軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

079.飛羊見学(1/4)

途中ジュールラックの門に寄り、飛羊の放牧地までどれくらいかかるのか尋ねる。意外とそこまで遠くなく、絨毯ならひとっ飛びだと教えてもらった。

ルカたちが 絨毯(タピー) を進ませようとすると、ジュールラックは九啼鳥の肉の残量について尋ねてきた。その様子を見るに、相当好物だったようだ。肉は羽根と一緒に大半を買い取られ、前期終了時の晩餐会で生徒たちに振る舞われた。ルカは金をもらった上に自分も晩餐会で食べたので満足していたのだが、ジュールラックは自分の取り分がもっとあると思っていたらしく「ジョルジオの陰謀です!」とエーデルリンクにたいへん怒っていた。

エーデルリンクといえば、彼はその後ルカの〈恩恵〉についてなにも聞いてこない。自分の方針を変える気がないのか、サンダーが押さえているなら問題ないとしているのかよくわからなかった。

ルカが自分たち用にと売らなかった九啼鳥の肉の一部は、魔術具で実現している氷室に入れてバルバラに管理してもらっている。また持ってくるからと、ルカはジュールラックをなだめた。なんなら新たに狩ってもいいのだ――ちょっとサンダーとの調整が面倒そうではあるが、リヒトにも解体前のものを見せてやらねばならないので、そのついでである。

ジュールラックと別れ、門の向こう、エルダーの森の反対側も一見するとエルダーの森と同じく深い森のようだった。しかしリヒトが絨毯の高度をぐっと上げると少し行った先に崖があり、森がそこで途切れているのがわかった。崖下から向こうは木々がまばらになっており、荒れ地が続いている。平らな土地ではなく、岩棚が複雑な地形をつくっていて見通しは悪かった。

絨毯を進めていけば崖下がだんだんと全容を現し、荒れ地の手前は人の手によって整備されていることが見てとれた。その整備された場所の端にサンダーから聞いていた小屋と、少し離れて倉庫と思われる長い屋根が数棟ぶん連なっている。

「広いなぁ」

「ね。一気にあそこまで行っちゃうね」

リヒトが絨毯を爆速で飛ばし、二人は小屋のそばに降り立った。

ウルハイ族の鏡の飾りがつけられた粗末な扉を叩くと、中からガジュラが顔を出した。

「来たな」

「おはようございます」

二人は揃って小屋に招き入れられた。ホッグの森小屋と比べるとかなりこぢんまりとしている。広さはクプレッスス寮のルカとリヒトの寝室程度で、暖炉前には布張りの長椅子がテーブルを囲み、暖炉横の小さなチェストには茶器と羽ペン、インク瓶、糸で綴じられた紙束が整頓されてひしめきあっていた。反対側の作りつけの棚にも紙束と瓶詰の薬草が隙間なく詰めこまれている。いましがた入ってきた扉の横にはガジュラのローブと帽子がかけられ、壁にはところどころ、ウルハイ族の鏡の飾りや干した薬草が吊り下げてある。ささやかな空間はそれだけでもういっぱいになっていた。

「粗末で驚いたろう」

「いえ、そんな」

ルカとリヒトは小屋の中を見回していた目を慌ててガジュラに向けた。ガジュラはルカが持っていた木箱をなにも言わず引き取ると、チェストの前に押しこむように置いてくれた。

「ここは飛羊の世話をする際に荷物を置くのと、軽い休憩を取るためだけの場所だからな」

「そうなんですね」

そうであればこの広さで間に合うのもうなずける。

「今日はプルメリアは非番ですか?」リヒトはプルメリアがいなくても別に構わないのだが、招かれるきっかけになったので一応聞いてみた。

「いや、来ている。罰の一環だからはじめは嫌そうにしていたが、馴染むのはずいぶんと早かった」ガジュラは少し笑って言った。

「先にここで飛羊の生態の説明をしようかとも思ったのだが、もう見に行くか? 今日はここでサンダー団長からの依頼案件を実施するのだろう」

ガジュラはルカたちの〈恩恵〉実験をそう聞いたらしかった。

「そうですね」

三人は外に出、自分の絨毯に乗ったガジュラの後ろを二人が 絨毯(タピー) でついていった。

なだらかな起伏のある眼下の荒れ地にちらちらと、馬のような大きさの、しかし馬とは明らかに異なる輪郭の姿が見えた。

「あれが 飛羊(アウルルク) ? 大きいな!」

ルカとリヒトは互いに目を見合わせ、興奮に頬を紅潮させた。

ガジュラは絨毯を何頭か群れている場所の近くに降ろした。リヒトも続いて絨毯を降下させる。中の一頭に寄り添うようにプルメリアが立っていた。

「こいつが飛羊だ。馬にも引けを取らないほどの大きさだろう」

ガジュラが飛羊に手を置き、誇らしげに言った。

飛羊はたしかに想像よりひと回りもふた回りも大きかった。首がやや長く、柔らかそうな白い毛が小さなカールを帯びてみっしりと体表を覆っている。長さはそれほどないが、ガジュラが手を置いた場所は上等な絨毯のように沈み込んだ。目の前の飛羊はねじったような直線的な角が生えているが、少し離れたところのを見ると生えていないものもいる。

横長の瞳孔が、気のせいか品定めをするように兄弟に向けられた。

二人の目は初めて見る飛羊に釘付けであったが、普段冷静沈着なガジュラの高揚が伝わり気圧されてもいた。ウルハイ族にとっての飛羊という存在がどんなものであるか、ルカたちはエーデルリンクの隠れ家で聞いてはいたものの、初めてその実像に触れたように感じた。