軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】奇跡の援軍

【伯爵軍・指揮官】

信じられない光景に、私は目を疑った。

イェリネッタの旗印を見てすぐに現れた飛竜達にも驚愕したが、今度の衝撃はそれどころではない。

なにせ、飛竜達が次々に落とされていったのだ。何が起きたのかは分からないが、鋭い風を切り裂く音と低い地響きのような音が同時に聞こえたと思ったら、飛竜達の挙動がおかしくなり、落下していった。

何かの攻撃を受けた。

それは理解できる。だが、何の攻撃なのかは分からない。一般兵達は一流の風の魔術による攻撃と思っているが、どうも違うようだ。

かといって、土の魔術などでもない。

「騎士長! イェリネッタの野郎どもの動きが止まりました!」

「ワイバーンは全滅です! 後は、地上のイェリネッタ軍、およそ一万五千のみ!」

思案している間にも、次々に報告はやってくる。相手も突然の援軍に混乱しているようだが、こちらも同様に思考停止していてはいけない。

「相手さんの動きに注意しながら防衛強化急げ! 援軍は見る限り少数だ! もし魔術師団だった場合、接近されれば壊滅する! イェリネッタ軍が反転したら即座に背後を叩くぞ!」

指示を出すと、兵士たちが声を上げて配置につく。ここまで圧倒的に劣勢だった籠城戦に光が見えたのだ。兵士達の士気の上がり方は尋常ではない。

空を飛び回っていた脅威も無い今、兵士達は真正面の突撃を命じても即座に実行するだろう。

崩れた城壁には重装備の兵士を片っ端から配置していたが、その背後には騎兵を用意するように伝えよう。

通常の籠城戦は何ヶ月とかかるのが普通であり、援軍が勝敗を決する鍵となる。その定石を考えれば、この状況で恐るべき力を持った援軍が現れたなら、イェリネッタ軍はまず間違いなく援軍を潰すか撤退を選ぶか、だ。

唯一気掛かりなのは既に城壁が一部崩落している点だ。もし、イェリネッタ軍が突破力に自信を持っていたら、何も考えずに城壁内へ歩を進めるかもしれない。

「……可能性はどちらもあると考えておいた方が良いか」

小さく呟き、防衛状況を見ようと城壁の上に移動した。

その時、城壁上に上がった私に報告が届く。

「騎士長! イェリネッタ軍が二つに分かれました!」

「なにっ!?」

慌てて城壁の上を走り、端まで移動する。

矢避けの塀の隙間から眼下を見ると、確かにイェリネッタ軍は二分されていた。数は一万と五千といったところか。

驚くべきは、一万が丘の上の援軍に向かったというところだ。

このフェルディナット伯爵領を落とすには、僅か五千の兵で足りると判断したのか。

「……舐めるなよ、イェリネッタめ!」

怒りに打ち震え、口からは怒号が突いて出た。

「フェルディナットの強者達よ! 奴らは我らを舐めている! 僅か五千で我らを滅ぼすつもりのようだ! 我らは、そのような弱者だったのか!? 答えよ、我が騎士団はそのような脆弱な存在だったのか!?」

怒鳴ると、兵士達の顔つきが変わる。

怒りが士気に繋がり、剣を握る手に力が入った。だが、奴等にはこの城壁を破壊した謎の魔術具がある。

安易な突撃は愚行となろう。

「城壁の上より矢を降らせ! 出し惜しみするな!」

弓兵に指示を出してから、騎兵隊に顔を向ける。

「これより、重装兵に隙間を空けさせる! 虚をつき、出撃する! だが正面からはぶつかるな! 敵は謎の投擲物をもって城壁を破壊した! 騎兵は出来る限りの速度でもって敵を翻弄しろ! これまでの使用の回数を見る限り、数は潤沢ではない! 投擲物を無駄遣いさせてやれ!」

