軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パナメラの力

予想はしていた。

なにせ、若くして伯爵に重用され、更にはその力と武功を認められて騎士爵から男爵を経て子爵にまで陞爵している。

間違いなく一流の四元素魔術師であり、その適性は自ずと知れた。

「 炎槍(ファイアジャベリン) 」

パナメラの一言に合わせ、前に突き出された片手から巨大な炎の塊が出現し、槍の形となって飛ぶ。

パナメラの身体よりも大きな燃え盛る炎の槍が、勢いよくドラゴンに向けて飛来した。

その迫力にはさしもの緑森竜も回避しようと翼を畳み、地面に落下すると同時に四肢で地面を蹴り、横に跳んだ。

炎の槍を上手くやり過ごすと、ドラゴンは四足獣のような体勢のまま、走り出す。完全にコモドドラゴンのような走行方法だが、図体がでかいために物凄く恐ろしい。

速度は僅かに落ちたが、それでも僕の全力疾走くらいの速さはありそうだ。

と、その時、ようやくバリスタの準備が完了したのか、矢が次々に発射され始めた。

ドラゴンは余程目が良いのか、回避しようと動くが、十数本というバリスタの矢を全て回避することは出来ない。

バリスタの矢は体や翼、足を射抜いた。五本くらいは当たったかな?

バリスタを大型化したからか、随分と発射までに時間が掛かった気がする。テコの原理で弓を引き絞るので、棒の長さを長くしたり歯車の数を増やしたりしたのだが、前より力が必要なのかもしれない。

そんな考察をしつつ、半分開かれた門の間からドラゴンの様子を窺う。

バランスを崩したドラゴンは絶叫とともに地面を勢いよく転がり、街道のすぐ傍で動きを止めていた。

矢がドラゴンの鱗に弾かれたらどうしようかと思ったが、どうやら無事貫通したらしい。

「急いで二射目! 準備ができた人から射って良いよ!」

僕がそう指示を出した直後、一斉に矢が放たれた。どうやら皆揃って二射分まで装填していたから時間が掛かったらしい。

バリスタは全体に五十台設置完了しているが、城壁の正面側は少し多めの十五台だけだ。つまり、最大で同時十五の矢しか飛ばせない。

血を流しながらも、ドラゴンはまた横に大きく跳び、その全ての矢を回避してみせた。

矢は街道に深く突き刺さるが、ドラゴンは二射目ではノーダメージだ。

しかし、一射目で胴体を貫通した矢のダメージが凄いのか、ドラゴンは唸りながら姿勢を低くする。

「た、助かった!」

「な、なんとか生還できたわね……」

と、オルト達が城壁まで戻ってきた。ホッと一息吐いて安心するオルト達だったが、まだまだ撃退とまではいっていない。

「あ、あっしへの仕打ちは、わ、忘れやせんぜ……」

そして、死にそうな顔で荒い呼吸をするクサラが城壁に辿り着く。

その後方では、態勢を整えたドラゴンが地を蹴るのが見えた。

そこへ、二発目の炎の槍が発動する。

「 炎槍(ファイアジャベリン) 」

パナメラの声に合わせ、炎の塊が出現して槍の形となった。

「これで一度足止めする! 全員、村まで避難しろ! ここでは手数が足りん!」

パナメラがそう指示を出し、炎の槍を放つ。

ドラゴンはそれに対し、回避の姿勢をとった。だが、炎の槍は目標の前方で僅かに軌道を変え、追尾するように動く。

そして、直撃間近で爆発した。

激しい炎の柱が燃え盛り、ドラゴンの顔と体の一部を焼く。

ドラゴンは絶叫を上げて仰け反り、二歩後退した。おぉ、あれが炎の魔術の真骨頂か。相手がドラゴンでなければ恐ろしい威力と汎用性だ。派手なのも戦場では良い効果を生むだろう。

