軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四話 東條綾香の苦悩③

私のパパとママは仲がいい。

多分、世間一般的な夫婦よりも結構仲が良いほうなんじゃないかな?

親の仲が良好なのは、子供の立場からすると凄くいい事なんだけど、たまに親のイチャイチャを見て勘弁してよって思う時はある。

だけど、物心ついた時からそんな2人を見てきた私は、自分もいつかきっと素敵な人と出会って恋をしたいってずっと思ってた。

そして、その人と恋人になって、どんどん好きになって、結婚をして。

パパやママみたいな仲良し夫婦になって家族が増えて賑やかな毎日を送る。そうやって歳をとって皺くちゃのお爺さんお婆さんになっても、仲良く手を繋いで散歩をする。

そういう人と出逢いたい。

そんな願望が私の中にはあった。

けど、現実は上手くはいかなくて、なかなか『この人だ!』って思える人に出会えなかった。

告白という行動がどれだけ勇気のある行動か、実際に恋をして私は知った。だから、今まで私に告白をしてくれた人達には、純粋に敬意の気持ちはある。

だけど、パパやママみたいな関係を築けそうな人は、今まで告白をしてくれた人たちの中にはいなかった。

夏休みに家事代行サービスをお願いするまでは。

大槻晴翔君。

家事が凄く得意で、いつも美味しい料理を作ってくれる、家事力高め男子。優しくて落ち着きのある、少し大人びてる男の子。

夏休みに出会った私の初恋の相手。

そして、今は私の彼氏。

「あともう少しで始まるね」

私は晴翔君の肩に頭を乗せながら言う。

「今回の花火は二部構成になってるみたいだよ?」

「そうなの」

「うん、ほら」

晴翔君は私の顔の前にスマホをかざして、花火大会のホームページを見せてくれる。

「第一部は、昔ながらの花火で、見応えのある尺玉が注目ポイントだって」

「尺玉って?」

「花火の玉の大きさらしいよ。花火玉は2.5号から40号まであって、10号玉の大きさがちょうど一尺あるから尺玉って言うんだって」

晴翔君はスマホで花火について調べながら、私に教えてくれる。

「へぇ」

「一尺って確か30㎝くらいだったと思うから、結構大きいよね」

晴翔君は両手の人差し指を目の前に立てて「30㎝ってこのくらいか?」なんて言ってる。

そんな彼の横顔を見てると、私の頬は力が入らなくなって緩んじゃう。

晴翔君は、家事力が高いだけじゃなくて、勉強も出来る。

その成績は学年トップで、だけどその事をひけらかしたりもしていない。

本当に、私にはもったいないくらいの魅力あふれる人。

そんな男の子が私の彼氏だなんて、今でも信じられない。

そんな事を思いながら彼の横顔をジッと見詰めていると、私の視線に気が付いた晴翔君が「ん?」ってこっちを見てくれる。

もう、目が合うだけで私の胸の中は幸福感で一杯になる。

「ねぇ、第二部はどんな花火なの?」

「えっとね、二部は花火と音楽の融合だって。曲に合わせて花火とレーザー光が夜空を彩りますって書いてある」

「わぁ! それ凄く綺麗そう! 楽しみだね!」

「だね」

晴翔君は私の言葉に頷いて、優しく笑い掛けてくれる。

彼と出会えて本当に良かった。

私はまた晴翔君の肩に頭をそっと乗せて、しみじみと思う。

夏休みの前半、勇気を出して晴翔君を映画に誘った自分を褒めてあげたい。

恋人の練習で、彼に猛アピールした自分も。

そのおかげで、今こうして大好きな晴翔君と並んで花火を見る事が出来る。

2人揃ってゆっくりと夜空を見上げていると、河川敷一帯に花火開始のアナウンスが流れた。

その直後、ヒュ〜という細く甲高い音が聞こえた後、ドンッと重たい音が響く。

それと同時に、夜空に綺麗な花火が広がった。

「わぁ! 綺麗だね晴翔君!」