私の言葉に、騎兵達は剣を抜き、応える。

さぁ、反撃の時だ。

「重装兵! 東側を開ける! 西側は大楯を構えて一歩下がれ! 敵を引きつけろ!」

部隊を動かし、敵の動きを誘導していく。

これまでの動きから察するに、敵軍の司令官は戦歴が浅い。そして、前線の状況を聞いてから判断する時間が致命的に遅い。

飛竜と謎の武器さえないならば、我らが奴等に負ける道理は無い。

走り出した騎兵達を見てから、戦場に視線を戻す。

あの援軍のもとへ向かっていった一万の敵軍は、まさに突撃といった様子で駆けている。飛竜を落としてみせた攻撃も何度か放たれたが、一万の敵軍には効果が薄いようだ。

こちらが打って出て五千の兵を突破したなら、敗北を悟って引くのが普通だ。占拠すべき地を奪う機会を失い、主力も失った。その状況で戦い続ける意味は無い。

だが、あの指揮官はまだ撤退命令を出していないらしい。

こちらとしては当てが外れた気分だ。

「敵は思ったより馬鹿だった! こちらに張り付いている奴らの士気は底辺だ! 最低限の兵を残して、あっちを追うぞ! 後ろから追い立てられても引かないようなら構わん! そのまま背中に槍を突き立てろ!」

焦りを出さないようにしたが、それでも早口にならざるをえなかった。

しかし、体面よりも何よりも先に、あの戦況を変えてくれた援軍を救わねばならない。それは、兵達も同じ気持ちのはずだ。

その思いに同調するように、兵士達は怒号をあげて走り出す。地響きを起こす爆発にも怯まず、兵士達は溜まっていた鬱憤を晴らしに剣を振るった。

ところが、予想外の事態が起きる。

一足先に敵の背を追撃しようと走った騎兵隊の馬が、投擲物の爆発音に怯み、止まってしまったのだ。

歩兵では間に合わない。

魔術師も既に魔力は使い果たしている。

矢は届かない。

「くそ! あの、恩人達を私達の前で踏み潰すつもりか!? どうにか……どうにか手を……!」

頭を巡らせながら戦場を見る。敵は既に援軍の側まで辿り着いている。時間はもはや無い。

「せめて、あの一団の被害が最小限になるように、全力で援護に向かうぞ!」

私がそう叫び、自らも馬に乗ろうと動き出した時、城壁の上の弓兵達からどよめきが聞こえてきた。

「なんだ!? 何があった!?」

まさか、援軍の一団が……!

不安に駆られて叫び、振り向く。

だが、その視線の先に広がるのは、冗談のように弾き飛ばされる人間の姿だった。

鎧を着た、イェリネッタ軍の兵士達が、巨人の棍棒で殴られたように吹き飛ぶ。断続的に風を切り裂く音が響くたびに兵士達の列に亀裂が入るが、その攻撃とは明らかに質が違う。

「なんだ……!? 何かの魔術か!?」

「違います! 異常な動きをする全身鎧の者が二名! 一万のイェリネッタ軍の中を走り抜けています!」

「なんだと!?」

その報告に、私は高台に駆け上がった。

見ると、頭一つ分ほど大きな銀色の戦士が、イェリネッタ軍の中を巨大な剣を振り回しながら走っているのが分かった。あれだけの大軍の中にいて何故その姿を確認出来たのか。

先程の報告通り、その動きがあまりに異常だったからだ。

自らの身長ほどもありそうな長剣を振りながら、銀色の戦士は人を飛び越えるほどの跳躍をし、戦場を所狭しと駆け巡っている。

剣、槍を受け、弓矢を射られても一切動きを止めることなく一万の兵を相手取る二人の戦士。

その英雄のような戦いぶり、強さに、兵士だけでなく私ですら言葉を失った。

一方、接近さえすれば勝てると踏んでいたイェリネッタ軍は混乱の絶頂を迎える。

陣形、隊列など無残なまでに崩れ去り、端から端から兵士達が散り散りに逃げ出していた。

そうして、それから僅か十数分。イェリネッタ軍は完全にその指揮統制を喪い戦線は崩壊、戦っていたイェリネッタ軍兵士は各々戦闘を止め、散りじりに遁走をはじめたのだった。