軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】アルテの気持ち

それから、ヴァン様は私に四元素魔術以外の魔術の凄さを見せ付けた。

貴族は四元素魔術に信仰にも似た強い思い入れがあり、私は貴族らしからぬ俗な魔術の適性であるとされてしまう。

だから、私はあの時から、母が私を見なくなったあの日から、魔術を使うことを止めた。

私がもしあの時、まだ魔術の練習を止めなかったら、ヴァン様のようになれただろうか。

もやもやした気持ちのまま、私はヴァン様と夕食を共にすることになった。

「……アルテ嬢、美味しいですか? もう少し食材が手に入るようになればお菓子の類も作れるようになるでしょうが……」

「あ、い、いえ……お肉も、サラダも、果物も、と、とても美味しくて、驚いております……」

少しだけ慣れてきたけれど、まだ喋ろうとすると途切れ途切れになってしまう。恥ずかしいが、不思議とヴァン様に蔑むような視線は無かった。

もしかしたら、パナメラ様と同じくらい優しい人なのかもしれない。もしそうなら、確かにそんな人に出会う機会なんてもう無いだろう。

私は少し頑張ってみることにした。

「アルテ嬢は何が好きですか?」

「あ、わ、私は、可愛らしいものが好きで……」

「良いですね、可愛いもの。小さな動物とかですか?」

「に、人形とか、綺麗なお花とか、です……動物は、動かなかったら……」

「人形か。まだあまり見たことがないなぁ。良かったら今度見せてくれる?」

不意に、ヴァン様はまるで大人のような言い方でそう言ってきた。でも、何故か違和感はなく、むしろ、誰よりも大らかな大人の雰囲気を感じ、驚く。

「あ、は、はい……! ば、馬車に載せてますので、明日にでも……」

「本当? ありがとう」

優しげな微笑とともにそう言われ、胸の中でフワリとした気持ちになった。嬉しいような、ワクワクするような、不思議な気持ち。

ソワソワしながらヴァン様の横顔を見ていると、パナメラ様が意味ありげな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。

恥ずかしくなり、視線を逸らす。

その後も、ヴァン様は何度も話しかけてくれた。少しずつ慣れてきて、私はもっと話したいと思うようになった。

だが、自分からも話しかけようかと思って様子を窺っていたら時間がきてしまった。あっという間に、夕食の時間は終わってしまったのだ。

その後、ヴァン様がパナメラ様と会話するのを聞きながら、宿まで戻った。

即席で悪いけど、なんてヴァン様が笑ったが、とんでもない。見たこともない様式の立派なお屋敷だった。

部屋は人数分用意するために狭く作ってあるそうだが、少なくとも見た目は立派だ。

それを見上げると、また心の中に嫉妬が渦巻きそうになったが、私は首を左右に振って溜め息を吐く。

と、そうこうしている内に、パナメラ様は宿に行ってしまった。

ヴァン様と目が合う。

意を決して、私は自分から話しかけた。

「……きょ、今日はありがとう、ございました。婚約するかもしれない方と思い、緊張しておりましたが……その、ヴァン様がお優しい方で、あ、安心しました。あ、えっと、これからも、よろしくお願い致します……! おやすみなさい!」

私は早口にそう挨拶をし、返事も聞かずに走り去る。

失礼だったかな。ヴァン様は、私を変な子だと思ったかもしれない。あ、私の部屋が何処か分からなくなった。どうしよう。

ぐるぐると色々考えてしまい、頭の中がいっぱいになる。半泣きになりながら廊下を歩いていると、兵士の人達が怪訝な顔で私を見ていた。

ようやく部屋に辿り着くと、中ではパナメラ様が下着だけの姿で立っていた。女の私から見ても魅力的な女性らしさの塊のような体だ。男の人はこういう魅力的な女性を好むのだろう。

