軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遊びにいこう

ガタゴトガタゴトと馬車が動く。六人はゆったり乗れる造りのしっかりとした馬車だ。内装は茶色と白とアクセントに赤い布があしらわれている。

窓から見える街並みは賑やかだ。木製の建物や石造りの教会らしき建物。馬車も行き交っている。人は今のところ普通の人ばかりでエルフや獣人は見当たらない。

だが、商人らしき格好の人や鎧を着た人など、見ていて飽きない。ボロい服を着た人にロープを付けて歩く人は変わった性的嗜好の人物なのだろう。往来でニヤニヤして、変態め。

と、馬車から自分と同じように外を見ているティルが口を開いた。

「ヴァン様、どちらに行かれますか?」

「大きな商店が見たい」

質問に即答すると、ティルが斜め上を見ながら唸る。

「大きな商店……では、メアリ商会にしましょう。この街だけでなく、王国全土に支店を持つ大商会ですよ。殆どの品はメアリ商会に行くだけで揃います」

「おぉ、良いね! ティルは物知りだなぁ」

「でへへー」

だらしなく舌を出しながら照れるティルに愛想笑いを返しつつ、僕はまた外を見る。

商人の掛け声に笑い合う民の声。外は活気に溢れている。

外を眺めながらヒューマンウォッチングをしていると、暫くして馬車が止まり、御者から声が掛けられた。

「どうぞ。目的地に着きましたよ」

御者はちょっとぶっきらぼうな言い方をした。だが、こちらに何度も頭を下げながら言う様は、ただ敬語が苦手なだけのようだ。

「ありがとう」

僕がそう言って笑いかけると、御者の男は顎を引いて何度も頷く。

「へ、へい。ど、どうぞ」

御者が馬車の扉を開けると、真っ先にティルが降りた。そして、僕の手を引く。逆な気もするけど、外から見たら姉が歳の離れた弟を手助けしているようにも見えるかもしれない。

僕が馬車から降りると、すぐさま馬車の後方に付いてきていた兵士二人が左右に並ぶ。

「ありがとう」

そう言って顔を上げる。

目の前には大きな石造りの建物があった。巨大だ。日本で言うところのスーパーくらいはある。それが二階建てだ。体育館みたい。

開け放たれた大きな両開き扉や、細部までこだわった窓枠は中々にお洒落で好みである。

さぁ、入ってみようかな。

そう思った矢先、大通りに怒鳴り声が響き渡った。

「おら、早く来い!」

怒りを隠す気も無いその声音に思わず振り向くと、通りの向こう側から紐を引いて歩く男の姿があった。

良く見ると男の奥には汚いボロ布が動いている。更に目を凝らすと、それが人間の子供だと分かった。

まぁ、子供といっても僕よりも年上っぽいけども。

男は僕たちが見ていることに気がつくと、一瞬怯んだものの赤ら顔を顰めさせて睨んできた。

「な、なんだよ。見世物じゃねぇぞ」

男がそう言い、二人の兵士が剣の柄に手を掛ける。それに怯えながらも、男は引くそぶりを見せなかった。

空気が重く張り詰めていくのを感じながらも、僕は男に向かって話しかける。

「ねぇ。その子は? なぜ、紐で繋がれているの?」

そう尋ねると、男は少し不安そうな顔をしながらも答えた。

「こいつは奴隷として売りにきたんだよ」

その言葉に、僕はティルを見る。すると、ティルは難しい顔で男に顔を向けた。

「……その子は貴方の?」

「そ、そうだよ。悪いか。俺の借金はこいつの名義にしたんだ。だから売るんだよ」

と、男は当たり前のようにそう言って後ろにいる子供を指差した。

「……借金の名義?」

疑問符を上げると、ティルが悲しそうに口を開く。

「奴隷は奴隷法により、借金による奴隷と罪を犯したことによる奴隷の二種類のみしか認められておりません。しかし、昔から貧乏な村人や町人は食べさせられない子供は奴隷として売って生活費用としていました……なので、借金の譲渡制度を利用して子供を借金奴隷にしてしまうのです」

ティルがそう説明し、周りの目が僅かに冷たくなった。だが、それ以上厳しい視線や声が向けられないのは、恐らく奴隷制度がかなり根付いているからなのだろう。

つまり、皆こんな光景を見慣れているのだ。

「あ、これはこれは……もしや侯爵様の御子息様ですか?」

と、不意に店の中にいた三十代ほどの女の人が深く一礼してそんなことを口にした。僕が侯爵家の人間だと何故分かったのか。

首を傾げながらティルを見ると、ティルは満足そうに頷いて答える。

「その通りです! こちらの方がかの有名な神童、ヴァン・ネイ・フェルティオ様です! ほら、証拠の紋章が!」

ティルは嬉しそうにそう言って僕の背中を指し示す。何が証拠なのか。そう思って確認すると、僕が軽く羽織っている上着の背中にはデカデカと牛のシルエットに剣の模様が描かれていた。我が侯爵家の紋章、魔獣ベヒモスとそれを討伐する為の魔剣の絵だ。いや、そんな逸話があるだけで我が家に実際にその魔剣があるわけではないが。

