軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

セアト村披露

余程驚いたのか、ダディはほとんど喋らなくなった。対照的に、ムルシア兄さんは初めて都会に来た田舎の人みたいに建物をキョロキョロと見回している。

「先程も説明しましたが、ここはダンジョン発見により急激に増えた冒険者や行商人達のために作った街で、この中央通りには武具、衣服、日用品などの店舗と、飲食店、宿屋などがあります。例えばそこの三階建ては一棟で一つの宿屋です」

「……これが一棟全て宿屋、だと? メアリ商会がそれだけ力を入れているということか……」

ダディがそんなことを呟きながら、クサラホテルを見上げる。どうやら、メアリ商会が投資して建てられたと思ったようだ。

「いえいえ、メアリ商会も出店はしてますが、この辺りの店はベルランゴ商会の店が半分と、各々持ち主がいる店舗となっています。個人の方は基本的に僕に借金をする形で元手も少なく商売を始めていますよ」

そう訂正すると、ダディは難しい顔で数秒考え込む。

「……セアト村を案内せよ」

「承知しました」

どんな結論に至ったのかは分からないが、とりあえずダディの意向に従う。

「す、凄いね。ヴァンの領地がこんなに発展していたなんて……」

歩きながらムルシア兄さんがそう呟くと、ディーが肩を揺すって笑った。

「何を言いますか! 冒険者の街で驚いていたら、セアト村を見て腰を抜かしますぞ!」

「そ、そうなのかい?」

ディーが余計なことを言い、ムルシア兄さんが驚きの声を上げる。いやいや、見た目のインパクトでは冒険者の街の方がありそうだけど、なんでハードル上げたのさ。

若干不安になりつつ、ダディとムルシア兄さん、ストラダーレ達を案内する。

城壁と水堀の前で立ち止まると、バリスタが構えられる。こちらを直接狙っているわけではないが、すぐに発射することが出来ると分かるように矢の装填がされた音が鳴り響く。

「……こちらを狙う気ではなかろうな」

低い声でダディが確認してきたが、僕は聞こえなかった振りをして片手を挙げた。すると、ディーが大声で指示を発する。

「開門! 橋を下ろせ!」

その声が響き渡ると、程なくして跳ね橋が下りてきた。そして、門が重々しく開いていく。その様子を無言で見守ってから、僕はダディたちを振り返った。

「セアト村へようこそ」

にこやかにそう告げると、ダディは眉間に皺を寄せたまま顎を引いた。

「ヴァン、あの大きな塔は……」

「オリゴ塔ですね。反対側にはブドウ塔があり、周囲の警戒を行えるようにしています。もちろん、全方位に向けてバリスタは向いていますし、城壁の上で警戒する騎士団員も常に十名以上いますよ」

「そういえば、城壁の形もすごく特殊な形状だったね。あれは意味があるのかい?」

「上から見ると星型のような形をしています。尖った部分は屋上の跳ね橋以外では繋がっていません。なので、この村を攻める時はまず尖った部分を攻略して、それから水堀と城壁を突破しないといけません」

「……それは、確かにかなり強固な守りだね。確か、そのバリスタは飛竜も一撃で墜したって聞いたけど……」

「ワイバーンとかアーマードリザードくらいなら一撃で倒せますね。操る団員の腕も良くなったので、狙いを外さなくなりました。ちなみに、射程は一キロ超。二連続発射可能です」

「あ、アーマードリザードを? それは流石に冗談だろう?」

そんな会話をしながら、セアト村の中を進んでいく。質問をしてくるのはムルシア兄さんばかりであり、ダディやストラダーレは無言で付いてきている。

やばい。セアト村内の浴場は大浴場に作り直したし、ドワーフの炉の力を使って煮えたぎるお湯の循環も出来ているが、広さは外の大浴場に負けてしまう。インパクトが足りない。領主の館はなんだかんだ丁度良い大きさなのでずっと変わっていないし、どこを案内したら良いものか。