と、驚いている内にパナメラに出遅れた。流石に戦場の経験値が違う。

「よ、よし! 皆! 村まで逃げるよー!」

パナメラの指示をもう一度復唱しつつ、一歩遅れて皆に指示を出した。僕達は一斉に村に向かって走り出す。

兵士たちが先導し、城壁造りに来ていた村人達は全力で村まで走り出した。

「ヴァン様! 後ろは任されよ!」

ディーが部下を僕達の周りに付けて後方に残る。

「ダメだ! 皆で村まで走るよ! 前の人! 村に残ってる人にバリスタの準備をさせて!」

ディーに怒鳴りながら走り、前方を行く人達に指示を出す。

と、その時、こちらを向いて立ち止まるエスパーダとすれ違った。

「エスパーダ!?」

名前を叫んで振り返ると、エスパーダはこちらに向かってくるドラゴンを、見据えて魔術の準備をし始める。

ドラゴンは城壁に辿り着くと、地面を蹴るようにして跳び上がり、城壁の上に上体を乗せて前足の爪を内側の壁に突き刺して取り付いた。

その状態でこちらの様子を確認するように睥睨する緑森竜に、息を呑む。アーマードリザードを討伐して慢心していた。あれは、その辺の魔獣とは別格の存在だ。

翼を傷め、地を走るしかないというのに、その迫力は一切変わらない。

「エスパーダ! 早く逃げるよ!」

そう叫ぶが、エスパーダは動かない。

「早く逃げないと僕も逃げないからね!?」

もう一度怒鳴る。すると、エスパーダは薄く笑みを浮かべて横顔を見せた。

「それは困りましたな。では、一度だけ時間を稼いで戻りましょう。ヴァン様は、お先に」

「一緒に戻らないとダメだってば!」

焦燥感を覚えながら念押しをする。エスパーダは苦笑し、城壁を軽々と越えたドラゴン相手に魔術を発動する。

城壁を発射台のようにして飛び込んできたドラゴンの目の前に、巨大な土の壁が出現し、ドラゴンは顔面から衝突した。

地響きを立て、エスパーダの作り出した土の壁は崩壊するが、ドラゴンも瓦礫に埋もれるようにして動きを止める。

「ふむ。多少の時間稼ぎにはなりましたか」

エスパーダは顎を指で撫でながらそう呟くと、踵を返してこちらに向かってきた。

が、遅い。

「はい、歩かない! 駆け足! 頑張ったらエスパーダの好きな赤ワイン買ってあげるから!」

「老骨には駆け足は辛いのですが、頑張りましょう」

僕が叱咤激励するとエスパーダはジョギングほどの速度で走ってきた。

「ヴァン様! エスパーダ様は僕が連れて行きますから、先に行ってください!」

カムシンと入れ替わり、僕はまた走り出す。村の正門まで後少しだが、異様に遠くに感じられた。オルト達もこれまでにかなり走ってきていたため、走るのが遅い。

「少年! こちらは配置についたぞ!」

と、村の防壁の上にはパナメラがおり、大きな声でそう叫んだ。

見れば、もう防壁の上のバリスタには全て射手となる村人達が配置に付いている。

「矢を装填して発射準備! 引きつけて射たないと当たらないからね! 準備だけしっかりしてて!」

走りながら指示を出すと、村人達は大急ぎで準備を開始する。慣れたサイズのバリスタだからか、こちらの方が早く準備が完了した。

「私はどうする! 勝手に動いていいか!?」

パナメラが確認してきたので、僕は内心少し驚きながら口を開いた。

「また先程の魔術で最後の足止めをお願いします! そこを、バリスタで狙います!」

答えると、パナメラは面白そうに笑う。

「上策だ! しかし、私の魔術が足止めに使われるのは初めてだぞ!」

「それは申し訳ない! ドラゴンの肉で許してください!」

「はっはっは! 良いだろう! さぁ、その肉が動き出すぞ!」

パナメラの台詞に振り向くと、たしかにドラゴンが瓦礫を押し退けて姿を見せていた。

「来るよ!」

僕は大きな声で叫び、村の入り口に視線を戻した。