軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】  領主パナメラの恐怖政治

【パナメラ】

無表情なまま自己紹介をしたゼトロスという男を上から下まで眺めて、口を開く。

「その若さで執事長か。優秀なようだな……それで、どうしてこの街に残った?」

広間の中に入っていき、ゼトロスの前に移動して質問をする。ゼトロスは表情を変えず、静かに答えた。

「この地がイェリネッタ王国の領土では無くなってしまった際、アクトロ様は王国の騎士団を連れてシタン公爵様の下へ帰還されました。ただ、この街は長い間要塞ヴェルナーを補助してきた為、街を管理する多くの者がこの地で生まれ育った者たちです。もちろん、この私もその一人ですので……」

「……生まれ育った街を守る為に、か。ただの感傷でしかないのは分かっているか? この街一つでスクーデリア王国に逆らえるわけがない。どんな扱いを受けてもただ従うしかないんだぞ」

そう告げて両手を広げる。少々悪乗りが過ぎたか? そう思ったが、この表情を変えないゼトロスという男を試すのは面白かった。なにせ、これだけ言っても眉一つ動かさないのだ。どうにかして感情を表に出させたいと思ってしまう。

「マカン。全員を連れて中に入れ」

「はっ」

指示を出すと、マカン達は素早く広間の中に入って整列した。それに、ここまで案内をしていた衛兵達が表情を変える。緊迫した空気が広がる中、ゼトロスは無表情のまま口を開いた。

「……もちろん、承知しております。しかし、この街はすでにスクーデリア王国の一部となりました。そして、我々はスクーデリア王国の国民です。奴隷でも、戦争捕虜でもありません。私は一ヶ月以上の時間を全てスクーデリア王国の法律を勉強することに費やしました」

ゼトロスはそう言って、私の目を見つめる。権利の主張か。反抗ならば愚かなことだが、これはどうやら違うらしい。

暫く視線を交錯させて様子を見ていたが、ゼトロスはそれでも表情を変えるつもりはないようだった。

やがて、こちらの方が根負けして笑いだしてしまった。

「ふ、はっはっは……! 面白い男だ。だが、試されることは好きではないな。貴様は、自分の命を懸けて私を推し量ろうとしているのかもしれんが、別にそんな下らない駆け引きは不要だ……ゼトロス、貴様もある程度は予想しているだろうが、イェリネッタ王国との新しい境界線上に位置するこの街は重要な地となる。そんな街を無法地帯にはしないさ」

そう告げると、ゼトロスはほんの僅かに肩を下げた。どうやら、全く表情には出さずとも緊張くらいはしていたらしい。ようやく人間なのだと確認できた気がする。

「……それは重畳です。では、どのような体制をお考えでしょうか」

ゼトロスにそう問われ、腕を組んで唸る。

「ふぅむ……まずは現在の状況を確認する必要がある。これまでの体制はどうだった?」

「はい。代官が一名と部下として財政と予算を管理する者や住民を管理する者などが十名おりました。そのそれぞれに従者や部下、場合によってはそれなりの人数の組織もあります。また、騎士団は王国が組織して定期的に巡回する王国騎士団と、この街で組織したグローサー騎士団がありましたが、現在はグローサー騎士団のみとなっております。グローサー騎士団は騎士団長が一名と副団長が一名。現在所属する騎士は百名足らずですが、訓練を重ねた精強な騎士ばかりです」

「ほう? 代官以外の全員が残っているのか?」

「いえ、代官の部下として働いてきた管理者の内半数は代官に付いていきました。部下も同様です。また、この街の住民で運営してきたわけではないため、イェリネッタ王国の第一商会であるトゥーロ商会も商店を引き上げてしまいました。現在は街の中で行える産業のみで生活を続けておりますが、衣食住に足りない物も増えております」

こちらが必要とする情報を的確に答えていくゼトロスに、中々仕事の出来る男だと評価する。

「ふむ、半数か。それならば問題はなさそうだな。今後、私は戦争の度に領地を留守にすることだろう。ゼトロス、貴様が代官となって領地の全体を管理せよ。それぞれの管理者、補助者はこれまで通りで良いが、一度全員と話をしておこう」

そう告げると、ゼトロスは僅かに眉尻を下げた。不信感を持つというよりも、何かに疑問を持っているようだ。

「……管理者をそのままで良いのですか? 不正や反乱を防ぐなら、管理者にはパナメラ様の部下の方を据えて補助者にこれまで管理をしてきた者を置くという形が自然かと思いますが」

「問題ない。管理者はそれぞれが日誌を作成し、毎週報告書を上げさせるようにしろ。貴様が全て確認し、僅かでも不正が疑われたら私の部下に言え。それで疑惑が事実無根であっても責任は問わない。逆に、不正を見逃したら厳しく罰すると思えよ?」

「……つまり、横領を故意に見逃した場合は横領をした管理者ではなく、私が投獄されるということでしょうか?」

目を細めてそう尋ねられて、笑って頷いておく。

「その通りだ。そうだな……金銭に関する不正を見逃した場合は一年の投獄、反乱などの動きを見逃したら二年の投獄とでもしておこうか」

そう答えると、ゼトロスの眉間に皺が寄った。それを見て息を漏らすように笑いつつ、一言付け加える。

「ああ、忘れていた。脱税や利益の不正取得、私兵を集めるなどといった反乱の動きを見せた管理者は首を斬る。文字通り、スパッとな」

「……承知いたしました。すべての管理者、補助者に周知しておきます」

ゼトロスは硬い声でそう言うと、深々と頭を下げた。

どうやら、それなりの覚悟を持ってこの地に残ったらしい。多少脅してもこの態度だ。城塞都市カイエンへの想いは本当だろう。ならば、土地を豊かにして前よりも少しでも暮らしが良くなれば、それだけでゼトロスはしっかりと働くことに違いない。

「さて、それでは騎士団の下へ案内してもらおうか。まずは軍部の掌握をしておこう」

「分かりました。それでは、兵舎へご案内いたします」

ゼトロスはそう言って、素直に私の指示に従ったのだった。