軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】最強の援軍

【タルガ】

「す、ストラダーレ殿……」

今や最も頼りにしている侯爵家騎士団の団長の名を呼ぶ。あの瓦礫の雨の中だ。もしかしたら……。

そう思ったのだが、すぐに馬で駆けてくる音が聞こえた。

「タルガ殿! ご無事ですか!?」

大きな声を上げて現れたのはストラダーレだった。流石に無傷とはいかなかったのか、兜が外れて額から一筋の血を流している。しかし、四肢ともに健在であり、その眼には活力があった。

「ぶ、無事だ」

そう答えて上半身を起こした。右腕は痺れて動かなかった為、左の手のひらで地面を押し、何とか立ち上がる。ストラダーレは私の様子を確認して無言で頷くと、遠くを見るように地竜の方向を一瞥した。

「……こうなったら、死ぬまで戦うか。それとも万に一つの可能性に賭けて退却を選ぶか。どちらがお好みですか?」

その言葉に、思わず吹き出して笑った。

「ふ、はっはっは……! 好み、か。どちらかと問われれば、騎士らしく王国を守るべく命を賭して戦いたいものだ。願わくば、見事に地竜の首を斬り落として竜討伐者として名を馳せたいところ」

右手も上がらないというのに何を言うか。自らをそう罵りながら軽口を口にした。それにストラダーレは静かに笑みを浮かべ、顎を引く。

「……奇遇ですな。私も、元部下が竜討伐を成し遂げてしまいまして……張り合いたいと思っていたところでした。お手伝いしていただけますか?」

「おお、勿論だ」

笑いながら返事をし、魔術の詠唱をしようと地竜に向き直った。もはや大砲を警戒して動き回る余力もない。出来ることは、ありったけの魔術を撃ち込んで地竜の注意を自分に向けることだけである。

さぁ、見事に死んでやろう。

視界の端で剣を構えるストラダーレを見て、そんなことを思い口の端を上げた。

次の瞬間、背の高い騎士が二人、風のような速度で横を走り抜けていった。

「な……」

そんな間の抜けた声しか出せなかった。初めて自分よりも背の高そうな騎士を見た、などという下らない感想が頭に浮かぶ。

魔術の詠唱のことも忘れて呆然と騎士の背中を見守っていると、二人の騎士は石の壁から上半身を露出させた地竜へと迫った。恐ろしい速度で走り抜ける騎士達は、壁にぶつかる寸前で地を蹴って跳躍。人間とは思えない動きで石の壁を駆け上がると、そのまま剣を振り抜いた。

身が竦むような地竜の絶叫と、空を赤く染めるような大量の鮮血。

右の騎士は石の壁にかかっていた地竜の前脚を一撃で切断してみせた。そして、左の騎士は地竜の下顎と上顎の一部を切り裂いてみせたのだ

人間の膂力とは思えない一撃だ。

それは、傍で見ていたストラダーレも同じように感じたらしい。目を見開いて目の前で起きている光景を眺めている。

だが、それだけで終わりではなかった。そのすぐ後に、空気を震わせる音と風を切り裂く音が同時に鳴り響き、地竜が体を痙攣させた。

「な、なにが……」

ストラダーレの戸惑う声が聞こえてくるが、何が起こっているのか分からないのだから、それに答えることはできそうもない。

と、そうこうしているうちに地竜はのけぞるような恰好で後方へと倒れていってしまった。状況を把握しようと必死に目を凝らしてみると、石の壁に黒い点が見えた。先ほどまでは無かったはずだが、もしかしたらあれは穴なのかもしれない。

「……まさか、何かが石の壁を貫通して更にその向こうにいる地竜の体を貫いた、ということか?」

自分で言っていて信じられないことだが、そう考えたら辻褄が合う。混乱しているのか思考が上手くまとまらない。どこかで、竜の鱗を貫通する矢のことを聞いた気がしたのだが。

そう思った時、気の抜けた子供の声が聞こえてきた。

「だーいじょーぶでーすかーっ!?」

かなり離れた場所から声をあげているようだが、妙に響く声だ。振り返ると、後方に数十の騎兵と不思議な形状の馬車が複数台目に入った。

先頭の馬車の御者席には見事な鎧を着こんだ騎士と子供二人の姿があった。中心に座る銀髪の子供を見た時、ようやく噂を思い出せた。

フェルティオ侯爵家の末息子であり、十歳にも満たぬのに爵位を授かった神童。確か、嘘のような戦果、武功を挙げ続けていると聞いたが……。

「ご無事そうですね! 間に合って良かった! とりあえず、こちらの馬車に乗ってください!」

側に来て馬車を停めた少年は、こちらを見てホッとしたように微笑んだ。とても戦場でするような笑みではないが、何故か違和感がない。

「……有難い。ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵、で間違いありませんか」

「はい。ヴァンと申します。まぁ、自己紹介はまた後で! とりあえず、こちらの馬車に二人は乗れますよ。砲撃があるかもしれないので、急いで乗ってください」

「む、申し訳ない」

確かに、悠長過ぎたか。そう思い、一礼してから馬車に乗車した。大きな馬車だったが、それよりも先に不思議な形状に驚く。上部には巨大な攻城矢らしきものが取り付けられているが、まさかこれを使って地竜を撃ち抜いた、なんてことはあるまいな。

様々な疑問を持ったまま、馬車の中に入った。すると、一番に気の強そうな美女の姿が目に入る。その姿は生粋の軍人だ。次が場違いなメイドと人形のように美しい少女の姿だ。

先程から予想外の状況が続き過ぎて、まともに反応もできなかった。

「……失礼する。私はセンテナの守護を命じられた国境騎士団の騎士団長、タルガ・ブレシア。此度は、助勢していただき感謝する」

一先ず、全員に向けて軽く自己紹介と挨拶をする。それに金髪の美女が足を組んで座ったまま肩を竦めた。

「この地を防衛せねばスクーデリア王国は滅亡の危機すらありえる。気になさることもあるまい……ああ、私はパナメラ・カレラ・カイエン。ヴァン男爵の同盟者として共に防衛の加勢に来た」

「パナメラ子爵。貴女があの……」

パナメラの名を聞いて、思わず眉間に皺が寄る。恐ろしく有能な人物であり、血筋も関係なく子爵にまで成り上がった傑物だ。しかし、敵対する者には一切の容赦をしないという噂も聞いている。

「…… あ(・) の(・) 、とはどういう意味かな? タルガ殿。是非ゆっくり聞かせてもらいたい」

「あ、いや、他意はないのだ……それでは、突然で申し訳ないが同席させていただく」

しどろもどろになりながら誤魔化し、そっと空いている席に座らせてもらった。外から見るよりも室内が広い馬車だ。メイドの隣に座ったのだが、四人もいて室内はなおゆとりがある。

自分自身でも他者より体が大きいと自覚しているが、それでもゆったり座れているのだ。ストラダーレもそれなりに大柄だが、問題はないだろう。

そう思って扉の方を見たが、そこにストラダーレの姿はなかった。代わりに、先ほどの銀髪の少年の姿が現れる。

「ストラダーレ団長に交替するように言われちゃった」

ヴァンはそう言ってばつが悪そうに苦笑しつつ、馬車の中に入ってくる。そして、何食わぬ顔でパナメラと少女の間に座った。