軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査員の襲来

「来たぞ! キャラバンだ!」

「ヴァン様に報告を! 急げ!」

城壁の上から遥か遠くに現れた複数の馬車を発見し、すぐさま伝令を出すセアト騎士団の団員。

当初よりかなり広くなり、建物が多く建てられたセアト村の中を伝令が馬に乗り走る。

領主の館前では偶然外に出てきていたヴァンの姿があった。

一瞬目を瞬かせたが、すぐにヴァンも伝令の必死な表情に気が付き口を開いた。

「来た!?」

「き、来ました! キャラバンです!」

「よし! ベルランゴ商会にも報告して! あと、バリスタを準備! カタパルトも用意しとこう!」

ヴァンが指示を出すと、カムシンとティルが飛び上がって驚く。

「ヴァン様!?」

「キャラバンを攻撃するつもりですか!?」

顔面蒼白になる二人に神妙な顔でヴァンが頷いた。

「商業ギルドの調査員なんて来なかった。そういうことにすれば……って、そんなわけないでしょ?」

言いながら、ヴァンが困ったように笑う。

「下手に隠すより、全て最初から開示した方が誤解されないと思ってね。我がセアト村の誇る軍事機密はバリスタとカタパルトだから、その威力を見せて大型の魔獣を狩っている証拠にするんだよ」

そんな説明を聞き、カムシンとティルがホッと胸を撫で下ろした。

「最近、戦争ばかりでしたからね。ヴァン様が戦闘狂に変わってしまったのかと……」

「いつものヴァン様で安心しました」

二人のそんな言葉に、ヴァンの頬が引き攣る。

「……色々と言いたいことはあるけど、今は商業ギルドの調査が大事だ。そちらに向かうよ」

溜め息を吐きながらヴァンが先導し、二人を連れて調査隊の下へ向かった。

【ヴァン】

自分でもたまに自らが貴族であることを忘れることがある。大体、領主の館にいる時でも冗談みたいに忙しいのだ。この世界で一番の働き者はヴァン君という儚げな美少年に違いない。

可哀想なヴァン君である。

そんなアホみたいなことを思いながら、僕は城壁前に辿り着いた。

城壁の門は既に開かれており、すぐ外には跳ね橋の前でポカンとした顔の調査員一行がいた。

とはいえ、誰が調査員なのかは分からない。ただ、メアリ商会らしきキャラバンと周囲を取り囲む多数の冒険者がおり、御者席には商人らしき中年の男達が座っている。

呆然と城壁を見上げる一団を見回し、口を開く。

「こんにちは。セアト村の領主をしています、ヴァン・ネイ・フェルティオです。皆さんの所属をお聞きしても?」

尋ねてみるが、返答はない。というか、気付かれてもいない。

ヴァン君が小さいから気付かれないのだろうか。一年で五センチも身長が伸びたというのに。このまま伸びたら20歳になる頃には約二メートル、30歳になったら二メートル五十センチという急成長だ。ヴァン君の成長はとどまることを知らない。

そんなことを考えて現実逃避していると、すぐ後に付いてきたディーが大声を張り上げた。

「ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵が家臣、セアト騎士団の団長、ディーである! そして、こちらがセアト村領主、ヴァン・ネイ・フェルティオ男爵である!」

腹に響くような大声に、調査員一行の全員がこちらに顔を向ける。

咳払いをして、もう一度自己紹介をした。すると、真ん中にある大型の馬車から背の高い男が現れた。四十手前ほどに見える、スマートな体型の男だ。スーツに似た黒い衣装を着ている。

その男の後に続いて女が二人降りてくる。一人は赤い髪の少女だ。十代中頃に見えるが、綺麗な衣服に身を包み、知性と自信に満ちた眼をしている。見た目は若いが、調査員かメアリ商会の上役に違いない。

