軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二話 これ、意味あった?

空は赤く染まり始め、薄暗くなってくる時間帯。

そんな夜の訪れに相反する様に、晴翔が歩く道は両端にずらりと並ぶ屋台の照明で、明るく照らされている。

その屋台からは、お客さんを呼び込む活気に満ち溢れた声があちこちから飛び交い。その間を所狭しと大勢の人が歩いている。

晴翔の住む地元で最も大きな花火大会。

一度は雨で中止となったものの、延期となって無事予備日に開催される事となった。

晴翔は親友の友哉と並んで歩きながら、先程買った唐揚げ棒で小腹を満たす。

「これ一本で400円ってヤバいよな」

晴翔は食べ終わった串を見詰めながらボソッと呟く。

「その400円には、雰囲気代も含まれてんだよ。お祭り価格ってやつだ」

「まぁ、そうだけどよ」

晴翔は唐揚げ棒の串を一瞥した後、道路脇に設置されているゴミ箱に投げ入れる。

「にしても相変わらずスゲェ人混みだよな」

「だな。道歩いてるだけで疲れるよな」

感心したような表情で言う友哉に対し、晴翔は肩をくすめて答える。

今日は綾香と一緒に花火を見る予定になっている。もしそうでなければ、こんな人混みの中にわざわざ来る事は無い。

晴翔は隣でたこ焼きを頬張りながら、道行く大勢の人達を眺めている親友にお礼を言う。

「ありがとうな友哉」

「おん? 何に対してのありがとうだそれは?」

「花火大会に付き合ってくれたことに対してのお礼だ」

当初の予定では、最初から綾香と二人で花火大会の会場に向かうつもりだった晴翔。

しかし、それだともし万が一学校の生徒に見られた場合、二人が付き合っている事がバレてしまう。

そこで、晴翔は友哉と一緒に花火会場に向かい、綾香は咲と一緒に来る。そして、偶然を装って合流する事になっている。

「おうよ。ありがたく思えよ?」

「へいへい、友哉様」

「もう少し感情を込めて言えよ」

適当な返事をする晴翔に、友哉は苦笑を浮かべる。

「ま、ハルと一緒に来たら、東條さんの浴衣姿を拝めるからな」

「お前はそれ目当てか」

「あったりめーよ。それが無かったらむさ苦しい男だけで花火大会なんて来るかよ」

胸を張って堂々と宣言する友哉に、今度は晴翔が苦笑を浮かべた。

口ではあんなことを言っているが、何だかんだ付き合いの良い親友に、晴翔は心の中でもう一度お礼を言っておく。

晴翔と友哉の二人は、人混みから少し外れた道の端で適当に会話をしながら、綾香と咲の二人が来るのを待つ。

「東條さん達はもう会場に来てんのか?」

「あ~、そうだな。今こっちに向かってきてるみたいだ」

友哉の質問に、晴翔は綾香とのメッセージ画面を見て答える。

一応、偶然を装う事になっている為、あからさまな待ち合わせはしていない。

「そういや、藍沢さんも浴衣で来んのかな?」

「じゃないのか? 綾香がそんな事を言ってたと思うけど」

朝、東條家で綾香と会話をしている時に、彼女が『咲の浴衣姿楽しみ~』と上機嫌で言っていた事を思い出しながら晴翔が答える。

「てかさ、ハルって甚平持ってたっけ?」

「いや。これは修一さん、綾香のお父さんから借りたんだよ」

「ほえ~、お前どんだけ東條さんの家族に気に入られてんだよ」

感心したような呆れた様な反応を見せる友哉に、晴翔も苦笑で返す。

ちなみに、友哉も今は甚平を着てきており、男二人で夏祭り仕様となっている。

友哉は最後に残っていたたこ焼きを爪楊枝で刺して口に運ぶと、なんとなしに晴翔に話し掛ける。

「そっか〜藍沢さんの浴衣姿も拝めるのか……こりゃ楽しみですなハルさんや」

「ん? あぁ……まぁ、そうかもな」

「何だよその微妙な反応は! さてはあれか? 世界で一番可愛いのは自分の彼女とか言うやつか?」

「そうだな。俺にとって綾香以上に可愛い女性はいないな」

至極真面目な表情でサラリと言いのける晴翔に、友哉は何とも微妙な顔をする。口元からは「うへぇ」という呟きも漏れている。

「あぁはいはい、さいですか。世界一可愛い彼女ができてよーござんした」

「おう、祝福ありがとう」

「爆発しとけ!」

惚気る晴翔に、友哉は鋭くツッコミを入れる。

そんなやり取りを二人でしていると、不意に声を掛けられた。

「ねぇキミ達、もしかして二人だけ?」

その声がした方に晴翔が視線を向けると、そこには少し年上に見える女性がこちらに向かって笑みを向けていた。その女性の隣には、友人らしき女性がもう一人立っている。

