軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31.お茶会への闖入者

ノエルが公爵邸を訪れてから数週間後。

初夏の庭園には、薔薇のモチーフをあしらったテーブルとチェアのセットが配置され、テーブルには菓子の盛られたスタンドやティーポットが花飾りとともに置かれていた。

「とっても素敵なセットね……!」

シャロンが声をあげ、マルグリットをふりむき――、

「ねえ、あなたらしくなく緊張で青ざめた顔をしてるけど、大丈夫……?」

怪訝な顔つきになる。

「え、ええ……たぶんね……」

シャロンの言うとおり、マルグリットは緊張していた。その理由を聞けば不思議そうな顔をしているシャロンだって緊張するだろう。

今日はノエルの希望したお茶会の当日である。

ただし、 第三王子(ノエル) の参加はお忍びであるため、ほかの参加者には知らされていない。

いずれ大々的に開催するお茶会の予行練習、友人同士の集まりということにして、マルグリットはシャロンを、ルシアンはニコラスを呼んでいた。

本来のお茶会は女性が主体となって集まることが多いが、ノエルのために男性も、ということだ。

手配は何度もしてきたが、マルグリットが茶会に参加するのは初である。初参加が自分主催の王子参加茶会。

そのことに気づいたとき、さすがのマルグリットも緊張しないわけにはいかなかった。

「やあ。晩餐会でお見かけしましたね」

「シャロン・ミュレーズと申します」

「ミュレーズ伯爵のご令嬢ですか。ぼくはニコラス・メレスンです」

「あらためましてお見知りおきを」

ニコラスとシャロンがそつのない挨拶を交わしているうちに、執事リチャードが客人の訪れを知らせる。

ルシアンとマルグリットがあわせて玄関へ向かうのを見、ニコラスとシャロンもあとに続く。

どちらかの招待客ではなく、二人の客――もしくは、自分たちよりも身分の高い者だと察したからだ。

玄関に停まっていたのは二頭立ての馬車。紋章を隠したとはいえ豪華な造りは名のある家なのだろうとわかる。

扉のひらく前からルシアンとマルグリットが頭をさげる。それにならい、ニコラスとシャロンも頭をさげた。

「お忍びなんだから、そんなにかしこまらないで」

苦笑混じりの声がする。

聞き覚えのない声を誰のものかと考えながら頭をあげ、ニコラスとシャロンは目を見ひらいた。

馬車から降りてきたのは、第三王子ノエル・フィリエ。

常に王妃エミレンヌのそばへ侍り、表情を見せない男だが、その彼が今ころころとおかしそうな笑い声を立てているのだ。

ド・ブロイ家とクラヴェル家の婚姻に王家が噛んでいるという話は聞いてはいたが、その証拠が目の前に現れたことになる。とすれば、今後ド・ブロイ家およびクラヴェル家は、王家の庇護を受けるかもしれない。

二人の顔が、侯爵令息・伯爵令嬢のものになる。

「王子殿下、お久しぶりでございます」

「ごきげんよう、殿下」

「やあ、ニコラス、シャロン嬢。名前で呼ばせてもらうよ。ぼくのことも気軽にノエルと呼んでくれていいから」

「もったいないお言葉――」

ノエルの言葉に礼を重ねるニコラスの声は、そこで途切れた。

門からもう一つの馬車が入ってきたからだ。しかもその馬車はノエルの馬車に接しそうなほど迫り、馬を止めた。

明らかに格上とわかる馬車にこのふるまいは無礼である。

表情を曇らせたマルグリットの目に飛び込んできたのは、クラヴェル家の紋章。

御者の手も待たず、内側から扉が開く。

金髪を揺らし降りてきたのは、茶会というより夜会へ行くような胸のあいたドレスをまとう、美しい少女。

「イサベラ……!?」

驚くマルグリットの視線を無視し、イサベラは玄関に駆けよってくると、躊躇なくノエルの腕をとり、自分の腕を絡ませた。

「お久しぶりです、ノエル様!」

「イサベラ、その手を離しなさい。王家の方に対して無礼がすぎます」

「あら、お姉様ったら、公爵家に嫁いだ途端に身分にうるさくなったのね。家では気にしていなかったのに……」

暗に使用人扱いを受けていたことを仄めかされ、マルグリットの表情がこわばった。

過去の仕打ちが露見することを恥じているのではない。そんなことをノエルの前で告げれば処罰されるのはクラヴェル家だ。それもわからない妹を、マルグリットは信じがたい気持ちで見つめる。

「でもいいのよ。あたしをここに呼んでくださったのはノエル様なんだもの。ノエル様、ありがとうございました。お茶会のことを教えてくださって」

イサベラの言葉にノエルは頷く。

「マルグリット嬢にどうしても会いたいというので、ぼくが今日のことを教えたんだ。悪いけど、参加させてあげてくれる?」

(――!?)

思いもかけない言葉にマルグリットは目を見ひらく。マルグリットだけでなく、ルシアンやニコラス、シャロンも息を呑んだ。

すぐにマルグリットは笑顔を作り、頷いた。

「ええ、それは、もちろん」

ノエルの頼みであれば断ることはできない。

イサベラは当然だというようにすました顔でノエルの隣に立っている。

(ノエル様はいったいなにを考えていらっしゃるのかしら……?)

マルグリットの困惑と同様、ルシアンも、食えない第三王子の行動に心の中で眉をひそめていた。