軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五分の同盟相手

建造中の城壁の上で交わされた約束に、部下の兵士たちも慌てて一礼する。この辺の作法はよく知らないが、とりあえずティルとカムシンを見る。

すると、二人は慌てて一礼した。そして、何故かアルテも皆に合わせて一礼する。君は僕の部下じゃないでしょうに。

同盟が成ったと判断したパナメラは迫力のある笑みを浮かべ、胸に当てていた片手を広げる。

「記念すべき最初の協力だ。あのバリスタを一台譲ってもらえるなら、我が兵士達百人を二週間貸し出そう。作業の手伝いにでも使ってくれ。ただし、返す際に欠けていたら許さんぞ?」

悪戯っぽい顔つきでパナメラがそう言うと、後ろに居並ぶ兵士達が一斉に敬礼をした。パナメラの性格を考えるならかなり鍛えられた精強な兵士達だろう。それを百人。傭兵団を雇うより頼りになる。

「良いですよ。それで、こちらはあのバリスタ一台で良いんですね? 運搬用の台車とか、装填すべき矢とかはどうします?」

そう確認すると、パナメラはバリスタに向かって歩いていき、観察する。

「かなり重そうだ。それ用の馬車を一台手配した方が良さそうだな。矢は……鉄の塊か。これならば、こちらで作成出来るだろう」

と、パナメラは答える。その言葉にティルとカムシンが顔を見合わせた。

「パナメラ様。せめて一本か二本はヴァン様の矢を持っておいた方が良いかと……」

カムシンがそう告げると、パナメラは首を傾げる。

「何故だ?」

「これはヴァン様に作ってもらった大太刀という剣なのですが……」

そう言って、カムシンは腰に差した二本の剣のうち、長い方の剣を抜いた。つい先日、祭りの時にお祝いがてら贈呈した鉄製の刀である。長さは刀身の部分だけで一メートル強あり、振るとかなり重い。が、カムシンは泣いて喜んで毎日寝る前に素振りをしている。

