軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

退却戦

ワイバーンの大半を失いつつも、イェリネッタ王国兵達は反転、こちらに全軍で向かってきた。

「はい! 退却するよ! 馬車の盾を戻して! バリスタは使えるから逃げながらワイバーンを狙って!」

そう指示を出すと、オルトが思わずといった雰囲気で口を開いた。

「逃げるんですか!? ワイバーンさえどうにかしたら勝てそうですよ?」

そう言うオルトに他の冒険者だけでなく、元村人の騎士団員達まで似たような顔でこちらを見てくる。ティルやディー達は僕の考えを理解しているらしく、何も言ってこない。

「最初に言ったはずだよ。最大の目標は誰一人死なず、皆で帰ること。あの大軍を相手にすればまず全滅。勝ててもこっちもボロボロになっちゃうよ。死にたい人は残って良いけど、僕は帰るからね? 死にたい人はいる?」

そう確認すると、皆が一斉に首を左右に振った。あまりにも素直なその反応に、僕は笑いながら片手をあげる。

「じゃあ退却! 街道は広いからね。馬車を一列に並べて左右を騎士団で守る! 冒険者の皆は遊撃で宜しく! あ、馬車からバリスタと弓矢が攻撃するから、あまり動き回らないでね!」

僕の言葉に、皆は一斉に動き出した。各装甲馬車はすぐさま形を元に戻し、バリスタだけを出して後方に狙いをつける。中にはそれぞれ連射式機械弓を持った面々が待機し、近くに来た敵を窓から狙う手筈だ。

更に、一部騎兵の後ろにも機械弓部隊の隊員が弓を手に同乗しているし、アルテの操る人形も城壁から戻ってきた。

「課題としては、近付かせないことかな」

退却を開始して走り出した馬車の中、僕がそう呟くと、カムシンが窓から顔を出して口を開く。

「もう近くまで迫ってきてます! バリスタも中々ワイバーンに当たらないみたいです!」

「ジグザグに飛行してるのかな? じゃあ、バリスタの人達には動く先を予測してどんどん発射するように言ってもらおう。近づく敵軍の先端は、アルテに頼もうか」

そう告げると、アルテが窓から顔を出して後ろを見ながら応えた。

「分かりました。後方の守備は私が行います」

アルテは力強くそう言い切ると、魔力を込めて口を小さく動かした。

直後、馬車の上に乗っていたアルテの人形がふわりと地面に降り、風のように後方へ駆け出した。地を蹴った瞬間、あっという間に小さくなっていく人形の背を、アルテは真剣な表情で見据える。

人形は迫り来る敵の先陣と正面からぶつかり合うようにして走り込み、腕を振った。

剣を水平に振るうだけの一撃だったが、盾でそれを受け止めた敵兵は後方に弾き飛ばされ、二、三人を巻き込んで転倒する。

そして、返す刀で斬り裂く大剣を受け、更に数人の敵兵が鮮血を撒き散らして地面に倒れた。

人形はそのまま敵兵の陣の中に単身で突っ込んでいき、姿が見えなくなった。だが、姿は見えなくても兵士達の驚愕する声や怒号と悲鳴、更に激しい衝撃音が鳴り響いている。

敵の行軍速度は明らかに遅くなった。

「よし! バリスタ、機械弓部隊は一斉に射って! 動きが止まった今がチャンス!」

急いで指示を出すと、疎らに射たれていた矢が一斉に発射される。

十連射可能の機械弓の力もあり、雨のように矢が飛んでいった。

「さぁ、逃げるよ! 全速力で離脱! 機械弓部隊は次の矢を補充して!」

僕の指示に大きな声が返ってくる。うむ、元気一杯だ。走れ走れ。

「騎兵が来ます!」

「ディー達に任せようか」

「あ、一瞬で倒しました」

「だろうさ」

ティルやカムシンが実況中継のように次々と状況を口にしてくるが、周りを囲むディー達や冒険者達が鉄壁過ぎる。

更に、そうこうしているうちに機械弓が準備を終え、あっという間に形勢が逆転した。

「アルテ。左手側の木を街道に向けて切り倒せる?」

「やってみます!」

僕の指示にアルテは素早く応え、人形を操作する。遥か後方で敵兵達を相手にしていた人形が風のような速さで馬車の隣まで戻ってきた。

人形の姿を確認してから、アルテは街道の脇に手のひらを向ける。

すると、人形は弾かれるようにして街道のすぐ脇に広がる林に飛び込む。

木々はまるで鉈で竹を切断するようにスパスパと切り倒されていく。

街道に倒れた木々により、敵兵は追撃を阻害されたのだった。

その後も、一旦引き離した敵の一部が再度迫ってきたりと色々あったが、なんだかんだアルテの人形とバリスタや機械弓部隊のおかげで難を逃れた。

街道を強行軍で一日進み、五時間程度休んでまた駆け足で村を目指して走った。それからは移動十二時間、間の休憩と夜営を十二時間の毎日である。

そうして、ついに僕達の視線の先には我が第二の故郷、セアト村の景色が広がったのだ。

「……やった。帰ってきたぞ……」

誰かがポツリと呟いた声が聞こえて、僕は口の端を上げて頷いた。

馬車の御者台に移動して立ち上がり、片手を空に突き上げる。

「帰ったぞー! 宴会だー! バーベキュー大会をするよー!」

そう宣言すると、地鳴りのような大歓声が上がった。

その声に気が付いたのか、セアト村の城壁の上にいた人影も両手を上げて何か叫び、歓声とともに城門が開かれていく。

城門から村に残った人々が出てきて手を振っている。その最前列にはエスパーダの姿もあった。

「ただいまー!」

そう言いながら城門の前に辿り着くと、皆が一斉に寄ってくる。笑顔に囲まれながら、僕は最も重要なことから口にした。

「皆無事だよー! 死者も重傷者も無し!」

そう告げると、安堵の息と共に喜びの声と拍手が送られる。

「おかえりなさいませ。ご無事でなによりです」

挨拶とともに深く頭を下げるエスパーダに、僕は笑いながら答える。

「ありがとう。エスパーダもお疲れ様。留守の間、何かあった?」

「そうですね。今度は侯爵領の村から人が流れてきました。そのため、人口がまた三百人ほど増えました」

「へぇ。じゃあセアト村もついに千人の大台かな? 住居は?」

「今は兵士用宿舎に寝泊まりしております。仕事を覚えてもらっている最中ですが、一度ヴァン様に見ていただけたら」

「そうだね。よし。じゃあ、とりあえず歓迎会も含めてバーベキューパーティーにしよう」

笑いながらそんな会話をしていると、エスパーダの部下であり弟子的存在となっているお姉さんが口を開いた。

「あ、あの、せ、戦争は……」

恐る恐るそう聞かれて、僕は困ったように笑いながら頷く。

「負けちゃったー。まぁ、城塞都市取られちゃったのは痛いけど、僕達は無傷の帰還だから良しとしようか」

ハッハッハと笑いながらそう言うと、その場にいた皆が不安そうに眉根を寄せたのだった。