軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話 東條綾香の想い③

スーパーへ続く道を大槻君と並んで歩きながら、私は限定味アイスへの未練を断ち切る。

今夏限定アップルパイ味。

SNSとかでも話題になっていて、近くのコンビニやスーパーを回って苦労の末やっと手に入れた至高のアイス。

夏休みのとっておきに、大切に冷凍庫の奥底にしまってたのに……。

で、でも! アイスのお陰で大槻君と2人の時間を作れたんだし、ポジティブに捉えないと!

犠牲になったアイスの為にも!

「そう言えば、さっき郁恵さんが持ってたアイスって、最近結構話題になってたやつですよね?」

「あ、うん。大槻君も知ってるの?」

「えぇ、この前たまたまコンビニに売ってるのを見かけて買って食べてみたんですけど、とても美味しかったですよ」

「……え? 大槻君はあのアイス、食べた事あるの?」

「はい、あれ? 綾香さんはまだ食べた事なかったんですか?」

お、大槻君の裏切り者ぉ〜!

私は真夏の炎天下の中、町中のコンビニやスーパーを渡り歩いてやっと買えたって言うのに……。

「まだ、食べた事ないです……食べたかったです……」

「あはは……じゃあ、今度見かけたら東條さんのために確保しておきますよ」

よっぽど私が落ち込んだ表情をしていたのか、大槻君が気遣うように言ってくれる。

なんか、大槻君に優しくされて心地よいかも……?

もうちょっと落ち込んでみようかな?

「あのアイス、ずっと楽しみにしてて……夢にも見るくらいに食べるのを楽しみにしてたんだけど……」

「あの……うちの近くのコンビニが結構穴場らしくて、まだ売ってるかもしれないので今度見てみますよ?」

「でも、ネットで見たらもうどこも売り切れ続出って……」

「じゃあ、今度一緒にアイス探しの旅にでも行きますか?」

冗談ぽく苦笑を浮かべながら提案してくれる大槻君に、私は堪えきれずに落ち込んだフリを止めて、満面の笑みを浮かべてしまう。

「本当!?」

「はい、俺もまたあのアイス食べたいですし」

やったっ!

また大槻君とデートする予定をゲットしちゃった!

なんか、わざと落ち込んだフリとかして、ちょっと嘘ついちゃったみたいで大槻君には悪いけど……。

でも、これも恋愛の駆け引き!

この恋を実らせるためには、頑張らないと!

「まだ売ってるかな?」

「町中探して、なければ隣町まで行って。一日中探し回れば、さすがに見つかると思いますけど?」

「そうだよね。一日中さがせばきっと見つかるよね! 一日中……」

大槻君と一日中、一緒にいられる。

どうしよう。アイスは食べたいけど、見つからずにずっと大槻君と探していたい。

うぅ……恋愛って苦悩の連続なんだなぁ。

私は恋愛の難しさを改めて痛感する。

だけどまさか、限定味のアイスがきっかけで大槻君とデートの約束が出来るなんて。

もしかして、今日の私のラッキーアイテムは限定味アイスだったのかもしれない。

朝の星座占いちゃんと見ておけばよかった。

「ありがとう。大槻君」

「いえいえ、東條さんにもあのアイスの美味しさを味わって欲しいですからね」

柔らかい笑みを浮かべながらそう言う大槻君。

あぁ、優しいなぁ。

なんか彼の笑顔を見てるだけで、心が温かくなるのを感じる。

「大槻君にお礼しないと。明日の事もあるし」

大槻君の優しさに甘えてちゃってるから、私も何か彼にお返しがしたい。

「大槻君は何かない? 私にして欲しい事とか、欲しい物とか?」

「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」

「私が気にしちゃうから。なんでも言って? 大槻君のためなら、その……何でもしてあげるよ?」

いつもは大人な雰囲気で、我儘とか絶対に言わなそうな大槻君が私に色々と、アレやってコレやってって言ってきたら。

どうしよう、想像しただけですごく可愛い!

そんなこと言われたら、私は全部言うこと聞いちゃう。とことん尽くしちゃう!

「じゃあ、えと……今は特に思いつかないので、ちょっと考えておきますね」

「そっか……うん。遠慮とかしないでね?」

「はい、分かりました」

笑いながら頷いてくれる大槻君。

そっか……特にして欲しいことは無いのか……。

私は沢山あるのにな。

大槻君にして欲しい事。

大槻君と一緒にやりたい事。

今だって、この前みたいに大槻君と手を繋いで歩きたいのにな……。

私はさりげなく、彼の左手にそっと視線を送る。

そう言えば、ネットで恋愛の駆け引きを調べた時に、軽めのボディタッチが有効的って書いてあったな。

相手の服の裾を摘んで、チョンチョンって軽く引っ張ると、男性はグッとくるみたい。

よ、よし!

私も大槻君の腕の袖を軽く摘んで、彼をグッとさせちゃおう。

意を決して、私は大槻君の左腕の袖に手を伸ばす。

そして、あともう少しで袖に手が届きそうという時。

急に大槻君の左腕がサッと伸びてきて、私の左肩を優しく抱き寄せた。

「ッ!?」

え? なになに!? 何が起きたの!?

