軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十三話 東條晴翔か大槻綾香か

「婚約ッ!?」

晴翔が通う高校の中庭に、友哉の驚愕の声が響いた。

「まぁ、うん。てか、もう少し声のトーンを下げてくれると助かる」

晴翔は周りの様子を見渡しながら声を落とすようにお願いする。

昼休みを迎えた中庭には、複数人の生徒たちが昼食を楽しんでいる。

晴翔は比較的近くにいるグループの様子を窺う。どうやら、先程の友哉の叫びは届いていないようだ。

「綾香と恋人になった時みたいに、完全に隠す気はないけど、わざわざ言いふらすつもりもない。だから、この話はあまり広めないでくれると助かる」

ただでさえ、高校生で婚約というものが現実離れしているのに、そこに綾香のような『学園のアイドル』とまで言われるほどの人気が合わされば、色々と騒がしくなってしまう。

それを理解している友哉は「わかってる」と頷きつつ、まだ驚いた表情で晴翔と綾香を交互に見る。

驚愕したのは友哉だけでなく、一緒に弁当を食べていた咲と雫も仰天していた。

「いつか結婚するとは思ってたけど、まさかもう婚約までするとは……」

「この私に、負けヒロインの足掻きをさせる暇を与えないとは……圧倒的メインヒロインの暴力」

親友の恋路が、想像以上の爆速で進んでいることに呆然とする咲。

雫はまるで彫像になってしまったかのように固まっている。

「な、なんかね。私は晴翔をその……愛してるし、晴翔も私を、愛してくれてるって……お互いにちゃんと確認し合ったから、もう結婚してもいいよね? みたいな感じです」

改めて友人に説明するのは照れ臭いらしく、綾香は頬を赤く染めている。

滲み出る幸福で表情が緩むのを抑えながらモジモジしている彼女に、咲は感心と呆れ半々の視線を向ける。

「ほんとに綾香は、現実離れした恋を爆走してるわね。てか、婚約ってことはもうゴールに突っ込んじゃった?」

「アヤ先輩は恋愛暴走列車」

咲に続いて雫が乾いた表情で綾香に言う。

「ハル先輩を乗せた途端、猛スピードで走り出した。途中の停車駅を全てすっ飛ばして終点の教会に突撃して鐘をガンガン鳴らしてる」

「恋愛暴走列車って、そこまでは……」

雫の言葉を否定しようとする綾香だったが、自身でも少し思い当たる節があるのか、声が尻すぼみに小さくなる。

そこで、雫の例え話を聞いた友哉が「ぷふっ」と小さく吹き出した。

「暴走機関車……ふふっ」

「友哉?」

晴翔が視線を向けると、彼は顔を俯かせて片手を上げる。

「あ、いやごめん。ちょっと東條さんの顔がついた機関車が猛スピードで走ってる姿を想像しちまって、ふふ」

必死に笑いを堪えている友哉に咲もつられたように口元を緩め始める。

「機関車アヤカってことね。うふふっ……汽笛を盛大に鳴らして走ってそうね……ふふ」

「も、もう! 変なイメージつけないでよ!」

「きっとボディは赤とピンクのド派手カラーです」

「雫ちゃんも!」

抗議の声を上げる綾香に咲は「ごめんごめん」と笑いを堪えて平謝りする。

「まぁ、何にしても二人が結婚、てかまだ婚約か。をしたのはおめでたいことよね」

「そうだな。おめでとさんハル。おめでとう東條さん」

「おめおめです。ハル先輩にアヤ先輩」

友からの祝福に、ピッタリと隣り合っている晴翔と綾香は、揃って頬を赤くする、

「どうも」

「あ、ありがとう」

照れ臭さから、短いお礼になってしまう。

その様子に、咲は微笑みながら口を開く。

「私からも、心から祝福を。おめでとう綾香。おめでとう大槻君」

「ありがとう咲」

「ありがとう藍沢さん」

「うんうん。ところでさ……」

祝福の言葉を贈った咲は、キラキラと輝く瞳で身を乗り出した。

「もう式の予定とか立ててるの? ウェディングドレスは? 実はもう試着に行ってたり?」

やはり女子としてはそのあたりが気になるらしい。

好奇心の塊と化した親友に、綾香は恥じらいながらも楽しそうに説明をする。

「まだ年齢的に結婚はできないから。その辺りの予定は全然決めてない。ね、晴翔」

「うん。それに、まだ高校生でお金もないし、大学進学とかもあるから。実際に式を開くとかは就職とかしてお金を貯めてからになるかな?」

修一と郁恵は共に社長ということで、頼めば資金を提供してくれるかもしれない。しかし、二人の門出でいきなり親に頼りきりになるというのも、晴翔としては避けたいところである。

「高校を卒業してから籍を入れて、その後は就職をして色々と自立をしてから。っていうのがいまのところの予定」

そう説明を締めくくると、友哉がしみじみと晴翔に視線を向ける。

「そっかぁ……ハルは、結婚すんだな……」

続いて咲も、友哉と同じように感慨深く頷く。

「夏休みに恋愛相談をしていた綾香が、結婚ねぇ……」

親友が人生の大きな一歩を踏み出したことに、二人は少しの間沈黙する。

そして、同時に声を上げた。

「早すぎだろ!」

「早すぎでしょ!」

咲と友哉は揃ってクワッと晴翔と綾香に顔を向け、早口で言葉を並べていく。

「なにをどうしたら家事代行のアルバイトで嫁が出来るんだよ!」

「てか二人が付き合い出したの夏休み後半でしょ!? それがもう婚約って、スピード婚通り越してワープ婚よ!」

「しかもハルは東條さんのご両親に気に入られてるし、そのご両親も両方会社経営者とか、もう人生勝ち組だろ! もう勝ちすぎてコールドゲームだわ! 人生の優勝マジック点灯ですか!?」

