軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出立

二日後、全ての査定を終えたランゴが僕に金額を伝える。

「白金貨百三十枚で、お売りいただけますか?」

「おっけー」

商談は成立した。

緊張していたが、了承を得たことでホッとするランゴと、将来手にする利益を想像して笑顔になるベル。

ちなみに、まだ爵位は手にしていないが、商会を設立する際に僕かパナメラが推薦する条件として、毎回利益の一割を受け取ることで契約した。

商会設立後の収益全てなので、オークションで得た利益の一割も対象となるが、器がこの大空のように広いヴァン君がサービスしてやろうと告げ、神のように崇め奉られた。

こうして、ランゴが王都に戻り、ドラゴンとアーマードリザードの素材を売ることになった。

しかし、ここで問題が発生する。

なんと、ランゴが連れてきた冒険者や商人達が、勝手に帰ってしまったのだ。

「馬鹿な……あいつら、商会に手ぶらで帰ってなんと説明する気だ?」

運搬用の大型馬車を空のまま持って帰った商人達に、ベルが思わず素でそう呟いた。

「恐らくは泣きついてくるのを待っているのだろう。運ぶことも出来なければ、助力を求めるしかない。そうなると、やはり奴らの言うことを聞いて白金貨八十枚で売るしかないからな」

パナメラがそう解説した。まだ出立したばかりだから、街道をゆっくり進んでいるらしい。走ればすぐに追いつくが、今の話を聞いてしまったら意地でも頼りたくなくなる。

ヴァン君は八歳なのだ。大人げなど無い。

「じゃあ、僕が馬車を作るから、それで運ぼうか。オルトさん達にお願いしたら護衛も大丈夫かな」

そう口にすると、パナメラが首を左右に振る。

「いや、私が私兵を連れて王都に向かう。少年の叙爵を陳情しなければならないからな。だから、護衛も人手も気にするな」

「うわぁ、ありがとうございます! パナメラさん達が一緒なら絶対大丈夫ですね」

真っ直ぐにパナメラを見てそう言うと、パナメラは僅かに頬を染めて視線を逸らした。

「……あまり真っ直ぐに信頼を口にされると気恥ずかしいぞ」

と、ついにパナメラがデレた。今日はお祭りだ村の衆。豊饒祭、謝肉祭に続き、大照祭を年間行事に加えよう。

「あ、あの、大丈夫でしょうか。ドラゴンの素材を運ぶにはかなり大型の馬車と多数の馬が必要ですが」

「大丈夫。今から用意するよ」

ベルが心配するが、僕は笑顔でそう答えたのだった。

それから二時間後、馬車は完成した。ウッドブロックを用いたので軽くて丈夫な大型荷台タイプの馬車だ。素材を載せてから幌みたいに薄い屋根を載せる。

車輪は大きくしたので段差にも強いぞ。

「馬は私が用意しよう。荷引き用の馬などではなく、鍛えられた軍馬だ。体力も進行速度も桁違いだぞ」

そう言って、兵士に馬を取りにいかせるパナメラ。

こうして、最初に来た時よりも豪華な馬車と護衛を手に入れたランゴは、意気揚々と村を出ていったのだった。

街道をゆるゆると進んでいた商人達は護衛を冒険者に任せ、御者には奴隷を使い、荷台の上で三人で顔を突き合わせて会話していた。

「まだ追いかけてこないか?」

不意に一人がそう聞くと、もう一人が眉根を寄せて口を開く。

「来ないな…… なぁ、大丈夫か? もし、あの兄弟が意地を張って馬鹿な行動に出たら……」

「それこそ馬鹿だろう。考えてみろ。こんな地の果てのような場所で、ドラゴンの素材なんて売る場所も無いし、我らのように同じ商会の者にでも頼まなければキャラバンなど用意出来ないんだ。すぐに自分達がどれほど愚かだったか気付くことだろう」

