軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

城塞都市カイエンのバーベキュー大会

僕が城や街を改造している間、冒険者たちも遊んでいたわけではない。

彼らにとって一カ月弱という時間は事を起こすのに十分過ぎる期間であり、水面下で静かに、されど着実に準備を進めていたのだ。それに気が付いた時にはもう遅く、他の組織も彼らの暗躍に手を貸してしまっていた。

「少年! 例の謝肉祭をやるぞ!」

「え? バーベキュー大会ですか?」

そろそろ帰ろうかと思っていたら、パナメラが午前中から満面の笑みでお祭りやろうぜと言ってきたのだ。陽気なキャラクターなのは間違いない為、パナメラの発言に違和感はあまりない。だが、それでも突然言われたところで準備する方が大変なのだ。

「中型以上の魔獣一体をパナメラさんが焼くなんてダメですよ? ちゃんと魔獣ごとに調理方法があるんですから……素材を切り分けて下拵えをして、調味料も大事なんですよ?」

思いつきで言われたら困ります。そんなノリで軽く注意する。それにパナメラは目を三角にして口を尖らせた。

「当たり前だ。これまでどれだけの戦場に出てきたと思っている。もう準備は出来ているから、後は開催するだけだ」

「え?」

パナメラから予想外の言葉を聞かされて、首を傾げつつも後に付いていく。

着いた先は城塞都市入り口に作った広場だ。半円状の広場にはベルランゴ商会とメアリ商会の店が二店舗と宿、他には冒険者ギルドや兵舎などが並んでいる。

その中心には簡易的なテントが設置されていた。いや、屋根だけなのでタープと呼ぶべきか。そのタープの下には冗談みたいなノリで綺麗に切り分けられた肉のブロックが積み重ねられている。

呆気に取られて眺めていると、肉を取り囲むように立っていた冒険者達がこちらに気が付き、代表してオルトが笑顔で口を開いた。

「あ、ヴァン様! 肉の準備出来てますよー!」

オルトがそう言うと、ベルランゴ商会の店の方からベルも顔を出した。

「こちらは調味料と果実水、酒精を準備しております! もちろん、木炭もありますよ!」

そんな報告を受け、思わず吹き出してしまった。

「バッチリじゃないの」

笑いながらそう呟くと、クサラが楽しそうに肉を指差した。

「そりゃそうですぜ! あっしらもそろそろバーベキュー大会の時期だと思って準備してたんでさぁ!」

クサラがそう言うと、他の冒険者達も野太い歓声をあげた。パナメラが声を掛けての開催か、それとも冒険者たちが準備しているのを見ての発案なのか。まぁ、皆が楽しそうにしているので良しとしようか。

準備をしてくれた冒険者たちに礼を言ってから、パナメラに振り向く。

「それでは、今日の夜は大バーベキュー大会ですね。焚火もして良いですか?」

「盛大にやってくれ。今日を城塞都市カイエンの祭りの日とする。今後は毎年この日に謝肉祭をやるから、手伝いを頼むぞ」

「お客として招いてくださいよ! 完全に労働力じゃないですか!」

「賃金は支給するぞ?」

「そういう問題じゃないです!」

わーわーと両手を振り上げてパナメラに抗議していると、メアリ商会のロザリーが笑顔で歩いてきた。

「ヴァン様。僭越ながら、是非とも毎年のお手伝いにご協力をなさった方が良いかと思われます。パナメラ様は義理や恩を重んじる方ですので、城塞都市カイエンの謝肉祭に毎年助力することで何かの際には必ずヴァン様をお助けしてくださるかと……」

ロザリーがそう言って含みのある笑みを浮かべると、パナメラはムッと眉間に皺を寄せた。街の管理者や多くの住民がいる前で、パナメラが借りを作ることを認めさせようとしてくれているらしい。とはいえ、一介の商人が画策することではない。ここは多少の無理を通してでも僕との関係性を強化しようとしているのかもしれない。

その証拠に、自然な笑顔で提案をしてきたロザリーだったが、その指はわずかに震えていた。

一方、パナメラは面白くなさそうに鼻を鳴らしてロザリーを睨む。

「少年の味方をしているつもりかもしれんが、要らぬ世話だ。もとより、このパナメラ・カレラ・カイエン伯爵とヴァン・ネイ・フェルティオ子爵とは五分の同盟関係にある。貸し借りに関係なく、ヴァン子爵が窮地にある時は我が身を投げ出してでも助ける。私の貴族としての誓いを侮るなよ、商人」

パナメラがはっきりとそう断ずると、ロザリーは慌てて頭を深く下げた。

「これは余計なことを申しました。ご無礼をお許しください」

「良い。今日は記念すべき日だ。大目に見てやろう」

ロザリーの謝罪にパナメラは片手を振ってそう答える。

さて、公の場でそんなことを言われたら僕も頑張るしかないではないか。こちらとしてもパナメラとの関係性は大切にしているのだ。全力でお手伝いするしかあるまい。

「それじゃあ、せっかくだから毎年使える焚火台を作ろうかな。城塞都市カイエンの謝肉祭に似合う、豪華なものを作りますよ」

「おお、それは楽しみだ!」

パナメラの返事を聞いて、早速会場の準備に取り掛かる。

毎年お祭りを行うなら準備や片付けがしやすいものが良いだろう。普段は広場で休めるオブジェとして使えるようなものならばどうだろうか。

そう思い、まずは広場の中央に扇状の階段を作成した。下部には見えないように大型の車輪を取り付けている。成人男性五名から十名ほどで押せば移動も出来る。階段の上部中央には一部手摺があり、その手摺に取り付ける形で焚火台を設置できるようになっている。ちなみに焚火台は火を点火していなくてもオブジェとして成立するように炎をイメージしてデザインしてみた。

我ながら良くできたと思う。

ただ、全員が肉を焼いて食べる為のバーベキューセットの準備は中々大変そうだった。内々で準備を進めてくれていたようだが、それを大通りに並べて更に火を点火していくとなると一苦労である。

そう思っていると、広場から一緒に準備の様子を眺めていたパナメラが思いついたとばかりに笑みを浮かべた。

「よし、点火式は私がしよう。皆は一列に台を並べていくだけで良い」

「点火式ですか。うちでもしたことないですね」

パナメラの発案を面白く思って頷いた。その時はうちでもやってみようかな、などと思っていたが、実際にパナメラが点火式をする様を見て即座に諦める。

なにせ、パナメラにしか出来ないことだったからだ。

「点火!」

準備が終わって、焚火台より少し高い台を作り、その上でパナメラはそう宣言した。直後、パナメラの魔術によって焚火台に火柱のような勢いの炎が灯り、その炎から火の粉というには大きすぎる火が幾つも空を舞った。

それらの火はまるで生きているかのように飛び、各場所に設置されたヴァン君特製バーベキューコンロに次々と火が灯っていく。とても美しい点火式ではあるが、これはパナメラと同等の魔術師でなければ成立しない。

幻想的な魔術による式典に目を奪われていると、パナメラがこちらをニヤニヤと見つめて口を開いた。

「セアト村での謝肉祭の時は手を貸そうか?」

「……有難いですけど、値引きはしませんからね?」

「ちっ」

最後に舌打ちはされてしまったが、パナメラ主催の謝肉祭は無事に完了した。盛大かつ豪華な謝肉祭は大いに賑わい、皆大喜びで肉と酒を楽しんだのである。