軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 個人から責任者になる為の第一歩

治癒士ギルドの地下四階で俺は無様に転がっていた。

「……どうなったんだ? こっちの攻撃が当たったと思ったら、吹き飛ばされた。大盾でやられたのはわかるけど……」

大盾を下げ、大剣を担いだライオネルは嬉しそうに笑いながら答える。

「ルシエル殿が攻撃するまで盾を身体に引きつけ、攻撃がこちらの間合いまで詰まった瞬間、盾を一気に突き出しながら、歩行術でルシエル殿へ向かってさらに間合いを詰めたのだ」

「……ただ盾を歩行しながら突き出しただけで、人間が五メートルも人を飛ばすことが出来るのか?」

訓練場のほぼ中央にいたはずなのに……それぐらいの距離を吹き飛ばされていたのだ。

「全ては読みとタイミング、精進なされよ」

きっとブロド師匠とライオネルが戦った試合は凄まじかっただろう。俺はその一戦を見たかったと残念に思いながらも、頭を打ち脳震盪のように足元がふらついた為、頭にヒールを掛け、再度ライオネルに剣を向け……様としたところにピアザ神官騎士が顔を見せた。

「どうしました? まさか襲撃ですか?」

あまりにも焦っているように見えたピアザさんへこちらから声を掛ける。

「襲撃ではありませんが、多くの獣人……冒険者ギルドのマスター達も一緒に治癒士ギルドへ集まってきました」

彼の焦った表情は、本当に多くの獣人達が押し掛けて来たことを安直に想像させた。

「……行かないと駄目だろうな」

俺がそう呟くとライオネルは黙ったまま頷いた。俺は行きたくないと思いながらも、ここで決着すればと魔導エレベーターに乗り込んだ。

地下から一階に足を踏み入れると、そこにはジャスアンとジャイアス兄弟を始めとする獣人たちの姿がそこにあった。

治癒士達はカウンターの中に居て、俺が到着したのを見て安堵の表情を浮かべていたが、少し頼られている感じがして嬉しかった。

ブリッツさんとドータスさん、それに犯罪奴隷の皆さんも武器を持たないで、治癒士ギルドに大勢が入らないようにと人間バリケードを作っていた。

「ジャスアン殿にジャイアス殿、これは一体?」

彼らの前には一人の人族と獣人達が座らされていた。獣人で座らせられているのは各種族から一人ずつだった。

「ルシエル殿来られたか。こやつ等が此度の元凶だ。こいつが賄賂を流した人族で薬師ギルドの副ギルドマスターのグロハラだ。

ロープに縛られた男は人の良さそうな顔をしているのに、本当に外見だけでは人は分からないものだなぁ~。俺はジャスアン殿の話を聞きながらそう思っていた。

「 長達(おさたち) の会議でも不正に加担した竜人族と虎獣人族の中に金を受け取った者が多かった。それは全てこやつ等の差し金だった。金を受け取ったものは後日返金させ、治癒士ギルドの賠償として受け取って欲しい」

……ツッコんでも良いよね?

「えっと、それって代表者の集まりで決まる内容ですよね? 何でジャスアン殿が決められるんですか?」

「我ら竜人族は龍族様の加護を得ているルシエル殿に忠義を尽くすのが慣わし。よって竜人族はこれまでご迷惑をお掛けした分、イエニスの治癒士ギルド及び治癒士の方々が安全に活動出来る様に尽力して参ることを誓わせて頂いた」

……それってファンタジーで出てくる竜の盟約とかか? それよりも聖龍から貰った加護がここで役に立つとは豪運先生のお導きか?……周りが唖然としてこちらを見ているがここはスルーして加護が何故分かったかについて聞いてみる。

「……何で加護を持っていることを?」

「竜人は龍族様を崇めている。龍族様が我ら竜人を生み出したとも言われていて、竜人族全てが龍族様の気配が分かるようになっている。だからそこの同胞も自分のしてしまったことに震えておるのだ」

膝を突いたままのその竜人は確かに震えていた。

「それで昨日妨害して来た男達も全て捕らえてありますが、彼らをどうする予定ですか?」

「イエニスの法なら首謀者は見せしめの処刑、加担したものは奴隷、軽い罰なら賠償金が発生するが、今回は出来れば加担した者達までを冒険者ギルドに購入させてもらって、迷宮攻略を進める人員にしたい」

「……使い潰す。そういうことですか?」

別に全ての人が更生するとは思わないが、これがこの国の法なんだな。

「生きて攻略すれば減刑される予定となる。迷宮攻略に潜っている時は回復もするが、先頭に立って戦闘し、罠を解除する為には止む終えない犠牲と判断する」

ジャスアン殿はそう言い切った。

「……渡すのには条件がありますが、その前にイエニス代表のシャーザの姿がありませんが、彼はどうなりましたか?」

「……奴も含めて今回の件に加担した各種族の代表者とその側近達はいなくなっていた」

そう重苦しく話したジャスアン殿だったが、俺は何処かで聞いた話が実際に起きるものだなぁ。

そう思って聞いていたところで、座らされていた男達の中から声が聞こえてきた。

「教えて差し上げても良いですが、この縄を解いていただけますかな?」

「なんだと!」

そう発言したのはグロハラでニヤニヤしながらそう要求をして、ジャスアン殿が反応した。

しかし俺はグロハラを見ながら、良く小説にあるパターンなら三択しかないと考えていた。

当たっていても、間違っていても反応はあるはずだ。

冷静を装い彼を見ないでジャスアン殿をみながら喋る。

「いや、その必要ないですよ、ジャスアン殿。迷宮の攻略、他国への逃亡、周辺の村か洞窟に隠れて盗賊となった。そのいずれかでしょう。まぁ側近まで消えたのであれば、十中八九が迷宮でしょう。きっと捕まえた襲撃者達が帰って来なかったので、今回の件が発覚するのを恐れて向かったのでしょう」