鼻を鳴らして最も年上の商人がそう言った。

ガタゴトと小刻みに揺れる馬車の中で一瞬沈黙が降りる。

と、その時、外を歩く冒険者達の驚く声がした。

三人が顔を出すと、街道の奥から大型の馬車が複数台、こちらに向かってくるのが見え、目を丸くする。

「な、なんだ? みたことのない馬車だぞ」

「それより、周りを見ろ!」

「騎士団か!? な、なぜ、こんな村に騎士団が……?」

慌てて馬車を街道の傍に移動し、騎士団らしき集団に道を譲る。

統一されたデザインの一揃えの装備と高い練度の整列。どこからどう見ても騎士団だ。馬車が真ん中を進んでいるせいで奥が見えない為、商人達からは実数以上の大人数に見えた。

「ど、どこの騎士団だ?」

「まさか、フェルティオ侯爵家か?」

「そんな馬鹿な。噂はともかく、あの四男が侯爵家から追い出されたのは事実だぞ」

三人は混乱しつつ、馬車の中から様子を窺う。だが、すぐに違和感に気がついた。

馬車の形と、数だ。

貴族が乗る馬車ではないし、家紋もない。更には大型の馬車としてもデカすぎる。車輪なんて商人達の乗る馬車の二回りは大きい。

異形の馬車だ。四頭の馬に引かれる馬車が、合計十台。どれも限界まで荷を積んでいる。

「お、おい。アレ……」

そう言ったのは三人の中で一番若い商人だった。指差した先には、馬車の御者をやっているランゴの姿がある。

「まさか、これは……」

唖然としながら馬車と兵の一行が進む姿を見る商人達。

五台馬車が通過したところで、馬に乗る美しい女の騎士の姿があった。その周りには旗を掲げた二人の兵士の姿があり、旗にあったユニコーンと盾の紋章を見て、一人の商人が口を開く。

「あ、あれは……まさか、カイエン子爵? 伯爵領にいるはずの成り上がり者が、何故ランゴと……」

「ちょ、ちょっと待て! 成り上がりだろうと何だろうと、貴族が協力していたらベルとランゴは商会を立ち上げてしまうぞ!?」

その言葉に、全員が初めて本気で焦り始めた。

ベルとランゴに対する商人達の優位は、ドラゴンの運搬方法と売り先の確保である。あの二人にそんな手段は無いとタカをくくっていたが、まさかの事態となってしまった。

商人達がこんな辺境まで無駄足を運んだのも痛いが、何より利益を失ったことが痛い。

セコい真似をせずに、白金貨百枚と言われて頷いておけば、それでも全員が白金貨一枚から二枚の莫大な利益を得ていた筈である。

「……そ、そんな……」

「ど、どうする? あの馬車の数でも、どうせ二回に分けて運ぶ筈だ。謝って、一緒に運ばせてもらうか?」

二人の商人は顔を真っ青にしてそう言った。

二人が恐れているのは、自身の商人としての地位の失墜だ。メアリ商会でもベテランに名を連ねる三人が、信じられないような話を持ってきたランゴの話に乗り、商会長に頼み込んでキャラバンを手配してもらった。

アーマードリザード四十体の納品。

これを条件にキャラバンを動かしたのだ。それが、欲をかいたせいで何も載せずに街に戻ることになる。

そんな説明を、誰が商会長にするというのか。

「……いや、善意で商会長に頼み込み、キャラバンを出してもらったのは我々だ。ベルとランゴは、その善意を踏みにじった。そう商会長に話す。あの者達に我々は騙されたのだ、と」

一番年上の商人がそう呟くと、ほかの二人は目を瞬かせる。

「そ、そんな話、納得してもらえるか?」

「せめて、アーマードリザードだけでも我々が運んだほうが……」

「今の商会長はあのディアーヌ様だ。まだそこまでハッキリと処罰などはされないだろう」

代替わりしたばかりのメアリ商会の商会長の名に、商人達は少しばかり肩の力を抜く。

「だ、だが、カクタス様は顧問として残っているぞ」

そう加えると、年上の商人は頷いた。

「カクタス様ならば絶対に許されないが、あの人も娘には甘い。ディアーヌ様が決めれば覆らないだろう。それに、辞めたとしても、元商会員のベルとランゴがドラゴンの納品なんてしたら、こじ付けてでも利益に絡む筈だ」

「なるほど。カクタス様の力を借りれば……」

三人はそんなやり取りをして、結局ドラゴンの運搬をそのまま何もせず眺め続けたのだった。