「綾香も大槻君が旦那って最高すぎでしょ! 料理出来て、それが美味しくて、掃除洗濯も完璧。家族との関係も良好で成績ヨシ、性格ヨシの完璧スパダリじゃない!」

「どんだけ徳を積んだらそんなイベント発生するんですか? お前の前世何者? もしかして、異世界で魔王を倒した伝説の勇者が転生しましたって感じか? 二度目の人生無双しますってか!?」

「今まで男子を避けてたのは全てこの時のためだったわけ? 大槻君との出会いに恋愛運全振りってこと? 生まれたときから赤い糸で結ばれてた運命の人に出会っちゃったってわけなの!?」

交互に湧き上がった言葉をそのまま捲し立てる二人。

最後は、同じような言葉を同時に言い放って締めくくる。

「ハルはラブコメの主人公か!」

「綾香はラブコメのヒロインか!」

親友の婚約報告で思ったことをすべて出し切って少しスッキリとした表情を浮かべる友哉と咲。

そんな二人を見て雫は「息ピッタリです」と小さく呟く。

「ハル先輩とアヤ先輩がくっ付いた次は、咲先輩とトモ先輩の番です」

無表情でそんなことを言う彼女に、咲がピクッと眉を動かす。

「私には無理よ。綾香みたいな現実離れした恋愛は」

「ほうほう、なら現実的な恋をすればいいです。トモ先輩と」

「あのね、そういう問題じゃないから」

「ん? なんの話?」

最近、頻繁にくっ付けようとしてくる雫に、咲が顔をしかめていると、いまいち話を理解していない友哉がキョトンとした表情をする。

「あ~こっちの話! そういえば、綾香は大槻君と結婚するってことは、東條じゃなくなるの?」

話を変えようと咲は綾香に質問を投げ掛けた。

「ってことかな? まぁ、そのあたりの話はまだパパやママと詳しくしてないから未定だけど……」

綾香は首を傾げながら晴翔の方を見る。

「そうだね。苗字とかは家との 関(かかわ) りが大きいから、ばあちゃんともしっかりと話をしないといけないし」

「でも、私は大槻も凄く魅力的だよ? それに、ウチには涼太もいるから東條の名前は残るし」

「そのあたりも含めて、ばあちゃんが退院したら一度じっくりと皆で話をしようか」

「うん!」

籍を入れる時に姓をどうするかの話をする晴翔と綾香。

二人の会話に友哉が苦笑する。

「なんか、高校生カップルがする会話の内容じゃないよな」

「たしかに。ヘタしたら二十代カップルでもしない会話かもね」

「晩婚化の流れを全力で拒否するハル先輩とアヤ先輩、さすがです。あ、そうだ」

雫は何か閃いたようにポンと手を叩く。

「アヤ先輩」

「ん? なに?」

「これからは東條先輩と呼びましょうか?」

「え? 何で?」

突然の呼び名変更に綾香が疑問符を浮かべる。

「だって、もうアヤ先輩は東條でいられる期間が限られてるかもしれないんですよ? それなら、残り僅かな東條期間を目一杯堪能しないと損じゃないですか」

「そう言われると、確かにちょっと名残惜しい気もするけど、やっぱり苗字呼びは少し寂しいから、いままでの呼び方がいいな」

「御意です」

予想していなかったところに気を遣われた綾香は、苦笑しながらもそのままを希望する。

「でも、そっか……」

綾香と雫の会話に、咲が腕を組む。

「もし卒業と同時に籍を入れて大槻姓になったら、綾香は東條でいるよりも大槻でいる期間が長くなるのね」

咲の言葉に、少し照れ臭そうに晴翔が笑う。

「まだそこら辺のことはわからないよ? 俺が東條になる可能性もゼロじゃないし」

「東條晴翔か……悪くないかもな」

友哉が実際に口に出して言うと、綾香が反応を示す。

「晴翔が東條……イイかも」

「そう?」

晴翔が微笑みながら綾香を見ると、彼女は少し照れながら「うん」と頷く。

「晴翔が私と同じ苗字なのは凄く不思議だけど、なんか家族って感じが強くなる感じがする」

「そうなのか、う~ん東條……」

「あ! でも私は大槻も大歓迎だよ! 大槻綾香は姓名占いの結果もいいし!」

「そういえば、姓名判断してたんだっけ」

「う、うん」

恥じらいを含みながらも、幸せそうに頷く綾香を晴翔が優しく微笑みながら見詰める。

幸せな空気に包まれている晴翔綾香カップルを眺めながら、咲がポツリと呟く。

「私が自分の苗字で悩む日はいつになるのやら……」

「赤城咲も私はいいと思います」

「雫ちゃんだって、石蔵雫いいじゃない」

「む?」

やられっぱなしではいられないと咲が反撃をすると、雫はピシッとフリーズするのであった。

「ん? なんの話?」