軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】兄弟の再会2

【セスト】

金が無い。以前はそんなことで悩んだこともなかったが、代官をすると嫌でも意識するようになった。

最初は莫大な予算を見て、こんなに使うことが出来るのかと喜んでいたのに、何故無くなる前に言ってくれないのか。

気が付けば、増税では間に合わないほどの金額が必要になっていた。領主代行として街で管理している財を売り払い、訓練と称して騎士団の遠征を繰り返し、盗賊団や魔獣を討伐して金を稼いだ。

だが、それでも到底補填などできなかった。

これからどうしようかと頭を抱えている時、このイェリネッタ王国侵攻の話が来たのだ。

「借金をしてでも、戦力を揃えろ」

ヤルドにそう言われて、成る程と頷いた。それと同時に、これで助かるぞ、とも思った。

すぐさま補佐官に連絡をして、これまでの赤字や借金は全てこの日の為であったように、帳簿の内容を改竄するように指示した。ちょうど良いことに騎士団の遠征の記録もある。

そして、それでも足りない分は傭兵を雇う費用ということで誤魔化すことにする。ヤルドが多くの傭兵を雇っているようだから、常に一緒に行動していればバレないだろう。

色々と不安ながらも、そうやって戦いに参加することにした。

道中は大した苦労も無かった。自堕落な生活に慣れきっていたため、質素な食事や馬車内での睡眠がキツかったくらいだ。

それよりも、他国との戦争という大きな戦いに参加する方が不安である。ヤルドは武功を挙げると躍起になっているが、そんなに簡単なものではないだろう。

盗賊団程度を相手にしても何人も騎士が死ぬのだ。中型の魔獣でも同様だ。

それなのに、まずウルフスブルグ山脈を踏破しなければイェリネッタ王国に辿り着かないという。

馬鹿じゃないのか。何故、大型の魔獣ばかりが生息するという魔の山を通り抜けるのか。

口にすれば不敬罪で首を斬られるだろうから実際に言うことはないが、どう考えてもまともではない。

ヤルドの自慢話を聞き流しつつ、そんなことを考えて道中を過ごした。

そして、ようやく第一の目的地であるヴァンの領地へと辿り着く。吹けば飛ぶような貧困の村だと聞いていたが、どれほどのものか。

ヴァンが男爵など、悪い冗談に違いない。そう思っていたというのに、実際にヴァンの領地を見て最初に感じたのは、信じられないという気持ちだった。

「……ヤルド兄さん、あれは? まさか……あれが、ヴァンの領地?」

何かの間違いではないのか。そう思って尋ねたが、ヤルドも目を見開いて驚いていた。

「……城壁? まさか、一年余りであれほどの城壁を築いたというのか?」

その言葉に、改めて目の前に聳える城壁を見る。堅牢を絵に描いたような見事な城壁だ。城門も悠然としており、装飾の一つ一つまで手が行き届いている。

道を間違えたんじゃないかと思いつつ、ヤルドと会話をしながら城門をくぐった。元が辺境の小さな村だったという話通り狭い敷地であり、自分が代官をしていた街と比べて内心ホッとする。

「……なぜ、街の外へ出ようとする?」

だが、何故か街から出るような形になって、ヤルドと一緒に抗議した。

「も、もしかして、僕たちを追い出すつもりじゃないだろうな」

二人でそう言ったが、案内の兵士は何でもないような態度で口を開いた。

「ああ、説明不足で申し訳ありません。ここはまだセアト村ではありません。あまりにもセアト村に訪れる冒険者が増えたので、ヴァン様が新たに作られた冒険者専用の町です」

「……は?」

兵士の言葉にヤルドが間の抜けた声を出す。いったい何を言っているのか。そう思っている間に、城門は開かれた。

そして、城門の向こうに新たな城塞都市が現れて、我々はついに言葉を失った。

なにせ、視線の先には独特な形ながら、明らかに一万人以上が暮らすことの出来る城塞都市の姿があったからだ。綺麗に整えられた街道の左右には王都の騎士団らしき兵士達が野営をしていた。

