軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十話 男女混合リレー

「はーい、では次は体育祭のクラス対抗男女混合リレーのメンバー決めをしたいと思います」

教壇の前に立った体育委員が、教室全体を見渡しながら言う。

月曜日最後の授業はロングホームルームとなっている。そして、今日は間近に迫っている体育祭について話し合われている。

晴翔たちが通っている高校の体育祭は、クラス対抗という形式になっていて、各競技ごとに点数が割り振られており、その競技の順位によって点数が変動する。

話し合いは概ね順調に進んでいき、誰がどの競技に出場するのか決まっていく。

そして、最後の議題に上がったのが『男女混合リレー』である。

この競技は毎年一番最後に執り行われる、いわゆる大トリと呼ばれる競技である。さらにこの競技は点数の配分が多く、男女混合リレーで良い成績を残せるかどうかで体育祭の順位が大きく変わる。

つまり、この競技が体育祭の命運を握っていると言っても過言ではないのである。

そのため、たいていのクラスではこのリレーに精鋭を抜擢する。

「リレーに出たい人は挙手をお願いしまーす」

晴翔たちのクラスは、どちらかというと体育祭を純粋に楽しみたいというエンジョイ勢が多いため、ピリピリしたムードもなく話し合いが行われていた。

しかし、この『男女混合リレー』だけは、さすがに大トリの競技ということだけあり、その注目度から気安く立候補する者はいなかった。

「誰かいませんか~、自薦他薦なんでもいいですよ~」

教室を見渡しながら催促する進行役の体育委員。

すると、一人の男子がピシッと勢いよく手を挙げた。

「お、佐藤。立候補するか?」

まっすぐに手を挙げている男子生徒。

それは、以前綾香の逆鱗に触れ、その後晴翔の凄さを綾香から脳内に叩き込まれた佐藤であった。

「いや、俺じゃなくて。リレーに出るのは大槻がいいと思うんだ! なんたって大槻は小学生の頃からリレーに選ばれてたすごい奴だからな!」

瞳をランランに輝かせて、まるでヒーローについて熱く語る少年ような佐藤に、体育委員の男子は「お、おう……」と若干引き気味に答える。

「佐藤はこう言ってるけど、大槻はどうする? リレーに立候補するか?」

体育委員が晴翔の方を見て尋ねる。

「クラスの皆が良いなら、立候補しようかな」

「皆! 大槻は凄いやつなんだ! 体育祭の大トリを飾るリレーに出場する選手として、大槻ほど相応しい人はいないよな!」

キラッキラに瞳を輝かせてクラス全体に熱く語る佐藤。

その熱量に押されるような形で、クラスメイト達はコクコクと頷く。

「よし、じゃあまず一人目は大槻で決まりだな。あとは、男子がもう一人と、女子が二人。誰かほかに立候補はいないか?」

晴翔の男女混合リレーの出場が決まり、体育委員は再び教室内を見渡す。

すると、男子の一人が手を上げて提案をしてきた。

「大槻が出るなら、その彼女の東條さんも出場したらどうでしょうか?」

その案が出た瞬間、他の男子達の目が一斉に綾香に注がれる。

「確かに、それはいい案かも」

「他の走者は東條さんに見惚れて、逆に有利になるかも?」

「カップルでリレー出場とか爆発しろ! でも東條さんの走る姿は眼福……」

ザワザワと騒がしくなる教室内。

晴翔は以前の体育の授業で、トラックを走って周回している綾香に集まっていた視線を思い出し、微妙な気持ちになる。

そこに、女子の一人が男子の提案に冷ややかな反論をする。

「そうやって、男子は東條さんの走る姿を見たいだけじゃん? サイテー」

「は、はッ!? ちげぇし! 俺は純粋にクラスの勝算が高まる人選を考えただけだし!」

女子の反論を綾香出場を提案した男子がすぐさま否定する。しかし、その視線は面白い程に泳ぎまくっていた。

「なにが勝算よ! 下心が丸出しよ! ほんと男子ってバカなんだから」

反論した女子は「ふん」と鼻を鳴らしながら軽蔑の眼差しを送る。

それを受けた男子が、唇を尖らせ不満そうな表情で綾香へと視線を向けた。

「勝手に決めつけるなよ。もしかしたら東條さんだってリレーに出たいかもしれないだろ?」

男子がそう言った瞬間、再びクラスの視線が綾香に集まる。そして、彼女と親しい女子達が「どう?」「綾香は出たい?」などと尋ねている。

「え? あぁ……私は、晴翔と一緒なら出たいって気持ちも少しはあるけど……でもやっぱり、私そんなに足速くないし、だからリレーには他の人が出たほうが良いんじゃないかな?」

