軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九話 賑やかな夕食

自分の荷物を涼太の部屋に置いてきた晴翔は、夕食が出来るまで、リビングで涼太と遊ぶ。

最近の涼太はチャンバラごっこにハマっているらしく、晴翔は玩具の剣を持って涼太と向かい合う。

「さぁ涼太君、いざ尋常に勝負」

「ふふふ、おにいちゃん。僕はね、にてんいち流の使い手なんだよ?」

可愛らしい不敵な笑みを浮かべながら、涼太は両手に持っている2本の玩具の剣を掲げる。

一体どこで覚えてきたのか、二刀流で有名な剣豪の流派を口にする涼太に、晴翔は思わず笑い声をあげる。

「涼太君は宮本武蔵が好きなのかい?」

「⁇ みやもとむさし? 誰その人?」

晴翔の言葉に、キョトンと首を傾げる涼太。

宮本武蔵を知らずに、なぜ二天一流という言葉だけ知っているのか謎に思う晴翔。

幼稚園児の不思議を垣間見て、晴翔は答えの出ない疑問に頭を傾ける。

そんな彼の様子に、涼太は両手の剣を振りかざしながら晴翔に力説する。

「おにいちゃん! にてんいち流は最強なんだよ!」

「そうか、涼太君が二天一流の使い手なら、自分は巌流の使い手になろうかな?」

晴翔はそう言いながら、玩具の剣を大袈裟な動きで構える。

「がん流? なにそれ?」

「佐々木小次郎の流派だよ」

「ささき……その人知らない。でも、がん流かっこいいから僕も使いたい!」

キラキラと瞳を輝かせる涼太に、晴翔は不敵な笑みを浮かべる。

「それじゃあ、巌流島の決闘だね」

「うん! けっとう!」

意味はよく分かっていないが、言葉の雰囲気が男の子の琴線に触れた涼太は、両手の剣をブンブンと振り回しながら闘志を燃やす。

綾香はリビングのソファに座りながら、晴翔とのチャンバラ遊びに夢中になっている弟に苦笑しながら注意する。

「涼太、あんまり乱暴にすると怪我しちゃうわよ」

「大丈夫! だって僕はにてんいち流なんだから!」

「いやそれ、意味がわからないから」

涼太の言葉に綾香は呆れた表情をする。

そこに晴翔がフォローの言葉を入れる。

「二刀流は男のロマンだから」

「ふーん? 晴翔君も昔の剣豪とかには憧れちゃうの?」

「まぁね」

「おにいちゃん隙あり!」

綾香と会話している晴翔に、涼太は容赦なく斬りかかる。

晴翔はそれを受け止めると、その後もでたらめに振り回される涼太の剣を難なく受け止める。

もともと空手で動体視力が鍛えられている晴翔にとって、涼太の攻撃を防ぐ事は簡単である。しかし、それだと涼太が面白く無くなってしまうので、頃合いを見て晴翔はわざと攻撃を受ける。

