軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】セストの心情

【セスト】

戦争での失敗。たった数日のことで、ヤルドと共に自分までも評価が大きく下がってしまった。下手をしたら父が陛下に奏上し、ムルシアがフェルティオ侯爵家に戻って次期当主となってしまうかもしれない。そんな危機感を抱くほどの失態だ。

父が最後の機会だと宣言し、今ではヤルドと二人で雑用をこなす日々である。今思えば、代官として大きな街を好きに支配していた頃は天国だった。ヤルドの下らない口車に乗って街の予算を使って傭兵を雇ったところから失敗は始まってしまったのだ。

「……ヤルド兄さんのせいだ。あんな馬鹿の言葉に踊らされて……くそっ!」

父からの信用を失ったと自覚してしまってから、どうにも気分が優れない。ヤルドは頭が悪いから、この経験を糧に大きく成長したなどと抜かしているが、あの馬鹿についていけばまた失敗するのは目に見えている。

今ではヤルドとも大して話すこともないが、どうにかして皆よりも大きな手柄を挙げなければならない。

「セスト様! セアト村が見えて参りました!」

「……ようやくか」

馬車の外から声を掛けられて溜め息交じりにそう呟く。馬車の前方を見ると、大きな城壁が目に入った。

「……これ見よがしに大きく作りやがって」

まるで落ちぶれた自分を馬鹿にしているかのように感じて、一気に気分が悪くなる。通常の二倍ほどの速度でここまで来た為、休憩も野営も最低限だったことで疲労が溜まっているのかもしれない。

「……ヴァンの領地ということが癪に障るが、今はまともな環境で寝たいもんだな」

そんなことを呟きつつ、セアト村へと到着した。

馬車から降りると、目を丸くしてこちらを見上げるヴァンの姿があった。

「……久しぶりだな、ヴァン」

一応、弟といえど相手は爵位持ちの貴族である。こちらから挨拶だけはしておいた。すると、ヴァンは若干頬を引き攣らせて笑顔を浮かべる。

「お、お久しぶりでーす」

なんだ、その挨拶は。兄を敬うということを知らないのか。

ヴァンの返事に苛立ちつつ、預かっていた書状をヴァンに手渡した。その際にヴァンが無礼な質問をした為、叱責の言葉を口にした。それがどうもヴァンの家臣達を刺激したようだ。

エスパーダが代表して文句を言ってきて、他の者達も敵意の混じった目でこちらを睨んでくる。なんと不愉快な村だ。たった千人だか二千人程度の村の領主と配下の者たちが、このフェルティオ侯爵家の次期当主候補に無礼極まりない。

本来なら、エスパーダであろうと処罰を受けるべきだろう。しかし、今の自分は陛下から信用を失った落ちこぼれだ。どんな不遇な扱いであろうと我慢すべきだろう。いつか、見返す時が来るはずだ。

「……どうにかして、ヴァンの評価を下げられないだろうか。ヴァンが陛下に評価されるほど、兄弟である自分達が損をするのかもしれない」

割り当てられた宿で寝室に籠り、今後の方針を考えたりもした。だが、良い案など出るはずがない。今の状態では、自由に動かせる部下も傭兵団を雇う財力もない。ただ、陛下から申し付けられることに必死に応えるばかりである。

宿で過ごす内に気が付けば出発の準備が完了し、セアト村を発つこととなった。

ぐるぐると考えすぎていた為か、馬車に乗って出発となっても頭がはっきりとしなかった。馬車に揺られながら行軍を眺めていると眠くなってきた為、次の休憩まで休むことにする。

「セスト様、もうすぐ休憩のようです」

ふと、馬車の外から声を掛けられて目を覚ます。誰だったか忘れたが、兵士長の任を与えられた騎士から起こされたようだ。

「……やはり、馬車で寝ていると体が痛いな」

腰や背中にも痛みを感じながら背筋を伸ばし、窓から外を確認する。

前方を見ると、ヴァン達はかなり前方にいて既に休憩の準備をしているようだった。もう火も起こしているところを見ると、行軍速度にかなりの差がありそうだ。

降りてすぐに兵士長にそれを確認すると、馬車の性能を理由に言い訳をしていた。騎士としての意識が低い為、侯爵家の一人として厳しく叱責する。それに、周りにいた騎士どもは冷めた目を向けてきた。

なんなんだ。ここには馬鹿しかいないのか。それとも、単純に自分が気にし過ぎているだけなのか。

苛々する気持ちを整理できず、自分の馬車へと戻る。食事は運んで来るだろうから、もうこのまま馬車の中で休んでいれば良い。

そう思っていたのだが、休憩が随分と長い。食事を食べて、さらにゆっくり休んでいたのに、一向に出発する合図がない。何か問題でも起きたのかと馬車から出て様子を見に行く。これでヴァンの馬車が壊れでもしたら面白いが、なかなかそんな都合の良いことは起きないだろう。

そう思って人が集まっている場所に向かうと、そこにはドワーフと一緒に騒がしく馬車を作るヴァンの姿があった。

それも、随分と立派な装飾が施された馬車だ。

「……こんなものかな? あ、セスト兄さん! 新しい馬車が出来ましたよ! どうぞ、お使いください!」

ドワーフと一緒に腕を組んで馬車を見上げていたヴァンがこちらに気が付き、笑顔でそんなことを言った。

え?

ヴァンが、馬車を作ってくれたのか? 自分の為に?

ヴァンの行動に対して、意味が分からず、ただ固まっていることしか出来なかった。