軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

陛下の策謀

「……へ、陛下が指揮をしてくださる大事な一戦のため、あまりに凄惨な尋問を行っては兵の士気に関わる可能性があると危惧いたしまして……」

トロンが不安そうに自分の考えを口にする。それに、パナメラが鼻を鳴らした。

「さて、そういえば、前回ヴァン男爵が襲撃された時、その周辺の夜の番をしたのはヌーボ男爵の騎士団だったな。昨晩の見張りを担当した騎士団は誰のものであったか……早急に確認をとらねばなりませんね」

パナメラがそう告げると、ヌーボが額から汗を流しながら唾を嚥下する。トロンは顔を上げて、陛下を見た。

「ちょ、ちょっとお待ちいただきたい! パナメラ子爵はどうやら最初からヌーボ男爵を疑っている様子! このような状況で公正な情報を引き出すことが出来るでしょうか? もし、パナメラ子爵がイェリネッタと内通していた場合、最悪の事態も考えられましょう!」

「ならば、どうすれば良い?」

陛下が聞き返す。

「恐れながら、ヴァン男爵の安否を気遣い、尚且つ我々よりも爵位が上の方に来ていただくのが最良かと思います」

そんなトロンの言葉に、陛下は「なるほど」と頷いた。

「良いだろう。だが、ヴァン男爵はまだ当主となって日が浅い。貴族としての付き合いがある相手など、パナメラ子爵以外にはおるまい」

陛下が困り顔でそう言うと、すぐにトロンが答える。

「ならば、私はフェルティオ侯爵を推薦いたします。なにせ、侯爵にとってヴァン男爵は実の息子。これ以上ない男爵の味方でありましょう」

と、さも良案のようにトロンが言い、陛下とパナメラが一瞬視線を合わせた。

「良い案だ。たしかに、侯爵とは親子関係であったな。ならば、早急にそれで話を進める。誰か、フェルティオ侯爵を呼んで参れ!」

陛下が命じ、近衛の一人がすぐにジャルパを呼びに向かう。

その様子を見て、僕はパナメラの狙いに気が付き、悲鳴を上げそうになるのを堪えた。

最初から、ジャルパまで引き摺り出すつもりだったのだ。だから、襲撃の狙いも定かではないというのに、わざわざイェリネッタ王国と内通しているという疑惑を口にしたのか。

陛下の物言いに違和感を覚えていたのだが、トロンとヌーボの危機感を煽るのが目的だったに違いない。

このままだと、イェリネッタに通じた逆賊という最悪の扱いになり、下手をすれば死罪である。トロンとヌーボはどんどん状況が悪くなることに焦ったことだろう。

だが、僕としてはダディまで窮地に追いやるつもりも無い。むしろ、もう少し色々と準備しなくてはならないと感じている。

陛下とパナメラは、いったいどこまでの結果を求めているのか。

突然のタイミングで動き出した水面下での戦いに、僕はもう口を出すことも出来なくなっていた。

やがて、ジャルパが騎士団長のストラダーレを連れて歩いてきた。その表情は憤怒に染まり、凍てつくような視線をトロンとヌーボに向けている。その視線に、二人は顔面蒼白になって俯いた。

ジャルパと二人の反応を見て、この事態はトロン達が勝手に行ったのかと感じた。直感的なものだが、意外と的外れというわけでもなさそうな気がする。

だが、どちらにしても一度目の襲撃やコンテナの倒壊には関与している可能性が高い。どれか一つでも関わっているならば、陛下は見逃しはしないだろう。

これからどうなるのかと思ってジャルパの様子を窺っていると、陛下が先に振り向いて口を開いた。

「来てくれたか、フェルティオ侯爵」

少し不機嫌そうに陛下が名を呼ぶ。これにはジャルパも神妙な態度をとらざるを得なかった。

「はっ! 何事でしょうか」

薄々は気が付いているだろうが、ジャルパは敢えて何も知らない風を装って返事をする。陛下がそれをどう受け取ったのかは分からないが、とりあえず何事も無かったような態度で頷いた。

「うむ。話せば長くなるが……」

陛下がそう口にすると、パナメラが微笑みを浮かべて手を挙げた。

「良ければ私が説明いたしましょう」

「頼めるか」

陛下とパナメラがそんなやりとりをしてから、パナメラからジャルパに事の経緯を説明する。

それを聞き、ジャルパは憤慨して襲撃者達を睨んだ。

「寝入ったところを狙うとは、なんと恥知らずな輩だ! そういうことならば、この私が自ら尋問して犯人を突き止めてみせようではないか!」

そう怒鳴ると、トロン達はホッとしたような顔で息を吐いた。貴族の割に随分と感情が顔に出てしまっている。

しかし、トロン達が思うほど、パナメラは甘くなかった。

「いやいや、フェルティオ侯爵。まさか、尋問ごときで侯爵殿のお手を煩わせるわけにもいかない。それに、私はヴァン男爵の唯一の同盟相手です。誰よりも尋問を担当するのに適任と言えるでしょう」

パナメラがそう告げ、ジャルパはウッと小さく息を呑んだ。

ここで、強行突破することも出来る。しかし、どうやっても多少の違和感は残るだろう。陛下がいる前で、そんな怪しいことは行いたくない筈だ。

しかし、パナメラが尋問をしていけば、いつかはトロンとヌーボの策謀が明らかになる。そうすれば、ジャルパへの疑いも浮上するし、もし陛下が処刑を口にすればトロン達が白状してしまうかもしれない。

そうなれば絶体絶命だ。もし、その二つしか選択肢が無いならば、どちらを選ぶかは自明の理である。

結果、予想通りジャルパは強行突破を選んだ。

「パナメラ子爵……卿のヴァン男爵への友情には心から感謝する。しかし、実の子を狙われた親の気持ちを捨てきれないのも理解してもらいたい」

そう口にして、ジャルパはパナメラの前まで歩き、睨む。

「……この場は、私に任せてもらおう」

低くドスの利いた声で、ジャルパが言った。それに目を丸くして、パナメラは一、二秒もの間ジャルパの表情を観察する。

そして、息を漏らすように笑って肩を竦めた。

「……仕方ありませんな。しかし、侯爵がそれほどまでに息子のことを愛しているとは知りませんでした。 こ(・) の(・) 事(・) は(・) 美(・) 談(・) と(・) し(・) て(・) 周(・) り(・) の(・) 友(・) 人(・) に(・) 話(・) し(・) た(・) い(・) く(・) ら(・) い(・) で(・) す(・) よ(・) 」

含みのある言い方でジャルパの主張を認めると、パナメラはその場を譲るように僕の方へ歩いてくる。

「ヴァン男爵。お父上に任せて良いかな?」

最後に、パナメラにそう問われ、最終決定権が僕に移ったことを悟る。陛下もこちらを見て意味ありげに口の端を上げていた。

溜め息を吐き、僕はジャルパを見る。

ジャルパの表情は、僕がこれまでに見たことの無いものだった。