軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どういうことだ

とりあえず、待たせるわけにもいかないか。

そう思い、僕は領主の館二階に用意した来客と会談するための応接室へ移動する。

低いテーブルを挟む形でソファーを三対並べた応接セットだが、馬車が三台ということはもしかしたら客は三人以上いるかもしれない。

ソファーの配置をちょっと変えてみようか。いや、四対二にしたらしたで、客が三人以下だったら不恰好になるかな?

悩む。

同席するエスパーダやディー、カムシンは座らないため、こちら側は僕一人しか座らないのだ。

ちなみにティルは慌てて軽食とお茶の用意をしている。

やはり、相手の人数を聞いてもらえば良かったか?

そんな微妙な悩みに頭を悩ませていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

諦めた。

「どうぞ」

そう返事をし、ソファーの真ん中にどんと座って待つことにする。まぁ、僕は爵位の無いただの地方領主なのだから、相手次第では座っていてはいけないのだが、それは相手を見てからで良いだろう。

ただでさえ子供なのだから、態度で軽く見られてしまったらヘリウムガスより軽く扱われそうだ。

どーんと構えていると、ドアはゆっくり開かれた。

そして、現れたのは二十代半ばに見える美女と、十歳ほどに見える美少女の二人だった。

美女は長身でスラっとしつつもメリハリのあるナイスボディで、ウェーブのかかった長い金髪を揺らしている。

簡単に言うと「OH! it's an American dream! 」みたいな感じだ。

美少女は逆に根暗な印象を受けるほど幸が薄そうな雰囲気である。髪も白く、肌も白い。そして、自信が無いのが透けて見えるような猫背と上目遣いだ。困り顔がデフォルトだろうか。

少女を見ていると、親か学校の先生のような気分で虐められていないかと心配になる子である。

……これは、座っていた方が良いのか?

なんとも判断に困る二人だ。いや、こんな子供が派遣されるなら、ただの子供のわけが無いか。

そう思い直して、僕は立ち上がった。

「初めまして。ヴァン・ネイ・フェルティオです。この村の領主を任されています」

そう自己紹介をして軽く会釈すると、美女と美少女が一礼し、先ずは美女が胸に手を当てて口を開いた。

「私の名はパナメラ・カレラ・カイエン。ついこの間陞爵し、子爵となった。騎士爵からの成り上がり者だ」

不敵に笑い、パナメラと名乗る女がそう自己紹介する。自らを卑下しているような言い方だが、言葉の端々から自信が滲み出ている。

それも当たり前か。本人は簡単に言ったが、一代で騎士から男爵になり、子爵となるのは並大抵なことではない。

このアメリカンドリーム美女は相当な実力者であり、頭脳も明晰なのは間違いないだろう。

対して、対照的な雰囲気を持つ白髪の美少女は自信なさげに顎を引き、口を開く。

「わ、私はフェルディナット伯爵の末娘のアルテ・オン・フェルディナットと申します……その、この村にフェルティオ侯爵家の方が来られたと聞き、父のバリアット・シロッコ・フェルディナット伯爵より、挨拶に向かうよう言われ、参りました……よ、宜しくお願い致します」

辿々しい挨拶を終えると、アルテという少女は深く頭を下げた。

裏を読むならば、ライバル視しているフェルティオ侯爵の息子の一人が辺境送りになったぞ。よし、何かあっても問題ない末の娘を使って偵察だ! ということか?

だが、それだとパナメラの存在が謎だ。

そう思い、視線を送ると、獅子のような圧力のある目がこちらに向いた。怖いので、とりあえず座ってもらい、僕も同時にソファに腰掛ける。

パナメラのその目からは友好な空気などは感じられず、こちらの真意を推し量ろうとするような気配が伝わってくる。

そこで、気がついた。

王の決定とはいえ、自らの領地を削られた形となったフェルディナット伯爵は、怒りと共に侯爵への畏怖も持っているのだ。

だから、天才少年ヴァン君が何故辺境送りになったのか気になった。つまりは、このヴァン君の可哀想な処遇も全てフェルティオ侯爵の作戦の可能性有りと考えて、辺境から奇襲を掛けられないか心配したのだ。

