軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査

周りを軽く探索してみて、気が付いたことがある。砂浜の近くには森しかなく、森の向こうには尖った山がある。とりあえず、三角山と名付けてみた。森は木々が鬱蒼としているので薄暗樹海だ。

唯一の安全地帯っぽい砂浜に戻ると、とりあえずで作ったウッドブロック製のベッドで横になるアルテ達の姿があった。一応、魔獣が来ないように周りには檻のように柵を作ってある。

「結局、あのアプカルルが誰なのか分からなかったなぁ」

そう呟きつつ、近くにある流木に手を触れて新しくウッドブロックを作っておく。ここがどこであれ、ウッドブロックはあるに越したことはない。

そんなことを思っていると、近くでくぐもった呻き声が聞こえた。

「ティル?」

傍にいって名を呼ぶと、ティルが目を僅かに開けて僕を見る。

「あ、ヴァン様……おはようございます……」

寝ぼけている。このティルはかなり珍しい。レアなティルだ。

「おはよう。体が痛むとかない?」

そう尋ねると、ティルは横になったまま目を細めて微笑む。

「痛くないですよぉ?」

眠そうな声で答えるティル。これはRではない。SRのティルだ。

「ケガしてないなら良かった。アルテとパナメラさんも大丈夫そうだったから、状況はともかくとして一安心だね」

苦笑しながらそう答えると、ティルは「ん?」と小さく声を発して手を地面につき、ぐっと力を入れて上半身を起こした。そして、周りを見て数秒考えこむように口を噤む。

再起動の時間を待っていると、ようやくティルはハッとした顔になって勢いよくこちらを振り向いた。

「だ、大丈夫ですか!? お怪我は……!?」

「あ、僕も大丈夫だよ。元気いっぱい」

そう答えると、ティルは飛びつくようにして僕の首に両手を回し、抱き着いてきた。

「よ、良かったですぅうううっ! うわぁああああ! 怖かったですぅうううっ!!」

先ほどまでの眠そうなテンションから一転、ティルは大粒の涙を流しながら僕にしがみ付いて叫ぶ。やっと記憶を取り戻したらしい。その様子に苦笑しつつ、ティルの背中を両手で軽く叩きながら落ち着かせる。

「海の中は怖かったよね。大丈夫。もう安心だよ」

そう言って笑っていると、ティルは体を離して両手で僕の肩を掴み、首を左右に振った。

「ヴァン様が死んでしまうかもと思って怖かったんです! もう離れないでください!」

「え? い、いや、わ、わざとじゃないからね? な、なんかごめんね?」

ティルに怒ったように言われ、動揺して思わず謝ってしまう。すると、ティルは力強く僕を抱きしめなおして再び泣き出してしまった。困った。テレる。

そんな中、小さく咳払いの声がして顔を上げた。すると、ウッドブロック製ベッドの上で片ひじを突き、手のひらに顎を乗せた状態で横向きに寝たパナメラと目が合う。グラビアポーズのような体勢にドキッとするが、その表情はにやにやしている。

「……モテるなぁ、少年」

「……どこか、痛む所はありますか?」

「お、話を逸らしたな。これは本気で照れているのか?」

こちらの質問から感情を読もうとするパナメラ。それに半眼で睨み、無言の抗議を行う。するとパナメラも何か感じたのか、肩を竦めて上半身を持ち上げた。

「……ここは、トリブートではないな。まさか、どこかに流されたのか?」

今起きたばかりだというのに、状況を冷静に分析するパナメラ。流石である。

「とりあえず、近くには何もありませんでした。深い森と見たことのない尖った山があるだけですね。集落どころか、人の気配もないです」

簡潔に答えると、パナメラは静かに考え込んでいたが、すぐに自分が寝ていたベッドに視線を落として口を開く。

「先に気が付いて色々してくれたみたいだな。助かった」

「いえいえ。あ、もしかして、魔獣をどうにかしてくれたのはパナメラさんですか?」

「いや、残念ながら激流でな。どうにか近くにいたアルテ嬢を抱えることしか出来なかった。次に会った時は丸焼きにしてやる」

パナメラは漏れ出しそうな怒気を抑え込みながらそう呟く。

「……じゃあ、もしかしたら四人揃ってここにいるのはパナメラさんのお陰かもしれませんね。ありがとうございました」

礼を言うと、含みのある笑みが返ってきた。

「……何ですか」

再び半眼で質問する。それにパナメラは自分の胸を指差して口の端を上げた。

「ベッドに寝かせるまでは良いが、濡れたままの服をそのままにするのは紳士的とは言えないな。服を脱がして、水を全て拭き取り、毛皮でも着せておくのが正解だ。まぁ、火を熾しておくまで出来たら満点だがな」

「無理ですよ。恥ずかしいし」

パナメラの指摘に口を尖らせてそう答える。それにパナメラは声を出して笑った。

「はっはっは! まだ少年には早かったか。じゃあ、私が教えてやろう。ほら、アルテ嬢がまだ濡れた服を着たまま寝ているぞ。服を脱がして水を拭き取れ」

「む、無理です! パナメラさんがしてください!」

パナメラの悪戯っ子のような発言に文句を言っていると、急に真剣な顔つきになってアルテを指差す。

「冗談はさておき、アルテ嬢はどれだけ寝ている? 頭を強く打ったりすれば目を覚まさなくなることもある。本当に大丈夫なのか」

そう言われて、眉根を寄せて頷いた。

「……それは確かに、そうですね。呼吸をしていることで安心してしまいました」

答えてから、アルテの様子を見に移動する。ベッドで横になったアルテはまっすぐ空を向いたまま目を瞑っている。両手は腹部の上に置かれており、僅かに指が震えて……。

「あれ? 起きてる? アルテ?」

驚いて名を呼んだ。よく見れば、アルテは目をぎゅっと瞑っており、緊張したような雰囲気を感じる。名を呼びつつ、肩を軽く叩いてみる。

すると、アルテはそっと目を開けて上目遣いに僕を見上げた。

「……お、起きて、ました」

どうやら気が付いていたらしい。アルテが目を覚ましたことは良かったが、いつの間に起きていたのか。

「ちっ、バレたか」

と、パナメラが後ろで小さく呟く。そこでようやく嵌められたことに気が付いた。

「もう、パナメラさん! 本気で心配したんですからね!?」

流石に温厚なヴァン君でも激怒である。しかし、パナメラは「悪かった」と言いつつ歯を見せて笑っていたのだった。