「グワァ! やられたぁ」

肩から腰にかけ、見事な袈裟斬りを受けた晴翔は、悲痛な叫び声をあげて膝から崩れる。

大袈裟なリアクションをする彼に、涼太は両手を掲げてバンザイをする。

「やった! おにいちゃん討ち取ったり!」

「涼太くん強いね」

「ふふふん」

晴翔の褒め言葉に涼太は全力のドヤ顔を披露する。

その姿が何とも可愛らしく、晴翔は微笑ましげな笑みを浮かべた。

と、そこにちょうど修一が帰宅してリビングにやってきた。

「お帰りなさいお父さん!」

「ただいま涼太。お? 晴翔君と勝負してたのかい?」

涼太は父親のもとに駆け寄ってお出迎えをする。対する修一は、屈んで彼と視線を合わせると、手に持っている玩具の剣を指差して言う。

「うん! お父さん、がん流島のけっとうだよ!」

「そうかそうか。で、どっちが勝ったんだい?」

「僕だよ!」

「なら涼太が宮本武蔵だね」

一生懸命に説明をする息子の姿に、修一は相好を崩す。

「違うよお父さん! 僕はみやもとむさしじゃなくて、にてんいち流の使い手だよ!」

「おぉ、そうかそうか! 涼太は令和の剣豪だね」

「うん!! れいわのけんごう!」

父親の言葉にワクワクとした表情で、両手に持つ剣をビシッと構えてポーズを取る涼太。

そんな息子の頭を軽く撫でたあと、彼は晴翔へと視線を向ける。

「晴翔君、涼太と遊んでくれてありがとう」

「いえいえ、涼太くんが楽しんでくれて、自分も嬉しいです」

晴翔の返事に修一も嬉しそうに頷き、今度はキッチンへと向かった。

「清子さん。夕食の準備、ありがとうございます」

晴翔の祖母に対し、修一は丁寧に頭を下げて言う。

「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。本日より精一杯、家政婦として努めさせて頂きます」

清子も修一に丁寧なお礼を返した。

「今日の夕食は唐揚げですか。とても美味しそうで、今から食べるのが楽しみです」

ちょうど揚げ始めている唐揚げを見て修一が言うと、清子は優しげな笑みを浮かべる。

「もうすぐで出来上がりますので」

「ふむふむ、楽しみです。ところで綾香、母さんはどこだい?」

「ママなら書斎で仕事してるよ」

「そうか、ならもうすぐ夕飯だと伝えてこよう」

修一は若干ウキウキとした足取りで、リビングから出ていく。

その姿を目で追っていた綾香が、涼太に声をかける。

「ほら涼太。もうすぐ夜ご飯だから、玩具片付けなさい」

「は〜い、おにいちゃん、またけっとうしようね!」

「いいよ。次は負けないぞ」

「僕はにてんいち流だから、最強なんだよ?」

涼太は、まるで強者の余裕といった感じでニンマリと笑みを浮かべながら、晴翔と一緒に玩具の片付けをする。

その後、修一が郁恵を連れてリビングに戻って来て、晴翔達もダイニングテーブルの席に座ったところで、清子がテーブルの上に完成した夕食を並べる。

「お待たせしました。お召し上がりください」

食卓には唐揚げの他に、豆腐とワカメを使ったサラダ、タコときゅうりの酢の物、そしてお味噌汁が並ぶ。

「ふむ、どれも美味しそうだね」

「清子さん、ありがとうございます」

東條夫妻は揃って清子にお礼をする。

「いえいえ、冷める前にどうぞ」

「では、いただきます」

修一が手を合わせると、皆も手を合わせて夕食に手を伸ばす。

「おにいちゃん、この唐揚げ、色が少し違うよ?」

「たぶん、味が違うんじゃないかな?」

不思議そうに唐揚げの山を見詰める涼太に、晴翔が答える。

「ばあちゃん、今日の唐揚げは何味になってるの?」

「今日はね、これがお醤油とニンニクで味付けして、その隣が塩麴だよ。この少し黄色いのはカレー味で、赤みがかっているのは梅大葉だね」

清子は四種類の味付けを一つひとつ説明する。

「だって涼太君。最初は何味を食べたい?」

「カレー味!」

即答する涼太に晴翔は笑みを浮かべて、カレー味の唐揚げを彼の小皿に取り分けてあげる。

そんなやり取りを横目に見ながら、修一も唐揚げに箸を伸ばす。

「私は醤油ニンニクを頂こうかな」

「梅大葉、すごく美味しそうね」

修一に続いて郁恵も唐揚げを一つ取る。そして、東條夫妻はそろって唐揚げを頬張ると、その表情を緩めた。

「んん! これは美味しい! この醤油の香ばしさとニンニクの香り、最高だね!」

