軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皆が帰ってきた

「わっはっはっは! ヴァン様、ただいま帰還しましたぞ!」

「お帰り、ディー。アーブも、頑張ってくれてありがとう」

疲労を感じさせるものの、二人とも元気そうに帰ってきて安心した。後に続くセアト騎士団も皆ホッとした様子で笑っている。

「ひと足先に陛下が戻られて戦勝を伺ったけど、問題なかった?」

「もちろんですぞ! ヴァン様のお陰で守りは鉄壁! 移動式バリスタで攻めるのも苦労はありません! 最初こそ大砲を警戒しておりましたが、大砲は目で追えると分かってからは楽になりました!」

「目で追える? 砲弾を?」

「そうですな。音がした方向を見上げればすぐに砲弾を発見出来ますぞ? コツは大砲の発射位置を予測して高さを予想することですな。今度機会があればお教えしましょう!」

と、ディーは帰ってきて早々にとんでもないことを言ってのけた。残念ながら、僕はまだ人間を辞めたくはないのでディーの教えを受けるのは遠慮させてもらうが。

一方、アーブは泣きそうな顔でふらふらとこちらに歩いてきた。いや、もう目の端に涙を溜めてしまっているので、泣きながらと言った方が正しいか。

「……大丈夫?」

心配になって声を掛けると、アーブはげっそりした感じで頷く。

「もう限界でした……帰還命令がこれほど嬉しかったことはありません」

「え? イェリネッタ王国の攻撃はそんなに厳しかったの? あれだけ城塞都市を強化したのに」

アーブの言葉に驚いて聞き返す。大砲にはバリスタがあるし、近付かれても簡単には突破できない作りにした筈だ。それでも突破されたなら、もしかしたら飛行可能な成竜か何かが現れたのかもしれない。

空への防備をもっと徹底すべきだったか。

そんなことを思いながら聞き返したのだが、アーブは首を左右に振ると、顔を近づけてきてそっと口を開いた。

「違います……イェリネッタの軍は城塞都市に手も足も出ず、主戦場はすぐにイェリネッタ王国の王都に移りました。しかし、戦争中の空気で と(・) あ(・) る(・) 騎(・) 士(・) 団(・) 長(・) のやる気が凄まじく、行き場の無いエネルギーが全て訓練に……これまでにない、過酷な訓練でした。いつ終わるのかも分からない訓練に、もう皆が精魂尽き果て……」

「だ、誰だろうねぇ、その騎士団長は……とりあえず、お疲れ様。遠征から帰った人達は一週間のお休みをあげるから、大浴場に行ってから寝たら良いよ。あ、希望者にはクサラホテル……冒険者の町にある宿の宿泊券をつけようかな」

アーブの疲れっぷりを見て可哀想になり、いつもより慰労に力を入れてみたのだが、アーブは目を輝かせて顔を上げた。

「ほ、本当ですか!?」

「聞いたか、皆!?」

「やったー!」

と、ディーとアーブの後ろに並んでいた騎士団の面々も両手を振り上げて喜ぶ。

あれ? 意外と元気いっぱいじゃないか?

そんなことを思いながら眺めていると、ディーが大きく頷いて笑った。

「わっはっはっは! メリハリが大事ということですな! しかし、私はそのような休養は不要ですぞ! 早速、明日から居残り組の訓練を始めましょう!」

「……そ、そう。頼んだよ」

「お任せくだされ!」

そんな感じで、セアト騎士団は久しぶりに全員が揃うこととなったのだった。

ちなみに、しばらくしてイェリネッタ王国の王都進軍組であるベンチュリー伯爵やフェルディナット伯爵達も戻ってきたが、皆ずいぶんと元気な様子だった。

フェルディナットは気になっていたのか、すぐにアルテの居場所に行ってみると言って、挨拶もそこそこに立ち去った。

そして、元気過ぎるベンチュリーが何故かかなり怒っていた。

「戦いの勝利、おめでとうございます」

そう告げると、ベンチュリーは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「大国との大戦で勝利したというのに、大した手柄も挙げられなかった。さぁ、王都に猛攻を仕掛けようという時に、あっさり降伏されてしまったのだからな」

「まぁ、自軍に被害が出なくて良かったと思いましょう」

苦笑しながらそう告げると、ベンチュリーは意地の悪い笑みを浮かべてこちらを指差した。

「卿が最大の功労者なのは間違いないのだ。それでその返事は嫌味であろう」

「え? 僕ですか?」

戦場にいた時間は一番短い。功績はもちろん認められるだろうが、第一の功にまではならないだろう。個人的には二箇所の戦場で活躍したパナメラが最大の功労者だが。

しかし、ベンチュリーは首を左右に振る。

「イェリネッタ王国の王都陥落の功ではない。全体を見れば、最も重要な局面を乗り越えたのは全てヴァン男爵の要塞の力や防衛戦の効果である」

「……そうですか? それなら、ちょっとくらい自分の欲しいものを要求したり出来るかもしれませんね」

そう言って笑うと、ベンチュリーは興味深そうに目を開いた。

「ほう? 卿が欲しい物か……それは少々興味深いな」

ベンチュリーがそう口にした時、陛下がふらりと姿を現した。ベンチュリー達やその騎士団が一斉に片膝を突いて頭を下げる。

すると、陛下は微笑を浮かべて片手を振った。

「良い良い。皆、楽にしておれ」

そう口にしてから、立ち上がるベンチュリーに声を掛ける。

「おぉ、伯爵! 此度の戦は見事だったな。貴殿自慢の魔導騎兵部隊の活躍が目覚ましかったぞ」

「はっ! ありがとうございます!」

褒められて、ベンチュリーは胸を張って喜ぶ。しかし、すぐにこちらを見て口を開いた。

「ところで、陛下。ヴァン男爵のことですが」

「む?」

「え?」

急に話題に出され、驚いて顔を上げる。

「もし第一の功を戴いたら、欲しい物があるようですぞ」

「おぉ、そうなのか! 珍しいじゃないか、男爵! 何が欲しいのだ?」

ベンチュリーのキラーパスにより、陛下は突然テンションを上げてこちらに話しかけてきた。いやいや、急過ぎではなかろうか。

いや、まぁ、どうせお願いするつもりだったけれど、もっとタイミングを測りたかったのだが、仕方ない。この場で陛下にお願いすることにしようか。

「……その、第一の功ではないと思いますが、もし可能なら、イェリネッタ王国が持っている中央大陸との貿易での優先的な権利をいただけると、嬉しいなぁ、なんて……」

美味しい料理の為の調味料や珍しい食材を想像しながら、そう告げる。食い意地が張っているようで少し恥ずかしいが、そこはヴァン君の子供らしさで誤魔化すのだ。

そんなことを思いながら照れ笑いをしつつ陛下を見上げた。

しかし、陛下は予想以上ににっこりと、いや、とっても嬉しそうに力強い笑みを浮かべている。

「うむ、分かった。ついに、ヴァン男爵も黒色玉を使った兵器を開発出来るな。前々からその計画の一端を話してくれていたが、実際にこの目で見られる日を楽しみにしておるぞ」

陛下がそう言うと、ベンチュリーも眉尻を上げた。

「ほう? 前々から、ですか」

「うむ。どうやら、ヴァン男爵の望みは中央大陸のようだからな。はっはっは! 頼もしい限りだ!」

陛下の言葉を聞き、ベンチュリーは見直したぞ、とでも言うような目で僕を見た。

え? なんでそんな話に?