軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七話 先輩からの提案

放課後、皆藤と合流した晴翔と友哉。

三人は駅前のハンバーガーショップに入った。

「なんでも好きなの頼んでいいぞ」

レジカウンターにあるメニューを見上げている晴翔と友哉に、皆藤は太っ腹な発言をする。

先輩の言葉に、友哉は「じゃあお言葉に甘えて」とビッグなハンバーガーセットを注文する。

「大槻は何頼むんだ?」

「俺は、フライドポテトとドリンクのセットをお願いします」

「そんなのでいいのか? 遠慮すんなよ」

「いえ、そこまでお腹も空いてないので」

皆藤がどんな話をしたいのかが気になりすぎて、晴翔は食事どころではなかった。

皆藤は晴翔の表情をチラッと見てから「そっか」と呟き、三人分の注文を済ませる。

ちなみに皆藤は期間限定の肉肉しいハンバーガーセットを頼んでいた。

注文番号が書かれた札を手にした皆藤は、そのままレジカウンター脇にある階段を登り、2回の飲食スペースに向かう。

「あの隅っこの空いてるテーブルでいいか?」

飲食スペースの壁際を指差す皆藤に、晴翔と友哉は揃って頷く。

晴翔の隣に友哉が座り、対面に皆藤が座る。

「じゃあ、早速話をしようか」

皆藤は前置きすることなく、話を始めた。

「大槻は、今の東條さんの状況をどうにかしようと思ってるのか?」

単刀直入に話題を切り出す皆藤に晴翔は背筋を伸ばす。

「それは、告白が続いている状況をってことですよね?」

「そうだ」

「なんとかしたいとは思っています。でも、どうすれば告白が止むのか……」

難しい顔で口を閉ざす晴翔。

皆藤はそんな彼を腕を組んで見つめる。

「東條さんが今の状況になったのは、大槻が原因だっていうのは自覚してるのか?」

「それは、はい」

更衣室で佐藤に言われたことを思い出しながら晴翔は頷く。

「ただ、告白を止める方法が思いつかず……」

悩ましい表情を浮かべている晴翔。

そんな彼に皆藤は腕を組んだまま話しかける。

「東條さんはこれまで『恋愛に興味がないんじゃないか』という噂が流れてた。なんなら男に興味がない、なんて噂する奴もいたくらいだ」

皆藤のその言葉に、隣に座る友哉も「確かに」と同意を示した。

「夏休み前までの綾香はそんなだったな。男子を完全拒絶って感じで」

「そこに大槻が突然現れたわけだ」

皆藤は晴翔を指差す。

「東條さんが恋愛、異性にまったく興味なし、というなら諦められていた気持ちが、お前が東條さんの隣に現れたおかげで、男たちは色々と感情が荒れるわけだ」

そう言った後、皆藤は自虐めいた表情で笑った。

「ま、俺もその一人なんだけどな」

「……もしかして、また綾香に告白するつもりですか?」

警戒するように尋ねる晴翔に、皆藤は首を振った。

「さすがに、恋人がいる相手に告白するほど無神経じゃないさ」

そう言った後、彼はわずかに身を乗り出して晴翔を見た。

「ただ、お前に協力するためになら、告白するのもありかなとちょっと思ってる」

「協力するために告白? どういうことですか?」

怪訝な表情の晴翔に、皆藤は真剣な顔付きで話す。

「東條さんへの告白が増えたのは、彼女への告白が一種の流行りになっているのも原因だ」

「流行り?」

「お前と付き合う前は、もしかしたら告白が成功するかもしれないという可能性があった。でも今は、告白は失敗して当たり前だ」

「それがなんで流行りに繋がるんですか?」

成功する確率がゼロなら、むしろ告白を断念するのが普通ではないか。

そう言う晴翔に、皆藤は首を横に振る。

「結果がわかっていれば、精神的負担が減るだろ? それに、もしかしたら付き合えるかもなんていう期待も持たずに済むしな。フラれて当然だから、失敗しても恥ずかしくないしバカにもされない。つまり、告白へのハードルが下がるんだよ」

