軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】魔術対飛竜

【タルガ】

要塞センテナはフェルティオ侯爵領内とされている為、騎士団を引き連れて時折フェルティオ侯爵が訪れることもあった。そういう状況のため、面識はある。しかし、シェルビア連合国とは長きに亘って大きな争いが無かった為、侯爵の戦いぶりというものは知らなかった。

その為、フェルティオ侯爵という人物を気が付かない内に過小評価してしまっていたのかもしれない。

目の前で即座に騎士団に指示を出し、要塞の守りを整えると同時に、攻撃に移る為の準備も進めている姿を見て、指揮官としての有能さを強く感じた。次々と指示を出し、命令を受けた騎士団長以下の指揮官達が即座に行動する。そして、その報告を受けると間髪容れずに次の指示を出す。

その行動は迅速かつ的確だ。また、侯爵家の騎士団長も素晴らしい。確か、ストラダーレといったか。見た目的には貴族出身の騎士といった雰囲気だが、多くの修羅場を潜っているのは間違いない。

通常の籠城戦であれば櫓の上に弓兵、屋上に弓兵と魔術師、そしてそれを守る重装歩兵を並べるのが基本となるだろう。だが、戦闘が始まる前に侯爵の一言で従来のやり方とは隔絶した戦術を話し合っていた。

その特異な戦い方を、ストラダーレはまるで常日頃からやっていたかのように実行している。

「大砲による攻撃は受けるな! 必ず建物の陰に隠れよ! 魔術師隊! 城壁が崩れたら即座に復旧だ! 歩兵はその隙間を土嚢で埋めよ! 弓兵たちは大砲による攻撃に注意を払いつつ、敵の接近を許すな!」

ストラダーレが口にしたのは徹底した防衛の指示だ。知らぬ者が聞けば腰抜けだとでも思うことだろう。だが、大砲と黒色玉の情報を得た後では見方が変わってくる。

「センテナ騎士団よ! 城門裏に騎馬隊、魔術騎兵隊は待機だ! いつでも動けるようにしておけ! 弓兵隊はフェルティオ騎士団と協同して接近する者を射殺せ! 重装歩兵は俺と共に来い!」

負けじと怒鳴り、階段を上がっていく。時折響く振動や爆発音。天井からは細かな石の破片や埃が落ちてくるが、気になどしていられない。

「…… 朱の魔弾(フラム・フレシア) 」

屋上に上がった直後、前方で魔術が発動した。黒いマントがはためき、背に刺しゅうされた黄金の牛と直剣の紋様が目を奪う。その間に、魔術師の肘から先は炎に包まれており、周囲を赤く照らし出していた。

近づくもの全てを焼き尽くすような高温の炎だ。炎は猛り狂うように燃え上がり、空へと帯状に伸びていく。火から逃げるようにワイバーンが弧を描いて飛行するが、炎の帯はそれを逃がすまいと追いかけている。

あの勢いの炎を長時間発現させているだけでもかなりの魔力量だが、さらに生きているかのように動かし続けているとは、驚くべき魔力操作技術である。

誰があれほどの魔術を行使するのかと問われれば、誰もが同じ人物の名を思い浮かべるはずだ。

その魔術師であるフェルティオ侯爵は、近隣諸国からスクーデリアの番人と呼ばれるだけあり、威風堂々とした態度でワイバーン達を追い払ってみせた。亜竜とはいえ飛竜種であるワイバーンの鱗は恐ろしく硬い。剣や弓などで撃退しようと思うとかなりの人数を投入しなければならないため、魔術師が対処するのは定石だと言える。

とはいえ、あれほど見事に対処してみせる魔術師はそうはいないだろう。

「閣下! お気をつけください! ワイバーンを追い払ったとはいえ、大砲の脅威はいまだあります!」

「分かっておる! 一旦戻るぞ!」

「はっ!」

そう言いつつ、フェルティオ侯爵はいつの間に詠唱をしたのか、空を覆うほど広範囲の激しい炎を放出して歩いてきた。空は一気に真っ赤に染まり、壁のようになった炎を背に歩いて来るフェルティオ侯爵はまるで悪魔のように見えてしまう。この魔術師が敵でなかったことは幸運だった。

「……お見事でした、閣下。さすがの魔力量です」

階段を下りながらそう口にすると、フェルティオ侯爵は鼻を鳴らして口を曲げた。

「くだらん、単なる時間稼ぎだ。貴様でも分かるだろう? 敵方は間違いなく移動しながら大砲を使い、さらに空からワイバーンを使って黒色玉を落としてきているのだ。もはや籠城もどれだけ出来るか予測すらできん。相手の戦力次第では数時間で蹴散らされる恐れもある」

この上なく不機嫌そうにそう言われて、溜め息とともに相槌を打つ。

「はい。我々に出来ることは攻撃される前に大砲とワイバーンを潰すことですが、シェルビア連合国側の領地には必ず罠が仕掛けられていることでしょう」

八方塞がりだ。要所を守る責任者たる自分がそうは言えなかったが、フェルティオ侯爵にはしっかりと伝わってしまった。苛立ちを隠しもせず、舌打ちをしながらこちらを振り返る。

「馬鹿者が! 本来、砦だろうが城塞都市だろうが、周囲近辺は自軍に有利に働くように整えておくものだ! なんだ、この有様は!? このままでは、スクデットの二の舞ではないか……っ!」

血を吐くような掠れ声で怒鳴るフェルティオ侯爵に、頭を下げて謝罪をする。外では断続的に爆発音を伴う地響きが続いており、兵士たちの騒がしい声も聞こえていた。

この混乱を招いた原因を問われれば、間違いなく自分の責任だろう。

「……申し訳ありません。後日、必ず責任は取りましょう。しかし、今はイェリネッタとシェルビアの連合軍を撃退するのが先です」

「どの口が……っ! くそ、ふてぶてしい奴だが、言っていることに間違いはない。早急に反撃の手を考える!」

「はっ!」

肩を怒らせて階段を下りていくフェルティオ侯爵。その背を追いながら、どうするべきか頭を働かせる。この地を奪われれば、間違いなくスクーデリア王国は不利な状況となる。

なんとしても死守せねばならないのだ。