パナメラ様は綺麗な木のコップで、透明な液体を口に流し込んでいる。

「お、ようやく来たか。子供同士、勢いだけで一線は越えたか? 既成事実を作ったなら言え。力になるぞ」

「い、い、一線、なんて……」

思わず悲鳴のような声が出てしまった。

不意に言われた言葉に動揺した私は、上手く答えられずに顔を両手で隠す。

すると、パナメラ様は面白そうに笑う。

「明日で帰る予定にしていたが、もう数日残ろうか。流石にいつまでもタダで世話になるわけにもいかないから、毎日人数分の金貨でもやるとしよう。いや、そうすると三日で尽きるか。ならば、一週間で金貨百枚払うとするか」

楽しそうにそんなことを言うパナメラ様に、私は頷く。

明日会ったら、私からまた話しかけてみよう。ヴァン様なら、多分話を聞いてくれると思う。

久しぶりに、私は明日が待ち遠しくなっていた。

水浴びにて汚れを落とし、ベッドに乗る。ベッドは驚くほど寝心地が良く、毛布も柔らかかった。

【パナメラ】

これぐらいの条件ならば良い。曖昧ながら、そういう基準を作ってから辺境の村へ足を運んだ。

最初村を遠目に見た時は、これは期待出来ると喜んだ。

最初に聞いていた村の雰囲気とまったく違ったからだ。明らかにその辺りの町よりも防衛力は高く、村を囲う壁も新しい。

使用されている頑丈そうな素材が何かは分からなかったが、侯爵ともなれば様々なコネがあることだろう。十中八九、侯爵が揃えた筈だ。

つまり、この地はやがて強大な城塞都市か、要塞となる。

伯爵は侯爵の力を恐れ、争うぐらいならば娘を差し出すつもりだ。ならば、今のこの状況は早急に婚約を決定し、公表するべき事態である。

出来ることなら侯爵から可愛がられている末息子であってほしいところだ。そうなら、アルテが気に入られさえすれば、婚約を押し通すことも可能だろう。

だが、私はこの婚約に当初から反対だった。

伯爵がそれほどまでに侯爵家の勢いを警戒するならば、反対に侯爵は伯爵家を恐れていないだろう。ならば、わざわざ縁を繋ぐのではなく、争う姿勢のまま領地を奪い取ろうと画策する筈だ。

ならば、もし婚約してしまったら、アルテの立場は無い。

この幸薄い少女は、生き地獄を味わうことになるだろう。それは流石に寝覚めが悪い。せめて、アルテの犠牲の上に伯爵家が栄えるならば、意味だけは出来る。しかし、私の予想通りならば無駄な犠牲だ。

「……気に入らん」

声に出して怒気を吐き出し、堅牢そうな村の囲いを見た。

侯爵に媚びを売るくらいならば処罰を覚悟で争えば良い。そう思ったが、指揮官として認められ、武功を挙げる機会を貰った恩がある。

仕方あるまい。

私は自分を無理矢理納得させて侯爵の息子を推し量るために門をくぐったのだった。

実際に会ってみれば覇気の無いノンビリした少年であり、正直期待外れだと感じた。

だが、話してみればみるほど、子供とは思えない。言葉遣いではなく、受け答えした内容と考え方が子供のそれとは違うのだ。

そして、彼が口にした侯爵家の支援は一切無いという言葉と、実際に見せてくれた物を創り出す魔術。

面白い。

この少年は、必ず大きくなる。下手をしたら自らの父を超えるほどに。

戦の世はまだまだ続く。この少年の力は、下手をしたら他国からも狙われる稀有なものだ。

半日も経つ頃には、私はすっかり心変わりをしていた。

どうにかして、アルテをこの少年と婚約させてしまわねばならない。アルテにしたら最高の相手であるし、少年からすれば伯爵家の令嬢との婚約は知らぬ者から見れば評価を上げることになる。

伯爵家が娘を嫁に出すような将来有望な相手なのだと、周りは思うだろう。そうすれば、かの若者の領地はなにかと噂になり、人が集まることとなる。

そうして、私が仲を取り持ったとして、繋がりを作らせてもらおう。

良いぞ。久しくなかった新たな風を感じる。

さぁ、ここから三週間。いや、二週間で決めてみせようか。

私は恥じらいながらヴァンのことを話すアルテを眺めつつ、静かに口の端を上げた。