「うん、凄く綺麗だ」

視界いっぱいに広がる色鮮やかな花火に、私は弾んだ声で晴翔君に言う。

隣の彼も柔らかな表情で私を見て言う。

あぁ、幸せだなぁ……。

私は現実で恋愛が出来なかった反動で、恋愛漫画や恋愛小説を沢山読んでた。

いつか、こんな恋がしたいなって思いながら。

その中で、必ずと言っていいほどに登場するのが夏の花火イベント。

作中の女の子が、想いを寄せている男の子と一緒に花火を見る、悶絶必至の胸キュンイベント。

ずっと憧れていたその花火イベントを今、私は大好きな人と一緒に観ている。

本当に夢の中にいるみたい……。

「見て見て晴翔君! ハート型だよ! あ、あっちのは蝶々かな? 凄いね!」

様々な形を夜空に映し出す花火。

最近流行りのキャラクターの形をした花火が打ち上がって、それを見た晴翔君は感心したように言う。

「最近の花火は本当に凄いよね。どうやってあんな複雑な形状を再現してるんだろう? 計算するソフトとかあるのかな? それとも卓越した職人技かな?」

隣で「う〜む」と悩む彼に、私はつい笑い声をこぼしちゃう。

「晴翔君も花火職人目指しちゃう?」

「いや、花火は作るよりも観る方がいいかな?」

私の提案に、彼は苦笑を浮かべる。

そっか、はっぴを着て鉢巻を頭に巻いた晴翔君もちょっぴり見てみたかったんだけどな。

そんな会話をしていると、ドォンと一際大きな音が響いた。

お腹に響くような重低音の直後、見上げている夜空に大輪の華がパッと視界一面に広がった。

「凄いっ! 綺麗っ!」

「大きいね。あれが尺玉かな?」

次々に打ち上げられる色鮮やかで大きな花火達。

それは次第に勢いを増していって。

最後は大小様々な花火が、夜空の隙間を埋め尽くすように連続して打ち上げられる。

スターマイン。

惜しみなく打ち上げられる光の粒たちは、遙か上空から辺り一面を明るく照らしだす。

鳴り止まない花火と光の弾ける音。

感情を圧倒するような光景に、私はただただ光り輝く夜空に見惚れた。

「わぁ……」

「すご……」

隣では晴翔君もポカンと花火を見つめている。

最後は、周りが昼間と同じくらい明るくなる程の花火が一斉に花開いてフィナーレになった。

周りからは『わぁー!』という歓声と、盛大な拍手が湧き上がる。

私は少し興奮気味に隣の晴翔君の方を向く。

「今の凄かったね!」

「うん、メチャクチャ綺麗だった」

「私、感動しちゃった」

周りの観客達からも『ヤバかったね』とか『凄すぎ』みたいな、感動の声が聞こえてくる。

圧巻だったスターマインの余韻に浸る中、私は夜空をゆっくりと流れている煙から、隣の晴翔君に視線を移す。

彼はまだボンヤリと夜空を見上げていた。

「ふふ、晴翔君も感動しちゃった?」

「え? あぁ、うん。なんか凄く久しぶりにちゃんと花火を見たなって思って」

「そうなの?」

「小さい頃は夢中になってみてたけど、大きくなってからは花火よりも、屋台とかの方を楽しむようになってたからね」

「花より団子だね」

私がそう言うと、晴翔君は「そうだね」って笑う。

そこに、ふと音楽が聞こえてきた。

「あ、第二部の始まりかな?」

「そうみたいだね」

私たち2人は、また揃って夜空を見上げる。

花火大会の第二部は、今流行りの曲に合わせて花火が打ち上げられて、それと一緒にレーザー光線が夜空で踊っている。

「この曲いいよね」

今花火のBGMとして使われている曲は、最近流行っている曲で、私も最近よく聴いてるお気に入りの曲。

だけど、どうやら晴翔君はこの曲を知らないみたい。

「この曲って最近の?」

「うん。あれ? 晴翔君知らない? 最近よくコンビニとかでも掛かってると思うけど」

「あぁ、言われてみればメロディはちょっと聞き覚えあるかも」

晴翔君って意外と流行に疎かったりするのかな?

