軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

027.突然変異の起きたわけ

ルカは毎日狩りに行った。バルバラの言った通り良い稼ぎ口となったのだ。リヒトの学生生活充実のためにできるだけお金は稼ぎたい。

そして毎日傷の少ない良質な獲物をいくつも狩ってくる白髪白皙の狩人は、本人のあずかり知らぬところですっかり有名になっていた。

依頼掲示板も半分くらいは食肉用の野鳥や獣の依頼だったので、最近はそちらを先に確認するようにしている。依頼の仕方も結構ゆるい。

<枝耳兎(成体)の素材納品。量:十羽。部位:肉。期限:五日。報酬:銅貨五枚>

これはある食堂の店主が依頼者なのであるが、同じ依頼が五枚も重ねて貼ってある。注釈で「十羽に達しなくても買い取ります」とも書いてある。ゆるい。

しかもこの場合求められているのは肉だけなので、解体後肉は依頼者に渡してもらって、毛皮は査定してギルドに買い取ってもらうこともできる。「美味しい」依頼だ。

「よう、ルカ」

ルカが依頼票に手を伸ばしかけていると後ろから声がかかった。二等級ハンターのクロムウッドだ。以前ルカが兎十羽と仔鹿一頭をがんばって運んでいたら手伝ってくれ、それがきっかけで話すようになった。グレーの髪を短く刈った、青い双眸のかっこいいおじさんだ。ルカは駆け出しの五等級なので大先輩なのだが、同じくらいの息子がいるらしくなにかと気にかけてくれる。ちなみに一等級は伝説レベルで欠番のため、このギルドの実質的なトップハンターの一人だ。

「今日も兎乱獲すんのか」

人聞きが悪い。

「兎くらいならいいけど、森の奥ぅ~のほうまで入んなよ?」

クロムウッドが肩に腕を回してくる。重い。

「なんでですか」

ルカはもう成人しているし、心配されるほどのことでもないと思う。

「おじさん嫌ぁ~な話聞いちゃったのよ、最近」

クロムウッドに引き摺られ、掲示板から離れて壁際に寄った。

「お前最近さぁ、森に突然変異レベルのめっちゃ強い魔獣が出てるの知ってる?」

「はい。王都へくるときに 鋼羆(スチールコートグリズリー) が出ましたね」

「げっ! マジ!? あれお前いたの!?」

「正確には騎士が倒したあとの現場を見ました。私の乗っていた馬車の御者が援護して負傷したので、王都まで騎士と負傷者を乗せて来たんです」

「うへぇ~……よかったねぇ、倒し終わったあとで」

クロムウッドはげんなりした顔でルカに同情した。二等級ハンターは受付嬢曰く「えぐいくらい強い」らしいので、そのクロムウッドにこんな顔をさせるほどに鋼羆は規格外だったのだ。

「でね、いま王都の周りの森にさ、そういう強~い魔獣がぽこぽこ出現してるんだよね」

ルカは耳打牛のことを思い出した。あれも突然変異レベルの巨大個体だったはずだ。

「これさぁ、第一王子のやらかしらしいんだよね」

「え……?」

クロムウッドが教えてくれたことはこうだ。

王都の北西には魔の森と呼ばれる、魔獣が多く出る森林地帯がある。第一王子は第二王子と王位継承争いをしており、自分の実績を高めるために騎士団を連れて魔の森へ魔獣討伐に出かけた。本来そこそこの魔獣を討ち取れば良いはずだったし、騎士団が獲物を追いつめてとどめを刺すだけにしておく。つまり騎士団でお膳立てをして第一王子に花を持たせるという筋書きだったそうだ。だが想定外の魔獣が現れた。その名はヨルムンガンド。空を泳ぐ毒蛇だ。

「ヨルムンガンドっていうのは普段は空と同化してる。ほら、葉っぱとか木の幹とかに同化して、すっげぇ溶け込んでる虫とかいるだろ? あんな感じだが、もっとすげぇ。完全に空の一部になってて、普通の人間の目じゃまず判別できねぇ。俺も見たわけじゃねぇよ。一回だけ見たって人の話を聞けただけ」

「……そんなに発見しづらいなら、なぜ出たとわかったんです?」

「それだよ。ヨルムンガンドは魔獣で、魔法をつかって姿を空に同化させてる。それで第一王子はさ、その魔力か魔法が見えたんじゃないかって話だ」

「あいまいですね」

「王家の人間の〈恩恵〉は秘匿事項だからな。でもそれ以外で気づける理由がわからないんだ」

「そういう魔術具があるのでは?」

「魔力探知の魔術具は存在する。でもそれは探知しようと思ってるときしか使わないもんだ。まさかそこに魔獣がいるなんて思ってない上空で使うなんて、おかしいだろ」

「なるほど」

たしかにクロムウッドの言う通りだ。魔力探知の魔術具を使ったのでない以上、王子自身になにがしかの同じような能力があると見るのが自然だ。

「そういう場合どういう〈恩恵〉が考えられるんでしょうね」

「魔力や魔法が見える〈恩恵〉なら、〈魔術使い〉か鑑定魔法の一種だろうな。魔力が見えるだけの、〈魔力探知〉っていう〈恩恵〉もあるが」

「それはすごいですね」

「まあ五つも持ってるのがそもそも反則だしな」

「五つ……?」

「あれ? 知らない? 王様は〈恩恵〉五つ持ってるだろ?」

「え、ええ。王様のは聞いたことあります」

「歴代の王はみんな〈恩恵〉五つだぜ。だから王家に生まれてれば五つ持ってるはずだ」

それはたしかに反則だ。

「第二王子は三つだけとか、そんなことはないんですか?」

「だったらそもそも王位継承争いしてねぇだろ。五つ持ってるのが王の証明みたいなとこあるしな」

それもそうか。

「話が逸れたな。んで、超レア魔獣のヨルムンガンドを見つけちゃった第一王子はテンション上がっちゃってさぁ、ぜったいそれを仕留めるぞーってやる気になって、攻撃しちゃったんだよね」

「……仕留めたんですよね」

「それがさぁ」

……まさか手負いのまま 逃(の) がしたのか? だとしたら最悪だ。

案の定、第一王子はヨルムンガンドに傷をつけて逃がしていた。では手負いで気が立っており、しかも人間を恨んでいる毒蛇が姿を消して空を泳いでいる状態なのだろうか?

「それなんだけど、ヨルムンガンドって人を襲わないんだよね」

「そうなんですか」

「なに食ってんのかはわかんないけど、人を食ったっていう話は有史以来聞かない。いまも空中から謎の存在に襲われた! なんて報告は聞こえてこない。おそらくヨルムンガンドは人を襲ってない」

「じゃあ」ルカはほっとして息を吐いた。

「ヨルムンガンドは毒蛇だって言っただろ」

「あ……」

そうだ。毒蛇というなら、なぜ毒を持つことがわかっているのか?

「ヨルムンガンド自体は人を攻撃しない。でもヨルムンガンドの血を舐めた魔獣はさ、とんでもなく巨大化して、凶暴になるんだよ」

そういうことか。