軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

049.ジュールラックへの質問

リヒトはベッドから立ち上がり、大きく伸びをした。

「さてと、こいつも元気なのがわかったし、そろそろジュールラックのところへ行こうよ」

リヒトはルカにそう呼びかけ、ルカも立ち上がる。スカーレットは二人の顔を交互に見上げ、自分も起き上がってワンピースの膝についた埃を払った。

「わたしも行くわ!」

「なんでだよ寝てろよ」

「スカーレット、無理はよくない」

「大丈夫よ。暇で暇で死にそうだったの。お日さまの下をちょっと歩くくらい、したっていいと思うわ」

「おい」

「オクノ先生、ちょっとだけ散歩に行ってもいいですか?」

邪魔そうな顔をするリヒトにもめげず、スカーレットはオクノに許可を求めた。するとそれまで衝立の向こうで黙っていたオクノが顔を出した。

「そうさねぇ……まあ、ジュールラックがいればおかしなことにはならないだろう。いいよ」

余計な寄り道をしないことが条件についたものの、あっさりと許可が下りた。スカーレットはいそいそとストールを羽織り、ルカとリヒトを追い立てた。よほど外に出たかったに違いない。

三人でジュールラックの元へ向かう道で、スカーレットは疑問を口にした。

「ジュールラックってたしか門の飾りよね。なんでオクノ先生、あんなこと言ったのかしら」

スカーレットはオクノがジュールラックを信頼している口振りだったのが気になったようだった。それを聞いてルカとリヒトは思わず顔を見合わせた。

「お前、ジュールラックが飾りだと思ってたのか」

「え? ええ……え? ちがうの?」

リヒトはこれ見よがしに溜息をついた。

「まあ、あいつがわざわざ飾りに擬態してるんだしな」

「な、なによ! 教えてよ!」

リヒトは答えることはなく、ルカはどうしようか少し迷ったが、エイプリルの野外授業のように自分で考えて行動させる方針をひとまず採用した。

リヒトはジュールラックのことを、ひとかどの魔法使いとして扱っている。ルカもジュールラックのやっているおかしなことに気づいていて、リヒトと確認したこともある。魔術使いと違って魔法や魔術の行使の様子が見えないスカーレットには、難しくてもしかたがないのだが、いったんは自分でいろいろ考えてみるのがよいだろう。実はリヒトとて、「そうでなくてはおかしい」という仮定を立てるまでしかできていない。細かな計測と観測がしたいが、そのための道具や魔術具を揃えるとなると、まとまった資金がかかるため手が出せないでいるのだ。

口を尖らせるスカーレットを尻目に、リヒトはジュールラックのところまで歩いて行った。

「よお、ジュールラック」

リヒトに声をかけられたジュールラックは真鍮色のまま目だけを動かし、門の飾りを気取っていた。

「ほんとに食べ物がないとなにもしないよな、お前……」

リヒトも何度もジュールラックのもとへ通ううち、かなり打ち解けたようだ。呆れ混じりの顔をしつつも革袋からクッキーを出した。

「外出禁止令が出てるもんでね。今日はこれで我慢しろよ」

「これはこれはリヒト殿! バルバラ殿手製のクッキーですね! いやはや、なんとも香り高い!」

ジュールラックが陽気に話し出し、クッキーを手にする。肉を与えたときほどの反応ではないものの、リヒトはやつがしっかりと賄賂を口に入れたのを見て本題に移った。

「魔術学校のなかで放たれた 伝書鳥(メールバード) がどうやって王都や僕たちの村に行っているのか知りたい」

リヒトの疑問はこうだ。

ジュールラックのいる門をくぐるとルカたちはどう考えても王都ではない場所に飛ばされている。だから魔術学校から王都へ、あるいは王都から魔術学校へ伝書鳥が送られたとき、どのように飛んで行っているのかが不明だったのだ。

野外学習のあの日、空飛ぶ絨毯で高みから改めて確認したのだが、見渡す限り樹の海だった。遥か遠くに人工物がないかと目を凝らしたが、霞む緑の絨毯の向こうには、見覚えのない稜線の山がうっすらと見えるだけだった。植相も異なり、神話で語られるような魔獣すら生息している。ここは王都からちょっと離れただけの場所ではないのだ。

だから(ルカもリヒトもそうは思っていないが)王都と魔術学校が地続きだったとして、周囲の森を抜けて遥か遠くの王都へ行くのは無駄だし時間もかかりすぎる。途中、海や険しい山脈があるかどうかすらもわからないのだ。

「ああ、なんだ。そんなことですか」

ジュールラックは頬にクッキーを詰め込んで、器用に門柱の上を指差した。「校内で飛ばされた伝書鳥や、王都から来た伝書鳥は一度ここを通ってるんですよ」

見ると門扉の軸となっている柱のてっぺんに細い棒が伸び、ルカの頭がやっと入るほどの輪っかが垂直に立てられて付いていた。

「伝書鳥はこのジュールラックめが、あすこを通して往来させていますよ。いちいち扉を開け閉めしていたら、面倒でしょう」

「へえ……確かにあの輪っかの内側、へんに歪んで見えるな。まるで油膜が張っているような……」

「リヒト殿はやっぱり目がいいですねぇ」

リヒトの言葉を聞いてルカも輪の中を見てみたが、普通に向こうの空が見えるだけで違和感はなかった。スカーレットもしゃがんだり横にずれたりして必死に見ようとしているが、見えていないのは明らかだ。やはり魔術使いというのは素晴らしい〈恩恵〉なのだ。

「二日前、プルメリアの伝書鳥を通したか?」

リヒトの問いに、ジュールラックは少し考えてこう答えた。

「このジュールラックめは、皆さまの手紙の秘密を侵すようなことはしやしませんよ」

「そうか……」リヒトは声を落とす。

「ただ、三日前の晩から、二日前の あの時(・・・) まで、ここを通った伝書鳥はひとつもございませんでしたね」

「……そうか!」

リヒトはジュールラックの答えに満足したのか、残りのクッキーもすべて与えた。