そう言えば私、晴翔君がどんな音楽を聞くのか知らない。

音楽だけじゃない。

彼の好きな食べ物。味の好み。

逆に嫌いなもの、苦手なもの。

好きなスポーツやハマってる趣味。

お気に入りのテレビ番組はあるのか、お笑いは好きなのか、嫌いなのか。

知らない事だらけだ。

そう思った時、私の心の中に僅かな寂しさが込み上げてくる。

でも、それ以上にワクワクするような、胸の高鳴りを感じる。

私はもう、晴翔君の彼女。

なら、これから同じ時を過ごして一つずつ知っていけばいい。

私は以前、咲に恋愛相談した時に彼女から言われた言葉を思い出す。

『知らないから、好きになったんじゃないの?』

私が晴翔君を好きになって恋に落ちた時。

彼を好きになった理由がわからなくて困惑してる私に、咲はそう言った。

知らないから、知りたいって思う。そして、新たな一面を知ってさらに好きになる。

私はまだ、晴翔君について知らない事ばかり。

つまり、まだまだ彼のことを好きになれるって事。

そう思うと、私の胸は高鳴る。目の前で花開いている花火みたく、幸せが弾ける。

「想像以上に幸せな日々かも……」

そっと呟いて、私は晴翔君に寄りかかるように体重を預ける。

すると、彼は優しく肩を抱き寄せてくれた。

私は光に満ちた夜空から視線を外して、晴翔君を見上げる。

「晴翔君」

「ん?」

「私ね、晴翔君と初めて映画デートした時ね、人生で1番幸せな日だなって思ったの」

「そうだったの?」

私の言葉に、晴翔君は小さく笑う。

「そうだよ? だって好きな人と初めて手を繋いだんだから。その日の夜は夢でも晴翔君に逢いたくて、左手をお守りにして寝たんだから」

「なにそれ、めっちゃ可愛いことしてるじゃん」

「そしてね。私その時思ったんだ。もし晴翔君と付き合えたら、手を繋げた幸せなんて一瞬で超えちゃうんだろうなぁって」

「それで? 俺と付き合ってその時の幸せは超えられた?」

「うん! 一瞬で超えちゃった! もう毎日が人生最高の日だよ」

私が満面の笑みでそう言うと、晴翔君も同じような笑みを返してくれる。

「そっか、俺も綾香と付き合えて幸せだよ」

晴翔君はそう言うと、視線を夜空に向ける。

「これから先さ、2人で過ごしてると色んな事があると思うんだよね。きっとそれは、良い事や楽しい事ばかりじゃ無いかもしれないけど。でも、綾香となら、小さな幸せや大きな幸せ、色んな幸せを見つけ出して、それを一つ一つ大切に積み上げていけると思うんだよね。だからさ」

そこで晴翔君は視線を下ろして私の事を見つめて言う。

「好きだよ綾香。これからもよろしく」

「ッ!? ぅ、うん……」

不意打ちは反則だよッッ!!!!

花火を背景に至近距離で囁くようにそんな事言われたら、私の心臓が止まっちゃうでしょッ!? キュン死しても良いの!? そうなったらちゃんと心肺蘇生してよね!?

もう……私の彼氏は凄く素敵なんだけど、こういうところが危険なんだよね。

晴翔君はたまに不意打ちを仕掛けてくるから油断できない。

でも……なんかすごく素敵なことを言われた気がする。

そっかぁ、小さな幸せも大きな幸せもかぁ……。

ん? 大きな幸せ……? 人生での大きな幸せ?

それって……もしかして……け、結婚、とか?

……もしかして、今のって……ぷ、ぷぷ、プロポーズだったりする? え? そうなの? え? 違う?

どうなのかな? ねぇねぇ晴翔君?

今の発言にはどんな意図があったの!? 晴翔君ッ!?