

そうなった時のことを想像しちゃって、恥ずかしくなった私の言葉は段々と小さくなってしまう。

『はぁ〜なんか今日のコーヒーはすごく美味しく感じますわ』

スマホ越しに「ぷはぁ〜」と言う咲の声が聞こえてくる。

「カフェインの取り過ぎには注意だよ?」

『はいはい、心配ありがと。それじゃあ切るよ。また明後日にね』

「うん、おやすみ」

私は咲からの「おやすみ〜」と言う声を聞いてから、通話を終了する。

明後日は家族と、それに加えて晴翔君と咲とでバーベキュー。

そして来週は晴翔君とデート。

今年の夏は今までよりも忙しく、楽しく、そして、心弾む、そんな夏休みを過ごしちゃってるなぁ。