「でも、それって告白する意味があるんですか?」

「学園のアイドルと話をすることはできるだろ? 今までは遠くから眺めるだけだったのにな」

皆藤の言葉を聞いて、これまで黙って話を聞いていた友哉が「あぁ、そういうことか」と納得したように何度か頷く。

「ん? 何がわかったんだ?」

「綾香への告白は、アイドルの握手会と同じ感じってことだよ」

遠いステージか、画面の向こう側にしかいないアイドルと近付ける握手会。

それと同じような感覚で、みんな綾香へ告白しているのではないかと友哉が説明する。

彼の説明を皆藤も「だな」と肯定する。

「男子たちにとって告白は、学園のアイドルに手軽に近付けるイベントになってるんだよ」

「イベントって……」

「まぁ、酷い話だよな。普通に考えたら、彼氏がいる女子に告白なんてありえないよな」

綾香は現状の告白ラッシュに戸惑い困っている。

しかし、彼女は告白というものが、どれだけ勇気を必要とするのか晴翔との恋愛で痛感したため、告白してくる人たちを無碍にすることもできないと、ちゃんと対応しようとしている。

そのことが、より一層彼女の精神的負担になっていた。

「なのに、そんな流行ってるからって理由で告白するなんて」

「中には、本当に未練を断ち切るために告白してる奴もいるだろうけどな。あと、彼氏持ちでも関係ないってアプローチする奴もな」

皆藤の言葉に、晴翔は先日雫がブチ切れした先輩を思い出す。

「……でも。その告白を止めるのと、皆藤先輩が綾香に告白することに何の関係が?」

「全校生徒の注目を浴びるような場所で、俺がまた東條さんに告白する。そして、その途中で大槻、お前が俺を止めるんだよ」

「告白の途中で?」

「そうだ。俺が東條さんから返事をもらう前に、お前が俺に『迷惑だからもうやめてくれ』って怒る。それを俺は素直に受け入れて『すまなかった』って謝るわけだ」

皆藤は、乗り出していた身体を今度は背もたれに預ける。

「それを注目を浴びてる大勢の前でやることで、告白は迷惑だってことをみんなに認識させる。そして俺が大槻に謝ることで、次の奴が告白し辛くなる。って作戦だ」

皆藤の説明が終わったところで、ちょうど注文していたハンバーガーを店員さんが運んできてくれた。

「ごゆっくりどうぞ」とお辞儀して去っていく店員の背中を目で追っていた皆藤が、ゆっくりと晴翔へ視線を戻す。

「俺が大槻の指摘を素直に受け入れて頭を下げれば、それ以降の告白する奴は、お前への謝罪もセットになる。自分に非があることを認めながら告白する奴はそうそういないだろ」