何千人もの精鋭の視線を感じながら、城塞都市までの道を進む。まるで騎士団に連行されているような気分になっていると、ようやく城塞都市の城門前にたどり着いた。

まるで切り立った山のようだ。背の高い城壁や城門を見上げて、そんな風に感じた。だが、目の前には小川が流れており、まだ城門の間近に来たわけではない。

「開門! 橋を降ろせ!」

兵士が声を掛けると、すぐに橋が降りてきた。どうやら、城門と思っていた長方形の板は跳ね橋だったようだ。橋の裏面になるはずなのに、精巧な彫刻がされており、遠目からは城門にしか見えない。

橋が降り、門が開かれる。

「セアト村へようこそ。ヴァン様がお待ちです」

門が開かれると同時に騎士を連れたメイドが現れて、そんなことを言った。それにヤルドが不機嫌そうに顔を顰める。

「なに? 兄を出迎えもせずに歩かせるのか?」

苛立ちとともに文句を口にはしたが、その声は隣にいても聞き取れないほど小さい。弟だろうとヴァンは男爵になったと聞いているのだから、あまり公の場で批判はし難い。

仕方なく、二人とも無言で先導するメイドの後に続いた。

どこかで見たことのあるメイドだ。そんなことを考えながら歩いていると、メイドが左右に立ち並ぶ建物を指し示しながら口を開く。

「ヤルド様、セスト様は初めてセアト村に来訪されましたので、簡単に村の説明をさせていただきます」

そう前置きして、メイドは村のことを話した。

曰く、冒険者ギルドやメアリ商会だけでなく、商業ギルドまで取引をしているという。また、ウルフスブルグ山脈の麓の森にダンジョンが見つかり、常に千人以上の冒険者が滞在しているため、希少な魔獣の素材が手に入りやすい。更に驚くべきことに、村にはドワーフが住み着き、ドワーフの炉もあるそうだ。

それらの情報に、流石にヤルドも声を上げた。

「ば、馬鹿な……! わずか一年と数ヶ月でそんなことがありえるものか!」

怒鳴るヤルドに、消極的に同意する。

「……辺境の村に追い出されたと思っていたけど、そうじゃなさそうだね。多分、ドワーフ族が住んでいると分かったから、王国の総力をもって発展させたんだと思う。だから、商業ギルドも取引対象にしたんだよ」

そう告げると、ヤルドが深く頷いた。

「そ、そうだ。そうに違いない。ヴァンめ、信じられないほど幸運だな。ドワーフ族など、俺でも見たことないぞ」

ヤルドがそう言って笑うと、メイドの目が鋭くなる。いや、その周りの騎士も同様だ。

「な、なんだ? 違うとでも言うつもりか」

睨み返してヤルドが低い声を出すと、線の細いメイドが臆することもなく口を開いた。

「……ヴァン様が最初にこの村に着いた時、村は盗賊団に襲われていました。領地を守るために、自ら剣を持って戦われたのです。ドラゴンが襲来した時も同様に、最後尾でドラゴンの足止めをするエスパーダ様を命懸けで連れ帰られました。決して幸運などではなく、ヴァン様だからこそ村は大きく、強くなったのです」

メイドは目に涙さえ浮かべてヴァンの努力を語る。我らを侯爵家の代表と理解してのことだろう。よく見れば、指先は細かく震えていた。

「ぶ、無礼な物言いをするな! メイドの分際で……!」

ヤルドが怒鳴りながら詰め寄ろうとすると、メイドは肩を竦めて怯えながらも、一歩も引かなかった。

そこへ、子供の声が響き渡る。

「うわぁ! ヤルド兄さんとセスト兄さん!? お久しぶりです! お元気でしたか?」