そんなことを考えていると、これまで無言だったエスパーダが咳ばらいを一つして村の奥を指さした。

「ヴァン様。まだドワーフの炉と湖をご案内していないかと」

そう言われて、成程と頷く。

「そうだね。折角だからその辺りも案内しようかな」

笑いながら返事をすると、後ろでダディが小さく呟く声が聞こえた。

「……ドワーフ、だと?」

声を聞いて様子を盗み見ると、ダディの目は既に建物の奥で立ち上る煙に向いていた。

「あの人嫌いで有名なドワーフが、ヴァンの領地に住んでるのかい?」

「ちょっと頑固な感じですが、良い人ばかりですよ」

驚くムルシア兄さんの声に軽く返事をして案内を再開する。領主の館の脇を抜けて奥へ奥へ入っていくと、大きな炉が目の前に現れた。これでも当初の予定よりかなり小さくしたのだから恐ろしい。ちなみに、オリハルコンを製錬する際は炉の頂上近くまで材料と燃料が積みあがることになるという。

大きな炉と鍛冶場を見て、ダディ達は揃って顔を斜め上に上げたまま固まった。その様子を横目に、鍛冶場の中を覗き込む。物凄い熱気の中、真っ黒になったハベル達が嬉しそうに槌を振るっていた。

「おう、見ろ! これはお前らじゃ作れねぇだろ!?」

「うるせぇな! すぐに俺もカタナの打ち方を覚えてやるよ!」

「ハベルのだってどっちかってぇと細身のファルシオンじゃねぇか!」

槌を振るい鉄を打つ音が鳴り響く中での会話だからか、ハベルたちは怒鳴るような声で会話し、大声で笑っていた。本当に楽しそうである。

「おーい! ちょっと見学に来たよー!」

声をかけると、ハベル達が振り向いた。

「おお、ヴァン様か! どうだい! ちったぁカタナらしくなっただろ!?」

そう言って、ハベルは黒っぽい片刃の剣を掲げてみせた。ギラリと鈍く光るその剣は流石の存在感を放っている。しかし、刀かと言われると悩む形状だ。

「すごく良いと思うよ。もっと細くて反りもあった方が良いと思うけど」

「これ以上細身にすんのか!? 曲がりやすくなんだよなぁ……」

答えると、ハベルは悩むように自身で打った剣を眺める。それを見て他のドワーフ達が腹を抱えて笑った。

「ほらな!」

「鉄板を何度も折り返すんだぞ!? お前のは三回だか四回だかだろ!」

「うるせぇな! 形だ、形! 折り返しは五回やってんだよ! 回数を無駄に増やしても強靭さは増えなかっただろうが!」

「折り返し十回やったら切れ味は増しただろ!」

「お前が作ってから言ってみろ!」

と、気が付けば怒鳴り合いのような状態になってしまった。これは収拾がつかないなと思い、無造作に壺に刺さったハベルたちが打った剣を手に取る。もちろん、打ちたてではないものを選んだので、熱くはない。ドワーフの剣はやはり外からはいってきた物よりもずっと迫力があった。手に取った剣は装飾の少ないロングソードだった。ミスリルよりも鉄の剣の方が重い気がする。

そんなことを思いながら、ロングソードを持ってハベルを見た。

「ちょっともらっていくよー!」

「おお! その辺りのは二流品だ! 好きなだけ持っていけ!」

「ハベル、この野郎! そこのは俺が作ったやつだろうが! まぁ、持っていって良いけどよ!」

最後まで騒がしいハベル達の声に苦笑しつつ、僕はドワーフの打った剣を手に外へ出る。どうやら入口まで来ていたらしく、ダディ達は信じられないものでも見るような顔でこちらを見ていた。

「こんな感じで、賑やかに武器などを作ってくれています」

苦笑しつつそう言って剣を見せると、皆の目が剣に集まる。特にディーとストラダーレの目は真剣なものだった。ダディは領地持ち貴族としてか、険しい顔になっている。

「……これは、これまで見た中でも最上級の質ですな」

ディーが唸るようにそう口にすると、ストラダーレが無言で頷いた。ダディは、それを苦々しい顔で聞いていたのだった。