この刀、長く使えるように刀身の厚みを少し厚くしたのだが、それでも斬れ味は随一である。

カムシンはその刀をパナメラに見せた。

「……面白い剣だ。見た事が無い形状をしているな。だが、鎧や盾を装備した相手には少々心許ない気がするが」

訝しむパナメラに、カムシンは頷いて口を開く。

「大事ではない剣、ありますか?」

「大事ではない? まぁ、剣は消耗品だからな。別に折れたところで然程気にしないが……」

そう言って、パナメラは剣を構えた。分厚い、鉈のような剣。いや、マチェットとかに近いだろうか。

「これは私の予備でな。数多の戦で重宝した代物だ。少し短いのが扱い易い」

「なるほど……では、失礼致します」

「ああ。刃こぼれでも作れたら素晴らしいが」

刀を構えるカムシンにパナメラは苦笑しながらそう言った。だが、カムシンは申し訳なさそうな顔をして、パナメラの剣に向かって刀を振り下ろす。

風を切る音と、キィンという澄んだ音が響き、パナメラは首を傾げた。

「当たったかと思ったが、掠めただけか? 殆ど衝撃も……」

不思議そうに首を傾げながら違和感を口にするパナメラの前で、一瞬遅れて剣が刀身半ば程から切れて落ちた。

切れた刀身の半分が地面に落ちた音が響き、全員の目が見開かれる。

カムシンはどこか自慢げに刀を鞘に納め、ティルは皆が驚く姿を見て小さくガッツポーズをした。

そして、しばらくしてパナメラが剣を掲げて口を開く。

「……折れた? いや、切れたのか? 高純度の鋼だぞ……その剣、まさか鉄じゃないのか?」

尋ねられ、僕は首を左右に振る。

「いえ、鉄ですよ。ただ、造りが違うだけです」

そう答えると、パナメラは黙って自分の持つ剣を見つめる。

そうして、ようやく元の話が何だったかを思い出し、ハッとした顔でこちらを見た。

「……ちょっと待て。まさか、あのバリスタの矢は……」

「その刀と同じく、ちょっと普通より鋭い鉄の矢です。アーマードリザード二体か三体くらいなら貫通しますよ」

「アーマードリザードを貫通!?」

パナメラが大声を出して驚きを露わにする。兵士たちも驚愕の表情でバリスタを見た。

「……代金は言い値で構わん。バリスタ本体に加え、矢も売ってくれ。財力にゆとりがある限り買わせてもらおう」

「まいど、ありがとうございます」

僕は笑顔で今後上客になるであろうパナメラに返事をしたのだった。

その日の夜。村は二度目のお祭り気分で盛り上がった。

いや、領主としてはただのバーベキューパーティーであり、断じて祭りではないのだが、悲しいことに祭りの時と規模が大して変わらなかった。

なので、村人達は祭りとして大いにハメを外すことになった。

「そうですか! アルテ様は伯爵家のご令嬢で……! いやぁ、ヴァン様を宜しくお願いしますよ!」

「ヴァン様が領主様になってくれて、村は見違えたんだ!」

「ヴァン様にアルテ様みたいな美しい方が嫁いでくれたら嬉しいことでさぁ! 玉の輿だしなぁ!」

「ばか! ヴァン様ぁ侯爵家の出だぞ!」

「どっちが上だ?」

「バカか、お前。王様だよ!」

すっかり出来上がった村人達に絡まれ、アルテは目を回しそうになっている。パナメラはその様子を見て笑いながら酒を呑み、肉を食らう。

いや、助けろよ。

「ほらほら、皆! お客様に絡まない!」

両手を合わせてパチパチと音を立てながらアルテのもとへ行くと、涙目のアルテが駆けてきた。

「王子様が迎えにきたぞ」

「流石はヴァン様だ。これでアルテ様はメロメロだな」

「間違いねぇ。今日が初夜だ、初夜」

酔っ払ったおっさんがタチ悪いのはどこも一緒か。

下世話な話で盛り上がる男衆にアルテの顔は真っ赤に染まる。

「はいはい。おじさん達はもう少し大人しく呑みなさい。酒のお代わりは禁止で」

「えー!?」

「そんなご無体なぁ……っ」

嘆きの声が後ろで聞こえたが、断固無視である。ティルが顔を赤くしながらも凍て付く視線を向けると、水を打ったように静まり返ったので良しとしよう。

「こっちで一緒に食べるかい?」

そう聞くと、アルテは無言で頷いた。

「さて、測量も目処がついたし、城壁造りは一ヶ月くらいで終わるかな?」

「そうですね。今回は範囲が広いので一ヶ月はかかるかと」

「その間、何もないと良いのですが……」

僕とカムシン、ティルの会話に、アルテが首を傾ける。

「あの、街道に面した城壁部分が完成する、ということでしょうか?」

「いや、全部」

「ぜ、ぜんぶ……?」

吃驚するアルテ。そうか。普通なら城壁ってもっと時間掛かるよね。確か、王都は最初完成までに三年掛かったらしいし。その後の拡大工事も毎回年単位で行われている。

大人数で作業を行っても、恐ろしい時間が掛かるのが普通だ。

ちなみに昔は特に領土争いが激しく、新しい国が出来たり古豪の国が飲み込まれたりと、世界の版図は目まぐるしく変わった。

その為、貴重な四元素魔術師は殆どが戦場か激戦区の拠点を守るために使われ、新たな城や街造りには戦争捕虜や奴隷、一部平民などが使われるのが普通だった。

そういうこともあり、僕のように一流の四元素魔術師を毎日城壁造りに従事させる者はいなかったに違いない。

まぁ、土の壁を魔術で作り上げてもそのままにしていればただの土塊である。そこに生産系の魔術師を配置するなんて者はいなくても仕方ないか。

「とりあえず、普通の手順とか、工事期間なんてのは無視して作るからね。理想としては、行商人のランゴが来村するまでに内側の城壁くらいは作っておきたい」

「行商人の方? な、何故でしょう? 危険な方なのですか?」

不安そうにするアルテに、僕は笑みを浮かべる。

「どうせなら、おもいっきり驚かせたいからね」