軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コスワースの感情

どうやら、床の一辺にギミックがあるようだ。床があった部分は少し特殊な形の階段となっており、そのまま地下の通路へと繋がっていた。

コスワースが先導し、すぐ後を僕とパナメラ、その後をマカンとディー達が続くような格好だ。通路は狭く二人並んで通るのが精々といった様子なので、必然的にコスワースの後ろを僕とパナメラが並んで歩くような状況となっている。

通路を二十メートルほど歩いただろうか。すぐに突き当りに辿り着き、黒い金属製の扉が姿を現した。コスワースは胸元から鍵らしきものを取り出して解錠する。

「ここが、王家の隠し宝物庫だ」

コスワースはそう言いながら、扉を開けた。扉が開かれると、地下の筈なのに光が通路へと差し込んできて目を細める。地下から外に出たかのような明るさだ。何があるのかと顔を上げると、驚くほど大きな魔鉱石が壁に幾つも設置されていた。通常の魔鉱石であれば指の先から拳ほどの大きさで、それを幾つも置くことによって照明にしているのだが、この宝物庫に置かれている魔鉱石は桁違いの大きさの為、一つだけでしっかり明るい。それがパッと見でも六個置いてある為晴天の昼間以上に明るいくらいだ。

そして、何よりも部屋の中央に置かれた財宝の数々だろう。金や銀、ミスリルの武具、白金貨に大金貨、宝石が山のように積まれている。そして、中心には見事な宝剣が抜身で置かれていた。

「……オリハルコン製のロングソードか。これは、随分贅沢に使い切ったものだな。中々お目にかかれない見事な剣だ。剣としての性能も勿論だが、美術品としての価値も随分と高いだろう」

パナメラがそう口にすると、コスワースが無言で奥に歩いて行き、オリハルコンのロングソードを手に取った。

「……後ろへ」

ディーが低い声を出して僕の前に出て来る。大きなディーの背中の横からキノコのように顔だけ出して、コスワースを見た。

「……ディーはドラゴンより強いですよ?」

可哀そうなので心からの助言を送ってみる。すると、コスワースは口の端を上げてこちらに歩いてきた。

「もとより、戦う気などない。ただ、自らの手で勝者に渡したかったのだ」

そう呟き、コスワースは剣をこちらに差し出してきた。両手を広げて水平に剣を持ち、真っすぐにこちらを見てくるコスワース。そして、その剣はパナメラが片手で受け取った。

「ふむ、殊勝なことだ」

パナメラは受け取った剣を顔の前に掲げ、じっくりと観察する。

数秒ほども経っただろうか。剣の観察を終えたパナメラがそっと微笑みを浮かべた。

「……それで、これで隠し財宝は全て、ということで問題ないか?」

「……どういう意味だ」

「もうすぐ、スクーデリア王国の調査団が再調査に来るだろう。その時、他にも財宝を隠していた場合は……」

パナメラが笑みを深めながら脅しの言葉を口にする。それに、コスワースは眉一つ動かさずに答えた。

「これで全てだ」

コスワースがそう答えるとパナメラは暫く目を見つめていたが、やがて溜め息を吐いた。

「……嘘は吐いていないようだな」

パナメラは小さくそう呟き、剣を下ろす。それを横目で見てから、コスワースは僕を見た。

「……くだらない脅しなど不要だ。これだけ剣を交え、死力を尽くして戦ってなお勝てなかった相手だ。そんな相手にこれ以上無様な行いをするつもりはない。それに、これ以上怪我を増やしたくもないしな」

パナメラにそれだけ告げてから、コスワースは自らの腕を顔の前に上げた。手には包帯が巻き付けられており、肌が一切露出していない状態だった。癒しの魔術でも完治できないほどの重傷だったのだろうか。

コスワースは自らの手を眺めて口を開く。

「何故、我が国が負けてしまったのか。実際に戦う前に行った想定との違いは何だったのか。様々な分析を行った。フェルティオ侯爵領、フェルディナット伯爵領、そして各拠点の攻略戦……最も重要な戦い全てで敗北した。その理由は、ヴァン・ネイ・フェルティオという新貴族の出現だろう」

「え? 僕ですか? いえいえ、あれは皆が力を合わせて、一致団結したからこその成果ですよ。はっはっは」

コスワースの視線に耐えられずに軽口を叩いてスルーしようとしたが、無表情で見つめ返されてしまった。

「……我が国の敗因は、二年以上も掛けて調査した後にヴァン・ネイ・フェルティオという少年が現れてしまったことだろう。後一年、戦わずに調査をしていれば……」

「……あはは、買い被りですよ、本当に」

苦笑と共にそう答えるが、コスワースは真剣な表情のまま顎を引く。

「今後は、共に戦うこともあるだろう。その時は間近で戦術を学ばせてもらおう」

と、そんなことまで言い出した。それには隣で聞いていたパナメラが呆れたような声を出す。

「言っておくが、この私も同席しているのだぞ?」

パナメラがそう告げると、コスワースは微妙な顔で頷き返した。

「……パナメラ殿の戦いぶりも、近くで観察させてもらおう」

「おい、扱いに違いを感じるぞ」

パナメラは不満そうにそう呟いたのだった。

「陛下、無事に王家の財宝を発見できました」

王城に戻ってパナメラが報告すると、エアハルトは静かに案内人をしたコスワースを見る。静かに頷くコスワースに、エアハルトは長い息を吐いた。

「……そうか。それではスクーデリア王へ伝えに戻るのだな」

「そうです。陛下が積極的に協力してくれたと伝えておきましょう。そうすれば、最悪なことにはならないでしょう」

パナメラが笑顔で答えると、エアハルトは浅く頷いて「よろしく頼む」と告げた。パナメラが早々に帰路につくと言い出したので、我々はさっさと王都を後にしてセアト村を目指して移動することになる。

道中、気になったことがあったのでパナメラに尋ねてみた。

「王都を出る前、イェリネッタ王とコスワースさんが目を合わせて頷き合ってましたが、何かの合図だったのでしょうか?」

なんとなく不安になってそう尋ねたのだが、パナメラは馬に乗って移動しながら笑った。

「恐らく、我々を殺すかどうするかコスワース殿に委ねていたのだろう。結果、コスワース殿は我々と共に歩むという判断をした。つまり、そういうことだ」

「え? もしかしたらあそこで殺されていたかもしれないんですか?」

パナメラの言葉に驚いて顔を上げると、呆れたような顔をされてしまう。

「当たり前だ。もし、いずれスクーデリア王国に反乱するつもりだったならあの財宝は生命線となる。次のイェリネッタ王となるコスワース殿がどう判断するか次第で我々は殺されていたかもしれない、というわけだ」

パナメラにそう言われて、王都でのやり取りを思い出す。

「……やっぱり来るんじゃなかった」

今更ながらに背筋を震わせて、僕はそう呟いた。すると、パナメラは肩を揺すって笑い、僕の背中を叩く。

「安心しろ、少年。このパナメラ・カレラ・カイエンが側にいるのだぞ? 命をかけて少年のことは守ってやるさ」

「本当ですか? 絶対ですよ? 僕は走って逃げますからね?」

「ふははは! 嘘など吐くか! このパナメラ唯一の同盟貴族だぞ! 安心して構えていろ!」