クラスの反応を窺うようにおずおずと話す綾香は、やんわりと出場を辞退する。

しかし、彼女の言葉を聞いた佐藤が、輝く表情で口を開く。

「大丈夫だよ東條さん! 大槻は凄いんだから! 東條さんのこともしっかりとカバーしてくれるさ! な! 大槻!」

「え!? あ、あぁ、まぁ……綾香が本当に出たいっていうなら、そこは全力で頑張るつもりだけど……」

晴翔は佐藤の熱量に顔を引き攣らせながら答える。

すると、佐藤はまるでスーパーヒーローを目の前にした少年の顔になる。

「ほらな! だから東條さんがリレーに出ても大丈夫だよ! きっと大槻は東條さんとの愛を力に変えて、風のように走るさ!」

恥ずかしげもなくそんなことを言う佐藤。

晴翔は、彼の大袈裟な物言いに、実は以前綾香に怒られたことを根に持っていて、嫌がらせをしてきているのでは? という疑惑を抱く。

そんな思いで佐藤へと視線を向ける晴翔。

すると、とても純粋な光を瞳に宿した彼と目が合った。

一点の曇りもない、綺麗な目で尊敬の眼差しを向けてくる佐藤。そんな彼の眩しさに、晴翔は堪らずに直ぐに視線を逸らした。

「愛の力でリレーに挑むってなんか素敵だね」

佐藤の言葉に、一部の女子達が反応してウットリしたような表情をしている。

「綾香ちゃんは、大好きな大槻君のために一生懸命に走るんだよね」

「それでも他の人から離されちゃって? でも、大槻君が『君のために勝ってみせるよ』ってバトンを受け取るわけね! そこからグイグイ追い上げていって、ゴールで待ってる綾香ちゃん目掛けて走り抜ける!」

「そして、ついに一位に躍り出て、そのままゴールで熱い抱擁を交わす二人! きゃーっ!! 素敵ッ!!」

「きゃー!!」

一部の妄想女子達から黄色い歓声が上がる。

晴翔は内心『おいおいちょい待て待て!』とツッコミを入れたくなるが、妄想に火が付いた女子達はもう止まらない。

「綾香ちゃん! リレーに出ましょう!」

「え? で、でも私、本当に足速くないし……」

「良いのよ! むしろそっちの方が良いのよ!」

「え? そ、そうなの?」

「そうなの! だから綾香ちゃんはリレーに出るべきなの! 大槻君と一緒に!」

グイグイとくる妄想女子達の圧力に押され、綾香は遠慮がちに頷く。

「じゃ、じゃあ……リレー、出ようかな?」

「よし、じゃあ東條さんも出場確定だな。あと男子と女子で一人ずつだ。誰かいないか?」

体育委員が、晴翔・綾香カップル出場に沸き立つ教室内を見渡す。

すると、サッカー部の男子が挙手をして友哉の方に視線を向けた。

「そういやさ、赤城足速くなかったか?」

「あぁ、確かに。友哉お前足速いだろ」

サッカー部の発言に、複数の男子達が頷く。それを見て、体育委員が友哉に尋ねる。

「どうだ赤城? リレー出るか?」

「う~ん。ま、ハルも出るし、そろそろ俺の身体能力の高さを世に知らしめるとするかね」

「なにが身体能力の高さだよ。お前、体育でバスケやったときシュート全外しだったろ」

格好付けてセリフを吐く友哉に、晴翔が冷ややかな言葉を投げかける。

確かに友哉は足が速い。しかし、だからといって運動全般が得意という訳ではなかった。

彼は走る、跳ぶなどの純粋に身体能力だけで競うものは、そこそこ良い結果を残せるが、球技などのスポーツはそこそこといった感じである。

友哉は、練習を繰り返して感覚を掴む競技が苦手なのである。

「ハルよ、天才もたまにはミスするさ」

友哉は「ふっ」と調子の良い言葉を口にする。

「よーし、じゃあ赤城も出場決定で良いか?」

体育委員は、一人ふざけている友哉を軽くスルーしてクラスへ確認する。

友哉のリレー出場に、大体のクラスメイトが頷く。

「あとは、女子から一人だな。 女子で足速いのは誰だ?」

体育委員がそう言って教室内を見渡すと、クラスの女子達が互いに顔を見合わせた。

ザワザワと小声が飛び交う教室内。そこに、一人の名前が挙がった。

「藍沢どう? 走るの得意じゃん?」

「え? 私?」

咲は少し驚いた表情で自分を指差す。

咲の名前が挙がった事に、クラスの女子達からは「確かに」「咲ちゃんも足速いか」などといった声が上がる。

早速、体育委員は咲の意向を確認してきた。

「藍沢さんもリレーに出る?」

「えぇっと、どうしよ……」

悩む様子を見せる咲に、斜め前の席に座っている綾香が、彼女の方を振り返る。

「咲も一緒にリレー出ようよ」

親友が一緒に出るということに、心強さを感じているような様子を見せる綾香。

咲はもう一度「う~ん」と唸ったあと、一瞬だけ友哉の方を見る。

「……そうね。皆が良いなら、私も出場する」

咲のその言葉に、体育委員はクラスに問い掛けた。

「藍沢さん出場に反対の人はいますか?」

体育委員の問いに、クラスからは「良いと思いまーす」「さんせ~」といった声が上がった。

「よし、じゃあうちのクラスは、大槻、赤城、東條、藍沢の四人に体育祭の命運を託したいと思います」

体育委員がそう言うと、教室内には賛成と激励の意味を込めた拍手が鳴り響いた。