そして、もう一人。こちらは見知った顔だった。外出用なのか、少々露出が高い商人風の衣服に身を包んだ、三十歳前後の女性。フェルティオ侯爵領第一都市でメアリ商会の商店にいた女商人、ロザリーだ。

ロザリーが奥で静かに一礼する中、先頭に立つ中年の男が胸に手を当てて、疲れた営業マンのような笑みを浮かべる。

「お初にお目にかかります。商業ギルド、スクーデリア王国担当調査員で、アポロと申します」

礼儀正しい挨拶だ。それに合わせるように、すぐ後ろにいた赤い髪の少女も一礼した。

「私はディアーヌ・トリエンフと申します。若輩ながら、メアリ商会の商会長の任についております。ヴァン様にお会いできて、光栄に思いますわ」

なんと、メアリ商会の商会長だという。家族経営というにはメアリ商会は大き過ぎる。恐らく、相当に才覚があるに違いない。

「アポロさん、ディアーヌさん。そして、ロザリーさん。お待ちしていましたよ。そろそろ来る頃かと思っていました」

そう告げると、アポロとディアーヌは僅かに目を開いた。既に何度か話したことがあるロザリーは嬉しそうに微笑んでいる。

「宜しくお願いします」

僕はもう一度そう言って、三人に微笑みを向けたのだった。

【ディアーヌ】

旅を終えてすぐだからと、ヴァン男爵は宿を紹介してくれた。正直に言えば是非その提案に乗りたかったが、調査員のアポロがやんわりと断ってしまった。

恨めしい目でアポロの背を見ていると、ヴァン男爵は予想していたかのようにあっさり引き下がった。

そして、アポロや私達を気遣いつつ、まずはと城壁の上部に自ら案内してくれる。

その様子に、私は少々困惑しながらロザリーに顔を寄せた。

「……ヴァン様が十歳にもならないって、本当ですか? 実は長寿種の血を引いていて、実年齢は五十歳とか……」

「いえ、ヴァン様は間違いなく見た目通りの年齢です。二年以上前、初めて会った時からヴァン様は普通ではありませんでした。あの少年兵を奴隷として買われた時から、ヴァン様には驚かされてばかりです」

ロザリーの言葉を聞き、溜め息を返す。

「報告では聞いていましたが、聞くと見るとでは全く違いますね……私も天才などと言われて良い気になっていた時期がありましたが、恥ずかしい思いです」

そう呟き、前を歩くヴァン男爵を見た。

報告書では確かに見ていたし、アポロにも同様の報告をしている。

幼少時から何でも一度教えるだけで理解し、更には予想外の発想で新たなものを生み出す天才。恵まれた魔術師としての才ではなかったらしいが、追い出された先で見事に村を繁栄させて爵位を授かった。

そして、当の村は村とは思えぬほどに発展を遂げた都市となっている、という。

そこについては理解しているつもりだった。本当の天才とはそれほどのものなのかと思ったものだ。

しかし、現実はその想像を容易く上回る。

目の前には、はっきり言って王都よりも強大に見える城壁があり、ヴァン男爵はまるで我が家を紹介するように階段を登っていた。

「こちらがバリスタです。この村の防衛の要ですね。試射しますので、ご覧ください」

と、軽く言って、バリスタの横に立つ若い兵士に指示を出す。武器の紹介を受けるとは思っておらず、アポロと一緒に首を傾げていると、巨大な矢は発射された。

耳が痛くなるような激しい音と震動に、思わず身構えてしまう。

射出された矢を目で追ったが、ほとんど認識できなかった。

しかし、遥か遠くで木々が何本も倒れるのが分かり、驚く。

「凄いですね、あんなに遠くまで届くのですか」

そう言って振り返ると、アポロの絶句する姿が目に入った。私やロザリーが驚くのとは段違いの反応だ。

「……こ、これは、とんでもないことだぞ……」

アポロの小さな呟きに、私とロザリーは顔を見合わせたのだった。