軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ムルシアも吃驚の人事発令

暫くしてムルシアがセアト村に到着した。当初の予定より早い、十日での到着である。報せを聞いて城門まで迎えに行くと、少々やつれた様子のムルシアが涙目で手を振っていた。

「ヴァン!」

「ムルシア兄さん!」

感動の再会である。ムルシアは嬉しそうに城門を潜ると、何かを取り出して掲げてみせた。

「この前、誕生日だっただろう?」

「え? 何かくれるの?」

思わぬ言葉に大喜びで目の前に出されたものを確認する。白い粉や茶色の粉などだ。

「これ、なんですか?」

そう尋ねると、ムルシアは笑顔で頷いた。

「なんと、イェリネッタ王国を通して調味料や日持ちする食材を大量に仕入れてきたんだよ。ヴァンは食べることが好きだっただろう? 本当は調理したものを持ってきたかったけど、長旅に耐えられなかったからね」

ムルシアは人の好さそうな笑顔でそう言った。殆どの調味料は輸入になる為、金額が驚くほど高い。どうやら後ろの馬車にも載せてあるようだし、金塊と交換するほどの金額となったことだろう。

しかし、残念ながらつい最近商業ギルドのアポロから大量に購入したばかりである。恐らく、ムルシアが仕入れた価格よりも遥かに安価で買えたに違いない。

とはいえ、ムルシアの気持ちがとても嬉しいので、心からの笑顔で受け取った。

「ありがとうございます! ティル、これでホットケーキ作ってくれる?」

「はい! すぐに準備いたします!」

以前見た調味料を選び、ティルに渡した。一週間以上試行錯誤した結果、ティルは美味しいホットケーキの開発に成功している。流石は我がセアト村の誇る料理研究家である。失敗が多いのがチャームポイントだ。

そのやり取りを聞いていたムルシアが首を傾げて口を開く。

「あれ? この調味料のことは知っていたのかい? まだ、イェリネッタ王国との輸出入はあまりされていないはずだけど」

「ぎく」

ムルシアの言葉に思わずそんな声が口から出た。結局ムルシアにはバレてしまったが、調味料が貴重であり在庫があることは嬉しいと何とか伝えることが出来た。

そうして、皆で領主の館に戻り、ティル特製のホットケーキを食べて笑いあった。

「これは美味しい!」

ムルシアも目を剥くほどの美味しさである。まぁ、辺境では甘味の類が貴重なのだから、久しぶりの甘味というだけでも凄く嬉しいだろう。しかし、今回のティルのホットケーキは大成功である。更に、豪華にトッピングにも凝ってくれたのが嬉しい。少し甘さ控え目の生クリームや果物の果肉を盛り盛りにしてある。

「いや、見事ですな!」

「……中々です」

「ディーとエスパーダも甘い物好きだよね。顔に似合わず」

「肉の方が好きですぞ! わっはっはっは!」

と、アルテやカムシンだけでなく、ディーとエスパーダも美味しそうにホットケーキを食べている。久しぶりの家族団らんといった雰囲気に僕も頬が緩んだ。

「ふむ、これは美味いな」

「ええ、これまで食べたことがないほどです」

「……美味しいけど、最後の晩餐じゃないよね? 大丈夫だよね?」

まぁ、家族団らんの中にパナメラとタルガ、フレイトライナも混ざってはいるが。フレイトライナはあまりの美味しさに涙を流しているけど、この雰囲気が込み入った話をするのに丁度良いかもしれない。

「さて、それでは食べながら聞いてください。今後の方針を提案します」

そう告げると、パナメラとタルガの目が鋭く細められた。遅れて、ムルシアも姿勢を正す。それを見回しながら口を開いた。

「えっと、とりあえず今後の方針は領地の安定と、パナメラ子爵の領地との連携です」

「伯爵だ、伯爵」

「あ、すみません。パナメラ伯爵でした」

「ふふん」

上機嫌に訂正を入れてパナメラが豊かな胸を張る。カムシンだけが小さく拍手を送っていたが、他の面々は浅く頷くばかりである。

「それでは気を取り直して……まずは、近くにある冒険者の町についてです。こちらは人質であるフレイトライナ王子が代官となり、エスパーダの弟子三名が補佐します。また、エスパーダ騎士団は暫く騎士団長不在とし、副団長を二人とします。そして、騎士団長補佐を一人です」

「ほ、本当に僕が代官……?」

不安そうにそう呟くフレイトライナに、タルガの方が心配そうな顔をする。

「元とはいえ、敵国の王族を代官に……大丈夫でしょうか?」

タルガの言葉に、パナメラが片方の口の端を上げ、眉根を寄せた。

「裏切るかもしれない。いや、このセアト村に集まる膨大な財をそっとイェリネッタ王国に横流しするかもしれん……さて、それらの対処は大丈夫なのか?」

「う、裏切りません!」

パナメラの問いかけに一番にフレイトライナが絶叫するように答えた。しかし、その回答は無視される。

「ヴァン。私もそれは心配だな」

ムルシアが静かにパナメラの言葉に同意した。とはいえ、これは必要な配置である。皆に安心してもらおうと少し大袈裟に回答しておこう。

「大丈夫ですよ。フレイトライナ王子の部下である三人はこのエスパーダの弟子です。下手に横領なんてしようとしたら、即座にエスパーダと僕の耳に入るでしょう。また、冒険者の町にあるすべての兵器は三方向のみしか向けません。つまり、セアト村の方向を攻撃することは出来ないのです。反対に、セアト村は冒険者の町を一瞬で破壊することも可能です」

「一瞬で……っ!?」

僕の説明にフレイトライナが息を呑んだ。ガクガクと音が鳴るほど震えだすフレイトライナを横目に、パナメラが鼻を鳴らす。

「なるほど。そう聞くと安心できそうだな。それに、ただの人質として軟禁するより有意義な使い方だろう」

「はい。後は、城塞都市ムルシアですが、こちらはこれまで通りムルシア兄さんに代官をお願いいたします。また、騎士団に関してもムルシア兄さんの私兵として雇われてきた皆さんをそのまま登用します。ただ、今後は多くの移民が城塞都市ムルシアに流入してくることを想定している為、こちらにもエスパーダの弟子を三名派遣します」

「……も、もう少し、文官が欲しいかな。あと、これからもっと多くの物資が必要になると思うけど……」

城塞都市ムルシアの体制変更を告げると、代官であるムルシアが困ったように笑った。確かに、殆ど騎士団と冒険者のみで構成されているから、ムルシアの苦労はとんでもないものだろう。しかし、残念ながら人手不足はセアト村も同様なのだ。

「今後は、ベルランゴ商会が城塞都市ムルシアに常設の店舗を設置します。また、セアト村から大工や鍛冶屋、農業、林業を営む人たちに希望者を募り、移住してもらいます。行商人や冒険者も多く行き来するようになるし、購入に必要な資金は全てセアト村で支払いするので、お金の心配も不要です」

「……それはありがたいけど、文官は?」

「…………ごめんね、兄さん」

僕は出来るだけ誠実に、真摯に謝った。エミーラを含めて、エスパーダの弟子も三名送りこむのだ。恐らく、ムルシアが思っている以上の力にはなるはずである。ただ、今のところ騎士達ばかりだから良いが、移民が増えてくると恐ろしいほど混乱するだろう。

エスパーダに早急に新たな弟子を育成してもらうしかあるまい。だから、それまで死なないでくれ、ムルシア兄さん。