そのため、恐らく歴戦の強者であるパナメラを娘と共に派遣した。

そこまで推測し、顔を上げる。

「これはご丁寧に。こんな何も無い村まで、わざわざ御足労いただき、感謝の念に堪えません。こちらこそ宜しくお願いします」

そう言って笑いかけると、アルテはホッとしたように肩の力を抜いた。しかし、パナメラは獰猛な笑みを浮かべて口を開く。

「……見たところ、アルテ嬢よりも少し歳下でしょうが、随分と落ち着いている。他意はない問いなのだが、ヴァン殿は我々が何故ここに来たとお思いか」

ど直球な質問がきた。その余りにもストレートな台詞に、僕は思わず笑いが漏れる。

「多分ですけど、敵情視察と見定め、後は懐柔のため、ですかね」

簡単にそれだけ答えると、パナメラは目を見開いて笑い出した。

「ふ、ははははっ! 凄いな、ヴァン殿! 十歳前後でそこまで深く考えられるのか! まさしく、だよ! ヴァン殿の推測は的中だ!」

何がおかしいのか、笑いながら隠すべき内容を暴露するパナメラ。

「フェルディナット卿はフェルティオ侯爵の腹の内が読み切れなかったのさ。誰もが有力者の世継ぎには注目していたが、ヴァン殿は二年前から時折名前が挙がっていた。通常ならば八歳の魔術適性の鑑定を受けてお披露目会が実施され、それに合わせて注目されるようになるが、君は少々特殊だ」

観察するような目のまま、僕の顔を見下ろすパナメラ。

「まぁ、恐らくは魔術適性が四元素魔術ではなかったのだろうが、この何も無い辺境に名ばかりの領主として据えるのも理解出来ない。なにせ神童なんて噂があった子だ。本来なら、領主として十分に学ばせ、領地の発展の為に働いてもらうものだ。だから、この伯爵領とイェリネッタ王国の境界となる地を任されたヴァン殿を訝しんだのだ」

と、何を考えているのか、パナメラは朗々と内情を語る。

いや、事実はどうであれ、同国内の上級貴族同士が腹の内を探り合い、潰し合うような真似をするのは厳禁だ。そんな処罰対象になりそうなことをしにきたと堂々と話すパナメラは、やはり貴族としては変わっている。

情報を与えて僕がどう動くか見極めるつもりか?

横ではアルテがキョトンとしてるぞ。

「……まぁ、隠してもいずれバレますからね。僕が四元素魔術の適性ではないということは正解と答えておきましょう。ただ、残りの心配は杞憂ですね。ただ追いやられただけなんですから」

自嘲気味に笑い、そう言うと、パナメラはジッと数秒もの間僕の顔を見ていた。

そして、不意に体を起こし、深い溜め息を吐く。

「……本心、か。つまらんな。神童という話も、噂に過ぎなかったか」

「父が、僕になにかさせるつもりである、と?」

パナメラの言葉に少しカチンときて、僕は聞き返す。こちとら素晴らしくスピーディーに家から追い出されたのだ。そこには何の疑いの余地もない。ダディの馬鹿。サンキューブラザーの気持ちは今も変わらないのだ。

だが、パナメラは呆れたような顔で片手を広げた。

「何故気付かないのか。私はこの地に来てすぐに気が付いた。たった百人程度の小屋しかない吹けば飛ぶような村と聞いてきたというのに、僅か一、二ヶ月か? その短い期間でこのような城壁を築き、全ての建物も素材さえ知れぬ最新のものに建て替えられている。領主の館には経験豊富な執事、外には有用そうな熟練の騎士もいる」

それだけ言うと、パナメラは一瞬アルテの顔を確認した後、静かに言葉を続けた。

「……少なく見積もって五千人の部下を派遣したか? こちらに気付かれずに用兵する技術は脅威だな。だが、気付かれる可能性も考慮して、それを実行したのだ。それは何故か? ヴァン殿に絶大な期待を寄せ、この辺境を新たな軍事拠点とする為だろう」

「ぶふっ」

パナメラの壮大な勘違いに、思わず吹き出した。

いや、 こ(・) の(・) 勘(・) 違(・) い(・) は(・) 、(・) ま(・) ず(・) い(・) 。(・)

良くない流れだ。

だが、あまりにも素晴らしい勘違いに笑いが止まらない。しかも、はたから見れば筋は通っている。

「……なにがおかしい」

ドスの利いた、低い声が聞こえた。見れば、パナメラは周囲を警戒しつつ、こちらを睨んでいる。

思惑が露見したため、秘密裏に暗殺される。そんなことを考えていそうである。

その殺気に、ディーもそっと腰を落とし、臨戦態勢に入った。遅れてカムシンが腰に差した剣の柄を持つ。

「ふ、はっはっは」

僕は真面目な空気になればなるほど、おかしくて堪らなくなった。ダメだ、ツボった。

皆から注目されているのは感じているが、一頻り笑わせてもらおう。