「しかし迷宮だぞ? そう簡単に踏破することなどできないだろ」

「私は実際に迷宮にいる魔物の強さが分からないから、何とも言えませんが、シャーザ殿は自身の武力を誇っていました。ですから迷宮を踏破出来ると思ったんじゃないですか? 踏破してイエニスを守った英雄として罪を帳消しにするか、それとも他国への手土産にするつもりなのでしょう。そうだろう?」

そう言うとグロハラの笑みが固まった。

どうやら図星だったらしい。

「何? それなら急いで迷宮へ行かなくてはならん」

そう言うと出て行こうとしたジャスアン殿はジャイアス殿に止められた。

「待て、兄者。これだとただ元凶を連れて来ただけで、何の解決もしていない。それどころか、このままだと治癒士ギルドに迷惑事を押し付けに来ただけになるぞ」

「ウヌヌ、そうだが」

ジャイアス殿が冷静で良かった。

「兄者はルシエル殿と迷宮へ向かってくれ。ここは治癒士の方々とこちらで纏めておく」

「おおっ!さすが我が弟。適材適所だな」

「その代わり頑張って捕まえてくるのだぞ」

「任せておけ! ではルシエル殿急ごう」

……この二人は兄弟なのだと実感した。まず人の事を考えてくれない。次に二人で盛り上がって方向性を決める。……イエニスの冒険者ギルドは大変そうだな。俺は騒がしくなってきたところで柏手を打った。

パァーンとギルド内に音が響くと静かになる。

その場の空気を掌握し、この一瞬止めた空気を俺の流れにする為、直ぐに指示を出し始めた。

「優先順位もそうですが、その迷宮を私は知りません。それに彼らを裁くにしても直ぐに裁けますか? 無理ですよね? 優先順位をつけて動きましょう。まずこの犯罪者と奴隷達、地下の襲撃者の話はジョルドさんにお任せします」

「……宜しいのですか?」

「ええ。きちんと私を納得させてください。貴方なら出来るでしょう?」

「はっ」

彼は姿勢を正して右手を心臓前で握って返事をした。それを見ながらジャイアス殿に声を掛ける。

「彼が今回の襲撃者、犯罪者の取り扱い責任者です。交渉をお願いします」

「ははっ」

ジャイアス殿は恭しく頭を下げた。

「迷宮の地図や出てくる魔物に関して情報に詳しい方は三階で、作戦会議を行います。それ以外の方は攻略に役立つ食料とMPポーション等をうちの神官騎士と買って来てください。ブリッツさんお願いします」

「はっ」

俺は白金貨三枚を渡しながら、聖都を旅立つ時に買った大容量の魔法の鞄を預け、中へ何を入れたかがわかるようにメモも入れる様にと指示を出した。

「治癒士の皆さんはここに残って治癒士ギルドの業務をしてください。ドーラスさんは彼らの護衛、ピアザさんは今までと同様に犯罪奴隷とギルドの防衛をお願いします」

『はっ』

「ナーリア、ドランとポーラに一緒にギルドマスターの部屋まで来るように伝えてくれ」

「承りました、マスター」

「ライオネルとケティは付いて来てくれ」

「はっ」「はいニャ」

「それではジャスアン殿と先程言った迷宮に詳しい者はついて来てください」

俺はそれだけ言うと三階のギルドマスターの部屋へと移動をする。

竜人兄弟や獣人達にざわつく間も与えずに、場の空気を一気にこちらに引き寄せた。

ただ迷宮に向かう事が確定事項になってしまったのは、今までの対処が甘かったからだ。

相手が年上だからと思って、遠慮しながら話すことも個人なら許された。でも、地下から上がって来た俺に部下さん達は安心した顔を見せた。

個人ではなく、責任者として行動しなければいけなかったと反省しながら、今からでも遅くはないと気合い入れる為の柏手でもあった。

ジョルドさん達が奴隷達をどう思っているか、それを聞くこともしなかった。だけどライオネルに指摘された甘さをここで出したら、彼らがこの先、俺を信頼してくれるとは思えなかった。

すると何故か力が湧いた。今までやらなかったことをしなければならなくなって火がついたということなのだろうか?

徐々に報告、連絡、相談を強化しようとしていたが、俺がそれを命令でも説明でも言わなかったから、彼らの気持ちを理解出来ず、また彼らも表面上だけ俺の部下となっただけに過ぎなかったのだ。

彼らの気持ちも知った上で、俺がどうするかを彼らに見せないといけなかった。

「しかし拍手が神への祈りと邪気を払う効果があるっていうのは本当かもな」

俺はギルドマスター部屋の扉を開きながらそう呟くのだった。