「もし二人だけならさ。私達と一緒に花火見ない?」

見た感じ女子大生なのだろうか。

大人っぽい雰囲気を纏う女性二人組を見て晴翔は思う。

友哉と一緒に出掛けていると、たまに今の様な俗に言う逆ナンに遭遇する事がある。

友哉は顔立ちが良く、更に何故か年上に好かれる体質を持ち合わせているようで、女子大生辺りから稀に声を掛けられるのだ。

「あぁ、すみません。俺達待ち合わせしてて」

友哉は声を掛けてきた女性に対してニコっと笑いながらそう答える。

きっと今の様な笑みが、年上女性には受けがいいんだろうな。

そんな事を考えながら、晴翔はチラッと話し掛けてきた方ではない女性に視線を向ける。

すると、たまたま目が合ってしまい。その女性にサッと視線を逸らされてしまった。

晴翔と目が合った女性は、すこし慌てたように友人の手を引く。

「ほら! この子達、彼女いるって! 変に絡んだら可哀想だから早く行こ!」

「う~む、残念! 結構君達、私の好みだったんだけどな」

そう言って、最初に話し掛けてきた女性が晴翔と友哉に視線を投げかけてくる。

晴翔は何故か、猛禽類に狙われたネズミになったかのような錯覚を覚える。

「あはは……」

晴翔は愛想笑いを浮かべてその場をやり過ごそうとした。

その時、少し離れた所から聞き慣れた声が聞こえてくる。

「晴翔君!」

声のした方に視線を向けると、そこには綾香と咲の姿があり、こちらに向かって歩いて来ていた。

綾香は、郁恵から借りている白地に鮮やかな紅い金魚が描かれている浴衣に身を包んでいる。

その浴衣が着崩れしないギリギリの早歩きで、彼女は晴翔の元までやってくると、そのまま彼の腕を掴んでギュッと抱き着いてきた。

「ごめんね晴翔君待たせちゃって!」

「あ、うん。全然待ってないから大丈夫だよ」

周囲にアピールするかのように、少し大きめの声を出す綾香に、晴翔は若干気圧されて返事をする。

にこやかな笑みを浮べている綾香だが、何故か昨日一緒にお風呂に入った時に、涼太にお腹をプニプニと言われた時と同じオーラを彼女から感じた。

綾香はニッコリと笑みを浮べたまま、晴翔達に声を掛けてきた女性二人組に視線を向ける。

「晴翔君、この人達は?」

「あぁ、えっと、この人達はたまたま声を掛けられて……」

綾香の威圧感の原因を察した晴翔は、現状を説明しようとする。しかし、その説明の途中で、先程声を掛けてきた女性が興奮した声を上げる。

「え!? ちょッ!? この子、君の彼女さん!?」

「はい、そうですが」

「うひゃ~!! 彼女めっかわじゃん!! 何このカップル!! 眼福が過ぎるんだけど!? ヤバイ!」

やたらとハイテンションでまくしたてる様に話す女性。

「君ッ!! こんな可愛い彼女いるんなら早く言ってよ!! もう、今日の花火よりも最高だわ! いやいいもの見れた! ありがとねッ!」

そう言って、その女性はハイテンションのまま、晴翔達のもとから去っていく。その後を友人の女性が慌てて追いかけて行った。

「何だったんだ? あの人たちは……?」

呆然とする晴翔。

そこに、僅かに遅れて咲がやってくる。

「やっほ~、大槻君に赤城君」

白地に朱色の綾香に対し、咲の浴衣は藤色の生地に 紫陽花(あじさい) が描かれている。

小さく片手を振りながら晴翔達のもとに来た咲は、少し揶揄う様な表情を浮かべて晴翔と友哉を見る。

「さっきの人達、もしかして逆ナンされてた?」

「ふふふ、イケメンは辛いぜ」

「俺はまぁ、友哉に巻き込まれたって感じかな?」

咲の言葉に、友哉はふざけて大袈裟に前髪をかき上げる。

隣の晴翔は、その親友を親指で差しながら答える。

「ふ~ん、それで綾香は大切な彼氏を死守するために、周囲を威嚇中って訳ね」

「別に、威嚇はしてないよ?」

咲に対してニッコリと笑みを浮べたまま綾香は答える。

そんな彼女の笑顔に、晴翔はやはり背筋がピンと伸びる様な威圧感を感じる。

咲は、先程からずっと晴翔の腕を抱き抱えている親友を見て、少し呆れた様に言う。

「それは威嚇じゃないのね。まぁ、無事合流できたわけだし、花火の打ち上げ時間までまだ時間もあるから屋台巡りする?」

「賛成! 俺は腹減っちゃって」

「お前、イカ焼きにオムそばとたこ焼き食べてたのに、まだ腹減ってんのかよ」

「あんなんで高校生の腹が満たされるわけないだろ?」

「お? イカ焼き私も食べたい」

晴翔と友哉の会話に反応を示す咲。

彼女に続いて綾香も晴翔を見上げて言う。