突然起きた出来事に、私の心臓はバクバクと早鐘を打つ。

すると、状況が掴めず混乱している私達の近くを、結構な速度を出した軽トラックが走り抜けていった。

そこで私はやっと気が付く。

大槻君はトラックから私を守る為に、立ち位置を入れ替えてくれたんだ。

「あ、ありがとう」

「いえ、自分も気が付かずにすみません」

そう言ったあと、大槻君はさりげなく私を誘導して、彼が車道側になるようにする。

な、なんか守られてる気がしてドキドキする……。

私は多分赤くなっている顔を大槻君に見られないように俯きながら、静かに彼の隣を歩く。

袖をチョンチョンしようと思ってたのに、今そんな事をしたら、心臓がもたないよ……。

胸の内でバクバクと暴れている心臓を落ち着かせるように、私は大槻君に気づかれないように小さく深呼吸を繰り返した。

―…―…―…―…―…―…―…―…―

結局、大槻君の袖をチョンチョンできないまま、私達はスーパーにたどり着いてしまった。

「取り敢えず、お弁当に入れるおかずは、卵焼きと唐揚げ、それとカップグラタンですかね?」

「うん、そうだね」

入り口に置いてあるカゴを手に取りながら、大槻君が確認するように言う。

「あとは彩が欲しいよね」

「そうですね……お? ミニトマトが1パック98円じゃないか! お弁当用にどうです?」

少し小さめのパックだが、値段の割には色合いの良い美味しそうなミニトマトが詰まった容器を手に持って大槻君が私の方を向く。

前に胡麻油を買った時も思ったけど、大槻君って安い物を見ると目を無邪気に輝かせるんだよね。

そんな表情が凄く可愛くて、普段の大人っぽい雰囲気とのギャップでドキッとしちゃう。

「うん。それは買いだね。あ、あとお弁当の野菜でコールスローを作るのはどうかな?」

「良いですね。じゃあ、キャベツを買わないと…….あぁ、今日は198円になってる……昨日だったら78円で買えてたのに……」

キャベツ売り場の値札を見た大槻君が、凄く悔しそうな顔をする。

「しょ、しょうがないよ。この値段で我慢しよ?」

「そう……ですね」

スーパーで買い物をする大槻君って、少し人格変わるのかな?

なんか、いつも見ない表情を浮かべてくれるから、ついつい見入ってしまう。

「あ! 東條さん。大葉10枚入りが安くなってますよ! 買いましょう」

「本当だね。でも、大葉ってどうやって使えば良いかな?」

私の中の大葉は、素麺とかの薬味で出てくるイメージだ。

お弁当のおかずにするには、どうやって使えば良いんだろう?

そう思いながら私が大槻君に質問すると、彼はいくつかメニューを提案してくれる。

「そうですね……大葉を包んだ鶏ハムとか、あとは、おにぎりに味噌と一緒に包むとか、あとは豚バラで梅肉と一緒に巻いて焼くのも美味しいと思いますよ?」

「それ全部美味しそうだね!」

「じゃあ、少しずつ作ってお弁当に入れましょうか」

「うん!」

大槻君が料理の話をすると、全部おいしく聞こえちゃうから不思議だなぁ。

「もちぶたバラ肉100g、198円……う〜ん、高いか……いや、しかし、もちぶただと考えると安いか……う〜ん、国産豚は贅沢品か……う〜ん」

精肉コーナーで真剣な表情を浮かべる大槻君。

その様子は完全に主夫で、私はクスッと笑みをこぼしてしまった。

「何だか、こうやってスーパーで一緒に買い物してると、同棲してるみたいだね」

冗談ぽく言うと、真剣な眼差しをお肉に向けていた大槻君がふと顔を上げて私を見る。

「東條さんと同棲してたら、俺は毎日料理をめちゃくちゃ頑張りますよ」

「そ、そうなの? でも、それはそれで困っちゃうなぁ。大槻君の料理は美味しいから、私食べすぎて太っちゃうよ」

「太った分だけ、俺の料理を美味しく食べてくれたわけですから、俺は嬉しいですけどね」

あ、悪魔だッ!

大槻君は優しい悪魔だッ!!

さっきまで、あんなに真剣な表情を浮かべてたのに、急にニコッて笑いながらそんな甘いことを言ったら、そんなのキュンってするに決まってるじゃない!

もし……もしも大槻君と同棲したら、私は1週間で人生MAX体重を更新する自信がある。

「それに、東條さんの可愛さは、そんな体型で損なわれるようなものじゃないですよ」

「……ッ!!」

お、大槻君が! 大槻君が怖い!!

え!? 大槻君、いま私のこと可愛いって言ってくれた?

なんで? どうしたの?

もしかして、スーパーの安い物を見てテンションがあがっちゃってるの?

大槻君の言葉を聞いて、私が硬直状態に陥っていると、彼もハッとした表情をした後に、気まずそうに視線を逸らした。

「あ、いや、その、すみません。ちょっと調子乗りました」

「う、ううん。全然……だよ」

しばし流れる気まずい沈黙。

どうしよう。何か話題を振って空気を変えないと!

そんな事を考えていると、大槻君の方が先に話し出してくれた。

「そういえば、さっき茎わかめが売ってましたよ? 見に行きましょうか?」

「あ……う、うん。そうだね…….」

うぅ、できれば茎わかめの事は忘れてて欲しかったなぁ……。

なんとも複雑な心境で、私は大槻君と買い物を続けた。