「梅大葉も美味しいわ。とってもジューシーだけど、さっぱり食べれるもの」

唐揚げを絶賛する東條夫妻に、清子も嬉しそうに頬を緩める。

「むぅ、これは……やはり、ビールが……」

修一は手に持つ唐揚げを睨みながら、何かに抗う様に唸る。

「しかし……今日は休肝日……むむむ」

「あなた、一杯だけよ?」

「いいのかい!?」

郁恵の一言に、修一の表情は最高に輝く。

そんなやり取りをしている夫婦に、綾香は苦笑を浮かべたあと、自分が取った塩麴の唐揚げを一口かじる。途端、驚いた様に目を見開いた。

「凄い……お肉がとっても柔らかい」

彼女の反応を見て、晴翔は涼太に醤油ニンニクの唐揚げを取ってあげながら、ニッコリとする。

「それは、最初に鶏肉をブライン液に漬けているからだよ。ね、ばあちゃん」

「うん、そうだね」

「ブライン液?」

晴翔と祖母を交互に見ながら、綾香が首を捻る。

「ブライン液は肉を柔らかくジューシーにする効果があるもので、水に塩と砂糖を入れて作るんだ。その中にお肉を漬けておくんだよ」

「へぇ~そんなのがあるんだね。知らなかった」

晴翔の説明に、彼女は感心した様に頷きながら唐揚げを食べる。

そこに、美味しそうにタコときゅうりの酢の物を食べていた郁恵が、晴翔に声を掛ける。

「そうだ大槻君、これから私も大槻君の事を晴翔君って呼んでいいかしら?」

そう言う郁恵は「これからは清子さんもいるし」と、晴翔を名前呼びに変更したいと言う。ちなみに、修一は既に晴翔の事を『大槻君』から『晴翔君』に呼び方を切り替えている。

「はい、全然大丈夫ですよ」

「わかったわ。じゃあ改めて、これからよろしくね晴翔君」

郁恵は嬉しそうにニッコリと笑う。その姿が綾香と重なって見え、晴翔は思わず目を逸らしてしまう。

「よ、よろしくお願いします」

彼は心の中で、綾香が大人になったら郁恵の様な感じになるのだろうかなどと想像してしまい、勝手に心拍数が上がる。

そんな事を考えていると、郁恵が楽しそうに笑い声を上げた。

「あらあら、綾香ったら目が少し怖いわよ?」

「べ、別に普通だもん!」

「ふ~ん? でも安心しなさい、私はパパ一筋だから」

「だ、だから! そんなんじゃないって!」

母の言葉に娘は顔を赤くして反論をする。

そんなやり取りをしている隣で、涼太が梅大葉の唐揚げを食べてニッコリと晴翔に笑い掛けた。

「おにいちゃん、この味美味しいね! 僕これ好き!」

「そうかい? もう一個取ってあげようか?」

「うん!!」

そんな食卓の風景を清子は、静かに幸せそうな笑みを浮かべて眺める。

大槻家を加えた東條家の食卓は、いつにもまして賑やかで明るい夕食となった。

夕食を食べ終えると、晴翔はまた涼太と一緒に遊んだりお風呂に入ったりして、まったりと過ごした。

そして、夜も遅くなり皆が寝る為にそれぞれの部屋に引き上げる。

晴翔も涼太の部屋に入り、そして持って来ていた勉強道具を机の上に広げた。

「東條家の人達には感謝しかないよな……」

晴翔は机に座りながら、ボンヤリと呟いた。

晴翔は幼い頃に両親を失ってから、祖父母と一緒に暮らしてきた。

そして、中学に上がる時に祖父を亡くしてからは、ずっと祖母と二人だった。

祖母と二人きりの生活は、今思えばとても静かなものだった。

会話が無い時は、家の中が静寂に包まれるか、もしくはテレビの音が大きく響く。

特段、それが嫌だという訳でもなく、寂しいという訳でもない。

それが晴翔の育ってきた環境で、それが大槻家での普通だから。

しかし、今日のような生活を体験すると、賑やかな家庭もいいものだと実感させられる。

心が弾み、気持ちが軽くなる様な気がする。

晴翔はこれから始まる東條家での生活に、じんわりと心が温かくなるのを感じながら、参考書を開く。

その後、暫く集中して勉強に励んでいると、不意に扉がノックされた。

「はい、どうぞ」

晴翔が参考書から目を上げて、扉の方を見て言う。

すると、遠慮がちにゆっくりと扉が開き、その隙間からひょっこりと綾香が顔を覗かせた。

「……晴翔君、もう寝る?」

「いや、まだ寝はしないけど?」

「……なら、少し……部屋にいてもいいかな?」

「うん、いいよ」

晴翔がそう返事をすると、綾香は嬉しそうな笑みを浮かべながら部屋の中に入り、後ろ手にドアを閉めた。