軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アポロさんとパナメラさん

妙にテンションの高い陛下を引き連れて、城門で待つアポロの 下(もと) へ向かう。

城門に着くと、そこには大型の馬車が十数台も並んでおり、広めにとっておいたメインストリートがパンパンになっている。馬車の周囲には冒険者たちがこれまた数十人と並んでいるため、有名観光地も真っ青な人口密度だ。

どうやら陛下が連れてきた騎士団は城門より外で待ってくれているらしい。それでも我がセアト村のメインストリートがパンパンなのだから恐ろしい限りだ。

「あ、ヴァン様!」

と、 商団(キャラバン) の中からベルが声を上げた。その後ろにはアポロの姿もある。

「お帰りー」

手を振りながら出迎えに行くと、アポロが少し驚いたような顔をして、すぐに片膝をついて頭を下げた。それを見て、ベルも初めて僕の後ろに陛下が立っていると気が付く。

「し、失礼いたしました!」

二人が平伏したのを見て、他の冒険者たちも顔を見合わせつつ同じように片膝をついて姿勢を低くしていく。

僕が頭を下げられているようで偉い人になったような気分になるが、陛下がスタンドのように背後にいるからである。そう思って振り返ると、陛下が鷹揚に頷いて片手を振った。

「良い。楽にせよ」

陛下がそう告げると、アポロが一番に立ち上がる。

「ありがとうございます。それにしても、さすがは精強なスクーデリア王国の騎士団ですね。我々も急いだつもりでしたが、全く追いつけませんでした」

「はっはっは! そうだろうとも。我らの強みの一つだからな」

大国の王を相手に、アポロは気軽に話しかけて楽しそうに雑談をしてみせる。これにはベルの方が目を白黒させていた。さすがは各国を商売相手とする大組織である。国王相手にも慣れた様子を見せている。

「それで、今日は何の用事でヴァン男爵を訪ねたのだ?」

陛下が尋ねると、アポロは苦笑交じりに僕を見た。

「それが、お恥ずかしい限りですが、ようやく商業ギルドの方針が決まりまして……」

その言葉に首を傾げていると、陛下が噴き出すように笑って頷いた。

「ほう? つまり、商業ギルドはイェリネッタ王国を見限ったということだな?」

「いえいえ……ただ、今回はスクーデリア王国との取引に魅力を感じたので、泣く泣くイェリネッタ王国との取引を後回しにさせていただいただけで……」

「はっはっは! 多方に気を遣わないといかんから大変だな! どうだ、ここだけの話、イェリネッタ王国との取引は後回しではないのだろう? 戦いの為の物資や武具、調味料などにしても相当な儲けが出るはずだ」

と、アポロの言葉の裏を読む陛下。まぁ、戦争特需という言葉もあるくらいだ。各国に販路を持つ商業ギルドならば右から左に品を流すだけで大儲けとなるのは想像に難くない。

攻め込むスクーデリア王国には兵站に関わる物資を、イェリネッタ王国には武器や防具類などの販売をしているのだろう。

そこまで考えて、黒色玉の存在を思い出した。

「……アポロさん。ちなみに、黒色玉は商業ギルドからイェリネッタ王国へ販売したりしていますか?」

そう尋ねると、アポロは首を左右に振って苦笑する。

「いえいえ、あれに関しては我々も取り扱いをしておりません。残念ながら、あの商品は一国の独占となっておりまして……いまだに製造方法すら不明なままですよ」

アポロがそう答えると、陛下は腕を組んで唸った。

「それはそうだろう。あのような便利な兵器を他国に知られるわけにはいかん。製造にどれほどの資源と時間が必要なのかは分からないが、数によっては勝敗の決め手にも成り得る」

陛下はそう呟き、目を細める。その言葉に場の緊張感が増した。

そこへ、新たな来訪者が堂々とした態度で入場してくる。

「これはこれは、陛下。遅れてしまい申し訳ありません」

見事な美しい金髪を揺らして現れたのはパナメラだった。一応謝罪の言葉を口にしているが、その目には揺るぎない自信が宿っており、とてもではないが謝罪をしている風には見えない。そのあまりにも堂々とした態度に陛下も苦笑しつつ、首肯を返した。

「ふむ。元々報せを送ったのは出立する前だったのだ。むしろ、よくこれだけ早くセアト村まで来られたと感心しておるぞ」

「陛下の報せを今か今かとお待ちしておりましたので」

「はっはっは! 流石はパナメラ子爵! 豪気なことだ!」

不敵な笑みを浮かべて返事をするパナメラに陛下は更に上機嫌となる。そのやり取りを横目に、僕はベルの方へ視線を向けた。

「どうだった?」

言葉少なめに確認すると、ベルは若干戸惑いつつも口を開く。

「は、はい。王都だけでなく、大きな街二つを通過して宣伝と奴隷の購入をしております。結果、店を持ちたい商人や騎士になりたい元冒険者、傭兵なども集まりました。奴隷の皆さんと合わせて二百人の移民希望者がおります」

