軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

晩餐会

パナメラはロッソと一通り挨拶を交わしてから、次にこちらへ歩いてきた。

「久しぶりだな、少年」

「パナメラさんも相変わらずで」

「……何か、含みがあるように感じるぞ? 相変わらず、お美しいという意味だろうな?」

「も、勿論ですよ!」

パナメラからジト目で見られて冷や汗を流しながら返事をする。パナメラに隙を見せてはいけない。

「アルテ嬢も久しぶりだな。元気にしていたか?」

「はい。ヴァン様のお陰で毎日楽しいです」

「おお、そうか。これはもう結婚間近だな、少年?」

アルテの返事を聞いて、何故か突然こちらに矛先が向く。含みのある台詞返しだ。これに焦ってしまったのか、僕は痛恨のミスをしてしまう。

「もう、パナメラさんこそ結婚しないんですか? そろそろ……はっ」

余計な一言だった。いや、完全な失言だ。暴言と言っても良い。

「……少年。なかなか言うようになったじゃないか。そうか、少年も気が付けば子爵になっているからな? それは調子にも乗るというもの……」

「い、いえいえいえ! 違います! そんな調子に乗っているわけでは……!」

パナメラが目を僅かに開いて笑みを形作ったことで、肉食獣に睨まれている気分になりながら言い訳をする。だが、逃れることは出来なかった。

「一度分からせてやらねばならんな!」

「ぐえ!」

素早く背後に回り込み、パナメラが僕の首に腕を巻き付けてくる。くそ、何故パナメラさんは鎧を着ているんだ。失言するなら食後にすれば良かった。

それほど力は込められていないが、しっかり首をホールドされた僕の姿にアルテ達が焦る。

「パ、パナメラ様……っ」

「ヴァン様が死んじゃいますぅ!」

慌てるアルテやティル、カムシンの姿を見て満足したのか。パナメラは力を緩めて僕を解放した。

そして、それを見てロッソが歯を見せて笑う。

「わははは! 卿達は本当に仲が良いな!」

「恐縮です。どうもヴァン子爵に抜かれそうな気配がしているので、精神的優位に立っておこうと思いまして」

「そうか。それは確かにな。よし、私もヴァン卿に精神的優位を得ておこうか」

「勘弁してください!」

上級貴族二人の悪ノリに、若手芸人のような気持ちになって答えた。どれだけ偉くなっても恩師や怖い先輩には逆らえないような気持ちになるアレだろうか。いやいや、それにしてもロッソよりも偉くなることはあり得ないので勘弁してもらいたい。

それからロッソ自慢の豪勢な晩餐をジャイアンと一緒に楽しんでいたのだが、その時にようやくパナメラがある人物の存在に気が付く。

「おお、誰かと思ったら、フェルティオ侯爵殿の御子息では?」

パナメラが笑みを浮かべてそう尋ねると、テーブルの端に気配を消すように座していたセストがビクリと肩を跳ねさせた。

「あ、は、はい。セスト・エレ・フェルティオと申します……」

怯えたように肩を竦めて返事をするセストに、パナメラは頷いて答える。

「うむ。私はパナメラ・カレラ・カイエンだ。お父上には色々とお世話になっていてな」

「そ、そ、そうですか……」

パナメラがぐいぐい話しかけるが、セストはその分距離が離れていくような気がした。ロッソの時もそうだったが、セストは権力者と話すと委縮してしまうようだ。というか、モンデオとの会談はロッソと僕が主で対応したから存在感が無いのは仕方ないが、船造りの時もロッソとの食事の時もどこにいたのだろうか?

もしや、館の一室に引き籠っていたのだろうか。

兄の将来を少し心配しながら料理を口に運んでいると、パナメラが眉根を寄せて振り向いた。

「セスト殿は寡黙な方だな?」

「……そうですね。多分、寡黙な方だと」

なんと答えて良いか分からず曖昧に返事をしておく。そこでパナメラの興味はセストからこちらへと向いた。

「それで、少年? 船はどうだった? 報せが来てすぐに発ったのだが、僅かな差で間に合わなかったからな」

少し悔しそうにパナメラがそう言う。確かに、セストがセアト村に到着してすぐに城塞都市カイエンにも早馬が行ったはずだが、なにせ距離がある。移動時間を計算しても十分な速さでトリブートまで行軍してきたと分かるし、パナメラとしてはフィエスタ王国の使者と話をしておきたかったのだろう。

そんな感情を察して、少し丁寧に船について説明をすることにした。

「安心してください。今回は入念に準備をしてきたので、船の構造は隅々までチェック出来たと思います。明日は船造りですから、楽しみにしておいてください」

「ほほう、それは楽しみだな! いや、遅れてしまったことは残念だったが、肝心の船を造る光景が見られるならば良しとするか」

そう言って、パナメラは肩を揺すって笑う。ロッソも楽しみにしていることだし、明日はしっかり立派な船を造らなければならない。

僕は気持ちを引き締めてパンを頬張るのだった。