と、今は我が家の紋章などどうでも良い。

「……僕、こんなの着てたのか」

何故着替えさせられている時に気が付かなかったのか。恥ずかしい。

落ち込んでいると、挨拶をしてきた女の人が笑顔で顔を上げる。

「やはり侯爵家の……! さぁさ、ようこそ、メアリ商会へ! 何をお求めでしょう? 何でもご用意してみせますよ! あ、私はロザリーと申します。お見知り置きを」

ロザリーはそう言うと、上機嫌に再度お辞儀をした。

「こ、侯爵家だと……」

ふと、男の呻くような声が聞こえて目を向けると、男は青い顔で後退りをしているところだった。

グレーゾーンの手法で我が子を奴隷にしようとしていたから、逮捕されないか不安になったのかな?

そんなことを思いつつ、僕はロザリーに対して口を開く。

「ちょっと質問なんだけど、良いかな? あの子供を奴隷として売りに来たらしいんだけど、あのぐらいの子なら幾らになる?」

そう尋ねると、ロザリーは真面目な顔で男の方を見た。

「……八歳ほどですね。魔術の適性は?」

ロザリーが尋ねると、男は顔をしかめて答える。

「ぬ、盗みの魔術適性だ」

「じゃあ、大銀貨三枚以上は出せないね」

ロザリーは即答した。その言葉に、男は戸惑いつつ反論する。

「ちょ、ちょっと待て! そこの店では奴隷は誰でも大銀貨五枚以上したぞ!? まだ若いから、長く奴隷をやれるんだ。もっと高くて当たり前だろう!」

そんな文句に、ロザリーは鼻を鳴らして腕を組む。

「どの店も買取は売値の半額以下だよ。その子供も大銀貨三枚出せば良いくらいさ。売るときは大銀貨六枚か七枚だけどね。女なら倍はいっただろうけど、男で小さい内は使い所が無いからね、育てる費用込みで安くなるのさ」

ロザリーがそう告げると、男は歯噛みして自分の連れてきた子供を見下ろした。

「くそ、使えねぇ……! 分かった、大銀貨三枚で売るぞ! ほら、金をくれ!」

苛々した様子でそう言い、男は子供を前に突き出す。余程強く押されたのか、子供は前のめりに転がり、地面に倒れて呻いた。

それを見て、ロザリーの目が鋭く尖る。

「……ちょっと待ちな。そんな扱いは無いだろう? あんたの子なんだろ? ちょっとは優しく……」

「うるせぇ! 口出すんじゃねぇ!」

ロザリーの言葉を遮り、男が怒鳴りかえした。売り言葉に買い言葉か、ロザリーは怒りを露わに肩を怒らせて口を開く。

「馬鹿にするんじゃないよ! こっちは別に買わなくたって良いんだからね! 売りたければ、嘘でも良いからその子に……」

「ど、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……! こっちだってテメェのとこに売るつもりはねぇぞ! ほら、来い! 別の店に行くぞ!」

「あぁ……っ」

顔を真っ赤にした男に紐を引かれ、子供は痛そうに悲鳴を上げた。

「僕が買うよ。大銀貨五枚。どう?」

思わず、そう口にしていた。このままあの男に連れてかれたら、子供は殺されてしまうかもしれない。そんなことが頭によぎったからだ。

男とロザリーの顔がこちらに向くのを見て、僕はティルを見る。

「お金、あるかな?」

そう聞くと、ティルは慌てて革の袋を取り出した。

「は、はい……! 一応金貨の用意をしておりました!」

そう言って金色に光る馬の刻印のされた貨幣を取り出すティル。

「大銀貨、無い? 五枚」

そう確認すると、ティルがまた慌てて革の袋の中を確認し始める。それに吹き出すように笑い、ロザリーが手をティルに向けて差し出した。

「うちで両替しましょう。お任せください」

ロザリーはそう言うと、ササっと大銀貨十枚持ってきて五枚をティルに渡した。

「ヴァン様のご厚意に感謝するんだね」

そして、吐き捨てるような言葉と共に男に大銀貨五枚を叩きつける。

男はまたカッとなった顔をしたが、地面に落としてしまった大銀貨に気づくと、慌てて拾い集め、その場から立ち去っていった。

残された子供はどうしたら良いか分からず、その場で蹲ってしまっている。

「……君の名前は?」

僕がそう尋ねると、子供はぼさぼさに伸びた髪の隙間からこちらを見上げ、小さく呟く。

「……カムシン」