皆藤がそう話を締め括ると、友哉も腕を組んで「うんうん」と頷いた。

「ハルに頭を下げるのは、男としてのプライドが許さないからな」

真面目な表情で言う友哉の肩を軽く小突いてから、晴翔は皆藤と向き合う。

「その告白に先輩のメリットはあるんですか?」

大勢の前で綾香に告白し、その返事をもらう前に晴翔に怒られる。そして、それを素直に受け入れて謝罪する。

確かに、綾香への告白がイベント化している現状を変えるのには充分なインパクトがありそうだ。しかし、それと同時に皆藤は大きな恥をかいてしまう。

それは本人も自覚しているはずなのに、なぜそんな協力をしてくれるのか。

彼の考えを窺うように晴翔が見ていると、皆藤が苦笑した。

「言っただろ? 俺も東條さんに恋人ができて感情が荒れてる奴の一人だって」

「……つまり、先輩も綾香への未練を断ち切りたいんですか?」

晴翔の問いかけに、皆藤はポテトを一本食べてから答える。

「そうだ。しかもお前に協力するという建前で、罪悪感を減らそうとしてる卑怯な男だよ」

皆藤は口元をうっすらと歪め、自分を卑下するように言う。

その姿に、晴翔の『皆藤先輩』という人物への印象が変わる。

以前までは、好きな人に指輪を用意して公開プロポーズをする、行動力はあるがちょっとヤバめの人。という印象だった。

しかし今は、自分に正直で曲がったことが嫌いな、まっすぐな人。という印象に変わっていた。

皆藤先輩の中に、晴翔は石蔵と似たようなものを感じとり少し好感を抱く。

「皆藤先輩、協力ありがとうございます」

彼に対して深く頭を下げる晴翔。

「おう。じゃあ、この作戦でいいってことだな」

「はい」

皆藤が提案した『大勢の前で告白作戦』に同意する晴翔。そこで、友哉が口を開く。

「でも、大勢の前で告白って、どのタイミングがいいんだ? できるだけ目立つ方がいいってことだよな?」

「お前ら、来週の体育祭で混合リレーに出るだろ? その表彰式で告白すればいい」

混合リレーは皆藤も出場するらしく、晴翔、綾香も揃っているため絶好のタイミングになる。

「全校生徒の注目を集められるチャンスだ」

「確かに。でも、表彰台に上がれるのは上位3チームまでですよね?」

上位3チームに入るためには、予選、準決勝、決勝と勝ち上がらなくてはならない。

そのことに、少し不安そうな表情の晴翔。

それを見て皆藤が不敵に笑みを浮かべた。

「自信がないのか? お前ら、結構熱心に練習してるんだろ?」

挑発的な皆藤の言葉に、晴翔の眉がピクッと反応する。それを見て、皆藤がさらに言葉を重ねる。

「まぁ、お前らが表彰台に立てなくても大丈夫だ」

自信に満ち溢れた表情を浮かべる皆藤。

「俺のチームは絶対に表彰台に上がるからな」

「……俺たちも絶対に表彰台に上がりますので」

はっきりと言葉を返した晴翔。

どうやら彼の負けず嫌い根性に火がついたらしく、皆藤に負けず劣らずな自信に満ちた笑みを浮かべる。

「そうか。なら両方表彰台の上で作戦決行だな。その方が注目を集められる」

「そうですね」

体育祭の男女混合リレー。その表彰式で公開告白をするということで話がまとまり、晴翔たちは目の前のポテトやハンバーガーを食べ始める。

皆藤は、期間限定の肉肉しいハンバーガーを頬張り、ジュースを一口飲んでから再び晴翔に話をする。

「で、お前が俺に聞きたいことっていうのはなんだ?」

その問いかけに、晴翔は口に運ぼうとしていたポテトを一旦戻す。

「あぁ、それは……実は」

晴翔の中で皆藤は信頼できる人物という印象になっていた。

少なくとも、今の綾香との関係を明かしても言いふらしたりはしないだろう。

「俺、綾香と婚約してるんです」

「…………は?」

晴翔の言葉に、皆藤はフライドポテトを摘んだままフリーズした。

「こん……やく?」

「はい」

晴翔は彼に、婚約に至るまでの経緯を簡単に説明した。

それを聞いて、皆藤は「はぁ〜」と大きな溜息を吐いて天井を見上げてしまう。

「なんだそれ……お前らラブコメ作品かよ」

「あはは……」

現実離れした恋愛をしている自覚がある晴翔は、皆藤のツッコミに愛想笑いしか浮かべられない。

「婚約ってことはアレか、大槻は指輪について聞きたいのか?」

「そう、ですね」

察しの良い先輩に晴翔が苦笑しながら頷いた。それを見て皆藤は再び大きな溜息を吐いた。

「あの黒歴史をこんな形で掘り返されるとは……最悪だ」

「すみません……」

平謝りする晴翔を皆藤が軽く睨む。

「……一つ、助言する。体育祭での公開告白の時に、その婚約については言わない方がいい」

苦い表情のまま言う皆藤に、友哉が「え?」と首を傾げる。

「なんでダメなんすか? それ言った方がインパクトあるじゃないっすか?」

「インパクトがありすぎるんだよ。高校生で婚約なんて話をしたら、学校側からしたらほっとけないだろ」

「……そうなんすか?」

いまいちピンと来ていない友哉に、皆藤は渋面を浮かべる。

「夏休み前に俺が東條さんに告白した時は、後で生徒指導からめちゃくちゃ怒られた」

その時のことを思い出しているのか、皆藤は頭を抱えて唸る。

「告白は失敗するわ、生徒指導部に呼ばれるわ……なんで俺はあんなことをしたのか……」

恋は盲目を実体験してしまった皆藤を目の前にして、晴翔はそれ以上婚約指輪について聞くことができなくなってしまった。

「あの……ドンマイっす先輩」

「慰めるな。余計に辛くなる……」

軽く言う友哉に、皆藤は肩を落として弱々しく言葉を返した。