軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

039.エイプリル先生の野外授業

「まずはこの〈 雷撃石(サンダーストーン) 〉。威力は最小限になるようにリミッターをつけてあります。魔獣が出たらこれで痺れさせてください。とどめは教師か護衛の方々を呼んでからです。各自ナイフを持っていますね? 殺傷能力のある魔術具の行使は成人までは禁止ですから、大人が立ち会っているときにナイフで、が原則です。次に……」

仮面教師は次々と魔術具を手に取って説明していった。

〈 水石(ウォーターストーン) 〉はその名の通り水を出す石。飲み水と、獲物が得られた場合に獲物の体を冷やすのに使う。

〈杖〉は魔力をコントロールするために使うもので、魔術具で発動した魔術を杖の先から出力し、好きな方向へ飛ばせるらしい。これだけはすでにみんなが支給されていて、魔力の出力だけ練習させられているそうだ。

〈 縋(すが) りつく骨の手〉という魔術具は檻。手のひらに収まるサイズの 毬(まり) のように見えるが、発動すると広がって強固な檻になる。万が一急に魔獣が襲ってきたときに捕らえるためだ。こちらは強い魔獣は森番が追い払っているはずなので、お守りのようなものだという。

「最後に〈 色音石(シグナルストーン) 〉。これは魔力に色をつけて可視化するものです。どのように使うかというと……」

仮面教師は自分の杖を右手に持ち、左手に色音石を握りこんだ。杖を先ほどの生徒たちのように天に突き出す。すると、青い色の光が杖の先から飛び出し、上空に上がって爆発音を出して弾けた。

「……このように、ほかの石系魔術具と使い方は同じですが、必ず空に向けて打つように。当たっても痛くはありませんが、うるさいので」

「エイプリル先生」

生徒の一団から手が挙がる。

「はい、スケルツォくん。なんでしょう」

「色音石はなににつかうものなんですか?」

「 狼煙(のろし) です」

「のろし?」

「ええ、近くにいない人にメッセージを伝える信号です。今日は赤色と青色の二色を用意しています。いま打ち上げた青の色音石は『先生か護衛の方、来てください』という意味にします。質問があるときや緊急事態ではないけれど手助けがほしいときに使ってください。もうひとつの、赤の色音石は『緊急事態。救援求む』です」

つまり教師や護衛が近くにいなくてもなにが起きたかわかり、駆けつけられるのだ。

「どちらも大人……つまり私たち教師や護衛の方々に向けたメッセージです。色音石が使われたのを見ても、近づかないように。青ならまだいいですが、赤を見たらほかの班はとにかく避難を最優先にしてください」

そのあと班長を決めたり魔術具の受け渡しがあったりし、ようやく事前説明が終わった。

「さて、それではエルダーの森へ入ります」

先ほどエイプリルと呼ばれていた仮面教師はそういうと先に見える森を指差した。入ります、と言っているが、けっこう遠い。まずはぞろぞろと歩くことになるだろう。そう思っていると、男性教師たちがなにやら学校から運んできた。

(丸太? いや……あれは……)

「絨毯だ!」

その正体に気づいた生徒のなかの一人が声を上げる。それを皮切りに、生徒たちはまるで一斉に飛び立つ 鴉(からす) の群れのように騒ぎ出した。

「魔法の絨毯だ!」

「すごい! 乗れるの?」

「いつも見上げてたんだ! いつか乗れたらいいなって!」

みんなエイプリルの存在が一瞬で頭から消えたらしい。飛び上がるようにして喜んでいる。

「おほん!」

……こういうのをなんと言えばいいのだろうか。それまでのあらゆる音が急に無になる瞬間を。もしルカが王都の喧騒のど真ん中から人のいない森に〈移動〉したらこんな感じだろうか。静寂というものはこんなに耳に痛いものだっけ。ルカは生徒たちが古い荷車の車輪のようにぎくしゃくと動きながら整列していく様を眺め、いつだったかヴォルフの秘蔵の酒瓶を割ってしまったときのような心持ちになった。

「まあ、毎年こうなるのでね。わかってはいましたよ。しかし、わかっているからといって、容認できるかは別です」

エイプリルが溜息をつきつつ、きっぱりと言う。「森に入る前に浮かれて、しなくてもいい怪我をした先輩はたくさんいます。気を緩めないように」

(ふむ……)

エイプリルという人は口調こそ厳しいが、ルカには好ましく思えた。

「先に護衛の方々を森の入り口まで送ってきますので、みなさんはしばらくここで待機してください」

なんと。役割上、ルカは一番乗りで魔法の絨毯に乗れるらしい。ちょっと、いや、かなり気持ちが弾んだ。〈瞬間移動〉はできても、空を飛べたことはないのだ。リヒトのおまけでここまで来なければ、一生体験できなかっただろう。

教師たちは三枚の絨毯を並べていく。かなり大判のもので、ひしめきあうようにすれば三十人くらい座れそうだ。

(いやでも、それだと端っこの人が怖いだろうな)

ルカは促されて一番右の絨毯に乗った。この時点では絨毯は浮いていないので普通の絨毯に乗ったときとなにも変わらない。教師とは別に護衛が六人乗り、マロルネも一緒だった。

「では少し浮かせますよ」

先頭に座った男性教師がなにをするでもなく、絨毯を地面から腕一本分だけ浮かせた。途端、ベッドに座り込んだような沈み込みを感じた。とはいえルカはそんなに上等なマットレスを使ったことなどないので、多少のことではあるが。

「もう沈み込みはありません。これから途中に生えている木が邪魔にならない程度の高さまで上がります。安全装置がついていますから、落ちることはありませんよ」

男性教師は振り返って話した。ルカは彼が自分向けに話してくれているのだとわかり、目を伏せて礼をした。男性教師の予告通り、絨毯はふわりと木を越える高さまであがると、ゆるやかに進みだした。