「私も、少しだけ何か食べたいな」

「了解。じゃあ、屋台巡りしようか」

「うし! 行こうぜ! あ、藍沢さん、さっき牛串焼あったんだけど、それも食べてみない?」

「いいね、おいしそうじゃん」

そんな会話を交わしながら、晴翔達一行は屋台巡りを始める。

食べ物以外にも、金魚すくいや射的などをやって、晴翔達は存分に屋台を楽しんだ。

―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―

綾香は晴翔の腕に抱き付きながら反対の手で綿飴を持ち、それをチョコチョコと小さく食べる。

それを見た晴翔が優し気な笑みを浮べて彼女に言う。

「おいしい?」

「うん、晴翔君もいる?」

「一口」

「いいよ、はい」

綾香は手に持っている綿飴を晴翔の口元に持って行き、一口あげる。

「おいし?」

「甘い」

「ふふ、もう一口いる?」

「ん」

綾香は何とも幸せそうな笑みを浮べながら、晴翔に綿飴を食べさせてあげる。

そんなイチャイチャしている二人の数歩後ろで、咲はチーズハットグを食べながら苦笑を浮かべる。

「綾香ったら、あんな蕩けた様な笑顔しちゃって。どんだけ大槻君の事好きなのよ」

咲は伸びるチーズをパクパクと口に収めて呟く。

その隣で、アメリカンドックを頬張る友哉が、何とも言えない表情で咲の方に視線を向けた。

「なぁ、藍沢さん。俺らってさ? あの二人が学校の奴らに見つかっても、言い訳できるようにって、一緒に来たんだよな?」

「えぇ、そうね」

「今のあの二人、俺らいても意味無いんじゃね?」

「それな」

周囲に仲睦まじい恋人オーラを撒き散らしている晴翔と綾香を見て、お互いの親友は頷き合う。

「まぁ、あんだけ二人の世界を作ってるのを見たら、男子は諦め付くでしょうね」

小学校からの付き合いがある咲ですらも、あんな幸せそうな笑顔を見た事が無いんじゃないか。そう思ってしまう様な笑顔を浮かべている綾香を見たら、普通の男子であれば、自分に脈は無いと諦めるだろう。

「問題は女子よね」

「そんな心配するほどか?」

「大槻君を狙ってる女子って、意外といたりするのよ」

「ふ~ん、まぁハルはいい奴だからなぁ」

最後のアメリカンドックを口に放り込んだ友哉は、呑気な声を出す。

「成績が学年一位っていうのも、なかなか目立つ要素だしね」

「確かに」

「あの二人を見て、変に嫉妬する女子がいなければいいんだけど」

綾香は中学時代に、男子からの告白が原因で友人関係がギクシャクしてしまった事がある。

その事件を知っている咲としては、どうしてもその辺の事が気になってしまう。

「でも、まぁ。あの二人なら何があっても幸せそうにやっていきそうだけどな」

相変わらずイチャイチャしている二人を見て、友哉は楽観的に言う。

そんな彼の様子に、咲も少し力を抜いた笑みを浮べた。

「かもね。そろそろ私達もあの二人から逸れる?」

「だな。これ以上近くにいたら糖尿病になりそう」

「あはは、確かに赤城君の言う通りね」

友哉の冗談に笑いながら同意する咲。

二人は徐々に歩く速度を遅くして、晴翔と綾香から距離を取る。そして、すぐに二組の間に人混みの壁が出来て、二人の背中は見えなくなった。

無事に晴翔達と逸れる事に成功した友哉と咲。

「さて、これからどうしようか?」

「そうね。せっかくだし、もうちょっと屋台を楽しむ?」

「そうしよっか」

もともと二人は、それぞれの親友の付き添いで来ている。

その付き添いで来た目的も無事達成した友哉と咲は、せっかく来たのだからと、もう少し屋台巡りをする事にした。

「藍沢さん、どて煮ってやつ食べてみない?」

「あ、私それ気になってた」

二人はその後もいくつかの屋台を巡って、普段は食べない屋台飯に舌鼓を打つ。

色々と屋台を巡って満足そうに歩く咲に、友哉はチラッと視線を向けた後、何気ない様子で彼女に対して口を開く。

「藍沢さんは、この後花火見る?」

「う~ん、そうね。せっかく来たし見たいかも」

「じゃあ、一緒に見る?」

「……一緒に見よっか」

ほんの僅かに間を開けた後、咲は前を向いたまま友哉に返事をした。

「おっけ、じゃあ花火見やすい所に移動しよう!」

「了解」

楽し気に言う友哉の後に、咲も付いて行く。

「あ、そう言えば藍沢さんの浴衣姿、凄く似合ってるよ」

「ふふ、褒めるのが遅い! 10点減点!」

「きびし~」

そんな愉快な会話を交わしながら、友哉と咲は楽しそうに並んで歩く。