「二百人もいるの? 今度、エスパーダから追加で予算が出るから、またベルランゴ商会には王都まで行ってもらうことになると思う。その時はまたお願いね。それじゃ、とりあえず今はお腹が空いてそうな人は食事を食べさせてあげようか。後、大浴場に順番に案内してあげて」

「承知しました」

ようやく僕から指示を受けることが出来たベルは、ホッとしたように一礼してその場を去っていった。やはり陛下の御前に立っているのはかなりの重圧だったようだ。

その後ろ姿を見送ってから、パナメラに振り向く。

「パナメラ子爵、お久しぶりです。次の戦いでも頑張ってくださいね」

そう告げると、パナメラはフッと息を漏らすように笑った。

「任せておけ、少年。ちなみに新しい武器はないか? 試作品でも良いぞ」

会って早々に目を輝かせてパナメラは新兵器の催促をしてくる。その子供のような表情に微笑みを返しつつ、頷いて答える。

「色々と考えてはいますが、まだまだ実用段階ではありません。とりあえず、今回は兄のムルシアが参戦しますので、そのための新兵器は準備していますが……」

「おお、それは見てみたいな」

僕の言葉を聞いて更に目を輝かせるパナメラ。その後ろで陛下が軽く咳払いをして、パナメラがハッとした顔になる。

「卿も着いたばかりだ。立ち話もそのあたりで良かろう」

陛下がそう口にすると、パナメラは恐縮したように姿勢を正して一礼した。まぁ、表情はまったく恐縮していないが、他の者達には礼儀正しく見えたことだろう。

「では、せっかくセアト村に来たのだから大浴場を堪能させてもらうとしようか。ヴァン男爵。領主の館近くの大浴場は使えるか?」

「はい、大丈夫ですよ。うちの騎士に案内をさせますので、少々お待ちください。カムシン、お願い出来る?」

「はいっ! すぐに!」

カムシンは良い返事をして素早く城門の警護リーダー的青年を連れてきた。青年はガチガチに緊張しながら深く一礼し、陛下の御前へ移動する。

「こ、こここ、こちらです! あ、足元にお気をつけてお進みください!」

「うむ。それでは、ヴァン男爵。外に待たせている騎士たちの世話を頼むぞ」

陛下はそう言い残すと、先導する青年の後を意気揚々とついていく。その後姿を見て、パナメラが目を瞬かせて驚いた。

「……あの陛下がここまで緊張感を緩めるとは、驚くべきことだな。それだけ、セアト村の治安を信頼しているということか」

そう言って自らの顎を指でなぞりながら頷くパナメラを見上げて、口を開く。

「あ、パナメラさん。大変申し訳ないんですけど、陛下の騎士団の世話を頼むって言われちゃって……」

「む? ああ、野営場所を指示すれば良い。あとは、騎士団の指揮官以上が宿泊出来そうなら宿泊施設を案内してやってくれ。もちろん、私はこのセアト村の中で良いだろうな?」

「はい、それは勿論ですが……」

簡単に陛下の言葉の意味を教えてくれたパナメラだが、さっさと大浴場に行きたそうにしている。それに僕は困ったような表情を向けてみた。

すると、パナメラは珍しそうに首を傾げる。

「……ん? どうした、少年。珍しくモジモジしてるじゃないか」

そんな疑問に、僕は素直に答えた。

「いや、ディーもエスパーダもいないので、一万人とか騎士団が集まっているなら、パナメラさんにも一緒に来てほしいなー、なんて……」

無骨で不愛想なおじさんばかりの現場に行くのは怖い。そう思ってお願いをしたのだが、パナメラは大きく目を見開き、こちらを見た。そして、大きな声で笑いだす。

「は、はははははっ! なんだ、少年!? 騎士団が怖いのか!? いつもの威勢はどうした! ディー殿がいなくて急に不安になったか!?」

人前だと言うのに、パナメラは僕のことを指差しながら大笑いしている。それに赤面するのを感じながら、頑張って否定の言葉を口にする。

「い、いや、だって、うちの騎士団と違って他の騎士団って厳つい人ばっかりじゃないですか。笑顔もないし、目つきも怖いし」

そう答えると、パナメラは更に噴き出し、涙目になるほど笑ったのだった。